チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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82.新年と新階層

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 年が明けた。
 西暦で言えば1574年になった。
 俺がこの時代にトリップしてから、3年半ほどが経過したということになる。
 色々あったな。
 この時代に来たばかりの頃は乱世だったけど……まだ乱世だな。
 何も変わってないことに多少の焦りを覚えるけれど、本能寺の変の回避を目指す以上は乱世打開は織田信長とその後継者である勘九郎君に期待するしかないだろう。
 未来を知っているからといって、俺が色々と手を出し始めるとすべてをぶち壊しにしてしまう可能性がある。
 すでに手遅れかもしれない。
 俺のせいでこの世がおかしなことになったら、平凡な脳みその俺にはどうすることもできない。
 そうなったらもう、ダンジョンの力を使って何が常識なのか分からないくらいの世の中に変えてしまうくらいしか俺に取れる手は無いだろう。
 なるべくならモンスターが闊歩してドラゴンが空を飛ぶような世界にはしたくないものだ。
 
「今日で1月。頑張りましたね、善次郎さん」

「じゃあ宝箱を開けてもいいってこと?」

「馬鹿なんですか?いいわけないじゃないですか。貯まったダンジョンポイントで食糧生産のための階層と働いてくれるスケルトンさんやゴーレムさんを生み出さないといけないじゃないですか。食料生産のための準備がすべて整ったら、余ったポイントで思う存分宝箱をしてください」

「わ、わかったよ……」

 どうやら禁断症状でまともな判断ができなくなっていたようだ。
 頭の中が宝箱を開けることでいっぱいになって、雪さんがいなかったら貯まったポイントでスペシャル宝箱でも開けていたかもしれない。
 これではいけないと俺は頬をバチンと叩き、痛みで頭を正常化する。
 よし、大丈夫。
 箱は後で。
 ちゃんと理解できる。
 
「ごめん雪さん。俺、どうかしてた」

「いえ、賭博などに嵌った人はそういった思考をすることもあるそうです。病気なのです。一生付き合っていかなければいけないんです。2人で頑張りましょう」

 雪さんは本当に俺にはもったいないくらいのいい奥さんだ。
 雪さんと一緒ならガチャ中毒とも戦っていけそうな気がしてきた。

「キャンキャン」

「ごめんゆきまる。お前もいたな」

 ゆきまるが自分も忘れるなとばかりに足元にじゃれついてくる。
 その柔らかな毛並みを撫でると、モフモフで禁断症状が少し和らぐ。
 宝箱を開けたいという気持ちが少し紛れる。
 なるほど、これがアニマルセラピーか。
 俺は雪さんと手を繋ぎ、ゆきまるを抱え上げて島にテレポートした。







 島に着くとゆきまるが巨大化して島の上空へ向かって駆けていった。
 ここはゆきまるがただの犬ではないと知っている人ばかりだから、ゆきまるも誰にも隠れることなく力いっぱい走り回ることができるのだ。
 ゆきまるは人語を解するので、俺はお昼までには帰ってくるようにゆきまるに伝えた。

「ワフワフ」

 了解というような返事が返ってくるが、ゆきまるは時間の概念をあまり理解していない。
 おそらくお昼になったら俺がリアリティクラウドで探しにいくことになるのだろう。
 まあいいか。
 普段は窮屈な想いをさせてしまっているのだ。
 島でくらいは開放的に走り回ったらいい。
 俺は雪さんと一緒にダンジョン内の草原フィールドを目指した。
 ダンジョンといってもこの島全域がダンジョンなのだが、俺は地上階層と地下階層と呼んでいる。
 食料などの問題があって畑や田んぼがある地下階層にばかり力を入れていたが、最近では地上階層にもこだわっている。
 ここもいつまでも閉鎖的な島ではいられないだろう。
 そのうちに島の外との交易が始まる。
 この島から船で農作物などをフィリピンやグアムなどに売りに行くのだが、その逆もあるだろう。
 他所から来る交易船を受け入れるということも考えていかなければならない。
 そうなったときに、住民の住んでいる居住区以外に宿や飲食店などの外から来た人を受け入れる施設も必要になってくるだろう。
 この島は秘密が多いから、地下階層への入り口や居住区と外から来た人向けの商業区画を分けたほうがいいように思う。
 ダンジョン地下階層への入り口は島の最大の秘密だが、島民の避難所でもあるので今まで通り島の中央部で良いだろう。
 居住区の拡張は島民の数で変わってくるが、最大でも島の3分の2程度までで止めておきたい。
 港から入って島の3分の1程度までを商業区画とし、そこから先は島民以外は立ち入り禁止としておくか。
 俺はフィリピンの市場を思い浮かべ、この島にもあんな風に活気が出ればいいなと思った。
 しかし、そうなると地上階層を整備するために俺はまた宝箱を我慢しなければならないのだろうか。
 ポイントを節約するために、建物なんかは人力で用意してもらおうかな。
 なんでもかんでもダンジョンの力でやってたら島民がダメになっちゃうからね。

「どうしたんですか?何か嘘をついたときみたいな顔をしていますけど」

「べ、別に!!さっさと階層を作っちゃおうか!!」

「……?まあそうですね」

 俺はスマホを操作して階層を追加する。
 第3階層は岐阜の町から入る膨大なポイントを1ヶ月も貯めただけあり、今までの比ではないほどの広さの草原フィールドとなった。
 北海道よりも少し狭いくらいの広さだろうか。
 広大すぎてフィールドの端が見えない。
 これだけの広さをすべて田んぼにして米を作れば、すごい量の米ができるだろう。
 まあ種籾には限りがあるから見渡す限り一面の稲穂を実現するのはもう少し先になるだろうが。
 
「すごい。初めて直接見ましたが、本当にこれは神の力としか思えませんね」

「Sランクのアイテムの中でもダンジョンコアは少し別格の印象だよね」

「ええ、これはまさに一つの世界を作ることのできる宝具ですね」

「まあ世界があっても人間では耕すのもやっとだから、スケルトンさんたちも生み出そうか」

 広大な草原をすべて田んぼにするには人間では何年かかるか分かったものではない。
 疲れを知らないスケルトンさんや力持ちのゴーレムさんの力が無ければ、水を張れる状態にすらならない。
 俺はとりあえずスケルトンさんを1万、ゴーレムさんを1000生み出した。
 しかし、スケルトンさん1人1人が鍬を持つとなると単純に鍬も1万本必要ということになる。
 鍬が足らない。
 ダンジョン農業は前途多難だ。



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