俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

文字の大きさ
12 / 24

12.御三家のカリスマ

しおりを挟む
 運動部はもういいや。
 どいつもこいつもボールころころしやがって。
 俺もボールころころされたいわ。

『坊ちゃまのボールに私以外がころころすると死ぬ呪いをかけました』

 メイドがやりやがった。
 いつかやると思ってました。

『カッとなってやった。後悔はしていない』

 うるさいよ。
 どうしてくれんだこれ。
 メイドが責任持ってころころしてくれんのか!?

『坊ちゃまにはまだ早いです』

 悪魔かこいつは。
 悪魔だった。
 さっさと文化部行こうか。
 俺達は雪村の希望により家庭科部に向かう。
 雪村は食べることが好きなので自分でも料理がしてみたいそうだ。
 大丈夫かな。
 雪村のカロリー収支が気になる。
 意外と筋肉量が多いのかな。
 家庭科部が部の活動を行っているのは学園の第3調理室だ。
 この学園には7つの調理室があるが、この第3調理室はそのなかでも1番広く、設備が整った調理室だ。
 そんな部屋がなぜ家庭科部の活動に使われているのかといえば、それだけ家庭科部の人数が多いということもあるが、もう一つ理由が存在している。
 真四角御三家真四角銀行頭取、加藤六郎の娘加藤沙織。
 彼女は中等部のときからこの家庭科部に所属していた。
 中等部の校舎の調理室よりも高等部の校舎の調理室のほうが設備が新しいため、高等部と中等部の家庭科部は合同で活動しているのだ。
 その部員数は高等部だけで400人を超えている。
 そしてその9割が女子生徒だ。
 よし、この部にしよう。

「俺この部に入部する」

「え?もう決めたの?」

「恵理香も連れてくることってできるかな…」

 右を見ても女子、左を見ても女子。
 こんなにいい部があるか?
 そりゃ少しは女子が多い部もあるかもしれないが、こんなに部員数が多い部は他にはない。
 この部員数の原因は間違いなく御三家の加藤沙織のカリスマだ。
 それを証明するように、中等部の部員だけでなく高等部の先輩方までもがあんなにしおらしく見学者にお茶やお菓子を出して回っている。
 あの先輩達も皆、放っておくと好き勝手する良家の子女ばかりだ。
 それがこの部では皆一様におもてなし精神を発揮して見学者を接客している。
 一般家庭出身の中村にすら全く傲慢さや上から目線な気配を感じさせることなく接している。
 これは加藤沙織がこの部を部員ひとりひとりに至るまで掌握し、御し辛い良家の子女が皆ひとつの意思の元に纏まっているという証明。
 やはり御三家はあなどれない。
 先輩方が差し出してくれるお菓子は、どれも非常に良くできていてこの部のレベルの高さがうかがえる。
 雪村は純粋にお菓子を美味しそうに食べているし、中村はあの幼馴染メイドにお菓子作りをマスターして欲しがっている。
 まさかあの幼馴染メイド、料理が下手とかいうベタな属性がついているのか?
 すでに幼馴染なうえにメイドなのに。
 欲張りすぎだろ。
 ここらで料理下手の属性を外しておくことをおすすめする。
 いざという時、属性が重くて逃げ遅れるぞ。
 ま、その時死ぬのは中村だけどな。

「あら、雪村君に四宮君、それと中村君だったかしら」

 圧倒的ラスボス感。
 割れた人波の中から現れたのは、そんな言葉でしか言い表せない少女、加藤沙織だった。
 さらさらの黒髪を腰のあたりまで伸ばした絶世の美少女。
 その手にはキラキラの扇子。
 小道具が凝ってるな。
 まさしくお嬢様の中のお嬢様。
 それに入学式で多少目立った俺はともかく中村の名前まで知っているとは。
 いや、俺達がVIP席に通されてから加藤沙織が出てくるまでに多少の時間があった。
 さては必死に調べてから、さもなんでもお見通しみたいな雰囲気を醸し出しながら出てきたな。 
 
「こんにちは、加藤さん」

 親しげに声をかけたのは雪村だ。
 同じ御三家で中等部でも一緒だった雪村は加藤さんと面識があるらしい。
 元々真四角グループは横のつながりを大事にする傾向がある。
 案外小さい頃からの付き合いなのかもしれない。

「今日は見学に?それともお菓子を食べに来ただけかしら」

 字面で表すと結構きつめだが、その言葉にはどこか雪村をからかうような気安さがある。
 もしかしたら前から雪村はお菓子を食べに家庭科部に遊びにいったりしていたのかな。

「今日は見学だよ。僕も料理に興味があって」

「雪村君は食べることが大好きだものね。そちらの2人は?」

「俺はこの部に入部すると決めた」

「そうなの。私部長の加藤沙織です。同じ学年よね、これからよろしくね」

「よろしく」

 すでに俺の心は決まっているんだ。
 あとまごまごしているのは中村だけだ。

「あの、俺はメイドに料理を覚えてほしいんだけど」
 
「うん、そういう人も大歓迎よ。入部するのはあなたになるけど、メイドさんを連れてきてくれれば一緒に活動できます」

「そうなんだ。じゃあ俺も入部します」

 ということで俺達3人は家庭科部に入部することにした。
 別に女の子がいっぱいだからという理由だけで入部したわけじゃない。
 この部に雪村が入部すればこの部には御三家が2人在籍することになる。
 なんかもう怖いものなんてない気がしない?
 俺は篠原雅也に目をつけられている。
 防波堤はいくつあっても困ることはないだろう。
 それもこのラスボス美少女、加藤沙織の逆鱗に触れなければなんだけど。
 逆鱗をパステルカラーに塗装しておいて欲しい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。 地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。 クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。 彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。 しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。 悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。 ――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。 謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。 ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。 この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。 陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...