スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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29.モンスター部屋

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「ま、真っ暗な通路ってモンスター部屋の兆候じゃないっすか?」

「そうだ。モンスター部屋は危険も大きいが旨味もでかい」

 モンスター部屋、なんだか危険な匂いのする言葉だ。
 もしかしたらダンジョンの罠によくあるモンスターハウスというやつなのではないだろうか。
 部屋に入ると扉が閉まって閉じ込められ、中に大量のモンスターがポップするという。

「知らない奴もいると思うから説明すると、モンスター部屋というのは中のモンスターを殲滅するまで出られなくなる部屋のことだ。部屋に出るモンスターは3階層下のモンスターなので普通ならとても危険な罠の一種だな。だがここは1階層だ。3階層下のモンスターはゴブリンの上位種かコボルトの上位種。最悪俺一人でも殲滅は可能だ」

 僕という足手まといがいるけれども他のメンバーはある程度戦える。
 ザックス一人の状況よりも戦力が低いということはないだろう。
 ならばザックス一人で殲滅が可能だったモンスター部屋に挑んでも問題はないか。
 
「モンスター部屋には必ず宝箱がある。それも3階層下のものがな。大量に出る3階層下のモンスターを殲滅することができる実力さえあれば美味しい宝箱部屋なんだよ」

 モンスターや罠が階層を下るごとに強力になっていくように、宝箱もまた中身がグレードアップしていくものらしい。
 1階層の3階層下といえば4階層だ。
 1階層のものよりも良いアイテムが出るに違いない。

「ザックスが可能だと判断したのならば僕は異論はないよ」

「俺たちはモンスターを殲滅できる自信がないっす」

「レン様を守るくらいしかできないんじゃないかな」

「それで充分だ。坊ちゃんを守りながら少しでもモンスターを倒してくれれば俺の負担も軽くなる」

 ザックス以外の全員で僕を囲んで守り、ザックスがモンスターをどんどん倒していくという作戦で行くこととなった。
 作戦というか全部ザックス任せなんだけど。
 みんなで少しでもモンスターを倒せば精霊力が上がるので無駄ではないさ。
 宝箱から出るマジックアイテムで戦力を強化できる可能性もある。
 僕たちはそのままザックスを先頭に暗闇に包まれた通路に突入した。
 ザックスは服の下から招き猫型収納魔道具を取り出し、中から灯りの魔道具を出す。
 つまみを捻ると眩い光が出る攻撃用の灯りの魔道具と違ってぼんやりとした弱い光が灯る。
 あまり強い光だと濃い影ができてしまったり目が眩んでしまったりして逆に危ないのだそうだ。
 オイルランタンのようなぼんやりとした優しい光が通路を照らし出す。
 通路は20メートルほど続いており、その先には金属製の重そうな扉があった。

「罠を調べる、少し待て」

「了解」

 ザックスは灯りを扉に近づけて念入りに罠を調べる。
 ダンジョンというのは油断できない場所で、たまにイレギュラーな罠があったりするそうなのだ。
 そのため暗闇に包まれた通路があったらモンスター部屋だと信じ切って進むと別の罠があって痛い目を見たりする。
 すべてを疑うくらいの慎重さがなければあっという間に死んでしまう世界なのだ。
 
「よし、開けるぜ。中に入ったら扉を背にして坊ちゃんを囲んで半円形の陣を組んで戦う」

「「「はい」」」

 みんなの雰囲気がガラッと変わって真剣な表情になる。
 これが戦いの雰囲気ってやつか。
 ピリピリしていて少し怖いな。
 僕も一応腰にぶら下げている短剣の柄を確認する。
 いざという時にうまく抜けないと死んでしまうかもしれないからね。
 盗賊に奪われてしまった前の短剣の代わりにこの街で買った業物の短剣だ。
 素人の僕にはもったいない品かもしれないけれど、これはいつか怪我が治ったときにザックスが使う武器だ。
 それまでは大切に使わなくてはいけない。
 ザックスがたまに訓練するとか言い出して面倒だけどね。
 何度か訓練したけれど、やっぱり僕にバトルは向いていないみたいだ。
 みんなに守られて大人しくしておこう。
 ザックスが重そうな金属の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開ける。
 ギギギと油を差していない古い扉の音がして部屋の中が明らかになっていく。
 四方の長さは20メートルくらいだろうか。
 正方形で天井の高い部屋だ。
 真ん中には大きな宝箱が置かれている。
 見るからに馬鹿な冒険者をおびき寄せる餌といった様相だ。
 あれに飛びついて部屋に入ったら最後、ポップした大量のモンスターを全て倒すまでは部屋から出られなくなると。

「地面には一応注意を払っておいてくれ。宝箱の前に落とし穴があるパターンも過去に経験がある」

 モンスターが大量に湧いて更に落とし穴まであるなんて最低だ。
 戦っている最中に落とし穴になんか気が付けないよね。
 僕は思わず足元を見てしまう。
 先頭を歩いているわけでもない僕が落とし穴に落ちるはずもないけれど、なんだか足元が落ち着かなくなった。

「出るぞ」

 全員が部屋に入ると扉が大きな音を立てて勢いよく閉まり、モンスターがポップする。
 光の粒が集まり、モンスターを形作っていく。
 不謹慎だけど少し綺麗だと思ってしまった。
 光の粒はどんどん増え、ついには肉体が具現化する。

「「「グギャギャ!!」」」

 ゴブリンだ。
 それも普通のゴブリンではない。
 少し身体が大きく、金属製の武器と防具を装備している。
 これがゴブリンの上位種というやつか。
 身動きが取れないほどの密度だ。
 これほどの数のモンスターを見たのは盗賊が使役するトカゲ以来だ。


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