俺のメイドちゃんだけキリングマシーンなんだけど

兎屋亀吉

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20.雪村派閥

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「同志中村よ、これはなにかね」

「雪村派閥だ」

 雪村を先頭に、学園の廊下を100人単位の人間が一糸乱れぬ動きで行進している。
 そしてなぜかその行列の2列目に俺と中村が組み込まれてしまっている。
 中村が言うにはこの行列はどうやら雪村を頂点とする学園内の派閥らしい。
 この間まで中学生だったとはいえこの学園に在籍しているのはほとんどが将来の日本を動かしていくような人間たちだ。
 派閥を作って将来に備えるのは別に構わないが、そこに俺を組み込むのはやめろ。
 
「仕方がないだろ。この間手に入れた資料にはこの国の上層部を脅かすようなものもあったんだ。その資料を手に入れた雪村はもはや御三家の中でも頭一つ抜けている。次の真四角グループ総裁はおそらく真四角商事から出るだろうな」

「くだらんな。同じグループ内で争ってなんになるんだよ」

「巨大グループ企業のトップだからな。身内で争ってでもそこに座る意味はあるんだろうぜ」

 俺にはわからない世界だな。
 金が欲しい、はわかる。
 俺も欲しいからな。
 権力が欲しい、もわかる。
 俺も欲しいからな。
 だが、それを組織の中で勝ち上がって手に入れようという気持ちがわからない。
 だってそれはきっと簡単じゃないから。
 辛く苦しい道を歩いてその行きつく先が権力というちっぽけなものならば、俺はきっとそれはいらない。
 労力と手に入った物がつり合っていないからな。
 ただ、自分の父や兄を見ているとそれが社会にとって必要なこともわかる。
 俺のように金で金を稼ぐ人間は所詮居ても居なくてもさほど困らない。
 相場はゼロサムゲームだから俺一人いなかったところで他の誰かが金を稼ぎ、別の誰かが損をするだけだからな。
 だが父や兄のように人の上に立ち、会社を差配する人間というのは代わりが効かない。
 能力のない人間が上に立てばたちまち会社は立ち行かなくなるからな。
 真四角グループのやつらがやっているのはそれよりもさらに上の争いなんだろうな。
 ある程度会社やグループの方向性を差配する能力があるというのは前提条件で、そのうえで誰が一番上に立つのかを争っているんだ。
 やっぱりわからない世界だ。

「うげっ、正面から游桜会」

 権力争奪ゲームについて考えていると、中村が真っ青な顔をして正面を指さす。
 指さすなよ。
 正面からは肩を切って歩いてくる游桜会の面々が。
 一触即発ですな。
 両陣営は1メートルほどの距離を開けてぴたりと止まった。
 止まってよかった。
 全然スピードを緩めないから正面からぶつかっていくかと思ったぞ。
 列の後ろの方は玉つき事故になってるんじゃなかろうか。
 游桜会の先頭を歩くのはやはり会長のワカメヘアー九条善治だ。
 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて雪村に話しかける。

「おや、雪村君ではないですか。大勢引き連れてどこへ行くのですか?」

「ちょっとお手洗いに」

 え、これトイレ行く行列だったの?
 マジかよ、100人単位で連れションとか御三家はやっぱり規模が違うな。
 というか女子生徒とかも行列には入っているのだが。
 ちょっとドキドキしてきてしまう。
 こいつら大真面目な顔して全員尿意を催してるんだぜ。

『もしかしたら便意かもしれませんよ』

 それは勝手に行けよ。
 一緒にするのはさすがに嫌すぎる。
 
「ず、ずいぶんと大勢でお手洗いに行くのですね」

 さすがのワカメヘアーもちょっと引いている。
 こいつを引かせたら大したものだ。
 
「まあいいです。面白い資料を手に入れたようですが、あまり調子に乗らないほうがいいですよ。あれはとても危険なものです。君の身に何か大変なことが起きなければいいのですがね」

 それだけ言うと相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべたまま九条は俺と中村の間をこじ開けて列を割って去っていく。
 なにやら不穏なことを言っていたような気がするが、負け惜しみか?
 というか本当にこの人数でトイレ行くのか?





 トイレは行った。
 ただ他の連中はトイレの中には入らず廊下で待っていたが。
 
「なあ、なんか騒がしくないか?」

 中村よ、それはフラグだ。
 中村がフラグを立てた瞬間、教室の扉が勢いよく開き覆面の男たちがぞろぞろと入ってきた。

「動くな!!」

 男は持っていたアサルトライフルを窓の外に向かって放つ。
 パパパと酷く現実離れした音がして窓が割れていく。

「「「きゃぁぁぁっっ」」」

 銃が本物だとわかると教室内は阿鼻叫喚となった。
 銃刀法のある日本において本物の銃というのはあまり見慣れたものではないが、男たちは最初にその脅威を示した。
 それによって生徒たちの恐怖を煽ったのだ。
 撃たれたら死ぬ。
 それが明確な事実として生徒たちの脳裏に染みつく。
 現に俺の背中にも鳥肌が立っている。
 やっぱり死ぬのは怖いな。
 エルザという最強のメイドが守ってくれるとわかっている俺でさえこうなのだ。
 他の生徒たちの恐怖はいかほどのものか。

「動くな、動いた奴から殺す」

 そう言って男の一人が俺の頭に銃を突きつける。
 なんで俺なんだよ。
 俺は微動だにしていないだろうが。


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