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15.農作業とペット
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「善次郎殿、もっと腰を入れて鍬を振るってください。まったく、剣を振るうにあれほど腰が入っていたではありませんか」
「はい、すみません……」
1時間ほど鍬を振り続けたせいで、腕やら腰やらが悲鳴をあげている。
ここは殿の屋敷の片隅にある畑。
朝からガチャ運の無さに落ち込んで長屋でゴロゴロしていたところを、勘左衛門さんの奥さんの清さんに強制連行されて畑仕事をさせられている。
「まったく、戦で男手が無いのですからしっかりしていただかないと」
「はい、すみません……」
「男が女に簡単に頭を下げるものではありません!」
「はい!す、す、いえ、なんでもないです……」
怖い。
どうしろっていうんだ。
うるさいとか言ってビンタの一つでもしてやれば満足するのかな。
いや、清さんは薙刀と小太刀術の達人だ。
返り討ちにされてしまう。
それでまた情けないとか言われるんだ。
おとなしく従っておこう。
俺はえっさほっさと畑を耕す。
結構広い畑だな。
ここに今日、大根とゴボウ、里芋を植える。
俺はせっせと畝を拵える。
「頑張ってください善次郎殿。それが終われば食事を用意していますから、食べていってください」
背中から千代さんがそんな声をかけてくる。
これが飴と鞭というやつか。
人間の心理には非常に有効に働くようだ。
俺は鍬をぎゅっと握り、身体強化の魔法を発動する。
「えっさ、ほらさっ」
「おお、いいですよ善次郎殿。さきほどとは打って変わって腰の入った鍬さばきです。最初からそれをやりなさい」
無理を言う。
身体強化の魔法の持続時間は15分ほどだ。
それも今俺が持っている魔力すべてを使ってその時間なんだ。
どう考えても15分で農作業は終わらない。
あとは作物の分だけ畝を作るだけだから発動したんだ。
超人化した身体能力によって、あっという間に畝ができあがる。
「ふぅ、できました」
「では、種を蒔いてください」
「はい」
この時代は苗を育ててから畑に植えるという手法はあまりとられておらず、畑に直に種を蒔くことが一般的だ。
種からだと時期的に少し遅いかなとも思うが、戦やらなんやらで忙しかったのだろう。
殿がこの屋敷を大殿から貰ったのも最近のことだと言うから、今までは畑に構っていられなかったのかもしれない。
しかし俺という暇な男手ができたので畑で作物でもとなったのだろう。
一応暇じゃないんだ。
『漫画で分かる日本の歴史』が今いいところだったのに。
結構飛ばして読んでるから、今源平合戦のあたりなんだよ。
不死身系主人公の富士見原人がどう源平合戦に関わってくるのか気になるところ。
ちなみに主人公は紀元前生まれだ。
『漫画で分かる日本の歴史』は寿命を持たない不死身系主人公が日本の歴史を傍観するという設定なのだ。
もう少し無理の無い設定にできなかったのか。
10万巻以上の漫画の主人公が一人っていうのも無理があると思うんだけどな。
漫画のことを考えたいが、今は農作業に専念しよう。
邪念を感じ取った清さんにお小言を頂いてしまう。
俺はパラパラと大根の種を蒔いていった。
「よし、できました」
「お疲れ様でした善次郎殿。助かりました。またお願いするかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします」
「は、はい……」
有無を言わせぬ清さん。
普段は小言ばかりのくせに、ちゃんと労ってくれたりお礼も言われるから俺も次のお願いを断わりづらくなっちゃうんだよね。
やっぱり戦国時代の女性は強かだな。
殿の実家が昔織田信長に滅ぼされてから今まで、勘左衛門さんと一緒にずっと殿を支えてきた人だからそりゃあ俺のような若造を手玉に取るなんて簡単なことかもしれないな。
しかしそう考えると殿は自分の実家を滅ぼした人の下で働いているのか。
戦国時代はよく分からないね。
実際、そういった理由から死んでも織田信長には従わないっていう選択をした人もこの時代の武士には多い。
でも殿は実家を滅ぼした人に従うことで、山内家の血を絶やさないことを選んだ。
自分や家臣の命を選んだんだね。
「善次郎殿、何をしているのです。早く手を洗っていらっしゃい」
「あ、はい!」
俺は清さんに返事を返し、井戸に向かった。
農作業も一段落した7月初旬。
殿から姉川の戦いに織田軍が勝利したとの一報が届いた。
そこそこの手柄を立てたのでお給料もアップするかもしれないとのことだ。
やったね。
殿からの書状には善住坊さんが大物の首級を上げたので、善住坊さんを弟子にしてくれてありがとうみたいなことが書かれていた。
読んでくれたのは千代さんだけど。
俺はまだ自分で読むのはちょっと難しい。
綺麗な筆跡の人なら辛うじて読めなくはないけど、殿の字はちょっと癖があるから。
しかし善住坊さんがやったのか。
ということは、本当に俺の剣を見ただけで何かしら会得したってことだ。
すごいね。
殿もお給料アップかもしれなくて、善住坊さんも剣技が上達していいことばかりだ。
まあそんなことがあっても俺の生活がなにか変わるわけでもないんだけど。
普通に暇だ。
そろそろあのアイテムを収納の指輪から取り出してみるか。
あのアイテムとは、以前出たSランクアイテム神獣の卵(フェンリル)のことだ。
一人暮らしで少し寂しいのでペットはちょうどいい。
殿に聞いたら長屋は基本ペット禁止とかのルールが無いらしい。
迷惑かけたら隣近所大家から文句を言われる。
迷惑かけなきゃなんでもOK。
戦国時代はルーズでいいね。
俺は早速卵を指輪から取り出した。
大きさはダチョウの卵くらい。
鶏の卵と比べたらずいぶんと大きな卵だ。
これから生まれるとしたら、最初は子犬くらいの大きさかな。
フェンリルといえば大きな狼の姿をした伝説上の生物だけど、やっぱり犬っぽいのかな。
あまり大きくなるようなら、どこかの山中とかでこっそり飼わないといけないな。
俺は卵を擦って少し温めてみる。
どのくらいで生まれるんだろうか。
ピシリ。
あれ、ヒビ入った。
「え、もう生まれるの?」
温めて待つとかそういう段階を一切スキップか。
まあ簡単でいい。
卵のヒビはピシリピシリと広がっていき、やがて内側から割れる。
「きゅーきゅー」
それは、まるで子犬のような、いや、子犬だった。
真っ白でモフモフの毛皮を纏った、ぬいぐるみのような愛らしい生き物。
手を近づけると俺の指の匂いをくんくん嗅ぎ、ぺロリと舐める。
「やばい、めちゃくちゃ可愛い」
一人暮らしでペットを飼ったら結婚が遠のくとたまに聞くが、なぜなのか理解した。
この子を放っておいてデートとか行けないわ。
いやもはやこの子さえいればなんでもいい気がしてくる。
恐ろしきペットの罠。
お嫁さんが欲しくなくなったら、お前のせいだぞ。
フェンリル(子犬)は何も言わず俺の指を舐めた。
「はい、すみません……」
1時間ほど鍬を振り続けたせいで、腕やら腰やらが悲鳴をあげている。
ここは殿の屋敷の片隅にある畑。
朝からガチャ運の無さに落ち込んで長屋でゴロゴロしていたところを、勘左衛門さんの奥さんの清さんに強制連行されて畑仕事をさせられている。
「まったく、戦で男手が無いのですからしっかりしていただかないと」
「はい、すみません……」
「男が女に簡単に頭を下げるものではありません!」
「はい!す、す、いえ、なんでもないです……」
怖い。
どうしろっていうんだ。
うるさいとか言ってビンタの一つでもしてやれば満足するのかな。
いや、清さんは薙刀と小太刀術の達人だ。
返り討ちにされてしまう。
それでまた情けないとか言われるんだ。
おとなしく従っておこう。
俺はえっさほっさと畑を耕す。
結構広い畑だな。
ここに今日、大根とゴボウ、里芋を植える。
俺はせっせと畝を拵える。
「頑張ってください善次郎殿。それが終われば食事を用意していますから、食べていってください」
背中から千代さんがそんな声をかけてくる。
これが飴と鞭というやつか。
人間の心理には非常に有効に働くようだ。
俺は鍬をぎゅっと握り、身体強化の魔法を発動する。
「えっさ、ほらさっ」
「おお、いいですよ善次郎殿。さきほどとは打って変わって腰の入った鍬さばきです。最初からそれをやりなさい」
無理を言う。
身体強化の魔法の持続時間は15分ほどだ。
それも今俺が持っている魔力すべてを使ってその時間なんだ。
どう考えても15分で農作業は終わらない。
あとは作物の分だけ畝を作るだけだから発動したんだ。
超人化した身体能力によって、あっという間に畝ができあがる。
「ふぅ、できました」
「では、種を蒔いてください」
「はい」
この時代は苗を育ててから畑に植えるという手法はあまりとられておらず、畑に直に種を蒔くことが一般的だ。
種からだと時期的に少し遅いかなとも思うが、戦やらなんやらで忙しかったのだろう。
殿がこの屋敷を大殿から貰ったのも最近のことだと言うから、今までは畑に構っていられなかったのかもしれない。
しかし俺という暇な男手ができたので畑で作物でもとなったのだろう。
一応暇じゃないんだ。
『漫画で分かる日本の歴史』が今いいところだったのに。
結構飛ばして読んでるから、今源平合戦のあたりなんだよ。
不死身系主人公の富士見原人がどう源平合戦に関わってくるのか気になるところ。
ちなみに主人公は紀元前生まれだ。
『漫画で分かる日本の歴史』は寿命を持たない不死身系主人公が日本の歴史を傍観するという設定なのだ。
もう少し無理の無い設定にできなかったのか。
10万巻以上の漫画の主人公が一人っていうのも無理があると思うんだけどな。
漫画のことを考えたいが、今は農作業に専念しよう。
邪念を感じ取った清さんにお小言を頂いてしまう。
俺はパラパラと大根の種を蒔いていった。
「よし、できました」
「お疲れ様でした善次郎殿。助かりました。またお願いするかもしれませんが、そのときはよろしくお願いします」
「は、はい……」
有無を言わせぬ清さん。
普段は小言ばかりのくせに、ちゃんと労ってくれたりお礼も言われるから俺も次のお願いを断わりづらくなっちゃうんだよね。
やっぱり戦国時代の女性は強かだな。
殿の実家が昔織田信長に滅ぼされてから今まで、勘左衛門さんと一緒にずっと殿を支えてきた人だからそりゃあ俺のような若造を手玉に取るなんて簡単なことかもしれないな。
しかしそう考えると殿は自分の実家を滅ぼした人の下で働いているのか。
戦国時代はよく分からないね。
実際、そういった理由から死んでも織田信長には従わないっていう選択をした人もこの時代の武士には多い。
でも殿は実家を滅ぼした人に従うことで、山内家の血を絶やさないことを選んだ。
自分や家臣の命を選んだんだね。
「善次郎殿、何をしているのです。早く手を洗っていらっしゃい」
「あ、はい!」
俺は清さんに返事を返し、井戸に向かった。
農作業も一段落した7月初旬。
殿から姉川の戦いに織田軍が勝利したとの一報が届いた。
そこそこの手柄を立てたのでお給料もアップするかもしれないとのことだ。
やったね。
殿からの書状には善住坊さんが大物の首級を上げたので、善住坊さんを弟子にしてくれてありがとうみたいなことが書かれていた。
読んでくれたのは千代さんだけど。
俺はまだ自分で読むのはちょっと難しい。
綺麗な筆跡の人なら辛うじて読めなくはないけど、殿の字はちょっと癖があるから。
しかし善住坊さんがやったのか。
ということは、本当に俺の剣を見ただけで何かしら会得したってことだ。
すごいね。
殿もお給料アップかもしれなくて、善住坊さんも剣技が上達していいことばかりだ。
まあそんなことがあっても俺の生活がなにか変わるわけでもないんだけど。
普通に暇だ。
そろそろあのアイテムを収納の指輪から取り出してみるか。
あのアイテムとは、以前出たSランクアイテム神獣の卵(フェンリル)のことだ。
一人暮らしで少し寂しいのでペットはちょうどいい。
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迷惑かけなきゃなんでもOK。
戦国時代はルーズでいいね。
俺は早速卵を指輪から取り出した。
大きさはダチョウの卵くらい。
鶏の卵と比べたらずいぶんと大きな卵だ。
これから生まれるとしたら、最初は子犬くらいの大きさかな。
フェンリルといえば大きな狼の姿をした伝説上の生物だけど、やっぱり犬っぽいのかな。
あまり大きくなるようなら、どこかの山中とかでこっそり飼わないといけないな。
俺は卵を擦って少し温めてみる。
どのくらいで生まれるんだろうか。
ピシリ。
あれ、ヒビ入った。
「え、もう生まれるの?」
温めて待つとかそういう段階を一切スキップか。
まあ簡単でいい。
卵のヒビはピシリピシリと広がっていき、やがて内側から割れる。
「きゅーきゅー」
それは、まるで子犬のような、いや、子犬だった。
真っ白でモフモフの毛皮を纏った、ぬいぐるみのような愛らしい生き物。
手を近づけると俺の指の匂いをくんくん嗅ぎ、ぺロリと舐める。
「やばい、めちゃくちゃ可愛い」
一人暮らしでペットを飼ったら結婚が遠のくとたまに聞くが、なぜなのか理解した。
この子を放っておいてデートとか行けないわ。
いやもはやこの子さえいればなんでもいい気がしてくる。
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さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
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