虎はお好きですか?

兎屋亀吉

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002話 二度目の世界

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 今世の僕が転生したこの白い虎のような種族は、決まったねぐらを持たず、一日中森の中をうろうろしながら過ごす種族らしい。
 
 今現在も母虎は森の中をうろうろして獲物になる草食動物を探している。僕達子虎はどうしているのかというと、母虎の長い3本の尻尾に巻きつかれて持ち運ばれている。

 4兄弟なのか4兄妹なのかは分からないけれど、尻尾は3本で子虎は4匹なので僕ともう1匹だけ、1本の尻尾に2匹掴まれているので少し狭い。
 
 母虎は獲物を発見したみたいで、少し小走りになった。
 
 音を立てないようにしばらく走ると、角がやけに大きい鹿のような動物が木の芽を食べているのが見えてきた。
 
 獲物はあと少しで仕留められるというところで、危険を察知したようで、びくっと身体を振るわせたと思ったら全速力で逃げ始めた。

 母虎は焦ることなく、身体から雷のようなものを飛ばすと、雷が命中した鹿のような動物はぴくぴくと痙攣した後動かなくなった。魔法だろうか。
 
 この世界が魔法や超能力などの超常現象のある世界であるならば、そういったもののある世界に幾度となく転生したことのある僕は、かなりのアドバンテージがあることになる。
 
 仕留めた獲物を食べる母虎の下で母乳を吸いながら僕は考えに耽るのだった。




 10日程が経ち、子猫程度だった僕の体長は倍くらいになった。

 少し成長スピードが早いような気がする。僕は魔物や魔獣というような存在にも転成したことがあるが、そういった存在は成長スピードが早いことが多い。

 母虎が雷みたいなものを飛ばしていたし、今世の僕は魔物か魔獣の類なのかもしれない。
 
 身体が少し大きくなったので母虎に持ち運ばれるだけの生活から、少しだけ行動範囲が広くなった。

 今でも移動のときなどは相変わらず尻尾に持ち上げられてゆらゆらしているが、母虎のお腹が一杯になって休んでいる時などは僕達子虎は自由に遊びまわるようになった。

 木登りをしたり追いかけっこをしたりと4匹仲良く遊んでいる。
 
 今日も僕達は4匹で仲良く木に登って遊んでいた。今日は他の木よりも少しだけ背の高い木に登った。そしててっぺんまで登ったその時、見覚えのあるものが遠くに見えた。
 

 それは天まで伸びる巨大な木、世界樹だった。
 

 世界樹のある世界はひとつではない。

 ひとつではないが、僕はあの世界樹に見覚えがあった。他の世界で見た世界樹より圧倒的に大きく、長い年月を経た世界樹。僕の友人ユグドラシル。
 
 見間違うはずが無い、僕は一度この世界に転生したことがある。懐かしくて、嬉しくて、少し涙が出た。
 
 以前、この世界の人間に転生した僕は、途中まで結構いい人生だった。

 魔法を勉強して、強くなって、とある人間の国の宮廷魔法使いにまで登りつめた。

 しかしその後、中途半端に強くなりすぎた僕は人類の敵と認定されてすべての人間に罵詈雑言を浴びせられ、石を投げられ、結局鬱になって人生あきらめて公開処刑された。

 あの時は本当に人間が嫌いになった。
 
 あれから、何年の時が経っているんだろうか。

 少なくとも100回は転生しているので1万年くらい経っているのだろうか。

 以前にも同じ世界に転生したことはあったが、時間の流れというものは、世界によって違ったりするので案外そんなに時間が経っていないということもあるかもれない。
 
 僕はひとつ前の前世で過労死するほど働いて、魂が磨り減った気がするので、今世は死ぬまでだらだらして過ごす魂のリフレッシュ期間にしようと思っていた。

 しかしもう一度ユグドラシルに会えると思うとわくわくして、今世も頑張ろうというやる気が湧いてきた。

 溢れ出す気持ちが抑えきれずに僕は木のてっぺんにしがみついたまま、天に向かって吼えた。

「きゅお~~~~」

 やっぱりか細い声しか出なかった。

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