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11.脱出方法
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ザックスのスキルである影魔法は文字通り、影を操ることのできるスキルだ。
ザックスの操る影には実体があり、刃のような形状にして物を切ったりすることも可能らしい。
もしかしたらレベルを上げていけば鉄も切断することができるようになるかもしれないけれど、現状鉄格子を影魔法で切断することはできない。
「あと少し間隔が広ければ人が通れそうなんだけどな」
「切断できなくても少し歪めることができれば抜けられるかもね」
しかしそれができれば苦労しない。
僕のスキルは今日はもう使えないし、ザックスのスキルでは鉄格子をどうにかすることはできない。
ここは、考え方を変えていこう。
脱獄で大切なのは柔軟な思考と決して諦めないことだ。
昔日本にも有名な脱獄王がいたそうだ。
その人は毎日毎日食事に出される味噌汁を鉄格子のナットに吹きかけ、塩分で錆びさせて外したそうだ。
「そうか、ナット」
「なっと?なんだそりゃ」
「ネジだよ。あの鉄格子はどうやって固定されているのかな」
この世界には魔法なんていうものがあるから案外侮れないけれど、さすがに溶接の技術はないんじゃないかな。
ということは鉄格子はネジかなにかで固定されている可能性が高い。
それを外すことができれば、鉄格子をどうにかしなくても枠ごと取り外すことができるかもしれない。
「なるほど、固定具のほうを外す作戦か。俺がいっちょ行って見てくるぜ。坊ちゃんはここから死んだトカゲの肉を投げて生きてるトカゲ共をけん制してくれ」
「わかった。気を付けて」
ザックスはするすると大岩を下りてトカゲが跋扈する安全エリアの外を駆けていく。
僕は言われたとおり死んだトカゲの肉を投げる。
死んだトカゲの肉は僕たちの食料にもなるし、ノーマルトカゲは共食いもするそうなので引き付ける餌にもなる。
だからザックスの影魔法で小さく切ってあらかじめ大岩の上にストックしておいたのだ。
その小さな肉塊を僕はザックスから離れた方向へと投げつけていく。
自分たちと同種の生き物の肉だというのに、ノーマルトカゲ共は群がって肉を貪った。
肉を巡って争いさえ起きている。
よほどお腹が空いているんだな。
餌とかもらってないのかな。
ああ、そういえば僕たちが餌だったな。
しばらく肉を投げていると、ザックスが戻ってきた。
「ダメだな。鉄格子が直接木枠にはめ込まれてやがる。木枠自体も太い鉄杭で岩に固定されてやがった。ありゃあ力じゃ外れねえよ」
テコの原理で杭を外すくぎ抜きのようなものが必要か。
やっぱり一筋縄ではいかない。
しかし木枠か。
少し乱暴な方法だけど手がないわけではないな。
「坊ちゃん、マジでロープ燃やすのかよ」
「燃やすものが少ないんだから仕方がないよ」
岩に撃ち込まれた鉄の杭は外す方法が思いつかなかったけれど、木でできた鉄格子の枠は燃やすことで壊すことができる。
しかし昔の鉄道の枕木のように太い木枠に直接火を着けたところですぐには燃えないだろう。
だから窪地の中に落ちてた木とか布とかロープとかを全て集めた。
僕たちよりも以前にこのトカゲの巣に落とされた人の遺品のようなものが多くて気が滅入ったけれど、その人たちの供養にもなってちょうどいい。
すべて燃やしてやろう。
僕は腋の下に貼り付けてあった収納の魔導印から火の魔道具を取り出す。
火の魔道具が収納の魔導印の中にギリギリ入る大きさで助かった。
「見えるところに魔導印が無かったから俺はてっきり使ってねえのかと思ってたぜ。そんなところに隠してやがったのか」
「反対の腋にもあるよ」
あと両足の裏にも。
当然だけど魔導印は何枚かコピーしておいた。
ここは平和な日本ではなく、異世界だ。
現在のような裸一貫で放り出されるような状況に陥ることも想定していた。
というかそんな状況しかコイン1枚っきりの収納なんて役に立たない。
それを見えるようなところに貼るような馬鹿はいないだろう。
僕は両の腋と足の裏の4か所に魔導印を貼り付け、足の裏の印には金貨を1枚ずつ、脇の下には火の魔道具と水の魔道具を入れておいたのだ。
僕は一番燃えやすそうな解したロープに魔道具で火を着ける。
枯れ枝に燃え移り、段々と炎は大きくなっていく。
大きくなった火が鉄格子の枠を舐め始めた。
ザックスが死んだトカゲの肉を投げてノーマルトカゲたちの気を引いてくれているけれど、肉には限りがある。
あまり持たないかもしれない。
焦りが心を乱すけれど、火の燃える速度なんて焦ったところで変わらない。
むしろ焦って火が消えてしまったら最悪だ。
僕は心を落ち着けて慎重に焚火を大きくしていった。
「坊ちゃん、トカゲの肉がもうねえ。俺が時間を稼ぐぜ」
「ごめん。頼む」
ついにトカゲの肉が無くなってしまった。
トカゲの興味が僕たちに向くのも時間の問題だ。
ザックスが走り回ってトカゲの興味を引いてくれているけれど、ザックスの体力にだって限りがある。
それにザックスは怪我の後遺症で足が悪い。
トカゲはそこまで素早くないけれど逃げ回るのは命がけだろう。
早く燃えてくれ。
僕の願いが通じたわけでもあるまいが、枕木のように太い木枠に火が燃え移った。
ここは雨に当たらないから乾燥しているのか木枠はあっという間に燃え盛った。
メラメラと炎が僕の肌を焼く。
キャンプファイヤーのように大きくなった火に、僕は少し後ずさる。
もう少しだ。
木枠が焼け落ちるのは時間の問題だ。
パチパチ、メキメキ、と不穏な音がしてくる。
そろそろ行けるかもしれない。
「ザックス!!」
「待ってたぜ!!」
ザックスは走るスピードを上げてトカゲを引き離し、そのままの勢いのまま鉄格子に蹴りを入れた。
炭化して脆くなっていた木枠は砕け、鉄格子が外れる。
僕たちはその隙間に潜り込み、通路の内部に向かって全力で走った。
ザックスの操る影には実体があり、刃のような形状にして物を切ったりすることも可能らしい。
もしかしたらレベルを上げていけば鉄も切断することができるようになるかもしれないけれど、現状鉄格子を影魔法で切断することはできない。
「あと少し間隔が広ければ人が通れそうなんだけどな」
「切断できなくても少し歪めることができれば抜けられるかもね」
しかしそれができれば苦労しない。
僕のスキルは今日はもう使えないし、ザックスのスキルでは鉄格子をどうにかすることはできない。
ここは、考え方を変えていこう。
脱獄で大切なのは柔軟な思考と決して諦めないことだ。
昔日本にも有名な脱獄王がいたそうだ。
その人は毎日毎日食事に出される味噌汁を鉄格子のナットに吹きかけ、塩分で錆びさせて外したそうだ。
「そうか、ナット」
「なっと?なんだそりゃ」
「ネジだよ。あの鉄格子はどうやって固定されているのかな」
この世界には魔法なんていうものがあるから案外侮れないけれど、さすがに溶接の技術はないんじゃないかな。
ということは鉄格子はネジかなにかで固定されている可能性が高い。
それを外すことができれば、鉄格子をどうにかしなくても枠ごと取り外すことができるかもしれない。
「なるほど、固定具のほうを外す作戦か。俺がいっちょ行って見てくるぜ。坊ちゃんはここから死んだトカゲの肉を投げて生きてるトカゲ共をけん制してくれ」
「わかった。気を付けて」
ザックスはするすると大岩を下りてトカゲが跋扈する安全エリアの外を駆けていく。
僕は言われたとおり死んだトカゲの肉を投げる。
死んだトカゲの肉は僕たちの食料にもなるし、ノーマルトカゲは共食いもするそうなので引き付ける餌にもなる。
だからザックスの影魔法で小さく切ってあらかじめ大岩の上にストックしておいたのだ。
その小さな肉塊を僕はザックスから離れた方向へと投げつけていく。
自分たちと同種の生き物の肉だというのに、ノーマルトカゲ共は群がって肉を貪った。
肉を巡って争いさえ起きている。
よほどお腹が空いているんだな。
餌とかもらってないのかな。
ああ、そういえば僕たちが餌だったな。
しばらく肉を投げていると、ザックスが戻ってきた。
「ダメだな。鉄格子が直接木枠にはめ込まれてやがる。木枠自体も太い鉄杭で岩に固定されてやがった。ありゃあ力じゃ外れねえよ」
テコの原理で杭を外すくぎ抜きのようなものが必要か。
やっぱり一筋縄ではいかない。
しかし木枠か。
少し乱暴な方法だけど手がないわけではないな。
「坊ちゃん、マジでロープ燃やすのかよ」
「燃やすものが少ないんだから仕方がないよ」
岩に撃ち込まれた鉄の杭は外す方法が思いつかなかったけれど、木でできた鉄格子の枠は燃やすことで壊すことができる。
しかし昔の鉄道の枕木のように太い木枠に直接火を着けたところですぐには燃えないだろう。
だから窪地の中に落ちてた木とか布とかロープとかを全て集めた。
僕たちよりも以前にこのトカゲの巣に落とされた人の遺品のようなものが多くて気が滅入ったけれど、その人たちの供養にもなってちょうどいい。
すべて燃やしてやろう。
僕は腋の下に貼り付けてあった収納の魔導印から火の魔道具を取り出す。
火の魔道具が収納の魔導印の中にギリギリ入る大きさで助かった。
「見えるところに魔導印が無かったから俺はてっきり使ってねえのかと思ってたぜ。そんなところに隠してやがったのか」
「反対の腋にもあるよ」
あと両足の裏にも。
当然だけど魔導印は何枚かコピーしておいた。
ここは平和な日本ではなく、異世界だ。
現在のような裸一貫で放り出されるような状況に陥ることも想定していた。
というかそんな状況しかコイン1枚っきりの収納なんて役に立たない。
それを見えるようなところに貼るような馬鹿はいないだろう。
僕は両の腋と足の裏の4か所に魔導印を貼り付け、足の裏の印には金貨を1枚ずつ、脇の下には火の魔道具と水の魔道具を入れておいたのだ。
僕は一番燃えやすそうな解したロープに魔道具で火を着ける。
枯れ枝に燃え移り、段々と炎は大きくなっていく。
大きくなった火が鉄格子の枠を舐め始めた。
ザックスが死んだトカゲの肉を投げてノーマルトカゲたちの気を引いてくれているけれど、肉には限りがある。
あまり持たないかもしれない。
焦りが心を乱すけれど、火の燃える速度なんて焦ったところで変わらない。
むしろ焦って火が消えてしまったら最悪だ。
僕は心を落ち着けて慎重に焚火を大きくしていった。
「坊ちゃん、トカゲの肉がもうねえ。俺が時間を稼ぐぜ」
「ごめん。頼む」
ついにトカゲの肉が無くなってしまった。
トカゲの興味が僕たちに向くのも時間の問題だ。
ザックスが走り回ってトカゲの興味を引いてくれているけれど、ザックスの体力にだって限りがある。
それにザックスは怪我の後遺症で足が悪い。
トカゲはそこまで素早くないけれど逃げ回るのは命がけだろう。
早く燃えてくれ。
僕の願いが通じたわけでもあるまいが、枕木のように太い木枠に火が燃え移った。
ここは雨に当たらないから乾燥しているのか木枠はあっという間に燃え盛った。
メラメラと炎が僕の肌を焼く。
キャンプファイヤーのように大きくなった火に、僕は少し後ずさる。
もう少しだ。
木枠が焼け落ちるのは時間の問題だ。
パチパチ、メキメキ、と不穏な音がしてくる。
そろそろ行けるかもしれない。
「ザックス!!」
「待ってたぜ!!」
ザックスは走るスピードを上げてトカゲを引き離し、そのままの勢いのまま鉄格子に蹴りを入れた。
炭化して脆くなっていた木枠は砕け、鉄格子が外れる。
僕たちはその隙間に潜り込み、通路の内部に向かって全力で走った。
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