俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

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16.誘拐事件発生(10秒で解決)

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 とりあえず状況確認。
 俺、後ろ手に縛られてハイエースの後部座席に転がされている。
 雪村、俺の隣で同じく縛られている、あと涙目。
 俺達を攫ったやつら、アジア系の顔立ちだが日本人じゃない。
 見える範囲にいるやつ全員銃を持っている。
 ちびりそう。
 テステス、メイド、応答せよ。

『坊ちゃん、意外に余裕がありそうですね』

 いや、マジでビビってるから。
 こんなガッツリ裏世界丸出しの奴らに攫われたことなんてない。
 今までの奴らは生活に困って追い詰められた末の場当たり的犯行だった。
 もちろん銃なんて持ってた奴はいない。
 そんなもの買う余裕があったら誘拐なんてしてないからな。
 そもそもこんな犯罪者丸出しの奴らなんて金持ちの子息に近づくのは難しいだろ。
 だが、今回は人ごみに流されるというハプニングによって奇跡的に無防備な瞬間ができてしまった。
 これ幸いと、とびっきり危険な非合法集団が食いついてきたというわけだ。
 俺か雪村、どちらを狙ったのかは分からないがこのままではろくな目にあわないのは確実。
 さてどうするか。
 エルザ、何秒あればこちらに駆けつけられる?

『コンマ2秒いただければそちらに顕現できます』

 あ、そうなんだ。
 冗談だったんだけど、本当に来れるんだ。
 だとすればとりあえずの安全は確保することは簡単なことだ。
 だが、自分の安全が確保されたと分かると欲が出てくるのが人間というものだ。
 エルザ、とりあえず待機。

『かしこまりました』

 こいつら全員銃、それもアサルトライフル装備なんて金持ってそうだよな。
 所詮この世は金。
 資本は多いに越したことはない。
 よし、こいつらの持っている金を根こそぎいただこう。
 となればアジトに連れて行かれるまで少し寝ておこう。
 エルザ、こいつらが身代金とかを要求するような素振りを見せたら妨害してくれ。
 今回の誘拐は隠滅する。
 雪村の記憶もあとで消してくれ。

『記憶を消すと空白の時間ができますよ?それに中村様のことはどうするんですか』

 中村、そんな子もいたね。
 すっかり忘れていた。
 予定変更、今すぐ来てくれ。

「かしこまりました」

 うわ、びっくりした。
 いきなり目の前におっぱいがあるんだもんな。
 やわらかい。
 なんでこんなご褒美をくれたのかは分からないが少し堪能しておこう。
 ぱふぱふ。

「坊ちゃま、殴りますよ」

 おいおい、自分から差し出してきたのに…。

「少し座標を間違えただけです。修正しましたのでもう次回からはこんなラッキーはないですよ」

 残念だ。

「〇×△▲●!!」

 おっと、エルザが突然出てきたものだから男達が騒ぎ出した。
 何語かわからないが、たぶん罵声だ。
 汚い言葉だ。
 言葉は心根を表す。
 俺も心がけないとな。
 エルザは男達の言葉が分かっているのか、どんどん怖い顔になっていく。
 10年前を思い出す。
 ぞっとするような冷たい目になったエルザは、男達のほうを向いた。
 その目で見ただけで男達は気を失ったようでばっさばっさと男達が倒れる音がする。
 倒れた男達を足蹴にして運転席のほうに向かったエルザは、運転席の後ろから運転手の男の首に腕を回すと、ギリギリと絞めて鮮やかに男の意識を奪った。
 そして運転席の男を引き剥がし、運転席に飛び乗った。
 この間10秒ほど。
 エルザが運転するハイエースは、そのまま数分走ると人気のない道に入り路肩に停まった。

「このあとはどうしましょうか、坊ちゃま」

 とりあえず縛られてるので解いてくれる?

「そのままのほうが可愛いのに」

 魔界の美的センスがわからん。
 文句を言いながらもエルザは縄を解いてくれた。
 俺は自由になった手で口に噛まされた布を解き、雪村も解いてやる。

「な、なんでエルザさんが?どうやって?」

 まあそうなるよね。

「雪村、ここから先は選んで欲しいんだ」

「選ぶ?」

「そうだ。記憶を消されるか誰にも言わないと約束するかだ。口の堅さに自信が無いなら無理しないほうがいい」

 雪村は記憶を消すという言葉に少し怯える。
 だがこれはしかたがないことなんだ。
 エルザのことはきっとばれたとしても誰も信じてくれないだろう。
 四宮のせがれのメイドは悪魔で、魔王の娘だって誰が信じるんだ。
 そっちは別に放っておいてもいい。
 だが、俺がこれから行うのは紛れも無い犯罪。
 この国の法律では例え相手が非合法集団であったとしても盗みは犯罪だ。
 雪村にいろいろとしゃべられると俺がまずいことになってしまう。
 
「記憶を消すってどうやって?」

 確かにピンポイントで記憶を消す技術なんて今の日本にはない。
 それが可能かどうかのほうが気になってしまうのも無理はない。

「さっき急に現れたのを見て分かると思うけど、エルザは色々なことができるんだ」

「じゃあエルザさんが僕の記憶を消すってこと?」

「そうだ」

 そう言うと、雪村は少し考え込む。
 できるなら俺も雪村の記憶を消すなんてことはしたくない。
 
「僕は誰にも言わないと約束する方を選ぶよ」

 ようやく顔を上げた雪村は、なにかを決意するようにそう言った。

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