スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉

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48.Sランク冒険者たち2

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「くくくっ、なかなか笑える冗談じゃないか若造。だが帰るのは貴様らの方だ。顔だけの小僧は帰って女の乳でも吸ってな」

 背中がぞぞっとするくらいに聞き心地のいいダンディーボイスを響かせ、挑発を返したのは黒骨のカランだ。
 その二つ名には似合わない、イタリアのマフィアみたいな恰好をしている。
 仕立てのいいスーツに中折れのハット、ピカピカの靴と金の指輪。
 当然口には葉巻を咥えている。
 どこぞのイケメン不良とは違い、恰好と顔が完璧にマッチしている。
 このあたりでは珍しい黒髪を整髪料できっちり整え、口ひげを生やした大人ダンディがそこにいた。
 
「おいお前たち、やめないか。今回は協力して事にあたってくれると約束しただろうが」

「ふんっ、下手な連携ならしないほうがマシだろ」

「同感だ」

 副ギルド長ギドが止めるも、場の雰囲気は完全に各自でドラゴンに挑む方向に進んでしまっている。
 皆Sランク冒険者としての自負を持っているために我が強い。
 これはもう協力は無理だろう。

「私も、独力でやらせてもらいたい。元より私は一人でやるつもりだったがな」

「ハザン、まあ貴様は仕方がないか」

 他のSランク冒険者たちが独力で事にあたるという主張をし始めると、千刃のハザンまでもが一人でやると言い出した。
 ハザンは褐色の肌に銀髪という漫画の主人公のような容姿をしている。
 目なんか赤色である。
 これは主人公。
 背中に4本、腰の後ろに2本、太ももに2本、腰の横に2本、両脇の下あたりに2本の計12本の短剣をぶら下げている。
 すごく座りにくそう。
 おそらくたくさんの短剣を使うから千刃のハザンと呼ばれていると思われる。
 千はちょっと言い過ぎだよね。
 本当は12なのに。
 この人は最初から一人でやるつもりだったようだ。
 なんでここに来たんだろう。
 勝手にやればいいのに。
 千刃のハザンはSランク冒険者たちの中でも少し特殊だ。
 クラン【名無し】を率いているということになっているけれど、名無しには戦えるメンバーがハザン一人しかいないのだ。
 他は主にサポートメンバーである。
 つまりハザンのクランはハザン一人だけの力でSランクを名乗っているということになる。
 ナリキン氏や僕のクランとは逆ということだね。
 少し自信過剰になってしまっても仕方がないことだろう。
 その実績もあり、副ギルド長も強くは言えないようだ。

「ナリキンさん、僕らはどうしようか」

「他の連中が独力でやると言っておるのだから、私達も独力でやるしかあるまい。まあ大方こうなるだろうことは予想できた。それゆえお前を連れてきたのだ。さすがにドラゴンを相手にするには私のクランだけでは少し危険だからな」

 ナリキン氏はこうなるであろうことを予想できていたのか。
 他のSランククランとの付き合いが長いだけある。
 でもそうならもっと早く言って欲しかった。
 僕はてっきりSランク全員で総当たりする美味しいレイドボス戦かと思って遠足気分で来たのだ。
 正直色々とフラグを立ててくれた人もいたので不安もあったのだけれど、基本的にはSランククランが4組もいれば大きな問題はないと思っていた。
 それが蓋を開けてみればみんな点々バラバラでドラゴンに挑みましょうという話になってしまっている。
 詐欺だと叫びだしたい気分だ。
 しかしあながち悪いことだけでもない。
 なにせ一度にドラゴンに挑む人数が減るのだ。
 倒すことに成功した人たちの経験値の分け前は多くなる。
 他の冒険者たちもそれが分かっているようで、もはや会議は会議の体を成していなかった。
 副ギルド長のギドが必死に纏めようとするも、大会議室からは一人また一人と冒険者がいなくなっていった。

「はぁ、毎回ながらなんでこうなるんだよ。こりゃあ死人が出るな」

 冒険者ギルドの副ギルド長という仕事もなかなか大変そうな役職だ。
 きっと上司と冒険者の板挟みになることも多いのだろう。
 世界が違えど、中間管理職というのは苦労が絶えないものだな。
 ギドの光るスキンヘッドが、その苦労を物語っているようだった。





「なにをしておる。早くダンジョンに行くぞ」

「いやいや、準備はちゃんとしていかないと」

 僕たちは各自一度自宅に戻り、ダンジョンの前で待ち合わせをすることにした。
 しかし僕たちが準備をしていると屋敷に装備を整えたナリキン氏たちが迎えに来たのだった。
 急ぎすぎだよ。
 ナリキン氏はおおかたこのドラゴン討伐戦が早いもの勝ちだと思っているのだろうけれど、僕は違うと思っている。
 あれだけみんな好き勝手にフラグを建造しまくったのだ。
 ドラゴンが普通のアースドラゴンであるわけがない。
 きっとアースドラゴンの上位種か何かだろう。
 そうであるならば、事を急いた人から死んでいくだろう。
 まず最初に烈風のシドあたりが挑んで死ぬのではないだろうか。
 あの人めちゃくちゃ死亡フラグの匂いがするから。
 そして次に黒骨のカランだ。
 大体こういうのは名前が出てきた順に死ぬと決まっている。
 最後に千刃のハザンがいいところまで追いつめて、ドラゴンは第二形態へと変身してハザンは死ぬ。
 僕の予想だとこうだ。

「僕たちが行くのは第二形態になってからでも遅くない」

「坊ちゃんが何を言っているのかわからん。第二形態ってなんだよ。ドラゴンは変身なんかしねえ」

 ドラゴンは変身しないらしい。
 準備を急ごう。

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