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12.盗賊のお決まり
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「荷物はどうする。取り返すか?」
「いや、いい。逃げることだけを考えよう」
足の裏の魔導印には両足合わせて金貨2枚が収納されている。
それだけあれば裸一貫からいくらでもやり直すことが可能だ。
奪われた制服には確かに思い入れも強いけれど、命に代えても取り返したいものではない。
ザックスと僕は時折物陰に隠れながら、盗賊たちのアジトを散策する。
それにしても、大きなアジトだ。
地下にこんな大きなアジトを作るなんてこの盗賊団の規模はかなり大きなものなのだろう。
僕たちが捕まった時に囲まれた人数は4、50人ほどだっただろうか。
トカゲの数が多くてあまり人間の数が気にならなかったけれど、盗賊と言うには大規模な集団だ。
まああれだけのトカゲを使役していればこの盗賊団の仕事はほとんどただの荷物運びと餌やりになる。
命の危険もなく一方的に奪うことができるならば盗賊になりたいと思う人はたくさんいるだろう。
規模が大きくなるのも納得だ。
「まずは何か着るものを探そうぜ。股の間がブラブラして落ち着かねえぜ」
「そうだね」
ここまで真面目な場面だったからあまり意識しないようにしてきたけど、僕たち全裸だからね。
女性は胸を固定していなければ動きづらいらしいけれど、男も仕舞っておかないと動きづらいものがあるのだ。
僕もトランクス派ではなくボクサーパンツ派だからブラブラはちょっと違和感がある。
身体から離してブラブラさせておいたほうがタマの温度が下がるので精子の活動が活発になるという説もあるが、そんなものは子宝に恵まれなかったら考えればいい話だ。
僕はきっちりポジショニングしておきたいタイプなんだ。
ふんどしでもなんでもあったら履いてやる。
「お、手斧があるぜ。こいつはもらっておくか」
最初に入った部屋はどうやら薪置き場だったようで、大量の薪と割られる前の丸太などが置いてあった。
当然薪を割るための手斧も置いてあり、ザックスの武器となった。
ザックスは短剣が一番得意ではあるけれど、器用なのでどんな武器でもある程度使いこなすことができる。
着る物はなかったけど切る物はあった、なんちて。
僕が少し自己嫌悪に陥っているうちにザックスは部屋の散策を終わらせて次の部屋へ向かってしまった。
置いていかないでくれ。
少し遅れて僕も次の部屋に向かった。
「お、ロープだぜ。かなり長い。こっちの鎌に結び付ければあの崖を登れるかもしれねえ」
次の部屋は少し雑多な印象を受ける部屋だった。
多くのものが置いてあり、奥行きが深い。
部屋というよりも通路に物を置いているという感じだ。
しかしここには使えそうなものがたくさんある。
ザックスが言うようにロープと鎌の組み合わせはトカゲの巣を抜け出せる可能性がある。
このアジトの中で僕たちが見つけなきゃいけないのは地上に出られる出入口ではない。
トカゲの巣に戻ってあの崖を登ることのできる道具だ。
アジトの中の道筋を知らない僕たちでは出入り口を見つけるのに時間がかかるだろうし、出入り口はおそらく警備が厳重だろうからね。
道具を見つけてきた道を戻った方が早いし確実だ。
「どうする、このまま裸で逃げ出してもいいが」
「この部屋だけ探して着るものがなかったら裸のまま逃げよう」
「了解」
願わくば服があってほしい。
金貨があればやり直せるとはいっても裸ではきっとどこの街にも入れてもらえないだろう。
街の外で誰かに売ってもらえればいいけれど、変態かと思われて剣を向けられる可能性が高い。
できればここで変態に思われない程度の服が手に入ればいいのだけれど。
僕とザックスは無言で着る物を探す。
しかし入口のほうにはないようで、どんどん部屋の奥に入っていく。
するとなんだか変な匂いがしてくる。
良く言えば牧場のような匂い。
悪く言えば豚小屋のような匂いだ。
僕とザックスは嫌な予感がして顔を見合わせる。
「な、なあ坊ちゃん。これってもしかしてよ」
「まあ盗賊だものね。あれだよね」
盗賊たちは僕とザックスを捕らえたときに男だけであることを残念がっていた。
それが何を示すのか、僕はあまり考えないようにしてきたのだ。
しかし、現実として盗賊というのは捕まえた人間が女だったらどうするものなのか。
そんなものは古今東西決まっている。
僕とザックスは諦めて部屋の最奥に足を踏み入れた。
「おい、坊ちゃん。どうするんだ。俺たちだってギリギリの状況だぜ」
最奥には薄汚れた裸の女性たちが捕まっていたのだった。
ラノベの主人公だったら激怒して盗賊たちをボコボコにしてしまいそうな光景だ。
僕も少しショックを受けた。
しかし僕には盗賊たちをボコボコにする力はない。
自分たちが生き延びることもできるかどうかの瀬戸際なのだ。
きっと効率厨のザックスは見捨てろと暗に言っているのだろう。
参ったな、こんなことなら服なんて早々に諦めてさっさと全裸で脱出しておくんだった。
見なければ知らずに済んだのに。
見てしまったせいで、僕の心に葛藤が生まれてしまった。
このまま見捨てれば僕たちは無事にこのアジトを脱出できる可能性が高まる。
しかし盗賊のアジトで捕まっていた可哀そうな女性たちを見捨てた男として生きていかなければならない。
人を見捨てて生きるというのは思った以上に人の心を腐らせる。
僕は一度実の母親を見捨てているからよくわかる。
あれだけ迷惑をかけられた母親でもそうだったのだ。
無関係の見るからに不幸そうな女性たちを見捨てれば僕の今後にかなりの影響を及ぼすことだろう。
「助けよう」
「仕方ねえな」
「悪いね」
短い付き合いだけどザックスは僕がこう答えることをわかっていたようだ。
まあ全裸では恰好がつかないけどね。
「いや、いい。逃げることだけを考えよう」
足の裏の魔導印には両足合わせて金貨2枚が収納されている。
それだけあれば裸一貫からいくらでもやり直すことが可能だ。
奪われた制服には確かに思い入れも強いけれど、命に代えても取り返したいものではない。
ザックスと僕は時折物陰に隠れながら、盗賊たちのアジトを散策する。
それにしても、大きなアジトだ。
地下にこんな大きなアジトを作るなんてこの盗賊団の規模はかなり大きなものなのだろう。
僕たちが捕まった時に囲まれた人数は4、50人ほどだっただろうか。
トカゲの数が多くてあまり人間の数が気にならなかったけれど、盗賊と言うには大規模な集団だ。
まああれだけのトカゲを使役していればこの盗賊団の仕事はほとんどただの荷物運びと餌やりになる。
命の危険もなく一方的に奪うことができるならば盗賊になりたいと思う人はたくさんいるだろう。
規模が大きくなるのも納得だ。
「まずは何か着るものを探そうぜ。股の間がブラブラして落ち着かねえぜ」
「そうだね」
ここまで真面目な場面だったからあまり意識しないようにしてきたけど、僕たち全裸だからね。
女性は胸を固定していなければ動きづらいらしいけれど、男も仕舞っておかないと動きづらいものがあるのだ。
僕もトランクス派ではなくボクサーパンツ派だからブラブラはちょっと違和感がある。
身体から離してブラブラさせておいたほうがタマの温度が下がるので精子の活動が活発になるという説もあるが、そんなものは子宝に恵まれなかったら考えればいい話だ。
僕はきっちりポジショニングしておきたいタイプなんだ。
ふんどしでもなんでもあったら履いてやる。
「お、手斧があるぜ。こいつはもらっておくか」
最初に入った部屋はどうやら薪置き場だったようで、大量の薪と割られる前の丸太などが置いてあった。
当然薪を割るための手斧も置いてあり、ザックスの武器となった。
ザックスは短剣が一番得意ではあるけれど、器用なのでどんな武器でもある程度使いこなすことができる。
着る物はなかったけど切る物はあった、なんちて。
僕が少し自己嫌悪に陥っているうちにザックスは部屋の散策を終わらせて次の部屋へ向かってしまった。
置いていかないでくれ。
少し遅れて僕も次の部屋に向かった。
「お、ロープだぜ。かなり長い。こっちの鎌に結び付ければあの崖を登れるかもしれねえ」
次の部屋は少し雑多な印象を受ける部屋だった。
多くのものが置いてあり、奥行きが深い。
部屋というよりも通路に物を置いているという感じだ。
しかしここには使えそうなものがたくさんある。
ザックスが言うようにロープと鎌の組み合わせはトカゲの巣を抜け出せる可能性がある。
このアジトの中で僕たちが見つけなきゃいけないのは地上に出られる出入口ではない。
トカゲの巣に戻ってあの崖を登ることのできる道具だ。
アジトの中の道筋を知らない僕たちでは出入り口を見つけるのに時間がかかるだろうし、出入り口はおそらく警備が厳重だろうからね。
道具を見つけてきた道を戻った方が早いし確実だ。
「どうする、このまま裸で逃げ出してもいいが」
「この部屋だけ探して着るものがなかったら裸のまま逃げよう」
「了解」
願わくば服があってほしい。
金貨があればやり直せるとはいっても裸ではきっとどこの街にも入れてもらえないだろう。
街の外で誰かに売ってもらえればいいけれど、変態かと思われて剣を向けられる可能性が高い。
できればここで変態に思われない程度の服が手に入ればいいのだけれど。
僕とザックスは無言で着る物を探す。
しかし入口のほうにはないようで、どんどん部屋の奥に入っていく。
するとなんだか変な匂いがしてくる。
良く言えば牧場のような匂い。
悪く言えば豚小屋のような匂いだ。
僕とザックスは嫌な予感がして顔を見合わせる。
「な、なあ坊ちゃん。これってもしかしてよ」
「まあ盗賊だものね。あれだよね」
盗賊たちは僕とザックスを捕らえたときに男だけであることを残念がっていた。
それが何を示すのか、僕はあまり考えないようにしてきたのだ。
しかし、現実として盗賊というのは捕まえた人間が女だったらどうするものなのか。
そんなものは古今東西決まっている。
僕とザックスは諦めて部屋の最奥に足を踏み入れた。
「おい、坊ちゃん。どうするんだ。俺たちだってギリギリの状況だぜ」
最奥には薄汚れた裸の女性たちが捕まっていたのだった。
ラノベの主人公だったら激怒して盗賊たちをボコボコにしてしまいそうな光景だ。
僕も少しショックを受けた。
しかし僕には盗賊たちをボコボコにする力はない。
自分たちが生き延びることもできるかどうかの瀬戸際なのだ。
きっと効率厨のザックスは見捨てろと暗に言っているのだろう。
参ったな、こんなことなら服なんて早々に諦めてさっさと全裸で脱出しておくんだった。
見なければ知らずに済んだのに。
見てしまったせいで、僕の心に葛藤が生まれてしまった。
このまま見捨てれば僕たちは無事にこのアジトを脱出できる可能性が高まる。
しかし盗賊のアジトで捕まっていた可哀そうな女性たちを見捨てた男として生きていかなければならない。
人を見捨てて生きるというのは思った以上に人の心を腐らせる。
僕は一度実の母親を見捨てているからよくわかる。
あれだけ迷惑をかけられた母親でもそうだったのだ。
無関係の見るからに不幸そうな女性たちを見捨てれば僕の今後にかなりの影響を及ぼすことだろう。
「助けよう」
「仕方ねえな」
「悪いね」
短い付き合いだけどザックスは僕がこう答えることをわかっていたようだ。
まあ全裸では恰好がつかないけどね。
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