スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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28.1階層と役割

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 街の中心部に位置するダンジョンの入り口、そこには朝から行列ができていた。
 早朝だというのにすごい人だかりだ。
 一攫千金を求めてやってきた人たちが朝早くから列に並んで毎日毎日勤勉にダンジョンに挑むというのもなかなかに矛盾した話だ。
 麻雀漫画の名言で、怠惰を求めて勤勉に行きつくというのがあったけれどあれに近いものを感じる。
 麻雀の玄人ばいにんと冒険者は違う気もするけれど、大金を稼いで余生を遊んで暮らそうという点では似ている。
 僕もあの漫画を読んでからずいぶんとサイコロの練習をしたものだ。
 この人たちも毎日剣や槍を振るって練習し、ダンジョンに挑んでいるんだろうな。
 そう考えるとなんだかかっこいいような気もしてきた。
 ザックスからダンジョンに入ったときの注意点などを聞いているうちに僕たちの番になる。

「ギルド証を」

「はい」

 ダンジョンの前には冒険者ギルドの出張所があり、入出管理をしている。
 ダンジョンの管理は冒険者ギルドが領主から委託されて行っているのでダンジョンには冒険者でなければ入ることはできないのだ。
 そのために全員すでに冒険者登録を済ませている。
 みんな奴隷なので元冒険者の人でも最低ランクであるFランクからのスタートだ。
 ここ1か月ほどですでにDランクに上がっていたザックス以外はみんなピカピカのFランクタグを見せ、ゲートを潜る。

「これが転移門だ。まずは入口のこいつに触れて登録しておかないと、階層を下っても転移できねえ」

「へぇ」

 石造りの遺跡のような建物の階段を下りると、そこは30畳ほどの広場になっていた。
 奥には更に下に降りる階段と、真っ黒な石でできた門のようなものがあった。
 門の横には石碑のようなものがあり、ザックスはそれを転移門の登録をするためのものだと説明する。
 転移門は人間側のルールの通じないダンジョン側のシステムなので奴隷になってもリセットされることはない。
 そのために元冒険者組は登録する必要がなく、僕たち初挑戦組だけが黒い石碑に触れて登録をする。
 石は新たに人が触れるたびにぼうっと光った。
 これに触れた人すべての情報を蓄えているのだとしたら人知を超えたシステムだ。
 さすがは異世界。
 
「さて、全員転移門登録が終わったところで行くか」

 いよいよダンジョンに足を踏み入れることとなる。
 転移門は複数人を同時に転移させることはできないようで、ザックスたちに行ったことのある階層まで連れて行ってもらってその階層を登録するというズルはできない。
 全員で1階層から攻略だ。
 1階層はおなじみのゴブリンが出てくる。
 あいつらにはアリシアたちと一緒に寄って集ってではあるけれど勝ったことがあるので大丈夫だろう。
 
「レン様、ゴブリンだからと侮らないほうがいいですよ。ダンジョンのモンスターは人間の女に興味を抱かない代わりに知能が少し高いんですよ。罠などを利用した嫌らしい攻撃をしてくる時もあります」

 楽観的に構える僕に、レベッカが注意を促す。
 どうやらダンジョンのゴブリンは外で出るゴブリンとは別物と言っても過言ではない存在のようだ。
 ラノベとかだとダンジョンにはダンジョンマスター的な奴がいるものだ。
 そいつがダンジョンの中を差配していて、ゴブリンもそいつの命令を受けて賢かったりする。
 この世界のダンジョンはどうなのだろうか。
 ラノベの設定だとダンジョンコアを破壊されるとダンジョンマスターも死ぬっていうのが多いからこのダンジョンにはダンマスはいないのかな。
 でもダンジョンに出るゴブリンが賢いのは事実のようだし、ゴブリンを支配するなんらかのシステムがあることは間違いないだろう。
 ダンジョンの中のモンスターはリポップすることからも、外のモンスターとは全く別の存在であることがわかる。
 高度なAIの入った有機ロボットみたいなものなのかもしれない。
 魔法世界のAI搭載ロボットは恐ろしいな。
 僕は先ほどまでの楽観的な思考を捨て、初めて対峙するモンスターを相手にするつもりで臨むことにする。

「フォーメーションは適材適所で行こう。俺が先頭を歩いて罠と敵を警戒する。モンスターが現れたら俺とスコットが注意を引くからレベッカとモニカが仕留めろ。後ろに逃れた敵がいた場合はザイードが敵を止め、ドミニクが仕留める。余裕があったら坊ちゃんにも攻撃する機会を作る。異論や質問はあるか?」

 モンスターを相手にするときは基本的にタンクとアタッカーの組み合わせで戦うのがやりやすいとされている。
 ザックスは敵の攻撃を避けて隙を作る回避系タンク、スコットは盾と片手斧を装備した典型的なタンク、レベッカは槍装備のアタッカー、モニカは両手斧装備のアタッカー、ザイードは重装備に盾持ちなのでバリバリのタンク、ドミニクはメイス装備のアタッカー。
 タンクとアタッカーの組み合わせが3組できる。
 僕の護衛のために後衛に1組を置いたとしても、2組でモンスターを相手にすることができる。
 ここにそれぞれのスキルの力も入るのだから、非常に隙の少ないフォーメーションと言えるだろう。
 異論や質問を挟む人はおらず、そのフォーメーションが採用されることとなった。
 どういう原理かわからないけれど意外に明るいダンジョンの中を、ザックスを先頭にして進む。

「お、運がいいな。いきなり宝箱の気配がするぜ」

「え、もう?」

「ああ。坊ちゃん、こっちの通路を見てみな」

 ザックスが指さす通路の方を見ると、そこは他の通路と違い灯りが全く無い暗闇だ。
 ダンジョンの壁は転移門と同じような真っ黒な石材なので、注意して見ていないと見逃してしまいそうになるような通路だ。
 この通路に宝箱があるのだろうか。


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