チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

文字の大きさ
5 / 131

5.よく切れる日本刀

しおりを挟む
 次の日の朝だ。
 俺は山内一豊様の家臣となったわけなので山内様のことは殿と呼ぶことにした。
 確かこの時代は忌み名というのがあって、殿の場合は一豊がそれにあたる。
 その名前で呼ぶことは失礼にあたるので、色々と面倒くさい。
 とりあえず家臣なのだから殿と呼んでおけば問題ないだろう。
 今日は殿と一緒に京都を目指さなければならない。
 どうやら今は1570年くらいで、殿は金ヶ崎の退き口に従事していたものと思われる。
 顔の怪我は手筒山城を攻める時に敵の侍大将から矢を受けた時のものなのだという。
 殿は矢が刺さっても馬にしがみついて耐え、敵に掴みかかったと少しだけ自慢げに話していた。
 聞いただけで痛そうだ。
 しかもその後家臣の人に矢を抜いてもらったときは、顔を踏みつけて一気に抜いてもらったそうだ。
 ごめん、それは俺もやった。
 背中の矢を抜いたときに。
 殿には内緒にしておこう。
 そんなわけで、今日は退却中の織田軍に追いつかなければならない。
 しかし俺は着の身着のままだ。
 服にいたってはTシャツをちょいちょい破って使っていたためにへそが出てしまっている。
 上に着ていた寝間着は殿の布団になっているし、これしか着るものが無いんだ。
 今年で23歳になる男がへそ出しTシャツ着ても可愛くないよね。
 他にもガチャから出た多少の荷物はあるが、すべて収納の指輪に入っている。
 自分の分の米を持っていくと言った手前、手ぶらというのも変だしな。
 さすがに収納の指輪の力は見せるわけにはいかない。
 まだ殿が寝ている今のうちになんとかしなければ。
 とりあえず、ガチャを引こう。
 スマホを取り出し、10連ガチャをタップする。

Sランク
 なし

Aランク
 なし

Bランク
 ・万能薬×10

Cランク
 ・水×10
 ・米×10
 ・塩×10
 ・砂糖×10
 ・作務衣上下×3
 ・大八車
 ・鉄鍋

Dランク
 ・ビーチサンダル
 ・まな板

 レアリティはあまり良くない。
 やはり初回はレアリティにブーストがかかっていたみたいだ。
 しかし今の状況では逆に助かった。
 特に作務衣と大八車、ビーチサンダルは助かる。
 作務衣はこの時代に存在しているのか分からないが、なんとか誤魔化せそうな服装だ。
 大八車もこの時代あったかどうか微妙だ。
 時代劇で出てきたから江戸時代にはあったと思うが。
 ビーチサンダルは絶対この時代には無い。
 だが草履の形をしているのでそこまで目立たないだろう。
 俺は作務衣に着替えビーチサンダルを履いた。
 まあまあ過ごしやすそうな格好だ。
 長い距離歩けるのかは別として。
 俺は殿の血がべっとりと付いた扉をがらりと開け、表に出る。
 今日はよく晴れていて気持ちが良い。
 気温的に季節は春か秋のどっちかだろう。
 少々肌寒いくらいの気温だ。
 植物を観察すれば、新芽が出始めている。
 たぶん春だな。
 これから段々温かくなってくるのだろう。
 少しだけ気分がいい。
 収納の指輪に一度しまった大八車を取り出し、色々と積み込んでいく。
 米俵はとりあえず2つかな。
 この米俵、めちゃくちゃ重たいからたぶん30キロの半俵じゃない。
 60キロのやつだ。
 1個で俺一人が半年くらい食えるだけはある気がする。
 2個で1年と考えて、2個だ。
 あとは、替えの作務衣と水と薬と塩と。
 水はペットボトルになってしまうけれど、持っていないのも変だしな。
 刀は持っていることを明かしたほうがいいのかな。
 一応元Tシャツのボロ布を巻いておこう。
 色々と乗せると結構重いな。
 米だけでも120キロは乗っているわけだから重いのは当然か。
 引いてみるとずっしりくる。
 ビーサンでどれだけ歩けるかな。
 まあでも殿もまだ本調子じゃないだろうし、そんなに早くは歩かないよね。
 だるくなった腰をぐっと伸ばすと、腹がぐぅと鳴った。
 そういえば昨日から水しか口にしていない。
 腹が減ったな。
 ちょうどガチャで鍋や塩も出たことだし、朝ごはんを作ろう。
 丁度近くにノビルという野草が生えていたので、それを取ってペットボトルの水で軽く洗う。
 野草は昔色々と勉強したけど、今でも覚えているのは分かりやすいノビルやタンポポといったメジャーなやつだけだ。
 良く似た毒草があるような野草は怖いしね。
 米俵から少し米を鍋に移し、研いでいく。
 米は玄米だった。
 よく研がないとな。
 蓋のないこの鍋ではうまく炊けないだろうからノビルを入れてお粥にするのがいいと思うのだけど、玄米でお粥って大丈夫かな。
 まあ食べられればなんでもいいか。
 栄養だけはありそうだ。
 研ぎ終わった米に千切ったノビルを入れて多目の水を注ぎ、建物の中に戻る。
 殿はまだ寝ている。
 怪我は治ったとはいえ昨日はまだ熱があったみたいだし、血もかなり失っている。
 起きるまで寝かせておいてあげよう。
 俺は囲炉裏に鉄鍋をかけ、消えかけの熾き火に細い枝をくべる。
 静まり返った室内に、パチパチと火の爆ぜる音だけが響く。
 太い枝をくべ、火が大きくなると鍋が煮立ち始める。
 薪火っていうのは火の調整が難しい。
 でもこれからはこれで料理をしていかないといけないんだなぁ。
 ツマミを捻れば火が着いた21世が改めて恵まれた環境だったのだと気がつく。

「ん……。ふぁぁああ、早いのう善次郎」

 少しアンニュイな気分に浸っていたら殿が起きた。
 顔色は昨日よりもずいぶんと良くなっているように思える。
 
「おはようございます。今朝餉を作っています。少し待っていてください」

「おお、すまんな」

 グツグツと米が煮え、ノビルの良い香りも相まってなかなか美味そうだ。
 玄米でお粥なんて作ったことが無いのでどのくらい煮たらいいのかよくわからない。
 とりあえずそろそろ20分くらいになるし、とろみも出てきた気がするのでこのくらいにしておこうか。
 塩を適当に入れてひとまず完成とする。
 しまった、器が無い。
 そういえば外に竹が生えていたな。
 鍋を火から離し、殿に一声かけて竹を取りに行く。
 これは刀の切れ味を試す良い機会かもしれない。
 さすがに素人の太刀筋でいきなり竹なんて切れないと思うので、スマホで剣術の基礎だけ学ぶか。
 基礎だけなら弓術の場合は10分くらいで終わった。
 剣術も同じくらいで終わるといいのだけど。
 スマホを取り出し、『武芸十八般できるかな』をタップ
 剣術の巻物をタップ。
 基礎1をタップ。
 身体はとても辛いが、時間的には短いので少しの辛抱だ。
 弓のときと同じで、何も持っていないのに手にはまるで刀を握っているような感触がある。
 それを縦に横に斜めに振りまわす。
 腕がだるくなろうと止まらない。
 10分ほど振り続けたあたりで動きが止まり、俺の額から汗が流れ落ちる。

「はぁはぁ、止まった……」

 スマホの画面からは剣術の基礎1が消えている。
 昨日は少し不安に思ったものだが、不思議と一度覚えた動きは忘れない気がしている。
 それもこのスマホの力なのかもしれない。
 タップしただけで不可逆的に武芸を身につけることができるのだとしたら、やはりこのスマホはチートだ。
 俺は大八車に置いてあった刀を取り出し、鞘から抜く。
 朝日に照らされて刃がギラリと光る。
 細めの竹の前に立ち、先ほどのおさらいをするように刀を斜めに振りぬいた。
 刀は何の抵抗も無く振りぬかれる。
 少し遅れて竹がバサリと倒れた。
 切り口は恐ろしく鋭い。
 
「なんて切れ味だ……」

 スマホはとても素晴らしい力だと思うけれど、ちょっとこの刀は怖いな。
 倒れた竹に刀をそっと触れさせると、まるでバターのように切り裂かれる。
 普通によく切れる刀だと思っていたのだが、この切れ味は物理法則を無視している。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...