例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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8.旅立ち

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「もう出て行ってしまわれるのですね。まだまだ魔法のことでお話し足りないことがたくさんあるのに……」

「すみません、ここから先は自分で研鑽していきたいと思います」

「そうですか。それもいいですね。今度会ったときには研究結果を見せ合いましょう」

「はい」

 ガチの魔法研究者っぽいラズリーさんに比べて、俺がガチなのはサバゲーだけだ。
 互いに同じ時間の研究をして見せ合えるような内容になるとは思えないけどな。
 だが、そのときは拙いながらも俺なりの研鑽の結果をありのままに見せるだけだ。
 案外素人のほうが固定概念の無い自由な発想という点では勝っているかもしれない。
 コロンブスの卵というやつだ。
 
「こちらお預かりしていた金貨になります。あとは旅の役に立ちそうな物資を集めておきました」

「ありがとうございます」

 頭の寂しい初老の人が5千枚の金貨を箱に入れて持ってきてくれる。
 他にも寝袋やテント、水筒、携帯食料など色々と役に立ちそうなグッズをくれるらしい。
 王城への滞在費も、俺は払うと言ったのだが全く受け取ってはくれなかった。
 あんな部屋に泊まったらいくらかかるか分からないというのに。
 タダで1ヶ月近くも泊まってしまって申し訳ない限りだ。
 向こうは俺を召喚に巻き込んでしまったという落ち目があるのだろうが、俺は存外楽しんでいるのでそれほど気にすることはないのだが。

「和泉さん、ずっと王城で一緒に暮らそうよ」

「もっと効率的なトレーニング方法とか教えてくれよ」

「銃についての話をしたいです」

「あたし和泉さんの教えてくれたダイエット法で夢のくびれが出てきたんだよ」

 勇者パーティ4人組ともずいぶんと仲良くなった。
 王城のトレーニングルームでよく会うものだから、トレーニングに関する話をよく交わした。
 リク君はガンマニアなようで、銃の話もした。
 楽しくなかったと言えば嘘になる。
 だけど、俺は彼らと一緒に魔王と戦うことはできないんだ。
 俺がこれからも生きていかなくてはならなくなったこの世界の命運を若者たちだけに任せるのは心苦しいけれど、俺が一緒にいても足手まといになるだけだ。
 魔王の魔力値は推定3000を超えるらしい。
 魔力値100や200の老人を前にしても恐怖心を抱く俺が、魔王の前に立つことは敵わないだろう。
 近づいただけでショック死する可能性だってある。
 魔力値の威圧感を抑える訓練をする前は、エイジ君たちの前にさえ立っていることが辛かったほどなのだ。

「ごめん、今の俺では君たちの力になることはできないんだ」

「そんなっ、俺達和泉さんがいてくれるだけで……」

「エイジ君、楽しいだけでは魔王は倒せない。仕事と同じだ。フリーターが仕事を語っても説得力は無いかもしれないけれど、ちょっとだけ聞いて欲しい。やらなければならないことを遂行するパートナーはさ、仲良しなだけではダメなんだよ」

「和泉さん……」

 エイジ君は頭がいいから、きっとこれだけで分かるだろう。
 足手まといはいらない。
 仕事も魔王との戦いも、足を引っぱる味方ほど性質の悪いものはない。
 ギリリと俺は拳を強く握り締めた。
 巻き込まれた一般人か、まったく不名誉な称号をくれたものだ。
 神様だか誰だか知らないが、俺の小さなプライドを刺激するのが上手いじゃないか。
 このまま巻き込まれた一般人として、この世界で安穏と暮らしていくのが利口な選択なのだろう。
 元々そのつもりだったし、生涯をかけてエアガンを作るのを目標として生きるのが俺にとって相応しい人生だと思うよ。
 さっきまでそのつもりだったさ。
 魔王なんて知ったことではないと開き直って、この世界で好きなことだけやって暮らしていくつもりだった。
 だが10以上も年下の若者たちが頑張っているのに、俺はそれでいいのかと思った。
 そりゃあ俺だって力があったら魔王とだって戦ってやるさ。
 だが俺は巻き込まれた一般人で、魔力値12の雑魚なんだぞ。
 魔王と戦うのなんて選ばれた奴がやればいいんだ。
 分不相応なことに首を突っ込んで足を引っぱるのはごめんだ。
 色々な思いが錯綜した。
 そして結論は出た。
 魔王をとりあえず見てみる。
 遠くから見て、やれそうならやる。
 無理そうならやらない。
 情けないがここが俺の限界だ。
 この世界の人間が匙を投げた魔王という存在に俺などが何か痛痒を与えられるか分からないが、さっきコロンブスの卵だなんだと思ったばかりだ。
 何か常識の外側からの打開策が存在しているかもしれない。
 おじさんはおじさんなりに、この世界で生きてみようと思う。
 そして魔王というものについて考えていきたいと思った。






「登録お願いします」

「はい、文字は書けますか?」

「書けます」

 王城を出た俺が向かったのは、隣町。
 それほど遠くまで旅することもなくてお恥ずかしい限りだ。
 俺が今までいたのはグレース王国という国の王都マグレーゼ。
 この国の王様の住んでいる王城がある町だ。
 その王様の居城たるお城に1ヶ月も宿泊していたというのだから不思議な気分だ。
 王様には会ったことはない。
 やはり下々の者とは簡単には会わないような生活をしているようだ。
 魔王を倒すために異世界から召喚された勇者パーティであるエイジ君たちは一度だけ会ったことがあると言っていた。
 髭もじゃで玉座にふんぞり返った偉そうな人だったとのこと。
 そりゃ偉いんだから偉そうにはするだろう。
 自分たちの都合で異世界から呼び出して帰れなくなった勇者パーティに対してまで偉そうにするのはどうかと思うがね。
 そんな偉そうな王様がいる都から歩きで2日ほどの距離にある町が今いる町だ。
 町の名前はパティス。
 魔動車という魔力で動く荷車のような乗り物に乗れば王都までは数時間で行き来できるために、王都に対する衛星都市のような役割のある町だ。
 街道はしっかりと整備されており、道の両脇には深い堀と高い塀まで作られている。
 この町までの道中には盗賊や魔獣、野生動物すらも出没することはなかった。
 王都から護衛を雇わずに安全に移動することのできる町とラズリーさんが言っていただけはある。
 そんな町に来て、俺がまず入ったのは冒険者ギルド、ではなく狩人ギルドだ。
 魔王を遠くから見学してみるにしてもこの世界でのほほんと暮らしていくにしても、この低い魔力値だけはなんとかしなければならない。
 人間を狩って魔力値を上げるわけにもいかないので、狩るのは当然魔獣や野生動物だ。
 冒険者と狩人、どちらも魔獣や野生動物を狩る職業として昔から色々と競合することも多かったと聞く。
 今では触媒や武具の素材は冒険者、服飾用の毛皮や食肉は狩人と住み分けがなされているらしい。
 だが触媒や武具の素材ともなれば狩るのはほとんどが魔力値50以上の魔獣だ。
 俺が加入するとすれば当然毛皮と食肉狙いの狩人ギルドということになる。
 いつか魔獣を狩れるようになったら冒険者になるのも悪くないと思うけれど、今無茶をしてもいいことは無い。
 どうせ異世界テンプレの荒くれ冒険者にボコられるだけだ。
 俺は狩人ギルドで普通の兎や鳥などを狩るところから始めるさ。
 魔獣と戦う冒険者に比べて地味な狩人は人気が無いのか、狩人ギルドには人がまばらだった。
 金に困っているわけでもないし、別に仕事が無いなら無いで構わない。
 ギルドに加盟する一番の目的は、単純に身分証を作るためだ。
 王城で頭の寂しい初老の人が発行してくれた身分証は、王様のハンコが押してあって目立つ。
 特別扱いを受けるのは少し気持ちがいいが、大金を持っているのが露見してたちの悪い輩に狙われてもかなわない。
 地味な低級狩人の身分証などを作っておくべきだろう。

「書けました」

「ありがとうございます。狩人としてのスキルはひと通り持っていらっしゃるんですね。魔力値は……12ですか……」

 そんな顔しなくても。


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