ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

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52.山はね

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「おはよう、ザイードさん。1週間ぶりだね。休暇は楽しめた?」

「ああ、おはよう。メチャクチャ可愛い娼婦に当たった話とメチャクチャブスな娼婦に当たった話どっちから聞きたい?」

「うん、娼婦の話は今度ゆっくり聞くよ。例のものは?」

「ああ、ばっちりだ」

 そう言ってザイードさんはにやりと笑った。
 この分ならちゃんと金貨スキルを買ってきてくれたようだ。
 いつもどおりなら受け渡しは昼休みだ。
 僕もつられてニヤリと笑い、今日の仕事に取り掛かる。
 奴隷生活であろうと、楽しみがあれば頑張れるというもの。
 僕はクロを召喚して憑依すると、仕事を始めた。
 この鉱山は過去に掘り尽くされた鉱山を最新の採掘技術によって再開発している場所なので新しく坑道を掘る必要はない。
 しかし何年も放置された坑道は酸素が少なくなっていたり、可燃性ガスが発生していたり、水没してしまっていたりととても危険だ。
 そこで僕が猫に憑依して坑道の安全をチェックしているというわけだ。
 短い付き合いだけどクロには愛着が湧いているので酸欠でパタリとかは勘弁してほしいものだ。
 僕がここに来る前はカナリア代わりの憐れな犯罪奴隷が何人も犠牲になっているそうなので僕も油断はできない。
 クロは鼻が利くので危険を事前に察知することが出来るけれど、どうしても不意の事故というものがあるから気をつけないと。
 僕はクロの身体でくんくんと空気の匂いを嗅ぎながらチェックされていない坑道をチェックしていく。
 くんくん。
 鉱山で爆発事故になるようなガスはメタンガスが思い浮かぶけれど、確かメタンガス自体に臭いは無いんだったな。
 くんくん。
 たぶんクロの鼻がガスに気付くことができるのは、純粋なガスではなく様々な不純物の混ざった混合ガスだからだと思う。
 くんくん。
 僕もクロの身体に憑依してこうして空気の臭いを嗅いでいるわけだけど、匂いというものはどこにでもあるものだ。
 くんくん。
 無臭の場所というのはおおよそこの世に存在しない。
 だからこそクロの嗅覚はその臭いの微かな変化を捉え、危険を事前に察知することができるんだと思う。
 くんくん。
 うん、今日の区画は異常なしだな。
 僕は踵を返し、現在採掘中の坑道付近を通って地上に向かう。
 スイッチ一つで灯りが灯せる現代の坑道と違って、この坑道には灯りというものがほとんどない。
 ランタンやロウソクにはガス爆発の危険性もあるし、なにより金がかかる。
 そのため灯りは採掘現場のみ生活魔法の使える犯罪奴隷が光球によって灯している。
 僕は灯りもまばらな坑道を黒猫に憑依して歩いているので僕の姿が見えている者はほとんどいない。
 しかし僕に気が付いて頭を撫でてくる者がひとり。
 会長だ。

「クロード、お疲れ様」

 会長はわしゃわしゃと僕が憑依しているクロの頭を撫でる。
 会長は気配察知というレアスキルを生まれたときから持っているらしい。
 気配察知なんて主人公が持っていそうなスキルだ。
 会長のくせに。
 やめろ、腹は撫でるな。
 僕は会長の手を尻尾でぺしぺし叩いて抗議する。

「ああごめん、仕事中だったな」

 会長はやっとわかったようで仕事に戻っていく。
 会長の仕事は採掘された鉱物を一定時間ごとにブラックキューブに収納していっぱいになったら地上に運ぶというもの。
 楽な仕事をしよって。
 僕はリリー姉さんに撫でてもらってから地上に戻るために姉さんを探す。
 リリー姉さんは男の中にただ一人の女性なので小汚いハエ共が群がらないように僕がしっかり消毒しておいてあげなくてはなるまい。
 リリー姉さんは地上近くの鉱物置き場で鉱物の選別作業をしていた。
 リリー姉さんの仕事は冶金スキルによって金属の混ざった鉱物と全くの石ころを分離させることだ。
 近くには鉱物が並々入った箱を運ぶ筋骨隆々の犯罪奴隷ばかりで心配になる。
 正面から戦えば姉さんはこの鉱山にいる全ての犯罪奴隷が束になっても敵わないだろう。
 しかし、セクハラとはそういうものではないのだ。
 姉さんに気付かれない範囲で何かエロいいたずらをしようと考えている奴がいてお不思議ではない。
 僕は姉さんのもとに向かい、足元をウロウロする。

「ん?クロード、午前の仕事もう終わったの?あたしももう少しで終わるけど。石ころしか入ってない箱があったからちょっとそれを詰めた奴をぶん殴りに行って午前はもう終わりにするつもり」

 相変わらず過激だ。
 僕はリリー姉さんのすべすべの足に擦り寄り、怪しげな匂いが付いていないか探る。
 くんくんくん。
 いやこれはリリー姉さんの匂いを嗅いでいるわけではなく、怪しい匂いを探知しているだけだから。
 くんくんくん。
 すーはーすーはー。
 むむ、これは。
 リリー姉さんの左肩の後ろのあたりからヤバげな匂いがする。
 栗の花やイカに例えられるような匂い。
 何とは言わないけどこれはナニの匂いだ。
 くんくんくん。
 あそこで箱を持っている筋肉ダルマのものに間違いない。
 右から数えて2番目の筋肉。
 僕は姉さんにジェスチャーで姉さんにこのことを伝えた。
 姉さんは肩に手を伸ばし、そのヌルリとした手触りに顔を顰める。
 僕が2番目の筋肉ダルマを前足で指し示すと、姉さんはごごごと擬音が付きそうな迫力で筋肉ダルマに歩み寄っていった。
 姉さんの顔を見た筋肉ダルマは顔面蒼白になり、冷や汗をダラダラと流し始める。
 
「ひっ、ぎゃぁっ、あぎゃっ、ぐぎゃぁぁぁっぁぁっ」

 しばらく肉を殴る音と悲鳴だけが響き渡った。
 この場を管理しているであろう鉱山の職員も目を伏せてガタガタ震えている。
 奴隷労働初日に職員が姉さんに肉体関係を迫ってボコボコにされたのは有名な話だ。
 あまり仕事のできる職員ではなかったらしく、管理官はリリー姉さんを不問にした。
 仕事のできない素行の悪い職員と、特別奴隷であるリリー姉さんを天秤にかけたらおのずとそういう結果になる。
 しばらくして悲鳴が止み、ボコボコにされた奴隷が担架で運び出されていく。
 休みができてよかったね。
 普通奴隷に休みなんてないのに。

「ふう……」
 
 姉さんは破り取ったさっきの奴隷の服で肩のアレと額の汗を軽く拭うと、採掘現場に向かって歩き出した。
 もしも箱に石ころばかり詰めたのが故意ではなかった場合に姉さんを止めるために僕も付いていく。
 姉さんは理由もなしに理不尽なことをする人ではないんだけど、性格が大雑把だから濡れ衣率が1割を上回っているんだよね。
 ここにいるのは奴隷に落とされた犯罪者ばかりだからまだ心は痛まないほうだけれど、ここから出たら大変だ。
 誰か止めてあげる人が近くにいればいいのだけれど。
 やがて僕と姉さんは採掘現場に到着する。
 しかしそこはなにやら喧騒に包まれていた。
 誰かが叫ぶ。

「山はねだぁ!!!!」

 山はね、とはなんだろう。
 

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