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しおりを挟む「──逃げるの?」
走り出した真奈美の背中に、希星が声をかけてきた。心の中で考えていたことを問いかけられて、反射的に真奈美は彼女を振り返った。
「初枝が言ってたよ」
希星と目が合った。彼女は真奈美をきっと睨みつけながら話だした。
「真奈美には才能がたくさんあって、どんなものにでもなれる可能性があるんだって」
何故だろうか。希星がとても怒っているように真奈美には感じられた。
さきほどまでの真奈美を心配しているような表情ではなかったのだ。
「真奈美はここから外にでなきゃいけないんだって。だから都会に行かせたんだって」
希星は憎らしそうに真奈美を見つめてくる。彼女からそんな視線を向けられる覚えは真奈美にはないので、困惑してしまう。
「初枝はそう言ってたけど、私にはアンタがただ逃げているようにしか見えない。さっきだってそうじゃん。お見合いが嫌だから家を飛び出して、叩かれるのが怖いから理不尽なことを受け入れようとしてさ」
戸惑ったまま真奈美が黙っていると、希星は怒りをぶつけるように捲し立てる。
「初枝はさ、真奈美は自分に似ているって言ってた。初めて見たときからずっと思ってたんだって!」
「…………ふーん、そうなの。それで?」
真奈美が黙ったままでいることに、希星が不満そうにしていたので適当に相槌をうつ。
すると、今度はそれが気に入らなかったのか、希星はまた舌打ちをした。
「初枝は自分に似ているアンタが可愛くて大好きだったみたいだけど、私はアンタが大嫌い!」
希星が顔を真っ赤にして叫ぶように言った。
「あら、そうなの。私はあなたのことが好きでも嫌いでもないわ。だって会ったのは今日がはじめてだもの。あなたのことを判断する材料が私にはないでしょう?」
真奈美がそう言うと、希星は肩をいからせて拳を握った。
「ほんとーに、すっごくわがままで生意気な人だね。近所のみんなだって言ってたよ。真奈美はこの土地を捨てた裏切り者だって」
希星の態度と言葉に、真奈美は呆れて笑ってしまった。この土地の人々はまだそんなことを言っているのかと軽蔑した。
そんな真奈美を、希星が気味が悪そうに見ている。
「アンタはさ、めんどくさいことから逃げて、自分の好きなことを優先させているだけじゃん。無責任なやつじゃん。初枝がどんな気持ちでアンタに接していたかとか、考えたことなんてないでしょ⁉︎」
「あら、それじゃあなたはあのババアがどんなことを考えていたのか知っているの?」
真奈美がそう尋ねると、希星は勢いよく頷いた。
それから淡々と彼女が知る祖母について語りはじめた。
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