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72.ローパー
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ローパー。
一言で言い表すことなど到底できない生物ではあるが、あえて一言で言い表すならば触手生物といったところか。
あちらの世界の生物では、タコが一番近い姿をしているだろうか。
タコよりも幾分か小さい胴体には目や鼻といった器官が無く、イソギンチャクのようなグロテスクな口がパクパクと何かを欲するかのように開いては閉まる。
胴体からは無数の触手が伸びており、それらはまるで海草のように揺れている。
触手一本一本はヌタウナギのような粘液を分泌しており、ヌラヌラと光を反射する。
召喚しておいてなんだけど、キモい。
特にこちらを攻撃してくる様子も無いので、僕は使役魔法を撃ち込んだ。
何の抵抗を感じることも無く使役契約が完了する。
この生き物に愛着が持てそうに無いので、01という無機質な名前を付ける。
元々思考能力など皆無なのか、01からはなんの思念も伝わってこない。
意思は無くても本能に従って生きているタイプの魔物であれば、お腹が減ったとか交尾したいとかそんな意思が伝わってきてもいいものだけれど。
動物というよりも、植物に近い魔物なのかもしれない。
なんとか僕の命令は聞いてくれるみたいだし、この触手生物を有効活用できる機会を探していこう。
僕は01を送還してスキル屋の店主に最後の用件を伝える。
「医者を紹介してほしい。魔物の生態に詳しい医者で、ちょっとのことでは驚かない人とかを知らない?」
「そら難しい条件だな。だがまあ居ないことはない」
「紹介してもらってもいい?」
「ああ、だがあの人は厳密には医者ってわけじゃねえからな」
「医者じゃないの?」
「ああ、生物学者だ。魔物を研究しているから、身体の構造には詳しいし診察することもできるだろう」
それは僕にとっても望むところ。
僕の使役している召喚生物を実験動物として寄こせとか言わない限りは、僕の求める人材そのものだ。
僕は店主に頼んで紹介状を書いてもらうことにした。
僕の休みも残り少ないんだ、今日中に尋ねてみるとしよう。
「こんにちは」
「なんだね君は」
「スキル屋の店主にギリク先生は魔物の体調とかに詳しいって聞いて来たんですけど、僕の使役している魔物を診察していただけませんか?」
「はぁ、魔物ってどうせゴブリンとかだろ?私は忙しいんだよ、他をあたって欲しいね」
「いや、ゴブリンもいますけど他にも凄いのが居るんですって。そんなこと言わずにお願いしますよ」
「いや君ね、以前私に凄いのが居るって持ってきた者が何を持ってきたか知ってるかね?ただのネズミだよ。魔物化したネズミとか言ってただ泥だらけのネズミとか持ってこられても困るんだよ」
「いやいや、本当に凄いんですって。なんだったらここで出しましょうか?出しちゃいますよ?」
「そこまで言うなら出してもらおうじゃないか。どうせ痩せたオークとかじゃないのかね?見飽きてるんだよそういう……」
「クェェェェェェェッ!!!」
「キェェェェェェェッ!!!」
ギリク先生は固まってしまった。
僕は先生の顔の前で手を振るが、なかなか戻ってこない。
魂抜けたかな。
先生が現世に帰ってくるのに3分ほどの時間がかかった。
その間、僕はブラックキューブから取り出したティーセットでお茶を入れる。
こちらの世界の人間にはあまりグリーンティーは好まれないので、普通の紅茶だ。
東京には紅茶の茶葉を専門に取り扱っているオシャレなお店なんかがあったので、ふらっと立ち寄った僕は店員さんのすすめるがままにティーセットと茶葉、それに紅茶の淹れ方の本まで買わされた。
ギリク先生の暮らしぶりは玄関を見ればすぐに分かる。
ごちゃごちゃとゴミだか宝だか分からないものが積み重なっている様を見るに、独身男一人暮らしだろう。
まともにお茶なんか出てくる訳が無いと見て、僕は自分でお茶を淹れているのだ。
やかんでお湯を沸かしていると、ようやく先生が精神世界から帰ってくる。
「が、ガルーダ……」
「僕の使役している魔物です。診察してくれますか?」
「素晴らしい。大丈夫だ、私が、か、身体の隅々ま、まで、診察してあげよう。げへへへっ」
なんか、大丈夫かな。
特殊な性癖を持つ人じゃないよね?
なんか心配になってきたけれども、この人くらいしか魔物を診てくれる人が居なさそうなので僕はしょうがなく先生に診てもらう事に。
先生の診察は単純だ。
探査というスキルを使って身体の隅々まで検査するという、例えるならばレントゲンやCTスキャンのようなもの。
探査というスキルは割とメジャーなスキルだが、このスキルでできるのは物体の構造を把握するということまでだ。
先生はこれまでに培った魔物の知識によって、それが異常なのか正常なのか判断しているのだ。
「ふむ、ふむ。ほう。なるほど」
先生はバラライカの大きな身体を、まさぐるようにあちらこちらから探査スキルを使用して健康状態を調べていく。
「おほぉ、これはなかなか」
先生はデイジーのお腹の袋のあたりをモフモフしながら探査している。
本当に探査しているのだろうか。
この人ただのモフラーじゃないのかな。
僕はゴブ次郎とシロとクロ、それからさっき使役したローパーの01を召喚して先生の診察の順番待ちをさせる。
「うぇ、ローパー。私はこれが苦手でね。すまないがこれは無理だ。そもそもどの状態が健康なのかも想像がつかない」
「ですよね」
僕は01だけを送還する。
相変わらず何の思念も送られてこないけれど、なんとなく寂しそうな動きをしていたような気もする。
あの動きをなぜ寂しそうと思ってしまったのかも分からないけれど、そう思い始めるともうそうとしか思えなくなってくる。
01なんて無機質な名前にしてしまったけれど、それも可哀想だったかな。
ゼロワンとカタカナで表記すればなんか名前っぽく感じられないだろうか。
あの触手生物に愛着が持てるようになる日というのも想像できないけれど、歩み寄りだけはしてみようと思う。
僕は使役する魔物や動物すべてを先生に診せ、ゴブ次郎以外はみんな健康判定をもらったのだった。
ゴブ次郎は案の定寄生虫。
ゴブ次郎は先生から渡された虫下しの薬を1週間飲むことになりました。
まあ大きな病気などが無くてよかったと思うべきか。
僕は先生に診療代として金貨を1枚払い、先生の家を後にする。
なんか肩の荷が下りた気分。
今度から新しい魔物を使役したら診せにこよう、特にゴブリンは。
一言で言い表すことなど到底できない生物ではあるが、あえて一言で言い表すならば触手生物といったところか。
あちらの世界の生物では、タコが一番近い姿をしているだろうか。
タコよりも幾分か小さい胴体には目や鼻といった器官が無く、イソギンチャクのようなグロテスクな口がパクパクと何かを欲するかのように開いては閉まる。
胴体からは無数の触手が伸びており、それらはまるで海草のように揺れている。
触手一本一本はヌタウナギのような粘液を分泌しており、ヌラヌラと光を反射する。
召喚しておいてなんだけど、キモい。
特にこちらを攻撃してくる様子も無いので、僕は使役魔法を撃ち込んだ。
何の抵抗を感じることも無く使役契約が完了する。
この生き物に愛着が持てそうに無いので、01という無機質な名前を付ける。
元々思考能力など皆無なのか、01からはなんの思念も伝わってこない。
意思は無くても本能に従って生きているタイプの魔物であれば、お腹が減ったとか交尾したいとかそんな意思が伝わってきてもいいものだけれど。
動物というよりも、植物に近い魔物なのかもしれない。
なんとか僕の命令は聞いてくれるみたいだし、この触手生物を有効活用できる機会を探していこう。
僕は01を送還してスキル屋の店主に最後の用件を伝える。
「医者を紹介してほしい。魔物の生態に詳しい医者で、ちょっとのことでは驚かない人とかを知らない?」
「そら難しい条件だな。だがまあ居ないことはない」
「紹介してもらってもいい?」
「ああ、だがあの人は厳密には医者ってわけじゃねえからな」
「医者じゃないの?」
「ああ、生物学者だ。魔物を研究しているから、身体の構造には詳しいし診察することもできるだろう」
それは僕にとっても望むところ。
僕の使役している召喚生物を実験動物として寄こせとか言わない限りは、僕の求める人材そのものだ。
僕は店主に頼んで紹介状を書いてもらうことにした。
僕の休みも残り少ないんだ、今日中に尋ねてみるとしよう。
「こんにちは」
「なんだね君は」
「スキル屋の店主にギリク先生は魔物の体調とかに詳しいって聞いて来たんですけど、僕の使役している魔物を診察していただけませんか?」
「はぁ、魔物ってどうせゴブリンとかだろ?私は忙しいんだよ、他をあたって欲しいね」
「いや、ゴブリンもいますけど他にも凄いのが居るんですって。そんなこと言わずにお願いしますよ」
「いや君ね、以前私に凄いのが居るって持ってきた者が何を持ってきたか知ってるかね?ただのネズミだよ。魔物化したネズミとか言ってただ泥だらけのネズミとか持ってこられても困るんだよ」
「いやいや、本当に凄いんですって。なんだったらここで出しましょうか?出しちゃいますよ?」
「そこまで言うなら出してもらおうじゃないか。どうせ痩せたオークとかじゃないのかね?見飽きてるんだよそういう……」
「クェェェェェェェッ!!!」
「キェェェェェェェッ!!!」
ギリク先生は固まってしまった。
僕は先生の顔の前で手を振るが、なかなか戻ってこない。
魂抜けたかな。
先生が現世に帰ってくるのに3分ほどの時間がかかった。
その間、僕はブラックキューブから取り出したティーセットでお茶を入れる。
こちらの世界の人間にはあまりグリーンティーは好まれないので、普通の紅茶だ。
東京には紅茶の茶葉を専門に取り扱っているオシャレなお店なんかがあったので、ふらっと立ち寄った僕は店員さんのすすめるがままにティーセットと茶葉、それに紅茶の淹れ方の本まで買わされた。
ギリク先生の暮らしぶりは玄関を見ればすぐに分かる。
ごちゃごちゃとゴミだか宝だか分からないものが積み重なっている様を見るに、独身男一人暮らしだろう。
まともにお茶なんか出てくる訳が無いと見て、僕は自分でお茶を淹れているのだ。
やかんでお湯を沸かしていると、ようやく先生が精神世界から帰ってくる。
「が、ガルーダ……」
「僕の使役している魔物です。診察してくれますか?」
「素晴らしい。大丈夫だ、私が、か、身体の隅々ま、まで、診察してあげよう。げへへへっ」
なんか、大丈夫かな。
特殊な性癖を持つ人じゃないよね?
なんか心配になってきたけれども、この人くらいしか魔物を診てくれる人が居なさそうなので僕はしょうがなく先生に診てもらう事に。
先生の診察は単純だ。
探査というスキルを使って身体の隅々まで検査するという、例えるならばレントゲンやCTスキャンのようなもの。
探査というスキルは割とメジャーなスキルだが、このスキルでできるのは物体の構造を把握するということまでだ。
先生はこれまでに培った魔物の知識によって、それが異常なのか正常なのか判断しているのだ。
「ふむ、ふむ。ほう。なるほど」
先生はバラライカの大きな身体を、まさぐるようにあちらこちらから探査スキルを使用して健康状態を調べていく。
「おほぉ、これはなかなか」
先生はデイジーのお腹の袋のあたりをモフモフしながら探査している。
本当に探査しているのだろうか。
この人ただのモフラーじゃないのかな。
僕はゴブ次郎とシロとクロ、それからさっき使役したローパーの01を召喚して先生の診察の順番待ちをさせる。
「うぇ、ローパー。私はこれが苦手でね。すまないがこれは無理だ。そもそもどの状態が健康なのかも想像がつかない」
「ですよね」
僕は01だけを送還する。
相変わらず何の思念も送られてこないけれど、なんとなく寂しそうな動きをしていたような気もする。
あの動きをなぜ寂しそうと思ってしまったのかも分からないけれど、そう思い始めるともうそうとしか思えなくなってくる。
01なんて無機質な名前にしてしまったけれど、それも可哀想だったかな。
ゼロワンとカタカナで表記すればなんか名前っぽく感じられないだろうか。
あの触手生物に愛着が持てるようになる日というのも想像できないけれど、歩み寄りだけはしてみようと思う。
僕は使役する魔物や動物すべてを先生に診せ、ゴブ次郎以外はみんな健康判定をもらったのだった。
ゴブ次郎は案の定寄生虫。
ゴブ次郎は先生から渡された虫下しの薬を1週間飲むことになりました。
まあ大きな病気などが無くてよかったと思うべきか。
僕は先生に診療代として金貨を1枚払い、先生の家を後にする。
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今度から新しい魔物を使役したら診せにこよう、特にゴブリンは。
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