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54.山はね3
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ぼんやりと意識が覚醒し、身体のだるさに辟易する。
魔力欠乏というやつか。
いままで完全に魔力が無くなるまで魔法スキルを使い続けたことが無かったのは、こうなると分かっていたからだ。
背中には冷たい地面を感じるけれど、頭だけは妙に温かい。
柔らかくて、心地よくて。
これは……。
「起きたか?」
「またお前か……」
また会長でした。
リリー姉さんが横から僕の顔を覗き込んでいるのが分かる。
心配なら膝枕でしょうが、バカチンが。
「あんた大丈夫なの?」
「大丈夫。ただの魔力欠乏だから」
僕はだるい身体に鞭打って起き上がる。
貧血のように頭がくらくらする。
頭上にはオブジェのようにそびえ立つ黒竜。
魔力で押し固められているようで、コンコンと叩いてみても硬質な感触が返ってくる。
魔力源である僕から切り離さない限りはなんとか瓦礫から守ってくれそうだ。
しかし状況は良くない。
黒竜に守られた場所以外は完全に岩盤が崩落して埋まってしまっている。
ここにいる人間はざっと見たところ40人前後。
それ以外の人間の生存は絶望的だろう。
さて、どうしたものか。
指示を仰ぐべき鉱山職員も崩落に巻き込まれたようでこの場に残されたのは犯罪奴隷ばかりだ。
僕は召喚スキルを使えば外に出ることはできるだろうけど、僕だけ逃げてもな。
犯罪奴隷として日々を一緒に過ごした会長やリリー姉さん、ミゲル君は僕にとってすでに簡単には見捨てることのできないほど大きな存在になってしまっている。
ここで僕が毛魔法を解除してひとりで逃げてしまえば残された人たちは確実に死ぬだろう。
そんなことはできないよな。
その他大勢の犯罪奴隷は別にどうなっても構わないけど、この3人だけでもなんとか一緒に助かる方法を考えるべきだ。
使えそうなのは石魔法とかだろうか。
岩盤を少しずつ変形させて人が通れるようにするとか?
そういえばリリー姉さんは冶金スキルを使えるんだった。
きっと石魔法と同じようなことが出来るはずだ。
それなら人手は2倍。
問題は僕の魔力かな。
冶金スキルは魔法スキルではないから魔力を使わないはずだ。
僕は魔力が回復するまで休んで、それまではリリー姉さんに頑張ってもらうか。
僕たちは作戦を練り、実行に移そうとする。
しかしそこに待ったをかけるのがその他大勢の犯罪奴隷たちだ。
「みんな死んだ!!ジャックもピーターも!!俺も死ぬんだ!!」
「死ぬ前に女とヤリてぇ!!」
「なあいいだろ?どうせみんな死ぬんだしそのメスガキとヤらせろよ」
「穴があればもうなんだっていいぜ!お前ヤらせろ!!」
圧倒的世紀末感。
みんな絶望でひゃっはーしようぜみたいなノリになってきちゃっている。
もう言葉でなんて言っても聞き入れてもらえないだろう。
「オラに任せるだ」
ミゲル君はそう言ってひゃっはーな犯罪奴隷達に颯爽と向かっていく。
ミゲル君はリリー姉さんのパンチを1発モロに受けても耐えられる猛者だ。
僕たちが入るまではこの鉱山の犯罪奴隷たちの頂点に君臨していた元牢名主でもある。
きっと何とかしてくれるはずだ。
僕たちはひゃっはーな犯罪奴隷たちをミゲル君に任せて脱出のために動き出した。
いや、僕は動き出さない。
とりあえずもう一眠りしよう。
崩落現場、黒竜下は死屍累々の様相。
興奮した犯罪奴隷達が紅一点のリリー姉さんやイケメンの会長の尻に群がって襲い掛かってきたところをミゲル君が撃退したために、このようなことになってしまった。
大勢の筋肉相手に一歩も引かずにぶちのめし続けたミゲル君はさすがだけど、リリー姉さんのように無傷とはいかない。
身体のいたるところに青あざや切り傷を作っている。
僕たちのために頑張ってくれてありがとう。
僕は一眠りして非常に頭が冴えている状態だ。
魔力も十分に回復した。
まずはこの黒竜を消しても僕たちが潰れないように周りの土砂を退ける必要がある。
幸いにも石魔法で操作できなさそうな砂や泥はリリー姉さんが冶金スキルで押し固めて岩にしてくれているみたいなので、僕はそれらを浮遊スキルで浮かべてブラックキューブに押し込んだ。
僕のブラックキューブスキルはレベル5。
出せる黒箱の数は【スキル効果10倍】スキルで増幅されて50にも登る。
今のところかなりの数の黒箱がくだらないもので埋まっているけれど、一つの黒箱にナイフ1本とかしか入れていないものもあるからそれらを整理すれば30くらいは黒箱が空くだろう。
僕はそれらに浮遊スキルで浮かせられる限界の大きさの岩を収納していく。
リリー姉さんも僕の意図に気付いたようで、僕では固められない砂や土を冶金スキルで押し固めてちょうどいい大きさの岩にしてくれる。
僕のブラックキューブ30個、会長のブラックキューブ4個が埋まるころには、周囲の土砂はあらかた片付いていた。
黒竜をぐらぐらと激しく揺らしてももう小石も落ちてこなくなったので、僕は黒竜を魔力に還元させた。
石魔法で失った魔力が戻ってくる。
辺りにはかなり広い空間が出来、僕の魔力も全快だ。
これならなんとか、生きて出られそうでよかった。
僕とリリー姉さんは、瓦礫を押し固める作業を続けた。
会長はブラックキューブの残り1つの黒箱を使って、押し固めた岩を邪魔にならない場所に運ぶ作業をしてくれた。
岩盤を再び崩さないように慎重に作業を進めること数時間、僕たちの前には崩れていない坑道が現れたのだった。
なんとか無事生還だ。
「ニャー……」
よしよし。
お前を元の場所に還してやれなくなってしまってごめんな。
クロは召喚場所を上書きしてしまったのでもう元の場所には還せない。
緊急時とはいえ、もっと他にやりようがあったかもしれないな。
僕は今日のことを教訓として、召喚スキルの使い方や他のスキルの使い方についてももう一度検証しなおしてみることを決めた。
魔力欠乏というやつか。
いままで完全に魔力が無くなるまで魔法スキルを使い続けたことが無かったのは、こうなると分かっていたからだ。
背中には冷たい地面を感じるけれど、頭だけは妙に温かい。
柔らかくて、心地よくて。
これは……。
「起きたか?」
「またお前か……」
また会長でした。
リリー姉さんが横から僕の顔を覗き込んでいるのが分かる。
心配なら膝枕でしょうが、バカチンが。
「あんた大丈夫なの?」
「大丈夫。ただの魔力欠乏だから」
僕はだるい身体に鞭打って起き上がる。
貧血のように頭がくらくらする。
頭上にはオブジェのようにそびえ立つ黒竜。
魔力で押し固められているようで、コンコンと叩いてみても硬質な感触が返ってくる。
魔力源である僕から切り離さない限りはなんとか瓦礫から守ってくれそうだ。
しかし状況は良くない。
黒竜に守られた場所以外は完全に岩盤が崩落して埋まってしまっている。
ここにいる人間はざっと見たところ40人前後。
それ以外の人間の生存は絶望的だろう。
さて、どうしたものか。
指示を仰ぐべき鉱山職員も崩落に巻き込まれたようでこの場に残されたのは犯罪奴隷ばかりだ。
僕は召喚スキルを使えば外に出ることはできるだろうけど、僕だけ逃げてもな。
犯罪奴隷として日々を一緒に過ごした会長やリリー姉さん、ミゲル君は僕にとってすでに簡単には見捨てることのできないほど大きな存在になってしまっている。
ここで僕が毛魔法を解除してひとりで逃げてしまえば残された人たちは確実に死ぬだろう。
そんなことはできないよな。
その他大勢の犯罪奴隷は別にどうなっても構わないけど、この3人だけでもなんとか一緒に助かる方法を考えるべきだ。
使えそうなのは石魔法とかだろうか。
岩盤を少しずつ変形させて人が通れるようにするとか?
そういえばリリー姉さんは冶金スキルを使えるんだった。
きっと石魔法と同じようなことが出来るはずだ。
それなら人手は2倍。
問題は僕の魔力かな。
冶金スキルは魔法スキルではないから魔力を使わないはずだ。
僕は魔力が回復するまで休んで、それまではリリー姉さんに頑張ってもらうか。
僕たちは作戦を練り、実行に移そうとする。
しかしそこに待ったをかけるのがその他大勢の犯罪奴隷たちだ。
「みんな死んだ!!ジャックもピーターも!!俺も死ぬんだ!!」
「死ぬ前に女とヤリてぇ!!」
「なあいいだろ?どうせみんな死ぬんだしそのメスガキとヤらせろよ」
「穴があればもうなんだっていいぜ!お前ヤらせろ!!」
圧倒的世紀末感。
みんな絶望でひゃっはーしようぜみたいなノリになってきちゃっている。
もう言葉でなんて言っても聞き入れてもらえないだろう。
「オラに任せるだ」
ミゲル君はそう言ってひゃっはーな犯罪奴隷達に颯爽と向かっていく。
ミゲル君はリリー姉さんのパンチを1発モロに受けても耐えられる猛者だ。
僕たちが入るまではこの鉱山の犯罪奴隷たちの頂点に君臨していた元牢名主でもある。
きっと何とかしてくれるはずだ。
僕たちはひゃっはーな犯罪奴隷たちをミゲル君に任せて脱出のために動き出した。
いや、僕は動き出さない。
とりあえずもう一眠りしよう。
崩落現場、黒竜下は死屍累々の様相。
興奮した犯罪奴隷達が紅一点のリリー姉さんやイケメンの会長の尻に群がって襲い掛かってきたところをミゲル君が撃退したために、このようなことになってしまった。
大勢の筋肉相手に一歩も引かずにぶちのめし続けたミゲル君はさすがだけど、リリー姉さんのように無傷とはいかない。
身体のいたるところに青あざや切り傷を作っている。
僕たちのために頑張ってくれてありがとう。
僕は一眠りして非常に頭が冴えている状態だ。
魔力も十分に回復した。
まずはこの黒竜を消しても僕たちが潰れないように周りの土砂を退ける必要がある。
幸いにも石魔法で操作できなさそうな砂や泥はリリー姉さんが冶金スキルで押し固めて岩にしてくれているみたいなので、僕はそれらを浮遊スキルで浮かべてブラックキューブに押し込んだ。
僕のブラックキューブスキルはレベル5。
出せる黒箱の数は【スキル効果10倍】スキルで増幅されて50にも登る。
今のところかなりの数の黒箱がくだらないもので埋まっているけれど、一つの黒箱にナイフ1本とかしか入れていないものもあるからそれらを整理すれば30くらいは黒箱が空くだろう。
僕はそれらに浮遊スキルで浮かせられる限界の大きさの岩を収納していく。
リリー姉さんも僕の意図に気付いたようで、僕では固められない砂や土を冶金スキルで押し固めてちょうどいい大きさの岩にしてくれる。
僕のブラックキューブ30個、会長のブラックキューブ4個が埋まるころには、周囲の土砂はあらかた片付いていた。
黒竜をぐらぐらと激しく揺らしてももう小石も落ちてこなくなったので、僕は黒竜を魔力に還元させた。
石魔法で失った魔力が戻ってくる。
辺りにはかなり広い空間が出来、僕の魔力も全快だ。
これならなんとか、生きて出られそうでよかった。
僕とリリー姉さんは、瓦礫を押し固める作業を続けた。
会長はブラックキューブの残り1つの黒箱を使って、押し固めた岩を邪魔にならない場所に運ぶ作業をしてくれた。
岩盤を再び崩さないように慎重に作業を進めること数時間、僕たちの前には崩れていない坑道が現れたのだった。
なんとか無事生還だ。
「ニャー……」
よしよし。
お前を元の場所に還してやれなくなってしまってごめんな。
クロは召喚場所を上書きしてしまったのでもう元の場所には還せない。
緊急時とはいえ、もっと他にやりようがあったかもしれないな。
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