離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

文字の大きさ
10 / 151
旅立ち・出会い

しおりを挟む
 冒険者組合にはすぐにたどり着いた。

 初めての街、久しぶりの冒険者組合という場所に、ライラはほんの少しだけ入り口の扉を開けることをためらった。
 しかし、いつまで悩んでいても時間が無駄に過ぎるだけだ。ライラは背筋を伸ばして姿勢を正すと、入り口の扉に手をかけた。
 そのまま勢いよく扉を開く。
 結婚してからすっかり足が遠のいてしまっていた冒険者組合という場所だが、中に入れば昔とさほど空気は変わっていないように感じられた。安堵のため息をもらしながら、ライラは組合の中を進み受付へと向かう。

「こんにちは。冒険者登録の確認をしたいのだけれど、少しお時間よろしいかしら?」

 そう声をかけたライラに、受付嬢は驚いた様子で目を丸くしている。

「あれれ、ええっと……。ご依頼のご相談ではないのですか? それでしたらこちらの窓口ではないのですが……」

 受付嬢は困った様子でライラを頭の上から足の先まで眺めながら言った。

 ライラの服装は、王都の侯爵家の屋敷で用意した外出着だった。
 なるべく質素な物を選んでトランクに詰めたとはいえ、到底冒険者とは思えない小奇麗な格好である。
 そもそもが侯爵家の奥方が着るためにあつらえられたものなのだ。受付嬢が、どこぞのご婦人が冒険者組合に仕事を頼みに来たと思っても仕方のないことだろう。

 冒険者登録の確認が終わり次第、早急に装備を揃えなければと思いながら、ライラは口を開いた。

「依頼じゃないわ」

 ライラが首を横に振りながらそう答えると、受付嬢はさらに困惑した様子で首を傾げた。

「以前は冒険者として活動をしていたのだけど、もう何年もしていないのよね」

 ライラが続けて話す内容に、受付嬢はどうしたらよいのかわからないといった様子で視線を泳がせはじめる。

「冒険者としての活動を再開したいのだけど、数年間も活動実績がないと登録がなくなっているかもしれないと思いまして。それを調べて欲しいのですわ」

 ライラがそこまで話すと、受付嬢は眉を寄せていぶかし気な顔をした。彼女は少し何かを考えてからゆっくりと口を開いた。

「……はあ、登録がなくなっているかもですかあー……。えっとー、具体的にどれくらいの期間を冒険者として活動していなかったのですか?」

「そうね、だいたい五年くらいといったところかしら。ああ、ちょっと待って」

 ライラはそう言って、服のポケットに手を入れた。そこからある物を取り出すと受付のカウンターの上に置いた。

「念のために冒険者プレートを持ってきたの。こちらで確認していただけるかしら?」

 カウンタ―の上に置いたのは、ライラがかつて使用していた冒険者の証であるプレートだ。
 これでなんとかなるだろうと思っていたのだが、受付嬢の様子はライラが思っていたものとは違っていた。

「………………あのー、これが冒険者証ですか?」

 受付嬢はぽかんとした表情をしている。そのままライラの差し出したプレートを手に取ると、物珍しそうにまじまじと眺めはじめた。
 ライラは受付嬢の態度が理解できなくてどうしたものかと戸惑ってしまう。

 そこへ、受付を漂う微妙な空気を察してか、奥から白髪交じりの男性職員が顔を出した。
 その男性職員はこちらの様子を覗き込み、受付嬢が手にしている冒険者プレートに気が付くと、苦笑いをしながら近付いてきた。

「あちゃー、これは古いタイプの冒険者証だよ」

「ああ、やっぱりこれが昔使っていたっていうプレートなのですね! へえ、初めて見ました」

 受付嬢は男性職員の言葉を聞いて納得したような声を上げた。彼女はライラの冒険者プレートを手にしたまま大きく頷いている。

「……あの、古いタイプの冒険者証ってどういうことかしら?」

 受付嬢は疑問が解消されてすっきりしているようだが、まだ訳がわからないでいるライラは現れた男性職員に向かって尋ねた。
 すると、男性職員は頭を掻きながらへらへらと笑い、おちゃらけた様子で説明をはじめた。

「いやあ、何年か前に冒険者組合のシステムが大きく変わってね。冒険者の証がプレートからカードタイプに変更されたのさ」

 男性職員がそう言うと、受付嬢がすかさず手のひらサイズの小さなカードをライラに向かって差し出してきた。

「これが今の冒険者証です。どうぞお手にとってご自由に御覧ください」

 明るい笑顔を浮かべた受付嬢が差し出してきたカードを、ライラは遠慮なく手に取って確認をする。

「私が組合で働き出すときに受けた研修で、以前はこういうプレートが冒険者証だったと聞いていました。でも、プレートタイプの実物を見たのは初めてです。とっても勉強になります!」

「……そ、そうなの。ねえ……」

 受付嬢はライラのプレートを顔の横に持ってきて無邪気に微笑む。

 受付嬢はおそらく十代後半だろう。
 そうなると、ライラより十は年下だ。肌に張りつやがあって瑞々しい。
 
 ライラが引きつった笑顔で受付嬢に返事をしていると、その横で男性職員の方は腕を組んで険しい顔をしていた。
しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未(旧・うどん五段)
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...