例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

文字の大きさ
8 / 29

閑話(エイジ君視点)

しおりを挟む
 大学2年生の春休み、ゴールデンウィークの旅行のための費用を稼ぐためにアルバイトをした。
 お調子者だけどムードメーカーの颯太。
 無口だけどしっかりものの陸。
 怠け者だけど優しい彩香。
 最高のメンバーだ。
 きついと聞く引越しのバイトでも、みんなで頑張れば楽しいはずだった。


 春休み最後の現場、その日のバイトを終えれば晴れて自由の身だ。
 10日間も休みになるという今年のゴールデンウィークの中5日間を沖縄で過ごすための資金は十分溜まった。
 この4人のメンバーだったら、きっと楽しい旅行になる。
 そんな確信があった。
 最後の現場は大きめの一軒家の引越しで、俺達4人の他に社員が3人とバイトのおじさんが一人一緒だった。
 おじさんといっても30半ばくらいでまだまだ若者と中年の間という感じの人で、すごい身体をした人だった。
 まるで自衛隊員か消防士かというような見事な肉体をした人で、少しシャイなようだが悪い人ではない気がする。
 無精ひげは公務員っぽくなかったが、髪は短く切りそろえられていたので本当にそういう職業の人かと思った。
 職業を聞いたらフリーターだと言っていた。
 何か事情があるのかもしれない。
 悪いことを聞いてしまったかもな。
 颯太や彩香はあの筋肉を触らせてもらっていた。
 俺も少し触ってみたかったな。
 ああいう細マッチョとゴリマッチョの中間くらいの筋肉というのは憧れる。
 その人、和泉さんという人は大学の近くのコンビニでアルバイトしていると言っていたので、また会えることがあるかもしれない。
 今度会ったらそのときこそは筋肉を触らせてもらおうと思った。
 再会を約束して和泉さんと別れようとしたとき、それは起こった。
 地面から紫の光があふれ出て、俺達の身体を包み込んだ。
 俺は咄嗟に和泉さんの腕を掴んで光の中に引きずりこんでしまった。
 ただただ怖かったんだ。
 その光がなんなのか後に分かったとき、俺はその行動を後悔することになる。






「あなたはこちらへ」

 異世界転移だなんだとワイワイ言っているうちに、和泉さんはどこか別の場所に連れていかれてしまった。
 俺が巻き込んでしまった。
 和泉さんに何かするつもりなら、俺はこの国の人間を許さない。

「和泉さんはどこに連れていかれたのですか?」

 俺は勇者召喚だなんだと説明する神経質そうなメガネの男に、和泉さんのことを尋ねる。
 答え次第によっては……。
 颯太と彩香の二次元知識によって、自分たちの状況は完全に把握した。
 すでに鑑定によって、自分のステータスも把握している。
 周りとの力の差も。
 
名 前:エイジ・カノウ
性 別:男
年 齢:19
称 号:【異世界人】【勇者】
魔力値:420
属 性:全
固有スキル:【勇者の心ブレイブハート
スキル:【言語理解】【アイテムボックス】【鑑定】【聖剣召喚】【剣術】

 この身体に漲る力はあちらの世界では感じなかったものだ。
 魔力によって身体が強化されているのだろう。
 この世界では魔力が強い人が単純に強いのではないかと陸は言っていた。
 だとしたら俺たちは誰よりも強いはずだ。
 周りの人間たちは高い人でも魔力値が200程度の人ばかり。
 負ける気がしない。

「別に何もするつもりはありませんよ。私どもには召喚に巻き込んでしまった責任というものがありますので、賠償の話をするだけです」

 メガネの男は表情が変わらないので本当のことを言っているかわからない。
 そう言って追放したりダンジョンの底に置き去りにしたりする召喚モノもあると彩香が言っていた。
 油断はできない。
 和泉さんにひどいことをしたら絶対に許さないぞ。





「あ、和泉さん」

「おはよう」

「「「おはようございます」」」

 気を張っていた俺とは裏腹に、和泉さんはリラックスした顔で次の日朝食に顔を出した。
 拍子抜けしてしまった。
 何もされていないかと聞くと、本当になにもされていないという。
 それどころか一生遊んで暮らせるだけの金をもらって王城でこの世界のことを勉強させてもらえるのだという。
 心配して損をした。
 迷惑料代わりに筋肉を触らせてもらった。
 鋼のような身体とはこのことだ。
 勇者としての訓練を頑張ろう。
 そしてあんな身体を目指したい。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

処理中です...