ウサ耳バレット

兎屋亀吉

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3.賊の始末

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 ユーリーが作った魔導車のプロトタイプは、勇者の知識を纏めた資料で見たトラックという乗り物に似た形をしていた。
 しかしどちらかといえばこれは民間人が乗るように作られたものではなく、兵士のような戦闘員が乗ることを想定された乗り物だ。
 ボディも窓ガラスも並の威力の銃弾ならば通さないくらいに強靭にできているし、車輪も資料にあったタイヤというものに近い太さだ。
 タイヤのゴムとショックアブソーバーで揺れを軽減する機構のおかげで、それほど整備されていないデコボコの街道でも走破できるようになっている。
 
「これは自分専用だから高価な素材を使って少しカスタムしてあるけれど、もう少しダウングレードすれば売り物になるわ」

「すごいな。もうこんなに研究が進んでいるとは」

 やはりこいつは一種の天才だ。
 ドワーフというのはもともと手先の器用な種族だが、ユーリーの場合は器用なんていうものではない。
 これなら王都までの道中は快適に旅することができそうだ。

「荷物は荷台に乗せて」

「わかった」

 魔導車の後ろに回り、荷台のコンテナの扉を開ける。
 そこには意味のわからない光景が広がっていた。

「なんでこんなに広いんだ……」

 外からはどう見ても横2、3メートル、縦5、6メートルほどの荷台のコンテナの中が、村の集会所よりも広かった。
 おそらくは収納魔道具のような空間魔法の魔導回路を利用しているのだろうが、これはあまりに理不尽だ。
 収納魔道具の中から収納魔道具ってありなのかよ。
 なんだかおじさんからもらった100万リットルの収納魔道具がしょぼく思えてきてしまった。

「そしてこんなに広いのに物がいっぱいで狭い」

「王都に持って行きたい物が多すぎるのよ」

「まあ気持ちはわからんでもないが……」

 俺も持って行きたい物が多すぎておじさんからもらったブレスレットの収納魔道具に入りきらなくなってしまったくらいだ。
 しかしユーリーのは規模が違う。
 大型の工作機械や溶鉱炉のようなものまで置いてある。

「これじゃあ寝れないだろ」

 この辺境の村から王都まではかなり距離があり、1日や2日では着かない。
 運よく町があれば宿に泊まれるが、どうしても街道で野営しなければならないときもあるだろう。
 魔導車はトラック型で立派なコンテナが荷台に載っていたので中で眠れるかと思ったのだが、この荷物に埋め尽くされた空間では横になれる気がしない。

「詰めればあんたと私くらい眠れるわよ」

「詰めるって、子供じゃないんだから隣り合ってなんか眠れるか」

「なによ。照れてんの?」

 実際照れているが、認めても否定してもなんだか負けた気分になるので無言で乗り切る。
 ユーリーは表情ひとつ変えずに運転席に乗り込んだ。
 どのみち負けた気分になった。
 俺たち2人のやりとりを親連中は生暖かい目で見ている。
 恥ずかしいので俺もさっさとコンテナの中に荷物を置き、助手席に乗り込んだ。

「それじゃ行くわよ」

「ああ」

 魔導原動機は静かに車軸を回転させ始め、魔導車が動き始めた。

「静かだな」

「木製の車輪と一緒にしないで」

 魔導車が走り始めて最初に思ったことは、走行音がほとんどしないということだ。
 ゴーレム馬車であれば馬車を引くゴーレム馬の出す足音や車輪が路面舐めるガタガタという音がけっこううるさいものなのだが、この魔導車はゴム製のタイヤを履いているためにまるで人が走っているかのような静かさだ。
 しばらく走るとフロントガラスにコツンコツンと何かが当たる音がしてユーリーが速度を緩める。

「なんだ?」

「一度止まるわ」

 街道の隅に寄せて魔導車を停め、フロントガラスに何かが当たった場所まで見に行く。
 そこに落ちていたのは数本の矢だった。

「これは……」

「盗賊、かもね」

 そう言ったそばからガサゴソと草木をかき分ける音がして汚らしい恰好の男たちが街道に躍り出てくる。
 全員人族の男だ。
 普通の剣や槍、弓で武装しているところを見るにそれほど装備の質は高くなさそうだ。
 身のこなしからも鍛錬の気配はしない。

「村からこんな近い場所に、こんな練度の低い連中が巣食っているとは……」

「運がいいのか、それとも巡回当番がさぼっているのかね」

 後者な気がするな。
 今月の巡回当番のフリードさんは奥さんと喧嘩したとかでかなり焦燥していた。
 さぼっていたわけではないだろうが、街道の巡回に身が入らなかったのだろう。
 誰か交代してあげるべきだったんだ。

「仕方がない。片付けるか」

「私は車に戻ってる」

 村の中での役割は細かい適性なども考慮されるが、大まかに分けるとドワーフが生産で兎獣人が防衛だ。
 ドワーフは兎獣人が戦うための武器を作り、兎獣人がこういった荒事を担当する。
 これが勇者の時代から連綿と受け継がれてきた伝統なのだ。
 こいつらを見逃したのは兎獣人のミスだ。
 同じ兎獣人が片付けるのが筋だろう。

「おいおい、何をごちゃごちゃ言っちゃってんだい僕ちゃんたち。君たちはこれからおじさんたちに酷いことをされるんだよ?」

「あんたたちこそ、この先にある村のことを知らないのか?」

「むらぁ?ぎゃはははっ、村がなんだってんだ!!鍬持った農民が追っかけてくるってのか!?」

 こいつら本気でヤマダ村のことを知らないみたいだ。
 この国に住んでて俺たちの村のことを知らない奴はいないだろうから、おそらくよそもんだな。
 
「一応警告しておくけど、降伏すれば命までは取らない」

「馬鹿じゃねーの」

「そうか」

 俺は収納魔道具からアサルトライフルを取り出し、セーフに入っているセレクターレバーをフルオートに合わせて引き金を引く。
 発砲音は耳のいい兎獣人にはきついのでいつものように耳を畳んでガードする。
 塞いでも聞こえるパパパという音と共に、目の前の男の頭が吹っ飛んだ。

「なっ、貴様っ」

「だから言ったのに」

 銃身をすっすっと男たちをなぞるように動かしながら引き金を引く。
 それだけで辺りは血まみれになった。
 血の匂いで吐きそうだ。
 今度村に帰ったらフリードさんには絶対になんか奢ってもらう。
 あっという間に盗賊は殲滅された。
 ユーリーもいつの間にかいなくなっていた。
 宣言通り車に戻ったのだろう。
 死体の片づけを巡回当番に任せ、俺も車に向かってダッシュした。

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