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15.カトレス村
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「レーナ、村が見えてきたよ」
「ふぁぇ?むら?」
僕の背中で眠ってしまっていたレーナが、ごしごしと目を擦りながら一生懸命眠気を覚ましている。
やっぱり可愛い。
「わぁ、村だ。帰ってきたんだ」
「ああ、お父さんとお母さんにも会えるよ」
「うん!」
やはり幼女は笑顔でなくてはなりませんな。
先ほどから、すっかり紳士の仲間入りしている僕は幼女の笑顔に顔をほころばせる。
レーナの生まれた村、カトレス村は頑丈そうな石の外壁に囲われていて、思っていたよりも大きい村だ。
こんな危険な森の近くに住んでいるのだから、外壁で囲むのは納得なのだが、村の規模自体もかなり大きく、村以上町未満といった大きさだ。
これなら、服とか武器とか色々と欲しいものが手に入るかもしれない。
今の僕はオークの腰布一丁の姿ではない。
そんな姿で村に行けば変態だと思われることは、さすがの僕にも分かるので、オークの腰布を縫い合わせた継ぎ接ぎローブを着ている。
まるで浮浪者のような姿だ。
だが、森の中で一人生活する浮浪者のような格好をしたハーフエルフ。
それは逆に何かを超越した放浪の賢者的な雰囲気を醸し出してくれるのではないだろうか。
僕はそんなことを期待して、昨日レーナが寝た後にチクチクとお裁縫していたのだ。
僕達が近づくにつれ、門の辺りが騒がしくなる。
武器を持った大人の男達がたくさん出てきて、僕に向かって怒鳴りつける。
「止まれ!お前は何者だ!今日は森には誰も行っていないはずだ!」
僕が森の方から歩いてきたから、怪しまれてしまったようだ。
僕がなんて返したらいいか考えていると、背中からレーナが少し身を乗り出して門番の男に手を振る。
「ゼーレム叔父さん!私だよ!!」
「レーナ!無事だったのか!?」
門の前に集まっていた男達から歓声があがり、みんなこちらに走ってくる。
口々によかったよかったと言い、レーナの頭を撫で回す。
気持ちは分かるよ。
レーナは村の皆にすごく可愛がられているようだ。
「ブルーノとエリーゼは呼んだのか!?」
先ほどレーナにゼーレムと呼ばれていた門番の男が、レーナの頭を撫で回している男達に問いかける。
「あ、まだです。俺が行ってきます」
一人の若い男が門の中に駆けていく。
「さあ、とりあえず門の中へ。先ほどは失礼した、そちらのローブの御仁にもお話をうかがいたい」
僕はレーナを地面に下ろし、満面の笑みを浮べた男達と共に門の中に入っていく。
悪い村ではなさそうだ。
トレントに転生してから人間の文明から遠ざかっていたから、これを機に少し遊んでいくのも悪くない。
門の中に入ると村の中から、20代中ごろの男女が全速力で走ってくるのが見える。
おそらくレーナの両親だろう。
レーナも走り出した。
「お母さん!お父さん!」
「レーナ!」
「無事だったのね!」
3人は抱き合って涙をこぼす。
レーナも両親に抱きしめられて安心したのか泣き出す。
「びぇぇぇぇん、おかあさん、おとおさん。こわがったよぉぉぉ。ようせいさんが、たすけて、ぐれながったらぁぁぁぁ、びぇぇぇぇん」
「レーナ、もう大丈夫だ。もう大丈夫だからな」
レーナの両親は優しく安心させるような声でレーナを慰める。
やっぱり親っていうのはすごいな。
前世の僕とそんなに変わらなさそうな歳なのに。
周りの男達一同、もらい泣きなんかをこぼしながら親子の感動の再会を見守っていたのだが、いつまでもこうしているわけにはいけないと、僕はさっきの門番のゼーレムさんに話しかける。
「ゼーレムさん、でよかったですよね」
「あ、ああ」
ゼーレムさんも親子の再会を優しげな顔で見守っていたが、職務を思い出したのかキリッとした顔に戻り、話を聞いてくれる。
「僕はエルといいます。見てのとおりハーフエルフで、森で修行していました」
「修行?なんの?」
くそ、予想外に聞き返してきやがった。
異世界の人ってみんな修行とかしてるんじゃないの?
「えっと…魔法とかです」
「ああ、魔法使いの方でしたか。納得です」
ふう、よかった。
やっぱり魔法使いは森で修行したりするんだ。
「それで、ゴブリンの集落で捕らわれたレーナを発見して保護したのですが、レーナは僕の事を森の妖精だと思ってます。できればレーナの前では話を合わせてくれるとありがたいです」
「なるほど、そういった事情でしたか。妖精の件、了解しました。それで、レーナは、その、無事なうちに助け出されたのでしょうか」
さすがはモンスターのいる日常を過ごしている異世界人だ。
性別が女の人間がゴブリンに攫われたらどうなるのか分かっているのだろう。
「大丈夫です。レーナを助けたとき衣服も乱れてはいなかったので」
「そうですか。それは、本当によかった。ありがとうございます。何か村から御礼をさせてください。とりあえず今夜は村のみんなで宴にしますのでどうか食べて飲んでいってください」
「あ、いえ、そんな、僕は大したことはしてませんが」
感謝されることになれていない僕はしどろもどろになってしまう。
いつもの調子だったらタダメシラッキーとか言えるのだが、人見知りの僕は人に優しくされればされるほど挙動不審になってしまう。
まあいい、みんな酒に酔えば僕の挙動不審など気にしなくなるだろう。
あわよくば、酔って火照った女の子と朝チュンということもありえる。
ぐへへ、夜が楽しみだぜ。
「ふぁぇ?むら?」
僕の背中で眠ってしまっていたレーナが、ごしごしと目を擦りながら一生懸命眠気を覚ましている。
やっぱり可愛い。
「わぁ、村だ。帰ってきたんだ」
「ああ、お父さんとお母さんにも会えるよ」
「うん!」
やはり幼女は笑顔でなくてはなりませんな。
先ほどから、すっかり紳士の仲間入りしている僕は幼女の笑顔に顔をほころばせる。
レーナの生まれた村、カトレス村は頑丈そうな石の外壁に囲われていて、思っていたよりも大きい村だ。
こんな危険な森の近くに住んでいるのだから、外壁で囲むのは納得なのだが、村の規模自体もかなり大きく、村以上町未満といった大きさだ。
これなら、服とか武器とか色々と欲しいものが手に入るかもしれない。
今の僕はオークの腰布一丁の姿ではない。
そんな姿で村に行けば変態だと思われることは、さすがの僕にも分かるので、オークの腰布を縫い合わせた継ぎ接ぎローブを着ている。
まるで浮浪者のような姿だ。
だが、森の中で一人生活する浮浪者のような格好をしたハーフエルフ。
それは逆に何かを超越した放浪の賢者的な雰囲気を醸し出してくれるのではないだろうか。
僕はそんなことを期待して、昨日レーナが寝た後にチクチクとお裁縫していたのだ。
僕達が近づくにつれ、門の辺りが騒がしくなる。
武器を持った大人の男達がたくさん出てきて、僕に向かって怒鳴りつける。
「止まれ!お前は何者だ!今日は森には誰も行っていないはずだ!」
僕が森の方から歩いてきたから、怪しまれてしまったようだ。
僕がなんて返したらいいか考えていると、背中からレーナが少し身を乗り出して門番の男に手を振る。
「ゼーレム叔父さん!私だよ!!」
「レーナ!無事だったのか!?」
門の前に集まっていた男達から歓声があがり、みんなこちらに走ってくる。
口々によかったよかったと言い、レーナの頭を撫で回す。
気持ちは分かるよ。
レーナは村の皆にすごく可愛がられているようだ。
「ブルーノとエリーゼは呼んだのか!?」
先ほどレーナにゼーレムと呼ばれていた門番の男が、レーナの頭を撫で回している男達に問いかける。
「あ、まだです。俺が行ってきます」
一人の若い男が門の中に駆けていく。
「さあ、とりあえず門の中へ。先ほどは失礼した、そちらのローブの御仁にもお話をうかがいたい」
僕はレーナを地面に下ろし、満面の笑みを浮べた男達と共に門の中に入っていく。
悪い村ではなさそうだ。
トレントに転生してから人間の文明から遠ざかっていたから、これを機に少し遊んでいくのも悪くない。
門の中に入ると村の中から、20代中ごろの男女が全速力で走ってくるのが見える。
おそらくレーナの両親だろう。
レーナも走り出した。
「お母さん!お父さん!」
「レーナ!」
「無事だったのね!」
3人は抱き合って涙をこぼす。
レーナも両親に抱きしめられて安心したのか泣き出す。
「びぇぇぇぇん、おかあさん、おとおさん。こわがったよぉぉぉ。ようせいさんが、たすけて、ぐれながったらぁぁぁぁ、びぇぇぇぇん」
「レーナ、もう大丈夫だ。もう大丈夫だからな」
レーナの両親は優しく安心させるような声でレーナを慰める。
やっぱり親っていうのはすごいな。
前世の僕とそんなに変わらなさそうな歳なのに。
周りの男達一同、もらい泣きなんかをこぼしながら親子の感動の再会を見守っていたのだが、いつまでもこうしているわけにはいけないと、僕はさっきの門番のゼーレムさんに話しかける。
「ゼーレムさん、でよかったですよね」
「あ、ああ」
ゼーレムさんも親子の再会を優しげな顔で見守っていたが、職務を思い出したのかキリッとした顔に戻り、話を聞いてくれる。
「僕はエルといいます。見てのとおりハーフエルフで、森で修行していました」
「修行?なんの?」
くそ、予想外に聞き返してきやがった。
異世界の人ってみんな修行とかしてるんじゃないの?
「えっと…魔法とかです」
「ああ、魔法使いの方でしたか。納得です」
ふう、よかった。
やっぱり魔法使いは森で修行したりするんだ。
「それで、ゴブリンの集落で捕らわれたレーナを発見して保護したのですが、レーナは僕の事を森の妖精だと思ってます。できればレーナの前では話を合わせてくれるとありがたいです」
「なるほど、そういった事情でしたか。妖精の件、了解しました。それで、レーナは、その、無事なうちに助け出されたのでしょうか」
さすがはモンスターのいる日常を過ごしている異世界人だ。
性別が女の人間がゴブリンに攫われたらどうなるのか分かっているのだろう。
「大丈夫です。レーナを助けたとき衣服も乱れてはいなかったので」
「そうですか。それは、本当によかった。ありがとうございます。何か村から御礼をさせてください。とりあえず今夜は村のみんなで宴にしますのでどうか食べて飲んでいってください」
「あ、いえ、そんな、僕は大したことはしてませんが」
感謝されることになれていない僕はしどろもどろになってしまう。
いつもの調子だったらタダメシラッキーとか言えるのだが、人見知りの僕は人に優しくされればされるほど挙動不審になってしまう。
まあいい、みんな酒に酔えば僕の挙動不審など気にしなくなるだろう。
あわよくば、酔って火照った女の子と朝チュンということもありえる。
ぐへへ、夜が楽しみだぜ。
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