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27.顔役の男と寄り親

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 次の日代官に確認すると、子供たちは追い出すなり売り払うなり好きにしてくれと言われた。
 好きにしていいということは保護してもいいということだと受け止め、俺と男爵は子供たちの面倒をみることにした。
 食料などに余裕が無いわけでもないし。
 男爵領は人口に対して食料の生産量が多いので食料だけはあるんだ。
 篠原さんにいただいた異世界の食材もある。
 子供数人を養うだけの余裕は十分ある。

「おい!誰かいないのか!!」

 元兵舎の入り口で、騒ぎ立てる声がする。
 ドスの効いただみ声だ。
 おそらく町の顔役の使いかなにかだろう。
 昨日代官にはつなぎを頼んでおいたのだ。
 男爵だって仮にも貴族なのだから、町の顔役相手に自分から挨拶に行くわけにはいかない。
 そのため普通は向こうから挨拶に来るものなのだが、ここではそれがまかり通らないだろうと予想している。

「騒がしいですね。何のようですか?」

 男爵は毅然とした態度で出迎える。
 少し気弱なところのある男爵だが、こういった筋を通さない者に対してへりくだるようなことは無い。
 小汚い格好をした盗賊のような男たちを従えて、金ぴかの装飾品で着飾った成金商人のような男がしゃしゃり出てくる。
 背は低く腹は出ていて、絵に描いたような悪人面。
 香りの悪い悪趣味な葉巻の匂いがこちらまで漂ってきて不快だ。
 この男がこの町の影の支配者、顔役のフレデリックだろう。
 
「貴様がリザウェル男爵か!!」

「いかにも」

 威勢よく怒鳴り散らすフレデリック。
 貴族に対する態度ではない。
 後ろ盾となっている貴族の力を信用しているのか、単なる馬鹿なのか。

「治安維持などという任務はこの町には不要だ。即刻この町から立ち去れ。それが無理なら兵舎に篭って大人しくしていろ。いいか、この町で余計なことをしでかしてタダで済むとは思うなよ!!俺様の後ろにいるのはウィンコット伯だ。貴様の小汚い200の兵力など蟻を踏み潰すようなものだからな!!覚えておくことだ」

 それだけ言うとフレデリックは部下を引き連れ、去っていった。
 部下の大半が唾を吐き捨てていった。
 汚い。
 男爵の指示が無いから大人しくしていたが、命令されればやつらの吐き捨てた唾を顔に塗りたくってやるところだ。
 汚いので砂をかけておこう。

「参りましたね。ウィンコット伯が後ろにいるのでは、ろくに動けない」

「そうですね。うちは後ろ盾とかいないんですか?」

「一応寄り親というものがいますね。スクアード辺境伯が名目上ではうちの寄り親になります」

「辺境伯ですか。確か国境線に詰めていて召喚のときにいなかった人ですよね」

「ええ」

 それは本当に困った。
 力を借りようにも会うことができないじゃないか。
 領地には文官のひとりふたりはいるだろうが、部下の人に判断のつくような話じゃないからな。
 それにそこまで強い結びつきの無い人みたいだし。
 男爵の領地は良くも悪くも中央から遠すぎる。
 寄り親である辺境伯ですら今までそれほど深い関わりを持っていなかった。
 そのおかげであの領地は中央の腐りきった空気に侵食されずに済んでいるのだが、その対価として男爵には貴族同士の横のつながりというものが希薄だ。
 ギラギラした貴族とうまく付き合うのは大変だと思うから俺も男爵を責める気にはなれないけれど、今の情勢的にちょっと厳しいな。

「なんとか後ろ盾が欲しいところですね」

「ですが辺境伯以外に頼むのは伯の顔を潰すことになりかねませんよ」

「うーん、辺境伯になんとか会えませんかね」

「戦場まで行けば会えるでしょうが……」

 行くのは簡単だ。
 俺と男爵だけであれば瞬時に行って帰ってくるということもできる。
 だが、いきなり行って会ってくれるのかという問題がある。
 神酒でも大安売りしてみるか。

「とりあえず私だけで一度辺境伯のところを訪ねてみようかと思います」

「ひとりでですか……。大丈夫ですか?」

「ええ、どうしてもダメなら男爵の力を借りに帰ってきますよ」

「わかりました。くれぐれもお気をつけて」

 俺は男爵に数日分の酒と食料を預け、一路前線へ向かった。





 
 転移の魔法は一度行ったことのある場所にしか飛ぶことができない。
 そのためにクロト湿原までは転移魔法で行き、そこからは徒歩になる。
 俺の場合はゴーレム馬よりも徒歩のほうが速いからね。
 忍者のように木と木の間を飛び回り、草原を神速で駆ける。
 音速を超える速度で走ると、服が破けてしまうので加減が難しい。
 いくつもの戦場を駆けぬける。
 光学迷彩と認識阻害という魔法を使っているので、誰も俺のことを認識することはできない。
 たまに窮地に陥っている勇者を助けたりもする。
 こちらの世界の戦争などはどうでもいいが、故郷を同じくするものが傷つき死んでいくのは忍びない。
 森を抜け、山を越えると、ようやく目的地である王国軍の砦に到着した。
 ここは広い街道の要所で、王国内の数ある砦の中でも最重要とされている砦だ。
 この砦を領内に抱え長年守っているがために、スクアード家は辺境伯という地位を国王陛下から下賜され王国四大貴族の一角に名を連ねているのだ。
 砦の防備もさすがに数が多い。
 いたるところに兵が配置されていて、200で守っていた俺達の建造した砦が砂の城に思えてくる。
 まああれは短時間で即興で作ったのであって、もっとゆっくりじっくり作らせてもらえば俺達だってこのくらい大きな砦が作れるはずだ。
 利便性だって負けてないだろうし。
 あんたたちの砦は壁の上にトイレ付いてますか?
 はぁ、張り合ってもしょうがないか。
 俺は溜息を吐き出し、これからどうすべきかを考える。
 ひとまず辺境伯を探さなければなにも始まらない。
 俺は光学迷彩と認識阻害をかけたまま、空中歩行の魔法によって空に駆け上がる。
 飛行魔法というのもあるのだが、俺の場合身体能力が神がかっているから駆けたほうが速い。
 城壁の上にも大量の兵士が配置されているが、その中でも指揮官っぽい人を探す。
 さすがにこの規模の軍団には士官が何人もいて、一番偉い人を探すのが難しいな。
 多分一番豪華な鎧を着ている人が辺境伯だと思うんだけどな。
 そんな感じの人は見当たらない。
 士官は一般兵よりは装飾の多い鎧姿だが、全員同じような鎧を着ている。
 俺は諦めて一度近くの森に退避する。
 しばらくはこの森に身を潜めて、辺境伯を探すしかなさそうだな。
 ちょうどいい川を見つけたので顔を洗う。
 冷たくて気持ちいい。
 綺麗な水の川だ。
 ふと川岸から視線を感じ、そちらを見る。
 そこには、4、50代くらいの壮年の男が釣りを楽しんでいた。


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