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007話 湖の主
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この世界に転生してからそろそろ半年程が過ぎようとしている。季節は雨季になったようで、最近の森は毎日雨だ。
たまに晴れ間がさす日は、湿り気を帯びた空気が熱せられて猛烈に蒸し暑い。
僕の毛皮は暑さも寒さも通さない謎の断熱仕様なので僕は特に暑さを感じないが、日差しの強い日は空を駆けていても巨大鳥が突っかかってこないのでつまらない。
生後半年で、僕の身体は母虎と同じくらいの大きさになり、尻尾も3本になり、魔力量は宮廷魔法使い時代を超えている。
僕も立派な大人の虎だ。
もはや少し大きいだけの鳥なんて、流れ作業で狩れる。
正直、しばらく狩りに出なくても食べていけるくらいの食料は空間収納の中に入っているが、じめじめした洞窟に居ても暇だし、陰鬱な気分になるので今日も僕は狩りに出る。
洞窟周辺には蛙がたくさんいる。10メートル歩けば1匹見かけるくらいいる。
あいつらホントに頭悪いから狩ろうと思えば何匹でも狩れちゃう。
蛙を狩ってもつまらないので今日は少し遠出してみようと思う。
少しの間空を駆ける。身体に雨が当たって気持ちがいい。
日差しの強い日も鳥は出てこないが、雨の日はもっと出てこない。だから最近は鳥の姿を見ていない。あの鳥肉は結構美味しいので、少し寂しい。
そんなことを考えているうちに、深い谷が見えてきた。僕たち兄弟が母虎に落とされた谷である。
実はここに、岩塩の鉱脈がある。さらに、岩塩目当ての結構強い魔獣も出る。
僕たち兄弟は、運よく魔獣には遭遇しなかったが、母虎なんちゅうとこに落としてくれてるんだ。
谷底に降り立つと、そこには先客が居たみたいで、僕の倍くらいはある馬に角が生えたみたいな魔獣が岩塩鉱脈の白い岩肌を角で突いて、砕けた岩塩をボリボリ食べている。
僕は心の中でこんにちはと一声かけて隣で岩塩を採掘する。
ずっとひとりで洞窟暮らししていると、どうしても孤独なのだ。たとえ魔獣であっても何とか仲良くなれないものかと本気で考えている。
ただ、うまくはいかないようで、隣の馬は完全に臨戦態勢だ。
鋭い目で僕を睨みながらぶるると一声鳴いて口に炎を溜め始める。
そして、一呼吸後に火球が数発飛んでくる。魔獣はどいつもこいつも単細胞なやつばかりだ。
僕の毛皮にはこの程度の火球はなんの意味も無い。羽虫でも追い払うように鬱陶しい火球を尻尾で払い、別の尻尾で馬の首を刎ねた。
馬は一瞬のことで何が起こったのかわからないままに、絶命した。虚しい狩りだ。
僕は血抜きの終わった馬の死体と、採掘した岩塩を空間収納で異空間に収納して、しんしんと雨の降る中を洞窟へと帰っていく。
マイホームである洞窟は、何度か食べ物の匂いに釣られた蛙が襲撃してきたので、入り口に頑丈な扉を取り付けた。
簡単なパズルを解くと開く仕掛けの魔道具なのだが、頭の悪い蛙では100年かかっても開けられないだろう。
洞窟の中も、身体が大きくなって狭くなったので大幅な増改築をした。
広さは4畳半から12畳くらいに広げて、ごつごつした岩肌を、ツルツルに磨いて、トイレと風呂とキッチンを作った。
この12畳ワンルームの空間には、魔導技術の粋が詰め込まれている。
24時間換気システム、上下水道、追い焚き機能、照明、システムキッチン、21世紀日本にあったものは大体魔法で何とかなった。
失敗したことといえば凝りすぎて、ものすごく居心地がよくなったこの家がある、この森から出たくなくなったことくらいだ。
僕は扉についている石版のパズルを、尻尾でささっと完成させて扉を開け、洞窟の中に入っていく。
中に入って壁の魔法陣に尻尾で軽くタッチすると、魔道具の照明が点灯する。
とりあえずお風呂に入ってさっぱりしてから、システムキッチンで馬を料理していく。
虎の姿で文明的な生活をしている今の僕は、客観的に見るとひどくシュールだろう。
しかし、虎の姿をしているからといって野生的な生活をしなくてはいけないという決まりは無いので、気にせず、馬をさばいていく。
馬といえば馬刺しだ。
尻尾に風の刃を纏わせてずばずばと解体していく。
人間だった頃のような刺身サイズにしていては、いつまで経ってもお腹いっぱいにはならないので、ある程度大きく、それでいてなるべく薄くなるように、馬肉を削ぎ切りにしていく。
そして次に僕が空間収納から取り出したのは、アーモンドのような木の実だ。
この実、絞るとごま油みたいな香りの油が採れるのだ。
その実を僕は魔導圧搾機の中に、30個ほど放り込んで、魔法陣に触れて油を絞る。
別に圧搾機くらい手動でもよかったのだが、圧搾に使う魔法を攻撃に転用したら面白い魔法になると思って試しに作ってみたのだ。
ただ、これを攻撃魔法に転用するとものすごくえぐいことになるので、しばらくは油や果物の果汁などを絞るためだけに使おうと思う。
馬肉に魔導圧搾機から出てきた油をかけて、その上から粉々に砕いた岩塩をふりかける。
しょうが醤油やにんにく醤油をつけて食べるのも美味しいと思うが、醤油も薬味も無いし、レバ刺しみたいな食べ方だけど、たぶん美味しいと思う。
土魔法で作った簡素な皿に盛り付けられた大量の馬刺しを、僕は一切れ口に入れる。
馬肉の脂がとろけ、岩塩の塩味が馬肉の甘みとうまみを引き立てている。そして鼻に抜けるごま油のような香り。
僕は我を失って馬肉に喰らいついた。めちゃくちゃ美味しい。
貪るように馬刺しを食べて、お腹がいっぱいになった僕は、お昼寝をすることにした。
食べたいように食べて、寝たいときに寝る。最高の生活だ。
起きたら次の日の朝になっていた。
なんだか最近はヒキニートのような生活をしている気がする。メンタル病んでるし。人間恐怖症だし。
僕は森に引きこもっているだけであって、部屋に引きこもっているわけではないのでセーフだと思う。
外に出てみると、本日の天気は晴天だった。
長雨で水を蓄えた森が太陽の光に熱せられて、朝だというのにすでに高温多湿だ。
暑さはあまり感じないけれど、多少身体にまとわりつくような不快感を感じるので、今日は水場に泳ぎに行くのもいいかもしれない。
幸いにも程近い距離に、水のきれいな湖があるので、早速僕は湖の上空に転移する。
空を飛んだり、地上を歩いたりする気分じゃないときは、僕は転移を使う。
この魔法のせいで、もはや家で引きこもっているのも、森で引きこもっているのも大して変わらない。
僕がさらにヒキニート気質になる一因となっている魔法だ。
僕は勢いよく湖にダイブした。
途端に世界が切り替わったかのように、水音以外の音が遠くなり、視界は薄暗くなる。
魔法使いにとって、水中はそこまで不利な環境ではない。
僕は水中で呼吸できる魔法や、水中で自由自在に動ける魔法も使えるので、むしろ地上では不利な相手を水中に引きずりこんで、魔法で滅多打ちにしたりもできる。
魔法で補助しながら湖の底まで泳いで、地上から光が差し込む水底の幻想的な光景をぼんやり眺めて過ごすと、まるで自分が水生生物に転生したような気分を味わえる。
そんな穏やかな気分も数分で消え去り、僕の中の猫科の本能が泳いでいる魚を追いかけろと僕に訴えかけてくる。
1メートル程の、サケ科の魚の顔をより獰猛にしたような魚を僕は泳いで追いかけた。
さすがは魚だ、泳ぎが速くて追いつけない。
虎の身体は水の抵抗が強くてスピードが出せない。
純粋に泳いで捕まえたかったが、無理なのでしょうがない。
僕は尻尾を伸ばして魚を捕縛した。
戦利品を尻尾で掴んで僕は陸に上がる。
魚はビチビチ跳ねて最後の抵抗をしているが、尻尾でぐるぐる巻きになっているので絶対に逃げ出せない。
ビチビチ暴れる魚をとりあえずその辺の地面に放り投げて、僕は身体を震わせて水を払い落とす。
僕のもふもふの毛皮は、水を完璧に弾くので軽くふるい落とせば元のふわふわさらさらに戻る。
気が済むまで泳いで、魚も獲ったのでそろそろ帰ろうかと思っていたそのとき、上空から謎の生物が舞い降りてきた。
それは全身がぷるんぷるんの謎素材でできた何かだった。
四足歩行の動物のような身体に鳥のような翼が生えており、そのすべてが半透明のぷるんぷるんだ。
その生物はびちゃりと地面に着地して僕と向き合うと、
『やぁやぁ我こそは誇り高きグリフォンの上位種スライムグリフォンにして、この湖周辺の縄張りの主、アーダルベルトなり!!!』
なぜか戦国武将風の名乗りをあげたのだった。
たまに晴れ間がさす日は、湿り気を帯びた空気が熱せられて猛烈に蒸し暑い。
僕の毛皮は暑さも寒さも通さない謎の断熱仕様なので僕は特に暑さを感じないが、日差しの強い日は空を駆けていても巨大鳥が突っかかってこないのでつまらない。
生後半年で、僕の身体は母虎と同じくらいの大きさになり、尻尾も3本になり、魔力量は宮廷魔法使い時代を超えている。
僕も立派な大人の虎だ。
もはや少し大きいだけの鳥なんて、流れ作業で狩れる。
正直、しばらく狩りに出なくても食べていけるくらいの食料は空間収納の中に入っているが、じめじめした洞窟に居ても暇だし、陰鬱な気分になるので今日も僕は狩りに出る。
洞窟周辺には蛙がたくさんいる。10メートル歩けば1匹見かけるくらいいる。
あいつらホントに頭悪いから狩ろうと思えば何匹でも狩れちゃう。
蛙を狩ってもつまらないので今日は少し遠出してみようと思う。
少しの間空を駆ける。身体に雨が当たって気持ちがいい。
日差しの強い日も鳥は出てこないが、雨の日はもっと出てこない。だから最近は鳥の姿を見ていない。あの鳥肉は結構美味しいので、少し寂しい。
そんなことを考えているうちに、深い谷が見えてきた。僕たち兄弟が母虎に落とされた谷である。
実はここに、岩塩の鉱脈がある。さらに、岩塩目当ての結構強い魔獣も出る。
僕たち兄弟は、運よく魔獣には遭遇しなかったが、母虎なんちゅうとこに落としてくれてるんだ。
谷底に降り立つと、そこには先客が居たみたいで、僕の倍くらいはある馬に角が生えたみたいな魔獣が岩塩鉱脈の白い岩肌を角で突いて、砕けた岩塩をボリボリ食べている。
僕は心の中でこんにちはと一声かけて隣で岩塩を採掘する。
ずっとひとりで洞窟暮らししていると、どうしても孤独なのだ。たとえ魔獣であっても何とか仲良くなれないものかと本気で考えている。
ただ、うまくはいかないようで、隣の馬は完全に臨戦態勢だ。
鋭い目で僕を睨みながらぶるると一声鳴いて口に炎を溜め始める。
そして、一呼吸後に火球が数発飛んでくる。魔獣はどいつもこいつも単細胞なやつばかりだ。
僕の毛皮にはこの程度の火球はなんの意味も無い。羽虫でも追い払うように鬱陶しい火球を尻尾で払い、別の尻尾で馬の首を刎ねた。
馬は一瞬のことで何が起こったのかわからないままに、絶命した。虚しい狩りだ。
僕は血抜きの終わった馬の死体と、採掘した岩塩を空間収納で異空間に収納して、しんしんと雨の降る中を洞窟へと帰っていく。
マイホームである洞窟は、何度か食べ物の匂いに釣られた蛙が襲撃してきたので、入り口に頑丈な扉を取り付けた。
簡単なパズルを解くと開く仕掛けの魔道具なのだが、頭の悪い蛙では100年かかっても開けられないだろう。
洞窟の中も、身体が大きくなって狭くなったので大幅な増改築をした。
広さは4畳半から12畳くらいに広げて、ごつごつした岩肌を、ツルツルに磨いて、トイレと風呂とキッチンを作った。
この12畳ワンルームの空間には、魔導技術の粋が詰め込まれている。
24時間換気システム、上下水道、追い焚き機能、照明、システムキッチン、21世紀日本にあったものは大体魔法で何とかなった。
失敗したことといえば凝りすぎて、ものすごく居心地がよくなったこの家がある、この森から出たくなくなったことくらいだ。
僕は扉についている石版のパズルを、尻尾でささっと完成させて扉を開け、洞窟の中に入っていく。
中に入って壁の魔法陣に尻尾で軽くタッチすると、魔道具の照明が点灯する。
とりあえずお風呂に入ってさっぱりしてから、システムキッチンで馬を料理していく。
虎の姿で文明的な生活をしている今の僕は、客観的に見るとひどくシュールだろう。
しかし、虎の姿をしているからといって野生的な生活をしなくてはいけないという決まりは無いので、気にせず、馬をさばいていく。
馬といえば馬刺しだ。
尻尾に風の刃を纏わせてずばずばと解体していく。
人間だった頃のような刺身サイズにしていては、いつまで経ってもお腹いっぱいにはならないので、ある程度大きく、それでいてなるべく薄くなるように、馬肉を削ぎ切りにしていく。
そして次に僕が空間収納から取り出したのは、アーモンドのような木の実だ。
この実、絞るとごま油みたいな香りの油が採れるのだ。
その実を僕は魔導圧搾機の中に、30個ほど放り込んで、魔法陣に触れて油を絞る。
別に圧搾機くらい手動でもよかったのだが、圧搾に使う魔法を攻撃に転用したら面白い魔法になると思って試しに作ってみたのだ。
ただ、これを攻撃魔法に転用するとものすごくえぐいことになるので、しばらくは油や果物の果汁などを絞るためだけに使おうと思う。
馬肉に魔導圧搾機から出てきた油をかけて、その上から粉々に砕いた岩塩をふりかける。
しょうが醤油やにんにく醤油をつけて食べるのも美味しいと思うが、醤油も薬味も無いし、レバ刺しみたいな食べ方だけど、たぶん美味しいと思う。
土魔法で作った簡素な皿に盛り付けられた大量の馬刺しを、僕は一切れ口に入れる。
馬肉の脂がとろけ、岩塩の塩味が馬肉の甘みとうまみを引き立てている。そして鼻に抜けるごま油のような香り。
僕は我を失って馬肉に喰らいついた。めちゃくちゃ美味しい。
貪るように馬刺しを食べて、お腹がいっぱいになった僕は、お昼寝をすることにした。
食べたいように食べて、寝たいときに寝る。最高の生活だ。
起きたら次の日の朝になっていた。
なんだか最近はヒキニートのような生活をしている気がする。メンタル病んでるし。人間恐怖症だし。
僕は森に引きこもっているだけであって、部屋に引きこもっているわけではないのでセーフだと思う。
外に出てみると、本日の天気は晴天だった。
長雨で水を蓄えた森が太陽の光に熱せられて、朝だというのにすでに高温多湿だ。
暑さはあまり感じないけれど、多少身体にまとわりつくような不快感を感じるので、今日は水場に泳ぎに行くのもいいかもしれない。
幸いにも程近い距離に、水のきれいな湖があるので、早速僕は湖の上空に転移する。
空を飛んだり、地上を歩いたりする気分じゃないときは、僕は転移を使う。
この魔法のせいで、もはや家で引きこもっているのも、森で引きこもっているのも大して変わらない。
僕がさらにヒキニート気質になる一因となっている魔法だ。
僕は勢いよく湖にダイブした。
途端に世界が切り替わったかのように、水音以外の音が遠くなり、視界は薄暗くなる。
魔法使いにとって、水中はそこまで不利な環境ではない。
僕は水中で呼吸できる魔法や、水中で自由自在に動ける魔法も使えるので、むしろ地上では不利な相手を水中に引きずりこんで、魔法で滅多打ちにしたりもできる。
魔法で補助しながら湖の底まで泳いで、地上から光が差し込む水底の幻想的な光景をぼんやり眺めて過ごすと、まるで自分が水生生物に転生したような気分を味わえる。
そんな穏やかな気分も数分で消え去り、僕の中の猫科の本能が泳いでいる魚を追いかけろと僕に訴えかけてくる。
1メートル程の、サケ科の魚の顔をより獰猛にしたような魚を僕は泳いで追いかけた。
さすがは魚だ、泳ぎが速くて追いつけない。
虎の身体は水の抵抗が強くてスピードが出せない。
純粋に泳いで捕まえたかったが、無理なのでしょうがない。
僕は尻尾を伸ばして魚を捕縛した。
戦利品を尻尾で掴んで僕は陸に上がる。
魚はビチビチ跳ねて最後の抵抗をしているが、尻尾でぐるぐる巻きになっているので絶対に逃げ出せない。
ビチビチ暴れる魚をとりあえずその辺の地面に放り投げて、僕は身体を震わせて水を払い落とす。
僕のもふもふの毛皮は、水を完璧に弾くので軽くふるい落とせば元のふわふわさらさらに戻る。
気が済むまで泳いで、魚も獲ったのでそろそろ帰ろうかと思っていたそのとき、上空から謎の生物が舞い降りてきた。
それは全身がぷるんぷるんの謎素材でできた何かだった。
四足歩行の動物のような身体に鳥のような翼が生えており、そのすべてが半透明のぷるんぷるんだ。
その生物はびちゃりと地面に着地して僕と向き合うと、
『やぁやぁ我こそは誇り高きグリフォンの上位種スライムグリフォンにして、この湖周辺の縄張りの主、アーダルベルトなり!!!』
なぜか戦国武将風の名乗りをあげたのだった。
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