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4.女達と人間の街
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天幕の中に篭る酷い匂いに俺は顔を顰める。
所詮あのゴミ虫共にとって女達は同族といえども使い捨ての道具に過ぎないとでもいうのか。
女達は俺が天幕に入ってきたというのに、何の反応もしない。
ただ無気力に横たわるか、卑屈な笑みを浮かべるだけだ。
首には鉄の首輪が嵌っており、鎖で地面に打ち込まれた杭に繋がっている。
こんな状態で生き続けるくらいならば、死んだほうがマシだろうに。
人間はとても残酷な生き物だ。
「お前たちは、これからどうしたいんだ?」
無駄かもしれないが、俺は聞いてみる。
女達はうろたえた。
俺が何を言っているのか分からないといった表情だ。
とっくに精神が壊れていてもおかしくない状況だが、どうやらまだまともに思考できるだけの意思があるようだ。
女は男よりも精神が強いと本で読んだことがあるが、本当のことなのだろうか。
俺は端的に状況を説明する。
「盗賊はすべて俺が殺した」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。表に見張りの4人の死体がある。疑うならば見てくればいい」
俺は女たちの首輪に繋がっている鎖を引きちぎる。
さすがに首輪を引きちぎるのは女の首に怪我をさせてしまう可能性があるのでやらない。
「す、すごい力……」
「白銀の髪に金の瞳、まさか竜人族……」
「そうだ」
俺が竜人族であることに多少怯んだ様子だが、女たちはすぐに立ち上がった。
もう無気力で空虚な瞳のものは一人もいなかった。
やはり女は精神的に男よりも強いというのは本当のことなのだろうか。
女たちは着るものも着ずに皆裸同然の格好のまま天幕から恐る恐る出ていく。
どこかに女達の着られる衣服があればいいのだが。
「ほ、本当に死んでいるわ」
「嘘でしょ、私達助かったの?」
「もう、この地獄には戻らなくてもいいの?」
女たちは喜びをあらわにする。
まあ無理も無い。
あれだけ劣悪な環境で、男達に酷使されていたのだ。
それはまさしく地獄だっただろう。
多少は同情する。
しかし俺は俺で自分のことで精一杯だ。
ここから街まではそこまで遠くないようだし、俺は先に街に向かわせてもらう。
「い、行っちゃうんですか?」
「ああ」
「あ、あの、街まで護衛していただけたりは……」
「無理だ」
「そ、そうですよね……」
これではまるで俺が悪いみたいじゃないか。
人間というのは、どこまでも自分勝手で図々しい種族だ。
俺は溜息を吐き出した。
「俺も街に向かっている。案内してくれると助かる」
「は、はいっ。よろこんで」
「それから、ボスの部屋に持ちきれなかった金が残っている。運ぶのを手伝ってくれ」
「わかりました」
女たちは満足そうに笑った。
昨日までは男達に酷い目に合わされていたというのに、たくましいものだ。
俺が人間ではないからという理由もあるだろうが、女たちは俺のことを警戒はしていても怖がっている様子は無い。
別に怖がらせたいわけではないが、侮られているみたいで少々不快だった。
「あれがリザールの街です」
男物の服を身につけた黒髪で30そこそこくらいの女が俺にそう告げる。
女の名前はリナリーというそうだ。
俺は人間の名前などは別に聞かなくてもよかったのだが、女達が最初に全員名前を勝手に教えてきたのだ。
他の5人は長い金髪がアンナ、短い金髪がシシリー、中くらいの金髪がミモザ、青髪がクラリッサ、赤髪がリーザという名前らしい。
全員盗賊のアジトにあった男物の服を身につけている。
血の匂いの染み込んだ薄汚れた服だが、裸よりはマシだろう。
一応助けた者の責任として街までは連れてきたが、そろそろお役ごめんでいいだろう。
「ここまででいいな?そっちの箱はお前達にやる」
俺は女たちから離れ、街門へ向かう。
後ろから女たちの声が聞こえる。
「ありがとうございました。このご恩は決して忘れません」
悪い気分ではない。
里から追放されたり、人間という種族に幻滅したりしてすっかり下がった気分が少しだけ上向くのを感じた。
盗賊たちが溜め込んだ金もあることだ、初めて来た人間の街というものを楽しむとしよう。
「身分証を持っているか?」
「身分証?」
「何だお前、どこの田舎もんだよ」
せっかく上がりかけていた気分が台無しだ。
憤怒の感情が心の奥底から湧きあがってくる。
それはこの男への憤怒だけではなかったかもしれない。
俺を追放した長老たちへの怒り、下劣な人間という種への怒り、弱い自分への怒り。
俺は人間の首に手をかけ、ギリギリと引き絞る。
「ぐっ、なんだっ、やめっ、た、たすけ……」
「貴様!何をしている!!」
槍を持った人間共がぞろぞろと出てきて俺を取り囲む。
脆弱な下等種族が棒切れを持ったところで俺の脅威とはなり得ない。
「この男が俺の故郷を愚弄した。よって、この男を殺す」
「ま、待て!落ち着け!!」
「俺は落ち着いている」
嘘をついた。
まったく落ち着いてなどいない。
俺の内側はぶつけようのない苛立ちに満ちている。
これでは子供が癇癪を起こすのと一緒だ。
俺は手を離した。
「げほっ、げほっ、て、てめぇ、頭がイかれてやがるのかよ……」
確かにさっきの俺は怒りに支配されかかっていたかもしれない。
どうにもここのところ、何もかもがうまくいかない。
心が不安定になって、コントロールが効かない。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだ。
「なんの騒ぎかね?おや、これは珍しい。竜人族のお客さんとは」
槍を持った兵たちの後ろから、なにやら胸に羽飾りの付いた壮年の人物が出てくる。
強い。
直感的にそう思った。
人間の中にもこのような人物がいるとはな。
俺は多少の敬意を表し、姿勢を正す。
「ふむ、なるほどの。そこそこやるようだの。しかしまだまだ荒削りだのぉ。竜人は歳が分かり辛くてかなわん。まあ、お主は大体見た目どおりか少し上くらいじゃろ」
なぜそこまで正確に分かるのか。
俺にはこの壮年の人物がなんとなく強いかもしれないとしか感じないというのに。
直感とは違う部分で判断しているというのか。
俺はそれが、族長の強さとなにか関係しているような気がした。
所詮あのゴミ虫共にとって女達は同族といえども使い捨ての道具に過ぎないとでもいうのか。
女達は俺が天幕に入ってきたというのに、何の反応もしない。
ただ無気力に横たわるか、卑屈な笑みを浮かべるだけだ。
首には鉄の首輪が嵌っており、鎖で地面に打ち込まれた杭に繋がっている。
こんな状態で生き続けるくらいならば、死んだほうがマシだろうに。
人間はとても残酷な生き物だ。
「お前たちは、これからどうしたいんだ?」
無駄かもしれないが、俺は聞いてみる。
女達はうろたえた。
俺が何を言っているのか分からないといった表情だ。
とっくに精神が壊れていてもおかしくない状況だが、どうやらまだまともに思考できるだけの意思があるようだ。
女は男よりも精神が強いと本で読んだことがあるが、本当のことなのだろうか。
俺は端的に状況を説明する。
「盗賊はすべて俺が殺した」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。表に見張りの4人の死体がある。疑うならば見てくればいい」
俺は女たちの首輪に繋がっている鎖を引きちぎる。
さすがに首輪を引きちぎるのは女の首に怪我をさせてしまう可能性があるのでやらない。
「す、すごい力……」
「白銀の髪に金の瞳、まさか竜人族……」
「そうだ」
俺が竜人族であることに多少怯んだ様子だが、女たちはすぐに立ち上がった。
もう無気力で空虚な瞳のものは一人もいなかった。
やはり女は精神的に男よりも強いというのは本当のことなのだろうか。
女たちは着るものも着ずに皆裸同然の格好のまま天幕から恐る恐る出ていく。
どこかに女達の着られる衣服があればいいのだが。
「ほ、本当に死んでいるわ」
「嘘でしょ、私達助かったの?」
「もう、この地獄には戻らなくてもいいの?」
女たちは喜びをあらわにする。
まあ無理も無い。
あれだけ劣悪な環境で、男達に酷使されていたのだ。
それはまさしく地獄だっただろう。
多少は同情する。
しかし俺は俺で自分のことで精一杯だ。
ここから街まではそこまで遠くないようだし、俺は先に街に向かわせてもらう。
「い、行っちゃうんですか?」
「ああ」
「あ、あの、街まで護衛していただけたりは……」
「無理だ」
「そ、そうですよね……」
これではまるで俺が悪いみたいじゃないか。
人間というのは、どこまでも自分勝手で図々しい種族だ。
俺は溜息を吐き出した。
「俺も街に向かっている。案内してくれると助かる」
「は、はいっ。よろこんで」
「それから、ボスの部屋に持ちきれなかった金が残っている。運ぶのを手伝ってくれ」
「わかりました」
女たちは満足そうに笑った。
昨日までは男達に酷い目に合わされていたというのに、たくましいものだ。
俺が人間ではないからという理由もあるだろうが、女たちは俺のことを警戒はしていても怖がっている様子は無い。
別に怖がらせたいわけではないが、侮られているみたいで少々不快だった。
「あれがリザールの街です」
男物の服を身につけた黒髪で30そこそこくらいの女が俺にそう告げる。
女の名前はリナリーというそうだ。
俺は人間の名前などは別に聞かなくてもよかったのだが、女達が最初に全員名前を勝手に教えてきたのだ。
他の5人は長い金髪がアンナ、短い金髪がシシリー、中くらいの金髪がミモザ、青髪がクラリッサ、赤髪がリーザという名前らしい。
全員盗賊のアジトにあった男物の服を身につけている。
血の匂いの染み込んだ薄汚れた服だが、裸よりはマシだろう。
一応助けた者の責任として街までは連れてきたが、そろそろお役ごめんでいいだろう。
「ここまででいいな?そっちの箱はお前達にやる」
俺は女たちから離れ、街門へ向かう。
後ろから女たちの声が聞こえる。
「ありがとうございました。このご恩は決して忘れません」
悪い気分ではない。
里から追放されたり、人間という種族に幻滅したりしてすっかり下がった気分が少しだけ上向くのを感じた。
盗賊たちが溜め込んだ金もあることだ、初めて来た人間の街というものを楽しむとしよう。
「身分証を持っているか?」
「身分証?」
「何だお前、どこの田舎もんだよ」
せっかく上がりかけていた気分が台無しだ。
憤怒の感情が心の奥底から湧きあがってくる。
それはこの男への憤怒だけではなかったかもしれない。
俺を追放した長老たちへの怒り、下劣な人間という種への怒り、弱い自分への怒り。
俺は人間の首に手をかけ、ギリギリと引き絞る。
「ぐっ、なんだっ、やめっ、た、たすけ……」
「貴様!何をしている!!」
槍を持った人間共がぞろぞろと出てきて俺を取り囲む。
脆弱な下等種族が棒切れを持ったところで俺の脅威とはなり得ない。
「この男が俺の故郷を愚弄した。よって、この男を殺す」
「ま、待て!落ち着け!!」
「俺は落ち着いている」
嘘をついた。
まったく落ち着いてなどいない。
俺の内側はぶつけようのない苛立ちに満ちている。
これでは子供が癇癪を起こすのと一緒だ。
俺は手を離した。
「げほっ、げほっ、て、てめぇ、頭がイかれてやがるのかよ……」
確かにさっきの俺は怒りに支配されかかっていたかもしれない。
どうにもここのところ、何もかもがうまくいかない。
心が不安定になって、コントロールが効かない。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてのことだ。
「なんの騒ぎかね?おや、これは珍しい。竜人族のお客さんとは」
槍を持った兵たちの後ろから、なにやら胸に羽飾りの付いた壮年の人物が出てくる。
強い。
直感的にそう思った。
人間の中にもこのような人物がいるとはな。
俺は多少の敬意を表し、姿勢を正す。
「ふむ、なるほどの。そこそこやるようだの。しかしまだまだ荒削りだのぉ。竜人は歳が分かり辛くてかなわん。まあ、お主は大体見た目どおりか少し上くらいじゃろ」
なぜそこまで正確に分かるのか。
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