俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

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1.彩叶学園ーさいきょうがくえん

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 父は言う。

「要、来年から彩叶学園に通いなさい」

 静かな書斎に父のバリトンボイスが小さく響いた。

 私立彩叶さいきょう学園。
 旧財閥系企業グループ、真四角グループの系列企業やその協賛企業の出資によって運営される金持ち達の金持ち達による金持ちの子供のための学園だ。
 一般家庭の子供も通えないことはないが、将来確実に金持ち達の得になるということを証明するために、高い将来性を示す必要がある。
 だが入学することができれば、最高の環境で学ぶことができるうえに、金持ちの子息や令嬢との人脈を築くこともできるかもしれない。
 高い受験料を払ってでも、1度くらいは自分の子供に入学試験を受けさせてみる価値はあるだろう。
 そんな彩叶学園だが、俺四宮しのみやかなめは中学3年の今まで入学を断っていた。
 俺の父である四宮平蔵は、彩叶学園にそれなりの額を出資しているそれなりに大きな企業、四宮ホールディングスの社長だ。
 だからなのかわからないが、父は俺を彩叶学園に入れたいらしい。
 すでに2人の兄は彩叶学園を卒業しており、1人の姉は今年高等部を卒業する。
 あとは末っ子の俺だけというわけだ。
 だがしかし、俺はそんな金持ちばかりが通っている学園なんかに通いたくは無い。
 どうせ親の金と権力を傘に着た嫌味なバカボンボンばかりなんだろう。
 4兄妹の末っ子である俺は、あまり父の仕事関係の付き合いの場などに連れて行かれたことがない。
 金持ち同士の人付き合いというものに免疫がないのだ。
 当然その子供とも面識がない。
 俺の中の金持ちの子供像というものが一人歩きしている。
 小さい頃、1度だけ行った事のある父の仕事関係のパーティーでは、何もかもが華やかでキラキラしていた。
 しかし雰囲気に圧倒されてそのときのことをほとんどなにも憶えていない。
 要するにビビっているのだ。
 あんなキラキラした世界で生きていくことはきっと自分にはできない。
 幼いながらそう思った俺は、父に頼んで金持ちが行かなさそうな少しランクの落ちる私立学校に入学させてもらった。
 やがて成長し論理的思考ができるようになってからは、四宮家の子息である俺が将来大人になったときどうやって金持ち達と人付き合いせずに生きていけるかを考えた。
 生活レベルを落とし小銭を拾うように生きていけば、金持ち達とは全く交わることのない世界で生きていけるだろう。
 だけど四宮家の子息がそんな生活をしているなんて知れれば、父の顔に泥を塗ることになるだろう。
 それは俺の本意ではないし、俺だって金持ちの子息生活から一気に底辺生活へ落ちるのはきっと無理だ。
 一度高い生活レベルを経験した者が、生活レベルを落とすのは非常に難しいのだ。
 具体的には高いお肉などを食べられない生活は無理。
 なんてことはない、俺も金持ちのお坊ちゃんだったってことだ。
 だから俺は考えた。
 金持ちと、いや、できれば誰とも人付き合いせずにお金をいっぱい稼げる方法を。
 そして俺は一つの結論に行き着いた。
 それは個人投資家という職業だ。
 はっきり言って職業と言っていいのかは微妙なところだ。
 だがしかし、無職と資産家の違いはたくさんお金を持っていることだけなのだ。
 つまり無職と個人投資家の違いはお金をどれだけ稼げているかということだけなのではないだろうか。
 もし四宮家の末っ子が個人投資家だったとして、それが全く稼げていなかったら家の恥になるが、たくさんお金を稼げていたらそれほど外聞も悪くないのではないだろうか。
 これはいけると思った俺は、個人投資家になって誰とも人付き合いせずに生きていきたいことを父に告げた。
 父はバカな子を見るような顔で5万円のおこずかいをくれた。
 こずかいあげるから諦めろということか!!
 憤慨した俺はいちばん上の兄に泣きつき、本当はいけないことなのだが兄の名前で証券会社の口座を開設させてほしいことを告げた。
 兄はバカな子を見るような顔で5万円と証券会社の口座をくれた。
 むきぃぃぃ!!
 カッとなった俺はもらった10万円を元手に、その日から相場の鬼となった。
 我が心、慷慨憤激こうがいふんげきそしてこのクリックも烈火のごとく!!
 5万溶かした。
 思考だけは冷静に保たないといけないことを学んだ俺は、少しずつだが資金を増やしていった。
 株、為替、オプション、なんでもやった。
 毎日何社もの新聞を読んで、投資関連の本もたくさん読んだ。
 そして中学3年の夏、このままいけば大学卒業までにそれなりの資産を築けることを確信した俺は父に彩叶学園に行けと告げられたのだった。

「な、なんで?このまま今の学校の高等部に進めばいいと思うんだけど…」

「父さんな、お前には投資の才能があると思うんだよ。小学生のときにお前が人付き合いがしたくないから投資家になりたいと言ったときは笑ったがな。すぐに金を溶かして諦めると思ったよ。だがお前は金を溶かすどころか元手の10万円から500万円にまで増やした。50倍だ。まだ高校にも上がっていない子供がだ。間違いなくお前には投資の才能があるよ」

 照れますな。
 四宮家の末っ子として家族や使用人から甘やかされてちやほやされている俺だが、この家の人間はちやほやはしても無闇に俺を褒めることはない。
 褒めるのは褒められるべきことをしたときだけ、というのがこの家の教育方針であり、家族から使用人まで徹底されている。
 だからこそ、褒められたときの嬉しさは一入ひとしおだ。
 うれション出そう。
 だけれども、それとこれとは話が別だ。

「彩叶学園に行かなくても投資家にはなれるよ?」

「才能は最大限に有効活用するべきだ。なあ要、お前は人付き合いを嫌がるが、いざとなったとき助けてくれるのは人脈だぞ?」

「そ、それは、わかるけど、自分を窮地に追い込むのもまた人の思惑であって…」

「はぁ、お前は小さい頃から変わらないな。だが父さんも本気だ。お前が彩叶学園に行かないのなら、お前の資産を凍結する」

 なん、だと…。
 こうして俺は強制的に彩叶学園に通うことになった。

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