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13.妖精さんとお奉行様
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「ふぇっ、よ、妖精さん?」
「そうだよ。見てて」
僕は幼女の前で幼木に変身する。
「どうだい?これが森の妖精の真の姿さ」
「うわぁ、すごい。本当に妖精さんなんだね」
ふう、なんとか幼女は僕が妖精だと信じてくれたようだ。
僕は元の人型に戻りながら胸をなでおろす。
幼女を騙すのは胸が痛むけれど、そうしないと幼女が怖がっちゃうからね。
「そういえば私、ゴブリンに襲われて…それでっ、」
幼女はみるみるうちに顔を歪めて今にも泣き出しそうだ。
僕は幼女を抱きかかえて頭を撫でてあげる。
「もう大丈夫だよ。ゴブリンは僕が全部倒したからね」
「うぇぇぇぇぇん。怖かったよぉ」
ああ、泣き出してしまった。
どうすれば…。
正直子供は苦手なんだよね。
前世では20代半ばまで生きたけれど、僕自身精神がそんなに大人じゃないからな。
とりあえず頭を撫でて、リンゴみたいな果実をあげておけば泣き止むかな。
「よしよし、もう安心だからね。ああ、膝を擦り剥いているじゃないか。これをお食べ。膝の傷なんてすぐに治るからね」
正直かすり傷だが、子供にとっては重症かもしれない。
僕はストックしてあるエルダートレントの果実をアイテムボックスから出して幼女に差し出した。
「ぐすんっ、あ、ありがとう妖精さん」
幼女は律儀にも僕に礼を言って、涙を拭いて果実を食べた。
おいしそうに果実を食べた後、傷が治っているのに驚いているようだ。
「すごい。傷が治ってる。すごいね、妖精さん!」
傷が治って幼女はようやく笑ってくれた。
僕はロリコン紳士の仲間じゃないけど、笑った幼女はとても可愛いよね。
さて、この幼女、どうしようか。
いや、変な意味じゃなくてね。
前世でも僕はひとりっ子だったし、親戚とは疎遠だったから小さい子供とあまり接したことがない。
どう接したらいいのか分からないから子供は苦手なんだよね。
まあ適当でいいか。
「君名前は?」
「レーナです妖精さん」
「どこの子?」
「えっとね、カトレス村っていうところです。お父さんはブルーノ、お母さんはエリーゼです」
幼女改めレーナは初対面の人に対するあいさつを誰かに教わっていたのか、きちんと自分の出身地と親の名前も答えた。
なかなかに賢い幼女だ。
「そっか、よく言えたね。村の近くまで僕が送っていってあげるよ。森を出ればその村まで案内できるかな?」
「ありがとう。森から村までは近いからたぶん分かると思う」
「それじゃ森を出たら頼むよ。今日はもう遅いから明日出発しようか」
そろそろ日も暮れてくる頃なので、今日はゴブリンの集落で1泊して明日カトレス村に向かうとしよう。
今の季節は春の終わり頃、日中は暖かく過ごしやすい気温だが夜はまだ冷える。
僕は寒さとかあまり感じないけど、レーナには寒いかもしれない。
そのへんのあばら家を適当に引きちぎって薪にして、そこへ魔法で火をつける。
人差し指から火を出すとか、魔法を覚えたら一度はやってみたいことだよね。
僕はさらに、焚き火を囲んで向かい合うように土魔法で良い感じの椅子を2つ作った。
「寒いだろう?火にあたりなよ」
「うん」
レーナが石でできた椅子にちょこんと座ると、ほっとしたのかお腹から可愛らしい音が鳴る。
お腹が空いているらしい。
レーナはお腹の音が恥ずかしかったのか頬を赤く染めている。
たまには人間の食べ物を食べるのもいいかもしれないな。
食材になりそうなものもアイテムボックスにストックしてある。
しかし困ったことに僕は料理ができないんだよな。
「レーナ料理とかできる?」
「うーん、ちょっとならできるよ。お母さんのお手伝いしてるから」
おお、レーナは料理が少しできるらしい。
お母さんのお手伝いをちゃんとするなんていい子じゃないか。
「そっか、じゃあこれを料理してくれるかな」
僕はそう言って雉に似た鳥と野草、ハーブ、それからオークの集落にあった塩を取り出した。
「わあ、これサルテルだ。捕まえるのが難しくてすごくおいしい鳥なんだよ!」
レーナは目を輝かせて雉に似たサルテルという鳥を見ている。
サルテル、変わった響きの鳥だな。
でもすごくおいしいらしい。
捕まえておいてよかった。
トレントの姿でいるとなんかこいつすごい寄ってくるんだよね。
僕の果実がそんなに美味しそうに見えてるのかな。
あまり大きい刃物は子供には危ないと思ってレーナには小さなナイフを貸してあげた。
それを使ってレーナは手際よく鳥をさばいていく。
子供の力では無理な行程は僕が手伝って、サルテルはどんどんおいしそうな料理になっていく。
アイテムボックスの中は時間が止まっているようで、このサルテルはまだ新鮮だ。
肝臓や心臓などの食べられる臓器は適当な木の枝に刺して焼かれ、本体はハーブと塩をすり込んで葉っぱで包み、香草焼きになっていく。
ハツやレバーの刺さった串からはジュージューと音がして、香草焼きからは良い匂いが漂い始める。
「おいしそうだね」
「うん、いい匂い」
「そろそろ食べられる?」
「まだ!まだだよ」
怒られた。
幼いながら鍋奉行の片鱗が見え隠れしている。
鍋じゃないけど。
「よし!そろそろいいよ。食べよう妖精さん」
お奉行様の許しが出たので食べよう。
「いただきます」
僕は手を合わせる日本式の食前のあいさつをするが、こちらにもそういった文化はあるらしく、レーナは祈りのようなものを捧げてから食べ始めた。
ああ、久しぶりのまともな料理だ。
エミリーがいたとき以来だな。
内臓の串は1本しかないので栄養がたくさん必要な育ち盛りのレーナにあげるとして、僕は葉っぱに包まれて蒸し焼きにされた鳥の香草焼きを食べる。
木を削っただけのお粗末なフォークで刺して、ナイフで切ると中から肉汁がジュワっとあふれ出す。
切り分けた肉を一切れ口に入れた瞬間、すり込まれた香草や香辛料に似た木の実の香りが口の中いっぱいに広がる。
肉はかみしめる度にほろほろと解け、旨みがあふれ出てくる。
僕には空腹感というものがないので、俗に言う「空腹は最高のスパイス」の最高のスパイスが使えない。
だからこそ、料理の良し悪しはよくわかる……つもりだ。
この料理は本当においしい。
レーナは料理上手だな。
わいわいと料理を食べたり果物を食べたり、果物を絞ったジュースを飲んだりして森の夜は更けていった。
「そうだよ。見てて」
僕は幼女の前で幼木に変身する。
「どうだい?これが森の妖精の真の姿さ」
「うわぁ、すごい。本当に妖精さんなんだね」
ふう、なんとか幼女は僕が妖精だと信じてくれたようだ。
僕は元の人型に戻りながら胸をなでおろす。
幼女を騙すのは胸が痛むけれど、そうしないと幼女が怖がっちゃうからね。
「そういえば私、ゴブリンに襲われて…それでっ、」
幼女はみるみるうちに顔を歪めて今にも泣き出しそうだ。
僕は幼女を抱きかかえて頭を撫でてあげる。
「もう大丈夫だよ。ゴブリンは僕が全部倒したからね」
「うぇぇぇぇぇん。怖かったよぉ」
ああ、泣き出してしまった。
どうすれば…。
正直子供は苦手なんだよね。
前世では20代半ばまで生きたけれど、僕自身精神がそんなに大人じゃないからな。
とりあえず頭を撫でて、リンゴみたいな果実をあげておけば泣き止むかな。
「よしよし、もう安心だからね。ああ、膝を擦り剥いているじゃないか。これをお食べ。膝の傷なんてすぐに治るからね」
正直かすり傷だが、子供にとっては重症かもしれない。
僕はストックしてあるエルダートレントの果実をアイテムボックスから出して幼女に差し出した。
「ぐすんっ、あ、ありがとう妖精さん」
幼女は律儀にも僕に礼を言って、涙を拭いて果実を食べた。
おいしそうに果実を食べた後、傷が治っているのに驚いているようだ。
「すごい。傷が治ってる。すごいね、妖精さん!」
傷が治って幼女はようやく笑ってくれた。
僕はロリコン紳士の仲間じゃないけど、笑った幼女はとても可愛いよね。
さて、この幼女、どうしようか。
いや、変な意味じゃなくてね。
前世でも僕はひとりっ子だったし、親戚とは疎遠だったから小さい子供とあまり接したことがない。
どう接したらいいのか分からないから子供は苦手なんだよね。
まあ適当でいいか。
「君名前は?」
「レーナです妖精さん」
「どこの子?」
「えっとね、カトレス村っていうところです。お父さんはブルーノ、お母さんはエリーゼです」
幼女改めレーナは初対面の人に対するあいさつを誰かに教わっていたのか、きちんと自分の出身地と親の名前も答えた。
なかなかに賢い幼女だ。
「そっか、よく言えたね。村の近くまで僕が送っていってあげるよ。森を出ればその村まで案内できるかな?」
「ありがとう。森から村までは近いからたぶん分かると思う」
「それじゃ森を出たら頼むよ。今日はもう遅いから明日出発しようか」
そろそろ日も暮れてくる頃なので、今日はゴブリンの集落で1泊して明日カトレス村に向かうとしよう。
今の季節は春の終わり頃、日中は暖かく過ごしやすい気温だが夜はまだ冷える。
僕は寒さとかあまり感じないけど、レーナには寒いかもしれない。
そのへんのあばら家を適当に引きちぎって薪にして、そこへ魔法で火をつける。
人差し指から火を出すとか、魔法を覚えたら一度はやってみたいことだよね。
僕はさらに、焚き火を囲んで向かい合うように土魔法で良い感じの椅子を2つ作った。
「寒いだろう?火にあたりなよ」
「うん」
レーナが石でできた椅子にちょこんと座ると、ほっとしたのかお腹から可愛らしい音が鳴る。
お腹が空いているらしい。
レーナはお腹の音が恥ずかしかったのか頬を赤く染めている。
たまには人間の食べ物を食べるのもいいかもしれないな。
食材になりそうなものもアイテムボックスにストックしてある。
しかし困ったことに僕は料理ができないんだよな。
「レーナ料理とかできる?」
「うーん、ちょっとならできるよ。お母さんのお手伝いしてるから」
おお、レーナは料理が少しできるらしい。
お母さんのお手伝いをちゃんとするなんていい子じゃないか。
「そっか、じゃあこれを料理してくれるかな」
僕はそう言って雉に似た鳥と野草、ハーブ、それからオークの集落にあった塩を取り出した。
「わあ、これサルテルだ。捕まえるのが難しくてすごくおいしい鳥なんだよ!」
レーナは目を輝かせて雉に似たサルテルという鳥を見ている。
サルテル、変わった響きの鳥だな。
でもすごくおいしいらしい。
捕まえておいてよかった。
トレントの姿でいるとなんかこいつすごい寄ってくるんだよね。
僕の果実がそんなに美味しそうに見えてるのかな。
あまり大きい刃物は子供には危ないと思ってレーナには小さなナイフを貸してあげた。
それを使ってレーナは手際よく鳥をさばいていく。
子供の力では無理な行程は僕が手伝って、サルテルはどんどんおいしそうな料理になっていく。
アイテムボックスの中は時間が止まっているようで、このサルテルはまだ新鮮だ。
肝臓や心臓などの食べられる臓器は適当な木の枝に刺して焼かれ、本体はハーブと塩をすり込んで葉っぱで包み、香草焼きになっていく。
ハツやレバーの刺さった串からはジュージューと音がして、香草焼きからは良い匂いが漂い始める。
「おいしそうだね」
「うん、いい匂い」
「そろそろ食べられる?」
「まだ!まだだよ」
怒られた。
幼いながら鍋奉行の片鱗が見え隠れしている。
鍋じゃないけど。
「よし!そろそろいいよ。食べよう妖精さん」
お奉行様の許しが出たので食べよう。
「いただきます」
僕は手を合わせる日本式の食前のあいさつをするが、こちらにもそういった文化はあるらしく、レーナは祈りのようなものを捧げてから食べ始めた。
ああ、久しぶりのまともな料理だ。
エミリーがいたとき以来だな。
内臓の串は1本しかないので栄養がたくさん必要な育ち盛りのレーナにあげるとして、僕は葉っぱに包まれて蒸し焼きにされた鳥の香草焼きを食べる。
木を削っただけのお粗末なフォークで刺して、ナイフで切ると中から肉汁がジュワっとあふれ出す。
切り分けた肉を一切れ口に入れた瞬間、すり込まれた香草や香辛料に似た木の実の香りが口の中いっぱいに広がる。
肉はかみしめる度にほろほろと解け、旨みがあふれ出てくる。
僕には空腹感というものがないので、俗に言う「空腹は最高のスパイス」の最高のスパイスが使えない。
だからこそ、料理の良し悪しはよくわかる……つもりだ。
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