チートをもらえるけど戦国時代に飛ばされるボタン 押す/押さない

兎屋亀吉

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90.戦国時代対応型自己進化式人工知能

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『まずは拙者の名前を決めてくだされ』

 名前な。
 名前付けるのって苦手なんだよね。
 ゆきまるも聖徳太子の飼い犬の名前丸パクリだし。
 うーん、AIっていうと頭がいいっていうイメージかな。
 頭がいいといえば竹中半兵衛とか、黒田勘兵衛とか、あとは勇者ミツヒデも相当頭が良いみたいだ。
 勘九郎君はまだまだ未熟だけどポテンシャルは二兵衛やミツヒデにも劣るものじゃないだろう。
 信長もちょっとぶっ飛んでいるところがあるけど頭はいい。
 あと俺が漫画で読んで頭がいいと思ったのは直江兼続とか石田三成、立花道雪なんかだろうか。
 ちょっと時代が違ってもう死んじゃってるけど、太原雪斎や山本勘助も頭が良かった。
 やっぱりAIに今生きている人と同じ名前を付けるのはまずいと思うので、雪斎か勘助にするか。
 奥さんが雪さんだし、ペットはゆきまるだから不思議と雪という字に愛着があるんだよな。
 雪斎にしよう。

「名前は雪斎にする」

『了解しました。拙者の名前はこれより雪斎にござる。同時に主君の声紋および魔力波形を登録。次に静脈や指紋を登録するために手の平をディスプレイにピッタリとくっつけてくだされ』

「わかった」

 なにやらハイテクな認証登録ができるようなのでやっておく。
 こいつはSランクのアイテムだし、俺の思いもよらない使い方があるかもしれない。
 俺はAIと聞いてこの戦国時代に何かできることがあるイメージが無いが、頭のいい人が欲望の思うままに使ったら世界が大変なことになってしまう可能性だってあるんだ。
 セキュリティは厳重にしておいたほうがいいだろう。
 ブラウン管のように少し丸みのあるディスプレイに手の平をピッタリとくっ付けると、強い光が俺の手の平の血管を透過させる。
 太陽に手の平をかざしたときのように少し手の平が透明に見える。

『指紋および静脈を登録。次に虹彩を登録いたしますので、顔をディスプレイに近づけて目を見開いてくだされ』

 まだ認証登録があるのか。
 セキュリティは大事だけど、そんなに厳重にしなくてもこの時代にクラッキングできる人なんていないと思うけどな。
 面倒だけど言われたとおり顔を画面に近づけた。
 画面の向こうからギロリという目玉に睨まれて俺の口から情けなくひっと声が出た。
 なんでさっきまでSF風だったのに虹彩認証だけそんなホラーなんだ。

『すべての認証登録が終了いたしました。これにて拙者、ご主君以外の者の命令など一切受け付けぬ忠義の侍となり申した。さっそくご命令ください。やはり天下ですか?天下なのですか?』

「い、いや、天下とか興味ないから。ていうか天下ってどういう意味で言ってんの?」

『もちろんこの空の下にあるすべてのものという意味でございます。ご下命とあれば、すぐに足軽ドローンの製造を始め陸海空を埋め尽くす軍勢を作り上げますが』

「いやいや、そんなことしなくていいよ」

『では何を?拙者自己進化式人工知能ゆえ、己を進化させるために何かをしていたいのですが』

 参ったな、AIにやって欲しいことなんて無いんだよね。
 大体この時代にAIなんてオーバーテクノロジーすぎてこの時代ではあまり使えない。
 さっき口走っていた足軽ドローンってのが気になるところだ。
 ドローンってロボットのことだよね。
 パソコンもネットもないこの時代にAIができることは限られるけれど、ドローンっていうのを使えばAIが物理的な力を持つことができるってわけか。
 やっぱり認証登録をちゃんとしておいてよかった。
 こんなものが信長の手に入ろう物なら世界征服とか本当にやりかねないからね。
 まあ信長が圧倒的な力を使って世界征服をしたら後の世は史実よりも平和になる可能性もあるんだけど。
 俺は不確定なことはしたくないのでそれはやらないでおく。
 あまりぶっ壊れた世にするのは元の世を知る俺の心情的にも受け入れられない。
 良い部分も悪い部分もあって、へたれで優柔不断で、少し変態。
 そんな日本が俺はそんなに嫌いじゃなかったよ。

「というわけで雪斎には待機を命じます。暇なら漫画でも読んでて」

『了解しました。ご主君のスマートフォンデバイスとの同期を開始いたす。拙者、アプリ名『漫画でわかる日本の歴史』『良く分かる戦国時代』からの情報収集に徹することにいたします』

 それはなかなか面白いかもしれない。
 何か聞いたらなんでも答えてくれるようになるのは助かる。
 
『これよりはスマホに話しかけてくだされば拙者に繋がります。本体は魔素濃度が高くて破壊される可能性の低い場所に安置してくだされ。拙者の本体はそれほど強度がござらん故』

「わかった」

 今は雪斎の本体を壊されても俺にそれほど被害も無いし、雪斎自身に愛着も湧いていない。
 しかしこれから長く一緒に過ごすうちに、雪斎の力をたくさん借りるだろうし愛着も湧くことだろう。
 AIって言ったって、さっきから話している限り全く機械と話しているという実感は無い。
 ガチャから出たからといってもうゆきまるをただのアイテムだとは思えないのと同じで、雪斎はきっと俺の家族のような存在になるだろう。
 だからこそ、その本体の安置場所には気をつけなければならないな。
 壊されたらすごく困るという意味では、ダンジョンコアと同じだ。
 リスク管理的には同じ場所に置くよりもバラけて置いたほうがいいのだろうが、戦力をまとめて配置できるという利点もあるしダンジョンコアと同じ場所に置くこととしよう。
 あそこならばもうひとつの条件である魔素濃度というのもクリアしているだろう。
 スケルトンさんたちもダンジョン領域の外は魔素濃度が低くて苦しいって言っていたし、外よりも魔素濃度が高いことは確かだ。
 俺はダンジョンの第3層、北海道より少し小さいくらいの草原フィールドに向かった。
 水田を造り始めてから約3ヶ月。
 見渡す限りの水田に、20センチほどにまで育った稲の苗が等間隔で植わっている。
 葉は青々として元気に育ってくれているようだ。
 どこまでも続く田んぼに感慨深いものを感じながら、リアリティクラウドの雲に乗って階層の果てを目指す。
 日本に生まれたものならば、どこまで行っても全く途切れることの無い水田というのはまず見たことが無いだろう。
 高速道路を走る車くらいの速度で飛んでも、どこまでも田んぼという光景は日本の広さを考えたらありえない。
 俺はそんな外国の大規模農園みたいな光景に少し興奮気味に雲を飛ばした。
 さすがに何時間も飛ぶのは面倒なので途中でテレポートしながら飛ぶこと1時間ほど。
 階層の果てにあるのは神殿のような建物だ。
 ここにはダンジョンコアの埋め込まれた玉座が安置してある。
 セキュリティにも気を使ってあり、ここの入り口にはちょっと他のゴーレムさんたちとはポイント価格帯の異なる高額ゴーレムさんがじっと睨みを利かせている。
 俺達が近づくと高額ゴーレムさんの瞳にブンッと光が灯り、体の幾何学模様が光り始める。
 その姿はまるで古代の超兵器が久しぶりの侵入者にその役目を思い出したかのようだ。

『魔力波形を認証。マイマスター、どうぞお通りください』

 なんか、あれだ。
 君たちキャラ被ってるね。

『せ、拙者には侍というアイデンティティが……』

『私にもダンジョンモンスターというアイデンティティが……』

 俺は玉座に雪斎の本体を置いた。
 まあみんな違ってみんな良いと俺は思うよ。

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