95 / 131
95.信長とダンジョン
しおりを挟む
とりあえず1個作ってみようってことで、ダンジョン用地を探す。
しかしまあ大きなものを作って世の中の常識を変えることになるのだから、一応俺が神にチートを与えられた未来人だということを知っている信長には一言言っておこうと思う。
最初に作るのは尾張か美濃になると思うからそのへんも含めてね。
信長は今豊橋のあたりにいるはずだ。
たしか吉田城だったかな。
俺は巨大化したゆきまるの背中に乗り、一路豊橋を目指した。
「ワフワフ」
「そうだね、速くなったね」
ゆきまるはずっと小さくて可愛いままだけど、成長していないわけではないらしい。
少し走るのが速くなった気がする。
本気で走られると俺はしがみついているのが辛いので軽く走ったくらいだが、明らかに1歩で移動できる距離が伸びて踏み込みも力強くなっている。
これ以上速さが必要かということは置いておいて、俺はゆきまるを目いっぱい褒めた。
わしゃわしゃと身体を撫で、偉いとか凄いとか言いまくる。
ゆきまるは嬉しくなったのか、びゅんびゅん飛ばした。
ごめん、ちょっとスピードを落としてくれると助かります。
寒い、ガクガクブルブル。
かくして超速で三河の国上空を走りぬけた俺とゆきまる。
信長に面会を申し出ると、公式な返事は返ってこなかったが忍の人がこっそり手紙を持ってきた。
手紙の中には信長が茶室でこっそり会ってくれると書かれていた。
息子の陪臣程度の侍が信長に簡単に面会できた前例を残すと面倒なことになるから、こっそりねってことだね。
俺は甘い羊羹をお土産に、吉田城の茶室にお邪魔した。
「入れ」
「お邪魔します」
茶室には信長しかいなかった。
例のごとく壁の向こう側には気配があるものの、さすがに今度は切りかかられはしないだろう。
「これ、つまらないものですが」
「黒い菓子か。そなたは黒いものが好きだと勘九郎から聞いておる」
黒いものが好きなんじゃなくて、黒いものは大体美味いんだよ。
甘党な信長はお土産の羊羹を喜んで食べた。
場の空気も少し柔らかいものになった気がするので、本題に入る。
俺はダンジョンの計画を話し、ダンジョンの簡単な設計図を信長に見せた。
「ほう、これまた珍妙なことをやろうとしておるな。しかしこの高さ、正気か?紙に描かれておるとおりの縮尺なら、2町を越える高さということになる。到底人間に作れる建造物の高さとは思えん」
2町っていうのはこの時代の長さの単位で、1町110メートルくらいだから220メートルくらいだ。
俺が信長に見せたダンジョンの設計図に描かれてい1階層あたりの高さは20メートルほど。
それを10階層以上連ねているから、高さが200メートルを越える塔になるのではないかと信長は言っている。
実際にはダンジョンは内部の高さと外部の高さは関係ないのだけれど、俺は信長の言うとおり200メートルを越える高さの塔を建てようとしている。
やっぱインパクトが大事だからね。
東京スカイツリーの高さは600メートル以上あるのだから200メートルなんてそれほど高くないと思うかもしれないけれど、200メートルといえばこの時代の人たちにとっては天まで届くような高さだ。
インパクト的には十分だ。
「将来的には2町くらいの建物なら、人間の手でも作れるようになるんですよ。俺には無理ですけどね」
「そうか。人間が高い建物を建てられるようになるのは、何年後のことだ?」
「えぇ……」
そんな真面目に聞かれるとちょっと困っちゃうかな。
そんなに建築物に詳しいわけでもないんだよ。
俺はスマホで調べる。
世界最初の超高層建築というのはなんだろうか。
鉄骨を使ったビルという定義で言えば、アメリカのエンパイア・ステート・ビルディングだろう。
これの竣工が1884年。
300年以上後のことだな。
でも、フランスのノートルダム大聖堂は142メートルの建物でこの時代すでに建っている。
フランスは地震の非常に少ない国だから、耐震技術に拘る必要がないんだね。
同じく地震が少ないドイツにも高い塔は多い。
「地震にも負けない2町を越える建物を建てられるようになるのは、たぶん300年か400年以上後になると思います。でも、建てるだけなら今でも海の向こう側の地震が少ない土地にすでに1町を越える建物があるようですよ」
「なに?この時代にか。そうか……見てみたいものだな」
信長は少しだけその険しい顔をニヒルに歪ませる。
海外の珍しいものとかを収集している信長だ。
それほどまでに高い塔がすでにあると知って、好奇心が押さえられないのだろう。
このまま戦なんてやめて、海外に見たことのないものを見に行く旅に出るとか言ってくれたら俺は喜んで連れていくんだけど。
信長はすぐにいつもの険しい顔に戻った。
だよね。
この状況で海外になんか行けるはずもない。
「塔の建設は好きにするがよい。下がってよいぞ」
「ありがとうございます」
俺は立ち上がり、茶室を出ようとする。
ちょっとお茶残しちゃった。
抹茶って苦いんだよね。
「ちょっと待て」
「なんです?」
毎回毎回、立ち去ろうとする人の背中に話しかけるのが好きな人だな。
俺は振り返り、信長に向き直る。
頭が高いとか言われそうなので少し屈むか。
「最初にこの塔を建てるのは尾張か美濃にするという話だったが……」
「ええ、この塔に人がたくさん挑むようになればおそらく人々は富みますからね。敵を富ませることもないと思いまして」
「最初にその塔を築くのは、蟹江にせよ」
「蟹江に?」
「ああ」
なにか考えがあってのことなのだろうか。
まあ蟹江といえば一向宗の勢いの強い長島の近くだし、何か考えがあるのかもしれないな。
しかしまあ大きなものを作って世の中の常識を変えることになるのだから、一応俺が神にチートを与えられた未来人だということを知っている信長には一言言っておこうと思う。
最初に作るのは尾張か美濃になると思うからそのへんも含めてね。
信長は今豊橋のあたりにいるはずだ。
たしか吉田城だったかな。
俺は巨大化したゆきまるの背中に乗り、一路豊橋を目指した。
「ワフワフ」
「そうだね、速くなったね」
ゆきまるはずっと小さくて可愛いままだけど、成長していないわけではないらしい。
少し走るのが速くなった気がする。
本気で走られると俺はしがみついているのが辛いので軽く走ったくらいだが、明らかに1歩で移動できる距離が伸びて踏み込みも力強くなっている。
これ以上速さが必要かということは置いておいて、俺はゆきまるを目いっぱい褒めた。
わしゃわしゃと身体を撫で、偉いとか凄いとか言いまくる。
ゆきまるは嬉しくなったのか、びゅんびゅん飛ばした。
ごめん、ちょっとスピードを落としてくれると助かります。
寒い、ガクガクブルブル。
かくして超速で三河の国上空を走りぬけた俺とゆきまる。
信長に面会を申し出ると、公式な返事は返ってこなかったが忍の人がこっそり手紙を持ってきた。
手紙の中には信長が茶室でこっそり会ってくれると書かれていた。
息子の陪臣程度の侍が信長に簡単に面会できた前例を残すと面倒なことになるから、こっそりねってことだね。
俺は甘い羊羹をお土産に、吉田城の茶室にお邪魔した。
「入れ」
「お邪魔します」
茶室には信長しかいなかった。
例のごとく壁の向こう側には気配があるものの、さすがに今度は切りかかられはしないだろう。
「これ、つまらないものですが」
「黒い菓子か。そなたは黒いものが好きだと勘九郎から聞いておる」
黒いものが好きなんじゃなくて、黒いものは大体美味いんだよ。
甘党な信長はお土産の羊羹を喜んで食べた。
場の空気も少し柔らかいものになった気がするので、本題に入る。
俺はダンジョンの計画を話し、ダンジョンの簡単な設計図を信長に見せた。
「ほう、これまた珍妙なことをやろうとしておるな。しかしこの高さ、正気か?紙に描かれておるとおりの縮尺なら、2町を越える高さということになる。到底人間に作れる建造物の高さとは思えん」
2町っていうのはこの時代の長さの単位で、1町110メートルくらいだから220メートルくらいだ。
俺が信長に見せたダンジョンの設計図に描かれてい1階層あたりの高さは20メートルほど。
それを10階層以上連ねているから、高さが200メートルを越える塔になるのではないかと信長は言っている。
実際にはダンジョンは内部の高さと外部の高さは関係ないのだけれど、俺は信長の言うとおり200メートルを越える高さの塔を建てようとしている。
やっぱインパクトが大事だからね。
東京スカイツリーの高さは600メートル以上あるのだから200メートルなんてそれほど高くないと思うかもしれないけれど、200メートルといえばこの時代の人たちにとっては天まで届くような高さだ。
インパクト的には十分だ。
「将来的には2町くらいの建物なら、人間の手でも作れるようになるんですよ。俺には無理ですけどね」
「そうか。人間が高い建物を建てられるようになるのは、何年後のことだ?」
「えぇ……」
そんな真面目に聞かれるとちょっと困っちゃうかな。
そんなに建築物に詳しいわけでもないんだよ。
俺はスマホで調べる。
世界最初の超高層建築というのはなんだろうか。
鉄骨を使ったビルという定義で言えば、アメリカのエンパイア・ステート・ビルディングだろう。
これの竣工が1884年。
300年以上後のことだな。
でも、フランスのノートルダム大聖堂は142メートルの建物でこの時代すでに建っている。
フランスは地震の非常に少ない国だから、耐震技術に拘る必要がないんだね。
同じく地震が少ないドイツにも高い塔は多い。
「地震にも負けない2町を越える建物を建てられるようになるのは、たぶん300年か400年以上後になると思います。でも、建てるだけなら今でも海の向こう側の地震が少ない土地にすでに1町を越える建物があるようですよ」
「なに?この時代にか。そうか……見てみたいものだな」
信長は少しだけその険しい顔をニヒルに歪ませる。
海外の珍しいものとかを収集している信長だ。
それほどまでに高い塔がすでにあると知って、好奇心が押さえられないのだろう。
このまま戦なんてやめて、海外に見たことのないものを見に行く旅に出るとか言ってくれたら俺は喜んで連れていくんだけど。
信長はすぐにいつもの険しい顔に戻った。
だよね。
この状況で海外になんか行けるはずもない。
「塔の建設は好きにするがよい。下がってよいぞ」
「ありがとうございます」
俺は立ち上がり、茶室を出ようとする。
ちょっとお茶残しちゃった。
抹茶って苦いんだよね。
「ちょっと待て」
「なんです?」
毎回毎回、立ち去ろうとする人の背中に話しかけるのが好きな人だな。
俺は振り返り、信長に向き直る。
頭が高いとか言われそうなので少し屈むか。
「最初にこの塔を建てるのは尾張か美濃にするという話だったが……」
「ええ、この塔に人がたくさん挑むようになればおそらく人々は富みますからね。敵を富ませることもないと思いまして」
「最初にその塔を築くのは、蟹江にせよ」
「蟹江に?」
「ああ」
なにか考えがあってのことなのだろうか。
まあ蟹江といえば一向宗の勢いの強い長島の近くだし、何か考えがあるのかもしれないな。
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる