宇宙戦艦でコールドスリープしたけど目が覚めたら異世界だった

兎屋亀吉

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12.獣人

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 森で数匹のゴブリンを狩ってその日は訓練を切り上げた。
 なぜだかこの世界の言葉でもゴブリンはゴブリンと呼ぶ。
 ゴブリンだけでなく、トロールやユニコーン、ドラゴンなども固有名称が俺の認識と変わらない。
 最初この世界はもしかしたら人類が滅びた後に再び人類が生まれた遠い未来の世界なのかもしれないとも思った。
 古代文明の遺跡などから発掘した資料にゴブリンと書いてあったからゴブリンと呼んでいるのかもしれないと。
 だがどうやらそうではないらしい。
 ゴブリンやトロールなどの名前を付けたのは今の世で勇者と呼ばれている人物。
 500年ほど前の魔物の大量発生のおり、押し寄せる魔物を前に勇敢に立ち向かった一人の青年がいたそうだ。
 その人物は黒い瞳と黒い髪を持った若者で、名をスグルといった。
 その人物がゴブリンをゴブリンと呼んでいたからこの世界の人間はそれまでの呼び名を捨てゴブリンと呼ぶようになったのだ。
 もしかしたら彼は、俺と同じように別の世界から転移してきた人間なのかもしれない。
 彼が俺と同じ世界線もしくは、ゴブリンやトロールといった空想の生き物が存在する別のパラレルワールドからの転移者であればこの世界の魔物のネーミングにも納得がいく。
 残念ながら彼が元の世界に帰ったという記録は存在していない。
 彼のその後はどの資料も決まって妻を何人も娶ってみんなで幸せに暮らしたというものだ。
 おそらく本当のことなのだろう。
 彼は80年という短い寿命を全うした。
 きっと身一つでの転移だったのだろう。
 いくら遺伝子操作を受けていようがナノマシンを定期的にメンテナンスすることができなければ人間はそれほど長くは生きられない。
 きっと元の世界に帰ってもっと長く生きたかったことだろう。
 もし俺が身ひとつでこの世界に転移していたらと思うとぞっとする。
 改めて宇宙戦艦と一緒に転移したことが幸運だったことを実感する。

「さて、帰るか。メティス、回収を頼む」

『了解しました』

 携帯端末でメティスに連絡し、ドローンでゴブリンの死体を回収してもらえるように頼む。
 これも資源といえば資源だ。
 アミノ酸レベルで余すところなく活用してやろう。
 体内のエネルギー結晶体についてはまだ解析が進んでいないから何に活用できるのかはわからないが冒険者ギルドに売るよりは有用な使い道がいずれ見つかることだろう。
 今日手に入れた魔道具やこの世界の生物の身体の構造なども解析していけば新たなテクノロジーがいくつも生まれる可能性だってある。
 俺は研究者ではないので新たな可能性の発見などには興味はないが、できることが増えればこれからの俺の長い人生を豊かにしてくれるはずだ。
 いつまた亜光速で宇宙を彷徨うことになるかわからないし、あのときの状況を打破することのできるテクノロジーだけは何をおいても開発しておきたい。
 この星は科学的な技術においては俺たちが元居た場所よりも劣るが、新たな可能性に満ちている。
 もはや国にも職にも縛られる必要はない身だ。
 せいぜいじっくりこの星のことを調べていこう。





「あ?なんだお前たち」

「に、人間!?」

「どうしよう見つかっちゃったよ!!」

「に、逃げなきゃ!!」

 町に帰って地下へ降りようと廃墟に入ってみれば、小汚い数人の子供が廃墟を占拠していた。
 よく見れば普通の人族ではない。
 頭からは獣の耳のようなものが生え、尻から尻尾を垂らしている。
 人間に獣の部位を外科手術で移植したようなこの不思議な種族はドローンの報告にも挙がっていたはずだ。
 これまた古典ファンタジーのままの種族名で、獣人というらしい。
 人間たちは彼らのような種族を人のなりそこないと蔑んで亜人と呼んでいた。
 この国には奴隷制度が表向きには存在しないが、実際には奴隷にされた人が首輪をつけられて普通に町中を歩いている。
 それがなぜなのかといえばこの国の人間ではないからだ。
 この国の法はこの国の人間にしか適用されない。
 つまり他国の人間は奴隷にして酷い扱いをしてもいいし、もっと言えば獣人は人間ですらないから人間扱いをする必要はない。
 そんな考えがこの国では常識となっている。
 廃墟を占拠している獣人の子供たちの首には皆一様に金属の首輪のようなものがつけられている。
 おそらくこの子供たちは奴隷としてこの国に連れてこられ、そして逃げ出してきたのだろう。
 そしてどこからかこの貧民街に逃げ込んだ。

「はぁ、運が悪い。わざわざ俺の船へ降りるためのエレベーターがある廃墟を選ばなくてもいいのに」

「お、俺たち捕まえにきたのか!?」

「お前たちになんか興味がない。さっさと出ていけ。ここは俺の家だ」

「捕まえない?」

「捕まえない」

「そ、そんなの嘘に決まってる!!」

「はぁ、もうどけ」

 今まで相当人間に酷い目にあわされてきたのだろう。
 全く俺の言葉を聞き入れる気がない子供たち。
 ここで話を続けても時間の無駄だと思い、俺は子供たちを押しのけエレベーターに乗り込む。

「わ、開いた」

「このエレベーターにさえ触れなければこの家は自由に使っていい。じゃあな」

「ま、待……」

 締まるドア。
 エレベーターは静かに下りていく。

『よかったのですか?』

「よくないが出ていけといっても出ていかないのだから仕方がないだろ」

『そうですね。そういうことにしておきます』

「あと、あの廃墟。隙間風が入らないように直しておいてくれ。鍵もかかるようにな」

『了解しました。フフ』

 まったく、最近のAIは進歩しすぎだ。
 

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