チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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17.剣術の好きなお坊さん

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「あ、いえ、俺は別に仙人でも天狗でもないですよ。ただこいつが神獣ってだけなんで」

 俺は何を言ってんだろうか。
 見間違いかなにかで誤魔化せばよかったと軽く後悔する。

「ほう、ではあなた様は人の身でありながら神獣を従えておるのですかな」

「従えているわけではありませんが、背中には乗せてくれるみたいですね」

「なるほど……」

 声をかけてきたのはこのお寺のお坊さんのようだ。
 善住防さんのようなパチモンのお坊さんではなく、頭を丸めて本格的に仏門に入っている人だ。
 しかしなんというか、本職のお坊さんともちょっと違う気がする。
 目に宿る光というか、野心のようなものを感じる。
 武術も嗜んでいるようだし、生臭なお坊さんだろうか。
 あまり関わるとろくなこともなさそうだし、さっさと岐阜に帰ろう。

「勝手にお寺の敷地内に入ってすみません。すぐに出て行きますので。ゆきまる、帰ろう」

「キャンキャンッ」

「まあ待たれよ」

 お坊さんは壁に立てかけてあった木刀を取る。
 なんだよ、ゆきまるを捕まえて見世物にでもしようというのか?
 断固抵抗させていただくぞ。

「そう殺気立つことはない。ただ一手試合うてもらおうと思っただけでございます」

「試合?剣の?」

「ええ、私はこう見えても剣術が昔から好きでして。かの有名な塚原卜伝に師事していたこともあるのですよ」

「へえ、そうなんですか」

 こう見えてと言われても争いが嫌いそうな雰囲気には見えない。
 どこからどう見ても剣術大好きそうなお坊さんだ。
 しかし塚原卜伝ってなんか聞いたことあるぞ。
 戦国一の剣の腕とか、剣聖とかって言われた人じゃないのか?
 漫画で読んだよつい先日。
 このお坊さん、ただのお坊さんじゃないな。
 まあそんなことは最初から分かっていたけど。
 何が目的なんだろう。
 まさか剣術好きすぎて誰彼構わず勝負を吹っかけているわけでもあるまいし。

「ただ剣を交えてみたいだけですか?」

「ええ。お察しの通り私が勝ったら頼みがあるのですよ」

「頼みですか。俺にできることなんて少ないと思いますけど」

「ご謙遜を。あなたにしか頼めないことですよ」

「はぁ……」

 俺にしかできないことね。
 スマホやチートのことを知っているわけでもないだろうし、この人の知っていることなんて俺が剣術を齧っていることと神獣をペットにしていることだけだ。
 この2つでできることなんだろうか。
 まあ余り無体な内容だったら魔法でもぶっ放して逃げればいいか。

「いいですよ」

「ありがたい。では木刀をお貸しします」

「どうも」

 俺とお坊さんは互いに木刀を構え、向かい合う。
 塚原卜伝から剣を学んだというだけあって、なるほど手ごわい。
 全く隙の無い構えからは、日々の研鑽が伝わってくるようだ。
 身体は見るからに強靭。
 総合力では俺を大きく上回っている。
 戦国時代に来て初めて出会う格上の相手。
 俺の額から冷や汗がたらりと落ちる。
 木刀で殴られたくない。
 しかしどう考えても無傷で勝てる相手ではない。
 受けるんじゃなかったな、試合なんて。
 スマホで学んだ剣術はかなり優秀だから今までと同じように意外と勝てるんじゃないかと思っていたのだけれど、やはり同じくらい剣を極めている人というのはいるもんだ。
 そしてその場合、身体能力の勝るほうが勝つ。
 身体もっと鍛えておけばよかったな。

「行きますぞ。きぇぇぇぇぇぇいっ!!」

「うわぁぁぁぁっ」

 剣術はビビッた方が負けみたいなところがある。
 俺はお坊さんに負けじと声を張り上げた。
 こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてかもしれない。
 俺とお坊さんの木刀が打ち合わさる。
 一合二合と合わさるたびに筋力の大切さを思い知る。
 俺はなんとか技術で衝撃を殺すが、その分お坊さんよりも神経を使ってしまう。

「神業のような剣技ですな。まるで往年の塚原先生のようです」

「それはどうも」

 褒められれば悪い気はしない。
 それがたとえ降って湧いたような力であろうと、筋肉痛になりながら習得したのは俺だ。
 他のお侍さんとかよりは本気度が低いかもしれないけど、俺だって日々ゆるーく鍛錬を積んでいるんだ。
 努力をしていないわけではない。

「そろそろ決めさせていただく」

 お坊さんの雰囲気が変わる。
 なにか来る。
 俺も得意な居合術の構えを取る。
 鞘が無いのでそこまで剣速は速くならないだろうが、見てから切るのならこの構えが一番だ。
 お坊さんは独特の呼吸法によって己の内から何かを引き出そうとしているようだった。
 何かってなんだろう。
 魔力かな。
 俺にとっての魔力のようなものなんだろう。
 お坊さんの腕から木刀を伝わって、なんらかの力の奔流を感じた。
 
「はぁっ」

 速い。
 圧倒的に。
 だめだ、避けられないな。
 というかこれ死ぬんじゃないかな普通に。
 俺は半ば諦めていたが、俺の中にインストールされた武芸十八般は勝手に俺の身体を動かす。
 なにやら得体の知れない力を感じる木刀とは打ち合わず、木刀を潜り抜けるようにしてお坊さんの懐に入る俺。
 木刀の間合いでは近すぎるので、肩の後ろのあたりから体当たりする。
 八極拳の鉄山靠という技に似てるかな。
 『武芸十八般できるかな』の棒術にも同じような技があったんだ。
 棒術早めにやっといてよかった。
 お坊さんは後ろに2メートルほど吹っ飛び、尻餅を付く。

「ぐっ、私の負けのようですな。いてて……」

「大丈夫ですか?よく効く膏薬を持っているので痛む部分を教えてください」

 俺はBランクの湿布を取り出して肩の当たった肋骨のあたりに貼ってあげる。
 湿布は俺も筋肉痛のときとかに貼るけど、Bランクだけあってすごい効き目だ。
 骨にヒビが入っているくらいの怪我であってもすぐに直るだろう。

「いやはや、お強い。一之太刀を見せて負けたのは初めてですよ」

「一之太刀?」

「ええ、塚原先生にこっそり教えていただいた奥義です」

「へー。たしかにあれは一瞬負けたと思いましたよ」

「まさか木刀を振らずに体当たりされるとは思いもよりませんでした」

「あはは、剣以外での勝ちはだめでしたか?なんならもう一度やってもいいですけど」

「いえいえ、負けは負け。戦場で言い訳などできませんよ」

 戦場か。
 お坊さんなんだよね。
 たしかにこの時代はお坊さんも兵力を持っているし、戦う。
 しかしこのあからさまな感じはなんだろうか。
 お坊さんはもう少し本音と建前で使い分けている印象なんだよな。
 この人、出家した武士かなにかなんじゃないのかな。

「失礼ですが、お名前をお伺いしても?俺は山田善次郎というものですが」

「ああ、これは大変遅くなりまして申し訳ございません。私は天覚と申します」

「はぁ」

 天覚さんね。
 なんか聞いたことがあるような、無いような。
 しかし思い出せない。
 歴史に名を残した人なのかな。

「まあ最近までは、北畠具教と呼ばれていましたがね」

「えぇ!?」





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