トレントなどに転生して申し訳ありません燃やさないでアッ…。

兎屋亀吉

文字の大きさ
13 / 15

13.妖精さんとお奉行様

しおりを挟む
 「ふぇっ、よ、妖精さん?」

 「そうだよ。見てて」

 僕は幼女の前で幼木に変身する。

 「どうだい?これが森の妖精の真の姿さ」

 「うわぁ、すごい。本当に妖精さんなんだね」

 ふう、なんとか幼女は僕が妖精だと信じてくれたようだ。

 僕は元の人型に戻りながら胸をなでおろす。

 幼女を騙すのは胸が痛むけれど、そうしないと幼女が怖がっちゃうからね。

 「そういえば私、ゴブリンに襲われて…それでっ、」

 幼女はみるみるうちに顔を歪めて今にも泣き出しそうだ。

 僕は幼女を抱きかかえて頭を撫でてあげる。

 「もう大丈夫だよ。ゴブリンは僕が全部倒したからね」

 「うぇぇぇぇぇん。怖かったよぉ」

 ああ、泣き出してしまった。

 どうすれば…。

 正直子供は苦手なんだよね。

 前世では20代半ばまで生きたけれど、僕自身精神がそんなに大人じゃないからな。

 とりあえず頭を撫でて、リンゴみたいな果実をあげておけば泣き止むかな。

 「よしよし、もう安心だからね。ああ、膝を擦り剥いているじゃないか。これをお食べ。膝の傷なんてすぐに治るからね」

 正直かすり傷だが、子供にとっては重症かもしれない。

 僕はストックしてあるエルダートレントの果実をアイテムボックスから出して幼女に差し出した。

 「ぐすんっ、あ、ありがとう妖精さん」

 幼女は律儀にも僕に礼を言って、涙を拭いて果実を食べた。

 おいしそうに果実を食べた後、傷が治っているのに驚いているようだ。

 「すごい。傷が治ってる。すごいね、妖精さん!」

 傷が治って幼女はようやく笑ってくれた。

 僕はロリコン紳士の仲間じゃないけど、笑った幼女はとても可愛いよね。

 さて、この幼女、どうしようか。

 いや、変な意味じゃなくてね。

 前世でも僕はひとりっ子だったし、親戚とは疎遠だったから小さい子供とあまり接したことがない。

 どう接したらいいのか分からないから子供は苦手なんだよね。

 まあ適当でいいか。

 「君名前は?」

 「レーナです妖精さん」

 「どこの子?」

 「えっとね、カトレス村っていうところです。お父さんはブルーノ、お母さんはエリーゼです」

 幼女改めレーナは初対面の人に対するあいさつを誰かに教わっていたのか、きちんと自分の出身地と親の名前も答えた。

 なかなかに賢い幼女だ。

 「そっか、よく言えたね。村の近くまで僕が送っていってあげるよ。森を出ればその村まで案内できるかな?」

 「ありがとう。森から村までは近いからたぶん分かると思う」

 「それじゃ森を出たら頼むよ。今日はもう遅いから明日出発しようか」

 そろそろ日も暮れてくる頃なので、今日はゴブリンの集落で1泊して明日カトレス村に向かうとしよう。

 今の季節は春の終わり頃、日中は暖かく過ごしやすい気温だが夜はまだ冷える。

 僕は寒さとかあまり感じないけど、レーナには寒いかもしれない。

 そのへんのあばら家を適当に引きちぎって薪にして、そこへ魔法で火をつける。

 人差し指から火を出すとか、魔法を覚えたら一度はやってみたいことだよね。

 僕はさらに、焚き火を囲んで向かい合うように土魔法で良い感じの椅子を2つ作った。

 「寒いだろう?火にあたりなよ」

 「うん」

 レーナが石でできた椅子にちょこんと座ると、ほっとしたのかお腹から可愛らしい音が鳴る。

 お腹が空いているらしい。

 レーナはお腹の音が恥ずかしかったのか頬を赤く染めている。

 たまには人間の食べ物を食べるのもいいかもしれないな。

 食材になりそうなものもアイテムボックスにストックしてある。

 しかし困ったことに僕は料理ができないんだよな。

 「レーナ料理とかできる?」

 「うーん、ちょっとならできるよ。お母さんのお手伝いしてるから」

 おお、レーナは料理が少しできるらしい。

 お母さんのお手伝いをちゃんとするなんていい子じゃないか。

 「そっか、じゃあこれを料理してくれるかな」

 僕はそう言って雉に似た鳥と野草、ハーブ、それからオークの集落にあった塩を取り出した。

 「わあ、これサルテルだ。捕まえるのが難しくてすごくおいしい鳥なんだよ!」

 レーナは目を輝かせて雉に似たサルテルという鳥を見ている。

 サルテル、変わった響きの鳥だな。

 でもすごくおいしいらしい。

 捕まえておいてよかった。

 トレントの姿でいるとなんかこいつすごい寄ってくるんだよね。

 僕の果実がそんなに美味しそうに見えてるのかな。

 あまり大きい刃物は子供には危ないと思ってレーナには小さなナイフを貸してあげた。

 それを使ってレーナは手際よく鳥をさばいていく。

 子供の力では無理な行程は僕が手伝って、サルテルはどんどんおいしそうな料理になっていく。

 アイテムボックスの中は時間が止まっているようで、このサルテルはまだ新鮮だ。

 肝臓や心臓などの食べられる臓器は適当な木の枝に刺して焼かれ、本体はハーブと塩をすり込んで葉っぱで包み、香草焼きになっていく。

 ハツやレバーの刺さった串からはジュージューと音がして、香草焼きからは良い匂いが漂い始める。

 「おいしそうだね」

 「うん、いい匂い」

 「そろそろ食べられる?」

 「まだ!まだだよ」

 怒られた。

 幼いながら鍋奉行の片鱗が見え隠れしている。

 鍋じゃないけど。

 「よし!そろそろいいよ。食べよう妖精さん」

 お奉行様の許しが出たので食べよう。

 「いただきます」

 僕は手を合わせる日本式の食前のあいさつをするが、こちらにもそういった文化はあるらしく、レーナは祈りのようなものを捧げてから食べ始めた。

 ああ、久しぶりのまともな料理だ。

 エミリーがいたとき以来だな。

 内臓の串は1本しかないので栄養がたくさん必要な育ち盛りのレーナにあげるとして、僕は葉っぱに包まれて蒸し焼きにされた鳥の香草焼きを食べる。

 木を削っただけのお粗末なフォークで刺して、ナイフで切ると中から肉汁がジュワっとあふれ出す。

 切り分けた肉を一切れ口に入れた瞬間、すり込まれた香草や香辛料に似た木の実の香りが口の中いっぱいに広がる。

 肉はかみしめる度にほろほろと解け、旨みがあふれ出てくる。

 僕には空腹感というものがないので、俗に言う「空腹は最高のスパイス」の最高のスパイスが使えない。

 だからこそ、料理の良し悪しはよくわかる……つもりだ。

 この料理は本当においしい。

 レーナは料理上手だな。

 わいわいと料理を食べたり果物を食べたり、果物を絞ったジュースを飲んだりして森の夜は更けていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...