虎はお好きですか?

兎屋亀吉

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001話 そしてまた転生

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 ゆっくりと目を開けて辺りを見回すと、そこは森の中だった。見覚えのない深い森の中の景色を目にして、僕は今の自分の状況を悟った。

 

 はぁ……また転生か。



 遥か昔、僕は一柱の神だった。弱くてなんの力も持たない、どこにでもいる普通の神だ。

 弱すぎて、死した後、神として転生できず、数多の生命の輪廻転生のサイクルに飲み込まれてしまった間抜けな神だ。
 
 輪廻転生という森羅万象のシステムには僕の力程度では1ミクロンたりとも抗うことはできず、今に至るまで幾度となく転生を繰り返してきた。
 
 一応元神の僕は、何度転生を繰り返そうとも記憶を失うことはなく、少しずつではあるが魂も強くなり、神に近づいていると思えた。
 
 しかし、一つ前の前世は最悪だった。とある世界のとある星、日本という国に転生した僕は、普通の両親から生まれ、普通に成長して、普通にブラック企業に入社して、普通に過労死した。

 21世紀の日本ではこれが普通だというのだ。恐ろしい世の中だ。

 転生して蓄えた記憶も力も全く役に立たなかった。 
 
 金と運とコミュ力がすべての世の中だった。

 今まで転生した世界とは全く違う力が支配した世界に、僕は終始翻弄されてしまった。
 
 僕の前世の両親が裁判であのクソ社長から慰謝料をがっぽり搾り取ってくれることを願う。
 
 そして現在に至る。
 
 さて今世の僕は何に転生しているのだろうか。

 おもむろに自分の手を見る。もふもふの毛皮にぷにぷにの肉球。猫だろうか。
 
 転生したことから考えても、自分はまだ生まれたばかりなのだから近くに生みの親がいるはずだと思い、首をめぐらして後ろを振り返ってみた。
 
 そこには大きな白い虎が横たわっていて、足元には小さな白い塊が3つうずくまっていた。今世の僕の親と兄弟たちだろう。
 
 今世の僕は虎らしい。今までも人間以外に何度か転生したことがあるので驚きはしない。
 
 僕は今世の母親らしい大きな虎を見る。

 尻尾が異様に長いし、三又に分かれている。地球の虎とは少し違う。

 同じ世界の違う星という可能性もあるが、とりあえずここは地球ではないらしい。

 僕は今世の母に挨拶しようとヨチヨチと立ち上がり、声を出してみた。

「キュ~……」
 
 か細くてなんとも言えない声が出た。母虎は僕の顔をべろんべろん舐める。舐めることが愛情表現なのかもしれないと思い、僕も母虎の顔を舐めた。
 
 母乳を飲んだら、なんだか眠くなってきたので兄弟たちと身を寄せ合うようにして眠った。


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