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65.墓参り
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ついに僕の尻を狙ってくる奴が現れた。
これは由々しき事態だ。
「へっへっへ、天国見せてやるぜ」
早急に、対処しなくてはならない。
僕は毛魔法で触腕を形作り、一応のファイティングポーズをとる。
「おいおい、威勢のいい子ウサギだぜ。ますますそそるね。じゅるり……」
僕たちを囲む男達のうち、真ん中の一人が拳を掲げて構える。
男がぐっと拳に力を入れると、拳がぼんやり光りだした。
間違いなくなんらかのスキルだ。
今の僕に生半可なスキルが通用するとは思えないけれど、警戒するに越したことはない。
左右の男たちも、構えて包囲を狭めてくる。
真ん中の男が砲弾のように突っ込んでくる。
なかなか早い踏み込みだ。
たぶん身体強化スキルも持っているな。
男は光を纏った拳を僕の鳩尾あたりに叩きつける。
拳は反転魔法に阻まれて僕に届くことは無かったけれど、かなりの衝撃を消した手ごたえがあった。
好みの相手をこんな力で殴るなんて歪んだ性癖をしていらっしゃる。
「おいおい、どうなってやがるんだ……」
男は二度三度と光の拳で殴るけれども、僕には届かない。
すべての力を拳に跳ね返してしまってもいいのだけれど、そうなったらきっとこの男の拳は元には戻らないレベルの怪我を負うことになるだろう。
犯罪奴隷とて鉱山の資産の一部。
今の僕はこの鉱山で働く職員の一人だ。
少しは鉱山の利益を考えなくてはならないだろう。
僕は色々なことを考えて、とりあえず一発だけ殴ることにした。
毛魔法の触腕を固く握りしめ、軽く振るう。
それだけで僕たちを囲んでいた3人の男たちはすべて吹き飛んだ。
そしてリリー姉さんがこれから殴ろうと胸倉を掴んでいた男を巻き込んで壁まで飛んでいった。
「ちょっと、こっちまで飛ばさないでよ……」
「ごめん」
すでに立っている奴隷は少数だ。
皆おこぼれ狙いの日和見主義のようですでに戦意は無い。
リリー姉さんはそいつらに気絶した犯罪奴隷達を運ばせると、目隠しの白い布を直し始めた。
僕も手伝うとしよう。
最近はこんなんばかりなのでもう慣れたものだ。
嫌になるね。
早く牢内の治安が回復すればいいと僕は思った。
さて、僕が犯罪奴隷から唐突に解放されてからすでに3ヶ月が経とうとしている。
今日は初めての休日である。
3ヶ月休みなしってブラックすぎだよね。
犯罪奴隷だったときは休みなんて無かったから進歩といえば進歩だけど。
新しい特別奴隷が入ったため、僕の仕事も引き継ぎができるようになったんだ。
もうリリー姉さんの解放まで3ヶ月を切っているからね。
会長はまだお父さんが起こした訴えが審議中なんだけど、それがリリー姉さんの解放までに終わらなかったら僕が買い取ると管理官に言ってあるので実質特別奴隷がすべていなくなってしまうことになる。
だから新しい特別奴隷が街からまたあの悪辣な高速馬車で運ばれてきたのだ。
新しい特別奴隷の人たちは見るからに犯罪奴隷っぽい人だったので話しかけるのは遠慮したけど。
まあそんなわけで、僕は晴れて休日というものを頂くことができたんだ。
前々から長めの休日がもらえたらやっておきたいことが2つほどあった。
ひとつ目は両親の墓参り。
これは日本での両親だ。
こちらの両親はまだド田舎村で畑を耕しているはず。
前世の両親は、父は僕が子供のときに亡くなっていたのだけれど、母は僕が死んだときには生きていたはずだ。
だからきっとこの3年間の間に亡くなってしまったのだと思う。
病気で亡くなったとのことなので、僕の死がなんらかの影響を与えてしまったのであればとても残念だ。
一度お墓参りには行きたいと思っていた。
しかし僕の実家は東京から離れているので、向かうのに時間がかかってしまう。
鉱山での生活は忙しくて、墓参りがこんなに遅くなってしまった。
僕は拓君の部屋で喪服に着替え、新幹線に乗って実家のあった町に向かう。
なかなか移動が大変だ。
どこか地方都市に巣を構える鳩を何匹か使役するべきだろうか。
そうすれば行きたい都市に巣がある鳩を選んで召喚して、送還することでその都市に転移することが可能になるだろう。
よし、今度鳩召喚リセマラしよう。
やがて新幹線は実家のある地方都市の駅に到着した。
ここからはバスだ。
実家のお寺があるのは郊外の共同墓地だ。
僕も両親も亡くなってしまったわけだけど、今は叔父さんの家が維持管理してくれているらしい。
さすがに異世界人になった僕が挨拶に行くのはおかしいので、お墓だけこっそりとお参りさせてもらおう。
駅前の花屋で買った花を持って、僕は共同墓地に足を踏み入れる。
母と毎年父の墓参りに来たときのまま、時間が止まったかのように何も変わっていない。
まだ3年しか経っていないのだからお墓がそこまで変わるわけはない。
しかし3年で僕は死に、母もまた亡くなった。
やっぱり悲しいな。
僕の目から一筋の涙が零れ落ちる。
こんな想いを、母にも抱かせてしまった。
それが母の心に負担をかけた。
もしかしたら病気の原因にもなってしまったのかもしれない。
僕は申し訳なくて涙がポロポロと零れ落ちる。
「母さん、ごめん……。僕は、元気です」
違う人間として生まれ変わったけれど、僕は異世界で元気に暮らしています。
友達も出来たし、何も心配は要りません。
僕はそんな祈りが母に届くことを願い、線香を立てて手を合わせた。
僕は雨が降り出すまで、ずっとお墓の前で手を合わせていた。
これは由々しき事態だ。
「へっへっへ、天国見せてやるぜ」
早急に、対処しなくてはならない。
僕は毛魔法で触腕を形作り、一応のファイティングポーズをとる。
「おいおい、威勢のいい子ウサギだぜ。ますますそそるね。じゅるり……」
僕たちを囲む男達のうち、真ん中の一人が拳を掲げて構える。
男がぐっと拳に力を入れると、拳がぼんやり光りだした。
間違いなくなんらかのスキルだ。
今の僕に生半可なスキルが通用するとは思えないけれど、警戒するに越したことはない。
左右の男たちも、構えて包囲を狭めてくる。
真ん中の男が砲弾のように突っ込んでくる。
なかなか早い踏み込みだ。
たぶん身体強化スキルも持っているな。
男は光を纏った拳を僕の鳩尾あたりに叩きつける。
拳は反転魔法に阻まれて僕に届くことは無かったけれど、かなりの衝撃を消した手ごたえがあった。
好みの相手をこんな力で殴るなんて歪んだ性癖をしていらっしゃる。
「おいおい、どうなってやがるんだ……」
男は二度三度と光の拳で殴るけれども、僕には届かない。
すべての力を拳に跳ね返してしまってもいいのだけれど、そうなったらきっとこの男の拳は元には戻らないレベルの怪我を負うことになるだろう。
犯罪奴隷とて鉱山の資産の一部。
今の僕はこの鉱山で働く職員の一人だ。
少しは鉱山の利益を考えなくてはならないだろう。
僕は色々なことを考えて、とりあえず一発だけ殴ることにした。
毛魔法の触腕を固く握りしめ、軽く振るう。
それだけで僕たちを囲んでいた3人の男たちはすべて吹き飛んだ。
そしてリリー姉さんがこれから殴ろうと胸倉を掴んでいた男を巻き込んで壁まで飛んでいった。
「ちょっと、こっちまで飛ばさないでよ……」
「ごめん」
すでに立っている奴隷は少数だ。
皆おこぼれ狙いの日和見主義のようですでに戦意は無い。
リリー姉さんはそいつらに気絶した犯罪奴隷達を運ばせると、目隠しの白い布を直し始めた。
僕も手伝うとしよう。
最近はこんなんばかりなのでもう慣れたものだ。
嫌になるね。
早く牢内の治安が回復すればいいと僕は思った。
さて、僕が犯罪奴隷から唐突に解放されてからすでに3ヶ月が経とうとしている。
今日は初めての休日である。
3ヶ月休みなしってブラックすぎだよね。
犯罪奴隷だったときは休みなんて無かったから進歩といえば進歩だけど。
新しい特別奴隷が入ったため、僕の仕事も引き継ぎができるようになったんだ。
もうリリー姉さんの解放まで3ヶ月を切っているからね。
会長はまだお父さんが起こした訴えが審議中なんだけど、それがリリー姉さんの解放までに終わらなかったら僕が買い取ると管理官に言ってあるので実質特別奴隷がすべていなくなってしまうことになる。
だから新しい特別奴隷が街からまたあの悪辣な高速馬車で運ばれてきたのだ。
新しい特別奴隷の人たちは見るからに犯罪奴隷っぽい人だったので話しかけるのは遠慮したけど。
まあそんなわけで、僕は晴れて休日というものを頂くことができたんだ。
前々から長めの休日がもらえたらやっておきたいことが2つほどあった。
ひとつ目は両親の墓参り。
これは日本での両親だ。
こちらの両親はまだド田舎村で畑を耕しているはず。
前世の両親は、父は僕が子供のときに亡くなっていたのだけれど、母は僕が死んだときには生きていたはずだ。
だからきっとこの3年間の間に亡くなってしまったのだと思う。
病気で亡くなったとのことなので、僕の死がなんらかの影響を与えてしまったのであればとても残念だ。
一度お墓参りには行きたいと思っていた。
しかし僕の実家は東京から離れているので、向かうのに時間がかかってしまう。
鉱山での生活は忙しくて、墓参りがこんなに遅くなってしまった。
僕は拓君の部屋で喪服に着替え、新幹線に乗って実家のあった町に向かう。
なかなか移動が大変だ。
どこか地方都市に巣を構える鳩を何匹か使役するべきだろうか。
そうすれば行きたい都市に巣がある鳩を選んで召喚して、送還することでその都市に転移することが可能になるだろう。
よし、今度鳩召喚リセマラしよう。
やがて新幹線は実家のある地方都市の駅に到着した。
ここからはバスだ。
実家のお寺があるのは郊外の共同墓地だ。
僕も両親も亡くなってしまったわけだけど、今は叔父さんの家が維持管理してくれているらしい。
さすがに異世界人になった僕が挨拶に行くのはおかしいので、お墓だけこっそりとお参りさせてもらおう。
駅前の花屋で買った花を持って、僕は共同墓地に足を踏み入れる。
母と毎年父の墓参りに来たときのまま、時間が止まったかのように何も変わっていない。
まだ3年しか経っていないのだからお墓がそこまで変わるわけはない。
しかし3年で僕は死に、母もまた亡くなった。
やっぱり悲しいな。
僕の目から一筋の涙が零れ落ちる。
こんな想いを、母にも抱かせてしまった。
それが母の心に負担をかけた。
もしかしたら病気の原因にもなってしまったのかもしれない。
僕は申し訳なくて涙がポロポロと零れ落ちる。
「母さん、ごめん……。僕は、元気です」
違う人間として生まれ変わったけれど、僕は異世界で元気に暮らしています。
友達も出来たし、何も心配は要りません。
僕はそんな祈りが母に届くことを願い、線香を立てて手を合わせた。
僕は雨が降り出すまで、ずっとお墓の前で手を合わせていた。
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