チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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6.過酷な旅路

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 うーん、やっぱり荷物が多すぎるだろうか。
 米俵2個なんて持っていたら、絶対退却中の織田軍に追いつけないよな。
 竹を切って器と箸を造り、殿のもとに戻る途中にどうにも大八車が気になった。
 殿の話によればここはどうやらここは滋賀県のようなのだ。
 それも琵琶湖よりも日本海側の。
 ここから京都まで何キロの距離を歩くのだろうか。
 この時代、基本移動は歩きだ。
 現代生まれの俺の足腰ではついていけないかもしれない。
 こんな大荷物では尚更だ。
 米は購入用の銭を持っていることにして、水も適当に川の水でも飲めばいい。
 荷物は薬と小量の米、小量の塩、刀くらいでいいな。
 一応食料品は新品の作務衣を風呂敷のように使って包み、寝間着のズボンで更に包んで背負えるように纏める。
 よし、この時代の旅支度としてはこのくらいが妥当だろう。
 大八車と残りの食料は収納の指輪に仕舞い、俺は建物の中に入る。

「なにか器に良さそうなものはあったか?なんなら別に、ワシは鍋から直食いでも気にせんぞ」

「いいものがあったので大丈夫です」

 俺は竹の椀にお粥を盛り、箸と共に殿に渡す。
 もう一つの椀に自分の分を盛り、共に食す。

「おお、なかなか美味いな。おかわりをもらえるか?」

「かしこまりました」

 一応米は一人1合と思って大体2合くらいを入れたが、少し足りなかったかもしれないな。
 この時代の武士はお昼ご飯をあまり食べないから、代わりに朝晩2合くらい米を食べるって聞いたことがあるし。
 次からは少し米を増やそう。
 俺も一度おかわりをし、殿はたくさんおかわりをしてお粥はあっという間に無くなった。
 綺麗に食べてもらえるとなんとなく嬉しい。
 
「では、行くか」

「はい」

 食休みを挟むこともなく、殿は身支度をする。
 横腹痛くなっても知らんよ。
 急ぐ気持ちも分かるけどね。
 織田軍から離れてしまった殿は死亡扱いになってしまうかもしれない。
 しんがりを務めて居なくなったのだから、尚更だ。
 敵の追撃を防ぎ、友軍の退却時間を稼ぐしんがりという役目はそれだけ死の危険が身近なのだ。
 実際俺が傷薬を塗らなかったら殿は死んでいたかもしれないわけだし。
 しかしただの貧乏くじでは無いと思う。
 なにせ命を懸けて時間を稼ぐのだ。
 それなりのご褒美なり、お給料アップなりがあるだろう。
 殿は今のお給料では家臣を養っていくのは難しいと言っていた。
 『よくわかる戦国時代』で検索した結果、殿が言っていた50石というのは現代の価値で大体350万円くらいらしい。
 年収350万円で人まで雇っていたらそりゃあ家計が苦しいよ。
 しかし生きて織田軍に合流することができれば、少しは家計も持ち直せよう。
 俺も足手まといにならないように頑張って歩かないと。
 俺は手早く火の始末をし、殿と共に建物を出た。
 



「はぁ、はぁ……」

「善次郎、お主体力が無いのう」

 病み上がりの殿のほうが体力的に余裕があるというのだから、現代人がいかに貧弱か分かる。
 弓とかも戦国時代に使われていたものは現代よりも強弓だったという。
 それだけ戦ってばかりということもあるのだろうけど。
 日々身体を鍛え、強くならなければ死んでしまう世の中なのだろう。
 早く誰か天下を統一してくれないものか。
 史実では織田信長はギリギリ統一できなくて、現在殿の上司である豊臣秀吉が後に天下を統一するんだよな。
 しかしそれでも平和とは言えなかったみたいだし。
 泰平の世を築いたといえば、やっぱり徳川家康かな。
 史実では、殿は全員に仕えるらしいから殿についていけば江戸時代までは問題なさそうだ。
 問題があるとすれば今だ。
 殿の歩くスピードがほとんどマラソンなんだ。
 琵琶湖のこちら側からあちら側までマラソンなんて、距離的にフルマラソン超えちゃうんじゃないのか?
 
「ほら、急げ」

「ま、待ってください……」

 この時代は色々とハードだな。
 明日あたりガチャで原付とか出ないかな。

「もう少しだ。この先に家臣たちとはぐれたら落ち合う予定の寺がある」

「ほ、ほんとですか。あとどのくらいですか?」

「まあ半日ってところだろうな」

 半日……。
 俺は死んだような目で走り続ける。
 半日って12時間って意味だろうか。
 それとも朝ごはん食べてからお日様が中天に昇るまでの5、6時間のことだろうか。
 この時代に細かい時間の概念は無いはずなので後者に賭ける。
 前者だったら本当に死ぬ。
 後者でも十分死ぬけどね。
 1時間に1度くらい休憩が入るのが唯一の救いか。
 無我夢中で走り、休憩の際には塩を舐めて十分に水分を補給する。
 疲れ果て、殿も俺も走れなくなる。
 夕方になり日が傾いてきた頃、ようやくその寺と思しき建物が見えてきた。

「おお、あれじゃ。やっとついたな」

「ついたんですか!?やった!!」

 本当に死ぬかと思ったよ。
 戦国時代は移動一つとっても大変だ。
 しかも俺はビーサンだからね。
 マメが何度潰れたことか。
 その度傷薬を塗っていたら足の裏の皮が厚くなった。
 もうちょっとやそっとじゃマメもできまい。
 ちょっとずつ戦国に染まっているな。

「おーい、勘左衛門!吉兵衛!」

「殿!ご無事でありましたか!!」

 寺のほうから2人の男が走ってくる。
 あの人たちが殿が言っていた家臣たちだろうか。
 一人は白髪の混じった壮年の男、もうひとりは殿よりも少し若いくらいの男だ。
 
「はぁはぁ、殿、よくぞご無事で。拙者、不覚にも戦場で殿のお姿を見失ってしまい申した。ご命令とあらば、腹を切ってお詫びいたします」

「そ、某もにござりまする」

「腹を切るなどやめよ。あれは痛いぞ。先の戦で腹をやられてな。これを見よ。昇天するほど痛かったぞ」
 
 殿は着物をはだけて塞がったばかりの腹の傷跡を見せる。
 家臣の2人は顔を青ざめさせた。

「と、殿。言うてはなんですが、そのような手傷でよく助かり申したな」

「ああ、この善次郎という男に偶然助けられてな。先祖伝来の秘薬がこれまたよく効く薬でな。一晩で傷が塞がった。頬の傷も見よ。穢れ膿んでおった傷がこの通りよ」

「なんと、素晴らしい効能の薬ですな」

「行くところがないと言うので召抱えることにした」

「山田善次郎です。よろしくおねがいします」

 殿の下で働くいわば同僚の2人に軽く挨拶する。
 どちらも真面目そうで怖い人じゃなさそうで安心だ。

「拙者は祖父江勘左衛門と申す。共に殿を支えてゆこうぞ」

「某は五藤吉兵衛と申す。歳の近い同輩ができてうれしゅうござる」

 この2人とならばうまくやっていけそうだ。

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