離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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散策

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「あら、あれは何かしら?」

 背後を注意しながら街の通りを歩いていたライラは、ふと目についた屋台を指差して隣のエリクに尋ねた。
 ライラは返答を待たず、彼のそばを離れて屋台に小走りで近付く。
 その途端、尾行者たちがライラの行動にあたふたと慌てているのがわかった。
 どうやら尾行者はライラが思っていた者たちとは違うとわかり、苦笑してしまう。

「これは飴細工ですね」

「飴細工? 飴ってことは食べられるの?」
 
 ライラの後を小走りでついてきたエリクも、背後をちらりと見て苦笑いしながら答えてくれた。
 大げさに警戒をしてしまったが、彼も尾行者の正体に気が付いて呆れている。
 
「飴細工をご覧になるのは初めてですか?」

「ええ、初めて見たわ。面白いのね」

 屋台では職人が飴を伸ばしたりハサミで切ったりしながら、器用に鳥の形を作っていた。
 ライラはつい職人の手の動きを目で追ってしまう。
 屋台には動物や植物の形をした色とりどりの飴が棒に刺さって並んでいる。
 太陽の光があたり、飴はガラス細工のようにきらきらと輝いている。
 これを食べてしまうなんてもったいない。

「この街は国境に近いですからね。隣国の文化が流入してくるのですよ」

「へえ、そうなのね。ケーキの上にちょこっと細工された砂糖菓子が乗っているものは見たことがあるけれど、ここまでのものは見たことがないわ」

「おひとついかがですか? ごちそうしますよ」

 ライラが職人の仕事に感心しながら見入っていると、エリクが並べられた飴細工を指差して言った。

「あら、それは私に言っているのかしら?」

 それとも、と言いながら、ライラは背後を振り返る。

「そちらのお嬢さまたちに言っているのかしら?」

 ライラの視線の先に大小二つの人影がある。
 急に視線を向けられた二人が、びくりと大きく身体を震わせた。

「皆さんにごちそうしますよ。いかがですか?」

 エリクが背後の二人にも声をかけると、小さな人物の方がぱあっと明るい顔をして近付いてきた。

「食べるー! アヤはねえ、このうさぎさんがいいなあ」
 
「――ちょ、ちょっとアヤちゃん!」

 尾行していたのはファルとアヤの二人だった。
 ライラは姿を現したファルを腕を組んで睨みつける。
 睨みつけられたファルはぎこちない笑顔を浮かべて言い訳を始めた。

「だ、だってえ、やっぱり気になるじゃないですかあ。二人っきりで話がしたいだなんてえ、ね?」

「……ふーん、そうなのね。それについてはあとでじっくりと聞かせていただくわ」

 ライラはファルの額を軽く指でつつく。

「――で、そっちの保護者は何をしているのよ。人がたくさんいるのだから、可愛い女の子二人を野放しにしたら危ないじゃないの」

 ライラは人混みの中からこちらに向かってとぼとぼと歩いてきているトゥールに声をかけた。

「いやあ、二人ともデートを見に行くんだとか言ってな。目を輝かせて飛びだして行っちまったからなあ……」

「……まあ、アヤちゃんの気晴らしになったのならよかったわ」

 どことなく落ち込んだ様子のトゥールに、ライラはそれ以上の抗議ができなくなる。
 アヤはエリクに飴細工を買ってもらい機嫌良さそうに笑っている。
 泣き喚いていた姿を見たばかりなので、少しでも元気になったのならば良しとしよう。

「あなたも外を歩いたら少しは気持ちが落ち着いたかしら?」

「そうさなあ……。まあ、うん。気晴らしにはなったかな」

 ライラはしょげているトゥールを見て心が痛んだ。
 配偶者に裏切られたのだ。すぐに気持ちは切り替えられないだろう。

「ねえトゥールさん。もうルーディのところに帰ったほうがいいわ」

 ライラはトゥールの顔を覗き込んで優しく声をかける。
 そこへアヤが駆け寄ってきて父親に抱き着く。

「見て見てー、おじさんに飴を買ってもらったの」

 アヤはトゥールを見上げながら飴細工を見せびらかす。
 トゥールは娘の笑顔を見て頬をほころばせた。
 ライラはその様子を見て胸を撫でおろす。

「――ほら、女子二人! 十分に見学はできたでしょう。これ以上は私たちの邪魔をしないでね」

 ライラはエリクの腕に抱き着いて口をとがらせた。
 すると、ファルとアヤの二人がしまったという顔をして慌てだす。

「そ、そうだね。私たちはそろそろお暇しようか。ねえ、アヤちゃん」

「うん、そうだねファルちゃん。私たちはもう帰ろうか」
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