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閑話 人間の国
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世界樹から西へ1万キロほどの場所に、人間の国リーンハルト王国は存在する。
北に海、西に切り立った山脈、南に未開発の森林、そして東に人間の国々と隣接した、近隣では最大の領土を誇る大国である。
そんな王国の中でも森林地帯に面した南部一帯はバルマー辺境伯家に、その統治が任されていた。
「くそっ、くそっ、くそぉっ、おいベルトルト、なんとかならんのか!」
「ですがお館様、なんとかと申されましても…」
バルマー辺境伯家は、現在15歳の長男アドルフがいずれ18歳になり、成人したあかつきには当主ダリエルより当主の座を受け継ぐはずだった。
しかし、不慮の事故によりアドルフは半死半生の怪我を負ってしまった。たとえ意識が戻ったとしても今まで通りの生活はできないような大怪我だ。
長男であることから、殊更アドルフを可愛がっていたダリエルはなんとか長男の怪我を治せないかと家老であるベルトルトに泣きついたのである。
「金ならいくら掛かっても構わん、聖女でもなんでも呼んで来い!」
ベルトルトは少し考えて、ゆっくりと口を開いた。
「そういえば、最上級ポーションを調合することができるエルフの薬師が、最近我が国を訪れていると聞いたことがあります」
最上級ポーションとは、どんな大怪我だろうが病気だろうが飲めばたちどころに全快するといわれている伝説の霊薬である。
その調合方法は失伝していて、人間の国に作れるものはおらず、エルフのような長命な種族の一部でしか伝えられていないとされている。
その最上級ポーションを作れるエルフが偶然にも自分の住んでいる国に滞在しているというのだ。
ダリエルにはまさに神の思し召しであるかのように思えた。
「最上級ポーションだと!そいつはどこにいる!?」
「冒険者ギルドに所属する冒険者でもあるそうなので、ギルドに指名依頼を出せば良いかと」
「すぐに指名依頼を出せ!」
「かしこまりました」
ベルトルトが早足で去っていく後姿を見ながらダリエルは、隣国ランドルフ神聖国のやつらがありがたそうに祭っている神とかいうのもあながち捨てたものではないなと思ったのだった。
私の名前はフィリーネ、エルフです。
エルフは基本的に自分たち以外には興味が無く、閉鎖的で排他的な種族なので、森の奥深くに集落を作り、他の種族と関わらずに暮らしています。
しかし私は、エルフなのに外の世界に興味がありました。小さい頃から、外の世界はすごく怖い所だから絶対に出てはいけないと教えられて育ちましたが、そのときから私は、外の世界がどうして怖いのか、一体何があるのか気になって仕方がありませんでした。
エルフは成長が遅いので成人は25歳です。それでも見た目は12、3歳に見えるほどに幼いのですが。
成人した途端に私はエルフの森を抜け出して旅に出ました。世界を旅するのが私の小さい頃からの夢だったのです。
それから今まで大体15年程が経ったでしょうか、私は16歳前後の見た目になりました。
世界を旅して、いろんな場所を見ました。そして、なぜ大人たちが外の世界はとても怖いと教えていたのかが良くわかりました。
大自然の猛威、魔物、そして人間。
特に人間はとても怖い生き物でした。何度人間に奴隷にされかけたことか。
人間にとってエルフはとても貴重な存在らしく、捕まえるととても高く売れるのだそうです。
お金というものは物と交換ができて、たくさん持っていればなんでも手に入ります。それが欲しいのは分かります。
分かるのですが、プライドというものは無いのでしょうか。人間はエルフと違って強い誇りを持っている人は少なく、欲望に忠実です。
信頼していた人が、ある日突然欲に目がくらんで捕まえようとしてくる。これが人間の一番怖いところです。
そんな人間の中でも、冒険者と呼ばれる人たちは日頃から命がけで魔物を狩って生活しているからか、見た目は厳ついですが、誇り高い人たちが多いです。例外は存在しますが。
私は、強い者には種族に関係なく敬意を払うこの冒険者という職業が気に入り、今では冒険者兼薬師としてあちこちで魔物を狩ったり、薬を調合したりして旅を続けています。
そして今日も冒険者ギルドに向かっている途中なのですが、どうやら例外の方々が来たようです。
「ひひひっ、おい本当にエルフだぜっ」
「こいつを売りゃあしばらくは遊んで暮らせるぜ」
「お嬢ちゃん、痛い目見たくなけりゃおとなしくしな!」
本当に愚かな人たちですね。私はこう見えてもAランク冒険者です。食い詰めて人攫いに手を出すような冒険者崩れが何人束になっても勝てるわけが無いというのに。
私はトンッとつま先を鳴らします。すると何も無かった地面からにょきにょきと木が生えていき、どんどん男たちに絡み付いていきます。
「なっ、なんだこりゃあ!」
「動けねぇ!」
「魔法か?こんな魔法見たことねぇぞ!」
見たことなくて当然でしょう。これは魔法ではないのだから。
私は冷めた目で男たちを一瞥してから兵士を呼びにいきます。
男たちが何か喚き散らしていますが待てといわれて待つ馬鹿がどこにいるでしょうか。
私は兵士に顛末を話して一緒に来てもらいます。
兵士たちはニヤニヤ笑いながら現場まで向かいます。
この兵士たちは職業意識が低く、他種族を見下しているので、自分に利益がないとエルフの私を捕まえようとした者など捕まえてはくれません。
だから私は、犯罪者を捕まえた時の報奨金や、犯罪者の財産から、兵士に分け前を渡す取引をしているのです。
兵士たちは男たちを縛り上げて、男たちの財産から幾ばくかの金と報奨金を私に渡して、欲望に塗れた顔で毎度ありなどと言って去っていきました。
この金で娼館に行くか酒場に行くか迷うなどと話しながら去っていく兵士たちを見て私は、次の仕事が終わったらこの国から出て行く決意を固めたのです。
北に海、西に切り立った山脈、南に未開発の森林、そして東に人間の国々と隣接した、近隣では最大の領土を誇る大国である。
そんな王国の中でも森林地帯に面した南部一帯はバルマー辺境伯家に、その統治が任されていた。
「くそっ、くそっ、くそぉっ、おいベルトルト、なんとかならんのか!」
「ですがお館様、なんとかと申されましても…」
バルマー辺境伯家は、現在15歳の長男アドルフがいずれ18歳になり、成人したあかつきには当主ダリエルより当主の座を受け継ぐはずだった。
しかし、不慮の事故によりアドルフは半死半生の怪我を負ってしまった。たとえ意識が戻ったとしても今まで通りの生活はできないような大怪我だ。
長男であることから、殊更アドルフを可愛がっていたダリエルはなんとか長男の怪我を治せないかと家老であるベルトルトに泣きついたのである。
「金ならいくら掛かっても構わん、聖女でもなんでも呼んで来い!」
ベルトルトは少し考えて、ゆっくりと口を開いた。
「そういえば、最上級ポーションを調合することができるエルフの薬師が、最近我が国を訪れていると聞いたことがあります」
最上級ポーションとは、どんな大怪我だろうが病気だろうが飲めばたちどころに全快するといわれている伝説の霊薬である。
その調合方法は失伝していて、人間の国に作れるものはおらず、エルフのような長命な種族の一部でしか伝えられていないとされている。
その最上級ポーションを作れるエルフが偶然にも自分の住んでいる国に滞在しているというのだ。
ダリエルにはまさに神の思し召しであるかのように思えた。
「最上級ポーションだと!そいつはどこにいる!?」
「冒険者ギルドに所属する冒険者でもあるそうなので、ギルドに指名依頼を出せば良いかと」
「すぐに指名依頼を出せ!」
「かしこまりました」
ベルトルトが早足で去っていく後姿を見ながらダリエルは、隣国ランドルフ神聖国のやつらがありがたそうに祭っている神とかいうのもあながち捨てたものではないなと思ったのだった。
私の名前はフィリーネ、エルフです。
エルフは基本的に自分たち以外には興味が無く、閉鎖的で排他的な種族なので、森の奥深くに集落を作り、他の種族と関わらずに暮らしています。
しかし私は、エルフなのに外の世界に興味がありました。小さい頃から、外の世界はすごく怖い所だから絶対に出てはいけないと教えられて育ちましたが、そのときから私は、外の世界がどうして怖いのか、一体何があるのか気になって仕方がありませんでした。
エルフは成長が遅いので成人は25歳です。それでも見た目は12、3歳に見えるほどに幼いのですが。
成人した途端に私はエルフの森を抜け出して旅に出ました。世界を旅するのが私の小さい頃からの夢だったのです。
それから今まで大体15年程が経ったでしょうか、私は16歳前後の見た目になりました。
世界を旅して、いろんな場所を見ました。そして、なぜ大人たちが外の世界はとても怖いと教えていたのかが良くわかりました。
大自然の猛威、魔物、そして人間。
特に人間はとても怖い生き物でした。何度人間に奴隷にされかけたことか。
人間にとってエルフはとても貴重な存在らしく、捕まえるととても高く売れるのだそうです。
お金というものは物と交換ができて、たくさん持っていればなんでも手に入ります。それが欲しいのは分かります。
分かるのですが、プライドというものは無いのでしょうか。人間はエルフと違って強い誇りを持っている人は少なく、欲望に忠実です。
信頼していた人が、ある日突然欲に目がくらんで捕まえようとしてくる。これが人間の一番怖いところです。
そんな人間の中でも、冒険者と呼ばれる人たちは日頃から命がけで魔物を狩って生活しているからか、見た目は厳ついですが、誇り高い人たちが多いです。例外は存在しますが。
私は、強い者には種族に関係なく敬意を払うこの冒険者という職業が気に入り、今では冒険者兼薬師としてあちこちで魔物を狩ったり、薬を調合したりして旅を続けています。
そして今日も冒険者ギルドに向かっている途中なのですが、どうやら例外の方々が来たようです。
「ひひひっ、おい本当にエルフだぜっ」
「こいつを売りゃあしばらくは遊んで暮らせるぜ」
「お嬢ちゃん、痛い目見たくなけりゃおとなしくしな!」
本当に愚かな人たちですね。私はこう見えてもAランク冒険者です。食い詰めて人攫いに手を出すような冒険者崩れが何人束になっても勝てるわけが無いというのに。
私はトンッとつま先を鳴らします。すると何も無かった地面からにょきにょきと木が生えていき、どんどん男たちに絡み付いていきます。
「なっ、なんだこりゃあ!」
「動けねぇ!」
「魔法か?こんな魔法見たことねぇぞ!」
見たことなくて当然でしょう。これは魔法ではないのだから。
私は冷めた目で男たちを一瞥してから兵士を呼びにいきます。
男たちが何か喚き散らしていますが待てといわれて待つ馬鹿がどこにいるでしょうか。
私は兵士に顛末を話して一緒に来てもらいます。
兵士たちはニヤニヤ笑いながら現場まで向かいます。
この兵士たちは職業意識が低く、他種族を見下しているので、自分に利益がないとエルフの私を捕まえようとした者など捕まえてはくれません。
だから私は、犯罪者を捕まえた時の報奨金や、犯罪者の財産から、兵士に分け前を渡す取引をしているのです。
兵士たちは男たちを縛り上げて、男たちの財産から幾ばくかの金と報奨金を私に渡して、欲望に塗れた顔で毎度ありなどと言って去っていきました。
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