俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

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9.前途多難な学園生活

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 入学して1週間。
 この期間が友達を作る上でもっとも重要だ。
 新たな環境、まっさらな人間関係のなか、今後の友好関係を形作る第一歩が大事なのだ。
 
「あのさ…」

「ごめんなさい!!」

「俺と友達に…」

「許してください!!」

「へぇ、ゲームとかやるんだ、俺も…」

「これ、差し上げます!!」

 どないしよか。
 もっとも重要な1歩を踏み出そうとするとすごい勢いで足をへし折られる。
 クラスメイト俺のことメッチャ避けとる。
 
「しょうがないって、そのうちみんな分かってくれるよ。俺はお前がすげぇいい奴だって知ってるからさ!」

 中村がナイスガイな笑顔でそう言って俺の背中をポンポンと叩く。
 そしてクラスメイトがひっと短く悲鳴をあげた。
 中村勇者だと思われてるな。
 そして俺は魔王だと思われてる。
 魔王はメイドのお父さんです。
 
「ま、気長にクラスメイトの印象を変えていくか」

「そうだな」

 中村が気楽に話しかける姿を見て、少しでもクラスメイトの誤解が解けるといいのだけど。
 休み時間の友達作りは失敗に終わり、リンゴーンという無駄に豪華な鐘の音が授業の始まりを告げる。

「はい席についてー」

 次の授業は鈴木先生が担当の英語の授業だ。
 ジャージ姿の鈴木先生が教室に入ってくる。
 こんな金持ち学校の教師でも授業中はジャージなんだな。
 最初の授業だからといってなにか特別なことをするわけでもなく、鈴木先生は教科書どおり授業を進め始めた。
 最初はなにか、もっとあるだろ。
 英語で自己紹介とか、お友達を作るための一助になるような感じの何かが。
 さてはこの先生、頭はいいかもしれないけれど人の気持ちが分からないタイプか?
 そんなことを考えていたら当てられてしまった。
 だが残念ながら俺は中学3年の時点でネイティブレベルだ。
 TOEIC900点オーバーだ。
 教科書の最初に載っているような短い英文を訳すのなんて日本人に道路工事の看板を読めるか聞いているようなもの。
 漢字読めないやつは頑張れ。
 俺がすぐに答えると鈴木先生は満足そうに頷き、クラスメイトは少しざわつく。
 お勉強できそうに見えませんでしたかね?
 残念ながらお勉強は得意です。
 この学園は初等部から英語教育がなされる。
 ゆえにこの教室にいる中等部からのエスカレーター組はそれなりに英語ができるはずだ。
 だが、高等部から外部入学の俺がそんなに英語ができるとは思わなかったのかもしれない。
 俺はちょっとでも魔王に対する恐怖が勉強できる奴への尊敬みたいなものになればいいと思い、授業に集中した。
 英語はおさらいみたいなものだけどね。
 英語できないと英字新聞も海外のネットニュースも理解できないからね。
 朗らかに授業は進む。
 俺の周り以外。





 4限の授業を終えると昼休みだ。
 俺は中村と雪村と昼食を食べる約束をしていたので学食に向かう。
 この学園での昼食の選択肢は多岐にわたる。
 普通の学食から高級レストランまで様々なテナントが入っている。
 この学園は多種多様な企業からの出資によって運営されている。
 当然出資してくれた企業には多少なりとも利益を分配しないといけないわけだ。
 その結果がこの至れり尽くせりの学園生活だ。
 この学園に通っている生徒のほとんどは、大なり小なり金持ちの子供だ。
 親が子供に与える小遣いでさえ馬鹿にならない金額になる。
 それを学園内の関係企業出店のテナントでどんどん消費していただこうと、こういった様相になっていった訳だ。
 まあ俺達は一般家庭出身の中村に合わせて普通の学食に行くけど。
 高級レストランとか篠原がいそうで怖いわ。
 雪村はこういう雰囲気にあまり慣れていないのではないかと思ったが、意外にも庶民的な学食にうまく適応しているようで、今は中村と仲良く注文の列にならんでいる。
 俺はメイドの作った弁当なので、先に水を持って席を取っておく。
 取っておくほど生徒もいないんだけどね。
 昼食の選択肢が多いこの学園では、生徒はいろんな店に分散している。
 この一番庶民的な学食を選ぶのは一般家庭出身者か、変わり者だけだ。
 1学年の生徒数が600人くらい、全校生徒が単純に考えて1800人くらい、一般家庭出身者は総生徒数の5%程度だから、大体90人くらいが一般家庭出身ということになる。
 その全員がここにいるわけじゃないから、多めに用意された席はたくさん余っている。
 俺は周りに誰も座っていない場所を選んで陣取る。
 俺は高等部からの入学なので入学式でのこと以外はそれほど目立たつ要素はないが、雪村はバリバリの真四角御三家の子息だ。
 周りに無意識に威圧感を与えてしまうかもしれない。
 そう考えた俺は、周りに誰もいない場所を選んだのだ。
 周りに人がいないと気が楽ということもあるけどな。
 食事は落ち着いた場所で取りたいものだ。
 俺はメイドの作ってくれた弁当の風呂敷を解いて、2人を待った。

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