チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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16.神獣の飼育方法

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「よーしよしよし」

「キャンキャンッ」

 朝からフェンリルをもふる。
 可愛いな。
 白くてふわふわの毛にぷにぷにの肉球。
 コロンと転がって腹を見せるので撫でてやればふさふさの尻尾を振り回して喜ぶ。
 
「お前の名前は何にしような」

「キャウンッ」

 ジョンとか、ラッシーとか、あまりこの時代らしくない名前は良くないよな。
 なら太郎とか花子とかかな。

「そもそもお前はオスなのか?メスなのか?」

 俺は抱き上げて確認するが、分からない。
 付いてないが、別のものも無い。
 犬っぽくても神獣だからな。
 雌雄は無いのかもしれない。

「ならオスでもメスでもいける名前がいいよな」

「キャンッ」

 そういえば、聖徳太子も白い犬を飼っていたんだよな。
 俺も『漫画で分かる日本の歴史』で初めて知ったんだけど、かなりの愛犬家だったみたいだ。
 嘘か本当か聖徳太子の飼っていた犬は人語を解し、お経まで唱えたらしい。
 それ本当に犬か?とも思ったけどね。
 その犬の名前はたしか雪丸だったかな。
 少しオスっぽい名前だけど、雪が入っていると少し柔らかい印象だ。

「雪丸、ユキマル、ゆきまる、ね。結構いいな。お前の名前はゆきまるでいいか?」

「キャンッ!」

 言葉が分かっているわけじゃないだろうが、フェンリルは尻尾を振って俺の手に頭を擦りつける。
 フェンリルの名前はゆきまるに決定だな。

「あとは、何食べるんだろうな。そもそも神獣って何か口にするのか?」

「キャンキャンッ」

 ゆきまるはとてとてと走り回り、土間に置いてあった料理用の日本酒の酒瓶をカリカリと引っかく。

「それは酒だぞ。さすがに酒は飲ませたらまずいだろ」

「キャンキャンッ」

 ゆきまるは酒瓶の周りをグルグル回って俺に何かを主張する。
 まさか酒が飲みたいわけじゃないよな。
 俺は恐る恐る酒瓶を取り、蓋を開ける。
 ちょろっとだけ手に垂らし、ゆきまるの顔の前に持っていった。
 ゆきまるはくんくんと少し匂いを嗅ぎ、猛然と俺の手をぺろぺろしだした。

「こら、酒だぞ。くすぐったいし。わかった、わかった。皿に注ぐから」

 ゆきまるの体調にはなんら変化は無いようだし、神獣というのはこういうものなんだろう。
 神様とかにお酒を供えたりするから、神獣も酒好きでもおかしくはない。
 中におっさんが入っているとかでないことを祈る。

「大丈夫だよな。お前は可愛いゆきまるだよな。おっさんじゃないよな」

「キャンキャンッ」

 ゆきまるは何言ってんだとばかりに酒を注いだ皿にまっしぐらだ。
 本当に酒が好きなんだな。
 それはそれで可愛いよ、おっさんじゃなければ。

「それにしても、神獣ってなんなんだろう」

 『よくわかる戦国時代』で検索したら出てくるかな。
 出てきた。

「なんでも出てくるなこのアプリは。コーヒーの美味しい淹れ方も載ってたし」

 神獣とは、神の遣い。
 神ってあれか、メッセージ送ってくるあれか。
 本当におっさんが入っているんじゃないかと疑ってしまう。
 一心不乱に日本酒を舐めてるからね。
 それで、飼育方法などはと。
 酒を好む。
 酒を飲ませておけば問題ない。
 トイレはしない。
 言葉はある程度わかるので言い聞かせれば分かってくれる。
 なるほどな。
 ペットとしては飼いやすそうな印象だ。
 トイレのしつけもしなくていいし、言葉も分かってくれるし。
 さらに、特記事項として巨大化すると書かれていて俺はスマホを取り落とす。

「え、なに、でっかくなんの?どんな感じに?」

「キャンッ」

 酒を飲み終わったゆきまるは、よく見ておけとばかりに巨大化した。

「うわぁっ」

「ワフワフッ」

「ああ、そんな感じなんだ」

 ゆきまるは可愛いままだった。
 真っ白な子犬の姿のまま、大きくなった感じだ。
 その大きさは3メートルを悠に越えており、長屋の部屋がいっぱいいっぱいだ。

「わかった。わかったから、もう元に戻って」

「キャンッ」

 言葉が分かるというのは本当のようで、ゆきまるはあっという間にもとの小さな子犬の姿に戻った。

「なるほどな。たしかにこれは神獣だ」

 あんなに大きな犬は居ない。
 世界最大の犬というのをネットのニュースで見たことがあるが、こんなに可愛くなかったし大きくもなかった。
 小さいままだと散歩は近所になるのだろうが、巨大化したらいったいどこまで行かなければならなくなるのだろう。

「近場で我慢してくれないかな」

「キャンッキャンッ」

 ゆきまるは嫌だとばかりに俺の周りを走り回る。
 今のままではゆきまるについて行けないのは目に見えている。
 どうやら俺も、身体とか鍛えたほうが良さそうだ。

「お手柔らかに頼むよ」

「キャンッ」





「ちょ、ちょっと待って。もうちょっとゆっくり頼むっ」

「ワフワフッ」

 グングンと離れていく地面。
 どんどん遠のいていく岐阜城。
 俺は今、空を飛んでいた。
 それというのも、ゆきまるはどうやら空を駆けることができるらしい。
 当初身体を鍛えてゆきまるの散歩に付き合おうと考えていた俺だったが、少し横着をしてゆきまるの背中に乗ってみたのだ。
 先日馬術をすべてマスタリーした俺は、馬に乗ることができる。
 もはや人馬一体の境地といっても過言ではない。
 だからゆきまるにも乗れると思ったんだ。
 馬術マスタリーの効果なのか、馬の気持ちがなんとなく分かる俺はゆきまるの気持ちも少しだが分かった。
 だから馬術マスタリーはゆきまるにも効果的だと考えたのだ。
 しかし蓋をあけてみたらなんだこれ。
 走り出したゆきまるは突然空を駆け出した。
 俺もこんな事態になるとは思っていなかった。
 しかしまあ、これはこれでいいものだ。

「すげぇ、空飛んでる。俺、空飛んでるな」

「ワフワフッ」

「そうだな。飛んでいるのはお前で、俺は乗っているだけだな」

 ゆきまるは楽しそうに空を駆け回る。
 ずいぶんと遠くまで来てしまって俺は少し心細くなってきたよ。
 大丈夫だよね、岐阜まで帰れるよね。
 帰巣本能とか神獣にもあるのかな。
 
「ワフッ」

「うわっ、どうしたんだよ」

 ゆきまるは突然急降下しだした。
 お股がひゅんとなるからもう少しゆっくりと下りて欲しい。
 ゆきまるが下りたのは山中にあるお寺の一角。
 木々が途切れて下りるのにちょうどよかったようだ。
 俺が背中から下りるとゆきまるはすぐに巨大化を解除して小さな子犬の姿に戻ってしまう。

「どうしたんだ?」

「キャンキャンッ」

「え、エネルギー切れ?エネルギーって酒か?」

「キャンキャンッ」

 どうやらお酒が切れたようだ。
 お酒をエネルギー源だと言い張るところはすこしおっさんっぽい。
 俺の中のおっさん疑惑は解けないままだ。
 収納の指輪から日本酒を取り出し、漆塗りの皿に注いでやる。

「キャンキャンッ」

「まあたんと飲め。そして俺を岐阜にちゃんと帰してくれ」

 俺は日本酒をぴちゃぴちゃと舐めるゆきまるの隣で地面に座り込んだ。
 乗馬の基本姿勢っていうのは結構疲れるんだよ。

「もし、そこの御仁。あなた様は仙人か天狗でいらっしゃいますでしょうか」 
 
「はい?」

「巨大な神獣に跨って空から参られた客人よ。いったいこの寺になんの御用でありましょうか」

 見られた?
 どうしよ。


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