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6.ギルドマスター
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「びぇぇぇぇぇん」
「馬鹿力っ、このっ、はなせっ」
「はぁ……」
うるさい。
これだからガキは嫌いなんだ。
特に人間のガキは。
俺は手を放してやる。
「はぁはぁ、死ぬかと思った」
「兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「なんとかな……」
兄弟は怯えた目で俺を見る。
なぜだか昔の記憶がよみがえる。
父さんが死んだとき、オークの群れを遠目に見て俺もそんな顔をしていただろう。
弱かった昔の記憶だ。
いや、今も自分が強くなったのかわからない。
何もわからなくなってしまった。
ぐぅぅ、と兄弟の腹が鳴る。
腹が減っているようだ。
俺はもう一つため息を吐いた。
「お前たち腹が減っているのか?」
「へ、へってねぇよ!」
「ねぇよ!」
どう見てもやせ我慢だ。
俺は背負い袋から固焼きパンと水袋を取り出し、食事にする。
どうせ保存食は街に着いたら処分しようと思っていたところだ。
俺は固焼きパンをバキリと圧し折り、兄弟に与える。
「お、おい、いいのかよ……」
「どうせ処分する予定の保存食だ」
「そ、そうかよ……」
兄弟は固焼きパンにかぶりつく。
固くて食べるのに苦労しているようだが、その分腹は膨れるだろう。
「かてーパンだな」
「でもおいしいね」
俺もパンを齧り、水で流し込む。
不味くはないな。
大してうまくもないけどな。
こんなものでも兄弟はうまいうまいと言って食っている。
よほど貧しいのかもしれない。
「お前たち、親はどうした?」
「父ちゃんは死んだ。母ちゃんは病気なんだ」
親がいないわけではないのか。
しかし母親が病気ではまともに働けまい。
人間は労働の対価として金を得る。
その金が手に入らなければ子供に飯を食わせることができない。
この二人はそのせいでこれほど痩せて飢えているのだ。
小銭を分け与えるのは簡単だが、別に助けてやる義理もない気もする。
ただ昔の俺のような目をしていた、というだけのガキだ。
そうは思うのだが、なぜだか俺はこの二人を見捨てることができなかった。
「お前たち、冒険者ギルドがどこにあるか知っているか?」
「冒険者ギルド?知ってるけど……」
「そこに案内しろ。そうしたら多少の金と残ったパンをやる」
「本当か!?」
「ああ」
「案内する!ギルドでも宿でも、おすすめの屋台でもどこでも案内する!!」
俺は兄弟の案内に従ってギルドを目指したのだった。
「ここが、冒険者ギルドか」
「そうだよ」
「世話になった。金とパンだ」
「「やったー!」」
俺はパンの入った革袋と、街に入るときに払った金の釣りである銅貨5枚を渡した。
これで少しの間は犯罪行為に走らず生活できればいいのだがな。
「お前たち、襲うやつはもう少し慎重に選んだほうがいい」
「わ、わかってるよ。じゃあな」
そう言って兄弟は去っていった。
なぜだか胸がもやもやする。
俺は多少の気分の下がりを覚えながらも、冒険者ギルドに入った。
中は酒場も併設されているようで、昼間だというのに飲んだくれている荒くれものたちが少なくない人数存在している。
酒の匂いが充満していて、他の匂いが感じとりにくい。
あまり長居したい場所ではないな。
入口からまっすぐ突き当たった場所に台のようなもので隔てられたスペースがあり、そこに女が座っていた。
女は人間の年齢で言えば20にも満たないくらいだろうか。
栗色の髪に青い瞳をした細身の女だ。
俺はまっすぐ歩いていき、女に話しかける。
「登録したい」
「かしこまりました。こちらにご記入ください」
女が差し出したのは一枚の植物紙だ。
名前、年齢、出身地、色々なことを書く欄がある。
俺は上から順に書いていく。
特技や魔法の欄は書く必要性を感じなかったので空欄とした。
「これでいいか?」
「ええと、特技や魔法は書かなくてもいいのですか?書いたほうがパーティメンバーが集まりやすくなりますけど……」
「必要ない」
「そ、そうですか。わかりました。それでは登録料として銀貨1枚頂戴します」
また金がかかるのか。
人間の街は何をするにも金がかかる。
俺は背負い袋の中から銀貨を取り出し、女に渡す。
「はい、確かに頂戴いたしました。少々お待ちください」
女は後ろの扉を開いて中に入り、すぐに出てくる。
「あの……」
「なんだ」
「い、いえ、冒険者にはランクというものがあるのはご存知ですか?」
「いや」
「ランクというのは冒険者の実力を表しているのですが、最初はみんなFランクからのスタートなんです」
「それで?」
「ギルドマスターが今回のみの特例として試験を行って、相応の実力があれば上のランクからスタートすることを許可すると申しております」
なるほど手っ取り早くてありがたい。
ランクというものが何の役にたつのかはよくわからんが、ランクが高いほうが強いということはわかった。
「そうか」
「お受けになりますか?」
「ああ」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
女はさっきとは別の扉を指し示す。
この扉の先に、ギルドマスターとやらがいるのだろうか。
それとも違うやつが試験を行うのか?
女は扉を開け、そこへ入っていく。
俺も後ろについて扉をくぐった。
階段を降り、広い空間に出る。
そこには一人の男が待っていた。
金の髪に緑の瞳、華奢な体。
怜悧さを感じさせる顔立ち、丸い眼鏡で遮っているがその瞳は鋭い。
しかし一番の身体的特徴は長く尖った笹穂耳だろう。
エルフ、という種族だと思い当たる。
別名森の民と呼ばれる魔力に優れた種族だ。
こんなところでエルフと会うとは。
「あなたがビブリオの言っていた竜人族ですか。私が冒険者ギルドリザール支部ギルドマスターのハイネルです」
「ああ」
「失礼ですが、なぜ人間の街に?」
「そんなことが冒険者ランクとやらに関係あるのか?」
「ないですね。単純な興味ですよ。私はこの街がそれなりに気に入っていましてね。街の害になるような可能性は潰しておきたいのです」
「なるほど。それなら問題ない。この街に来たのに大した理由などないからな」
「すみません。無駄口が過ぎましたね。では、やりましょうか」
「ああ」
俺とエルフの男、ハイネルは共に身構える。
俺は無手、ハイネルは長い木の杖を持っている。
魔導士か。
俺は身体に魔力を巡らせ、身体能力を強化していく。
身体が熱くなり、戦意が滾る。
俺は全速力でまっすぐに踏み込んだ。
「馬鹿力っ、このっ、はなせっ」
「はぁ……」
うるさい。
これだからガキは嫌いなんだ。
特に人間のガキは。
俺は手を放してやる。
「はぁはぁ、死ぬかと思った」
「兄ちゃん、だいじょうぶ?」
「なんとかな……」
兄弟は怯えた目で俺を見る。
なぜだか昔の記憶がよみがえる。
父さんが死んだとき、オークの群れを遠目に見て俺もそんな顔をしていただろう。
弱かった昔の記憶だ。
いや、今も自分が強くなったのかわからない。
何もわからなくなってしまった。
ぐぅぅ、と兄弟の腹が鳴る。
腹が減っているようだ。
俺はもう一つため息を吐いた。
「お前たち腹が減っているのか?」
「へ、へってねぇよ!」
「ねぇよ!」
どう見てもやせ我慢だ。
俺は背負い袋から固焼きパンと水袋を取り出し、食事にする。
どうせ保存食は街に着いたら処分しようと思っていたところだ。
俺は固焼きパンをバキリと圧し折り、兄弟に与える。
「お、おい、いいのかよ……」
「どうせ処分する予定の保存食だ」
「そ、そうかよ……」
兄弟は固焼きパンにかぶりつく。
固くて食べるのに苦労しているようだが、その分腹は膨れるだろう。
「かてーパンだな」
「でもおいしいね」
俺もパンを齧り、水で流し込む。
不味くはないな。
大してうまくもないけどな。
こんなものでも兄弟はうまいうまいと言って食っている。
よほど貧しいのかもしれない。
「お前たち、親はどうした?」
「父ちゃんは死んだ。母ちゃんは病気なんだ」
親がいないわけではないのか。
しかし母親が病気ではまともに働けまい。
人間は労働の対価として金を得る。
その金が手に入らなければ子供に飯を食わせることができない。
この二人はそのせいでこれほど痩せて飢えているのだ。
小銭を分け与えるのは簡単だが、別に助けてやる義理もない気もする。
ただ昔の俺のような目をしていた、というだけのガキだ。
そうは思うのだが、なぜだか俺はこの二人を見捨てることができなかった。
「お前たち、冒険者ギルドがどこにあるか知っているか?」
「冒険者ギルド?知ってるけど……」
「そこに案内しろ。そうしたら多少の金と残ったパンをやる」
「本当か!?」
「ああ」
「案内する!ギルドでも宿でも、おすすめの屋台でもどこでも案内する!!」
俺は兄弟の案内に従ってギルドを目指したのだった。
「ここが、冒険者ギルドか」
「そうだよ」
「世話になった。金とパンだ」
「「やったー!」」
俺はパンの入った革袋と、街に入るときに払った金の釣りである銅貨5枚を渡した。
これで少しの間は犯罪行為に走らず生活できればいいのだがな。
「お前たち、襲うやつはもう少し慎重に選んだほうがいい」
「わ、わかってるよ。じゃあな」
そう言って兄弟は去っていった。
なぜだか胸がもやもやする。
俺は多少の気分の下がりを覚えながらも、冒険者ギルドに入った。
中は酒場も併設されているようで、昼間だというのに飲んだくれている荒くれものたちが少なくない人数存在している。
酒の匂いが充満していて、他の匂いが感じとりにくい。
あまり長居したい場所ではないな。
入口からまっすぐ突き当たった場所に台のようなもので隔てられたスペースがあり、そこに女が座っていた。
女は人間の年齢で言えば20にも満たないくらいだろうか。
栗色の髪に青い瞳をした細身の女だ。
俺はまっすぐ歩いていき、女に話しかける。
「登録したい」
「かしこまりました。こちらにご記入ください」
女が差し出したのは一枚の植物紙だ。
名前、年齢、出身地、色々なことを書く欄がある。
俺は上から順に書いていく。
特技や魔法の欄は書く必要性を感じなかったので空欄とした。
「これでいいか?」
「ええと、特技や魔法は書かなくてもいいのですか?書いたほうがパーティメンバーが集まりやすくなりますけど……」
「必要ない」
「そ、そうですか。わかりました。それでは登録料として銀貨1枚頂戴します」
また金がかかるのか。
人間の街は何をするにも金がかかる。
俺は背負い袋の中から銀貨を取り出し、女に渡す。
「はい、確かに頂戴いたしました。少々お待ちください」
女は後ろの扉を開いて中に入り、すぐに出てくる。
「あの……」
「なんだ」
「い、いえ、冒険者にはランクというものがあるのはご存知ですか?」
「いや」
「ランクというのは冒険者の実力を表しているのですが、最初はみんなFランクからのスタートなんです」
「それで?」
「ギルドマスターが今回のみの特例として試験を行って、相応の実力があれば上のランクからスタートすることを許可すると申しております」
なるほど手っ取り早くてありがたい。
ランクというものが何の役にたつのかはよくわからんが、ランクが高いほうが強いということはわかった。
「そうか」
「お受けになりますか?」
「ああ」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
女はさっきとは別の扉を指し示す。
この扉の先に、ギルドマスターとやらがいるのだろうか。
それとも違うやつが試験を行うのか?
女は扉を開け、そこへ入っていく。
俺も後ろについて扉をくぐった。
階段を降り、広い空間に出る。
そこには一人の男が待っていた。
金の髪に緑の瞳、華奢な体。
怜悧さを感じさせる顔立ち、丸い眼鏡で遮っているがその瞳は鋭い。
しかし一番の身体的特徴は長く尖った笹穂耳だろう。
エルフ、という種族だと思い当たる。
別名森の民と呼ばれる魔力に優れた種族だ。
こんなところでエルフと会うとは。
「あなたがビブリオの言っていた竜人族ですか。私が冒険者ギルドリザール支部ギルドマスターのハイネルです」
「ああ」
「失礼ですが、なぜ人間の街に?」
「そんなことが冒険者ランクとやらに関係あるのか?」
「ないですね。単純な興味ですよ。私はこの街がそれなりに気に入っていましてね。街の害になるような可能性は潰しておきたいのです」
「なるほど。それなら問題ない。この街に来たのに大した理由などないからな」
「すみません。無駄口が過ぎましたね。では、やりましょうか」
「ああ」
俺とエルフの男、ハイネルは共に身構える。
俺は無手、ハイネルは長い木の杖を持っている。
魔導士か。
俺は身体に魔力を巡らせ、身体能力を強化していく。
身体が熱くなり、戦意が滾る。
俺は全速力でまっすぐに踏み込んだ。
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