ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉

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128.最後の手段

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 いじめという問題を解決するにはどうしたらいいのか。
 一番簡単なのは既存の人間関係をすべてぶち壊してしまうことだろう。
 僕と志織ちゃんを無視しているうちのクラスの29人の人間。
 彼ら彼女らが互いに全く仲間意識を持っていなければ、いじめなどという問題は起きたりしない。
 仲間はずれになりたくないから、空気を読む。
 彼ら彼女らがやっているのはただそれだけなのだ。
 そもそもの前提、クラス全員が仲間だという認識を壊してしまえばいじめを解決することができる。
 さて、そのためにはどうすればいいのかな。
 まずは分かりやすいところから行くか。

「ねえねえ、吉田君ってかっこよくない?」

「えぇ、栗山君のほうがかっこいいって」

 女子の仲なんてほとんど上辺だけのものだと、よく聞く。
 僕の目から見ても上辺だけの会話をしている女子同士の仲から、裂いていくこととしよう。

「ゴブ次郎」

「グギャ(了解)」

 ゴブ次郎の手にはスマホ。
 女子向けの携帯小説でも読んでいたのだろう。
 ゴブ次郎は僕と好みが似て、特にドロドロのやつが好きだからな。
 やりすぎには少し注意させないと。




「なんかさ、大山結衣ってキモくない?」

「ていうかさ、西川清美ってマジうざいよね」

「昨日久美と吉田君が駅前歩いてんの見たんだけど、マジ最低。あの子私が吉田君のこと好きだって知ってんのに」

 ほう、良い感じにゴブ次郎の夢幻の毒がクラスに回ってきたな。
 ゴブ次郎がやったのは簡単なこと。
 好きな男子が判明している女子には、その好きな男子と別の女子が一緒に歩いている姿の幻覚を見せる。
 それ以外の女子には、仲の良い女子の声で悪口の幻聴を聞かせた。
 良い感じに女子の間にはギスギスとした空気が蔓延してきている。
 男子にも同じようなことはやっているので男子もまあまあギスギスしてきたが、もう一押しが足りない気がするな。
 さて、どうするかな。
 
「おい佐藤!てめぇ、昨日結衣と歩いてたよな!結衣は俺と付き合ってんだよ!ふざけんじゃねえ!!」

「は?知らねーよ」

「知らねえわけねえだろ!!」

 僕の席の前の前くらいの席で殴りあいが始まった。
 佐藤なにがしと何山結衣が歩いているところは、もちろんゴブ次郎が見せた幻影だ。
 まさかそれだけで殴りあいにまで発展するとは。
 いいぞ、もっとやれ。
 足りないと思っていたあと一押し。
 僕はそれを思いついてしまった。
 しかしそれをやってしまうと、少しだけ事態が大げさになってしまうかもな。
 ニュースとかでも取り上げられてしまうかもしれない。
 まあいいか、どうでも。
 僕がスキルを発動すると、教室内に光の粒子が吹き荒れ大きな鳥が姿を現す。
 僕が思いついたいじめ解決のあと一押し、それは異世界への集団転移である。
 僕は伸ばした1本の髪の毛をクラス全員に触れさせる。
 僕の召喚したガルーダと共に、一クラス31人の人間が日本から姿を消した。




「お、おい。これ、なんだよ」

「ここ、どこだ?」

「ひっ、な、なんだあの鳥!」

「きゃぁぁぁっ」

「でかすぎる……」

「地球じゃないのか?」

「ああ、これは異世界転移ですね」

「異世界転移よ!!」

「勇者召喚だ!」

「お姫様はどこ!?」

「チートが貰えるのよ!!」

 なんなんだ最近の中学生。
 確かに異世界転移だけど、気付くの早すぎるでしょ。
 あと、お姫様はいません。
 チートももらえません。
 勇者とか250年前の出来事だから。
 僕がこのクラス全員をこちらの世界に連れてきたのは、一度日本という国の法律や学校という枠組みを忘れてもらおうと思ってのことだ。
 こちらの世界ではお金を出せばスキルが買えるけれど、僕は最初のスキルを買うまでに2年8ヶ月と27日かかったんだ。
 そんな長い期間こちらの世界に放っておくようなことはさすがの僕でもしない。
 だからスキルは諦めてくれ。
 少しの間こちら世界でサバイバルしてもらって、極限状態の中で良い感じに人間関係をぶち壊して欲しい。
 
「ね、ねえ、クロード、これなんなの?あの鳥ってデイジーだよね」

「いや、あれはデイジーじゃなくてニコラスっていう名前なんだ。見て、お腹に袋が無いでしょ?お腹に袋があるのがメスで、無いのがオスなんだよ」

「そ、そうなんだ。でも、なんで私たち教室から移動しちゃったの?ここどこなの?」

「うーん、秘密かな」

「秘密かぁ……」

 まあ異世界だって気付いている人もいるみたいだけど。
 さて、クラスを纏めるような人間も存在していないこのクラスの生徒たちはどうするのかな。

「お、落ち着け、まずは姫様が接触するのを待つんだ」

「でもよ、ここ、砂漠みたいじゃね?」

「こんなところに姫様来ないだろ」

「そのでかい鳥が教室に現れてから転移したんだ。召喚じゃなくて偶然転移系じゃないか?」

「ていうかこの鳥なんなの?なんで何もしてこないの?」

 ニコラス、ちょっと脅してやるんだ。
 
「ピエェェェェェッ」

「「「うわぁぁぁっ!」」」

 ニコラスの周りをうろついていた生徒は驚いて荒野を走り出す。
 ここは僕と氷竜王が戦った荒野だ。
 魔物も出るからどこに逃げても地獄だと思うけどな。
 とりあえず忍ゴブリンを数人つけておくか。
 
「お、おい!バラバラになるのはまずい!戻って来いお前ら!!」

「いっちゃったな……」

「結局鳥鳴いただけなのにな……」

「私たちはどうする?」

「うーん、とりあえず、ステータス!」

「なにやってんの?」

「いや、異世界だったらステータスとか出るかと思って。出なかったけど」

 この世界にはステータスは無いんだ。
 まああったとしても事前に鑑定した限りでは君たちにスキルは無い。
 鑑定で見ることのできないという種族スキルや固有スキルのようなものを持っていれば分からないけれどね。
 
「チート無いのかな……」

「まさか、異世界だぞ!?」

「状況とか、大きな鳥とか、どう考えても異世界だよな」

「チートの無い異世界は異世界じゃない」

「じゃあなんだよ!」

「他世界?」

 いい感じに混迷してきたね。
 だが、まだまだだ。
 これから夜が来る。
 どうなるのか、見守らせてもらおう。



 
 
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