例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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7.魔法系スキル

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「たとえば、私の持っている魔法系スキルですとこんな感じですかね」

 ラズリーさんは人差し指を立て、その指先に小さな火を灯らせて見せた。
 魔法には触媒と魔法陣、詠唱が必要になるはずなのに、ラズリーさんはそんなものを全く使う様子もなかった。
 これが魔法系スキルの効果なのだろうか。

「これは魔法系スキル【火魔法】の効果によるものです。その属性のスキルを使い続けていると、ある日突然その属性の魔法スキルが芽生えることがあるのです。スキルの効果は触媒と魔法陣が無くても魔法が使えるというものです。詠唱をすることなく魔法が使えたのはまた別の詠唱破棄というスキルの効果です」

 ラズリーさんは本職が魔法に関するものだというだけあって、魔法系スキルをたくさん持っているようだった。
 やはり魔法を使う機会の多い人ほど魔法系スキルを取得する可能性は高まるのだろう。
 他にもラズリーさんは光と闇以外の属性魔法スキルを全て持っており、俺の前で自在に色々な魔法を使って見せてくれた。
 それはまさしく俺の思い描いていた異世界の魔法使いそのものだ。
 
「ラズリーさん、俺属性魔法スキルを覚えたいです」

「わかりました。できる限りのお手伝いをいたします」

 話を聞いているとラズリーさんは魔法関係に関して天才的な才能を持っているようで、全ての属性魔法スキルを1週間足らずで覚えたらしい。
 だから俺もきっとそのくらいあれば覚えられるとラズリーさんは言うのだが、どう考えてもそれは無理だ。
 全属性のスキルを覚えるのは天才ではない俺にとってはかなりハードルが高いので、一つの属性に絞って練習することに決めた。
 練習するのは地属性の魔法。
 固体に関する魔法を使うことのできる属性だ。
 岩、鉄、タングステン、どれだけ硬いものでも固体のまま形を変えることができるのがこの魔法なのだ。
 大規模な地割れを起こしたりという大魔法が戦闘に使われることもあるが、一番この魔法が活躍するのは建築業や鉄工業だ。
 コンクリートの無いこの世界の基礎工事はすべて地属性の魔法によって行なわれる。
 高温の炉が無くても融点の高い硬質金属を加工することのできる地魔法は、鉄工業でも大活躍だ。
 この世界の工業は地属性魔法が支えていると言っても過言ではない。
 俺は特に工業に興味があるとかではないのだが、作りたいものがあった。
 俺が向こうの世界で慣れ親しんだエアガン。
 それがこの世界には無い。
 そもそも銃自体がこの世界ではメジャーな武器ではなかった。
 過去の勇者が伝えたのか銃という武器は存在していたが、もの好きな貴族が遊びで狩りに火縄銃を使うくらいのものだ。
 電球と同じだ。
 必要ないから誰も作ろうと思わない。
 火縄銃をより良いものに進化させようとは思わない。
 火の玉を飛ばしたり風の刃を飛ばしたりする魔法があるのに、わざわざ金属の弾を飛ばす必要は無いのだ。
 銃と同じことを魔法で再現すると、地属性の魔法で弾丸を用意して風属性か火属性の魔法で弾丸を飛ばすという2つの段階を踏む必要がある。
 どう考えても火属性の魔法か風属性の魔法でそのまま攻撃したほうが効率がいい。
 この世界の人たちはそう思っているのだろう。
 それは知らないからに他ならない。
 火縄銃が進化した先に、1キロ以上離れた場所から脳天を打ち抜くような銃があることを。
 大口径の弾を人間がミンチになるまで撃ちまくれるような銃があることを。
 きっと銃を知らしめた勇者は知っていたはずだ。
 だがそれほど銃に詳しくなかったのか、説明が下手だったのか、伝える術を持たなかった。
 やっとのことで実際に作ってみたのが火縄銃。
 この世界の人は火縄銃イコール銃だと思ったことだろう。
 火縄銃は魔法の無い世界の武器で、自分たちには魔法があるから必要ない。
 そうして銃は廃れた。
 ミリタリーマニアとしては少し寂しい気がするが、それはそれでこの世界の人が選んだ道なのだからしょうがない。
 あちらの世界の平和思想の人なら銃がない世界なんて素晴らしい世界じゃないかと言う人もいることだろう。
 俺だって別に正しい銃の知識をこの世界に広めるつもりはない。
 あちらの世界でも優秀な銃を作った人物はひどい言われようだった。
 史上最悪の大量虐殺兵器とまで言われたAK-47という銃を作ったミハイル・カラシニコフは悩みながら死んでいったという。
 俺は彼のように世界に死を蔓延させた罪の意識に悩みたくはない。
 俺の欲望は極めて単純だ。
 サバゲーがやりたい。
 だからエアガンを作る。
 無いから作るしかない、それだけだ。
 俺だっていきなり作れるとは思っていない。
 少しずつ金属加工の技術を上げていき、いつか作れたらいいくらいの考えだ。
 エアガンの弾であるBB弾は軽いもので0.12グラムほどと非常に軽い。
 重いものでも0.43グラムほどしかない。
 そんな弾丸を飛ばす以上は、ほんのコンマ何ミリの部品の精度を求められる。
 ほんの少しの歪みが軽い弾に変な回転を生んだりしてしまうのだ。
 それは弾のほうにもいえること。
 たった6ミリの小さな弾をなるべく真球に近づけなければ空気抵抗で弾の軌道はめちゃくちゃになる。
 金属加工のきの字も知らないような素人が手を出せる製品ではない。
 まずは簡単なものから作っていき、最終的にエアガンが作れたらそれでいい。

「ではまずはこの銀をつかって、食器を作ってみましょう」

「はい」

 最初の課題は銀食器か。
 貴族や王族が食事に使うやつだな。
 毒を盛られることの多いやんごとなき身分の人たちは、硫黄系の毒によって変色しやすい銀の食器を好んで使うという。
 なんだか殺伐とした文化だ。

『銀よ、変形せよ』

 ラズリーさんが使っていたのと同じ、古代ヤームナハル語という言語によって魔法を発動させる。
 詠唱が必要なくなるという詠唱破棄のスキルも早めに欲しいものだ。
 そちらはラズリーさんでも1ヶ月かかったというので俺には何年かかるか分からないが。
 魔法の発動により、塊だった銀がにょろにょろと伸び始める。
 硬い金属がパン生地のように伸びていく様はまるで何かのトリック動画のようだ。
 必死で魔法を操り、銀を捏ねるが思ったようには動いてくれない。
 まるで手を使わずに粘土細工を作っているようだ。
 銀が全く思ったとおりに動いてくれない。

「イメージがちょっと悪いかもしれないですね。少しずつ調整していくようなイメージではなく、いきなり完成品を思い浮かべてください。魔法がイズミ様のイメージどおりの作品に勝手に仕上げてくれるようなイメージです」

 ラズリーさんは銀を手に取るとそれを一瞬でナイフやフォークにして見せた。
 俺は職人が少しずつ銀の形を変えて食器を作っているイメージだったのだが、どうやら魔法とはそういうものではないようだ。
 どちらかといえば3Dプリンターが近いのかもしれない。
 完成品のデータがあり、それに忠実に素材を加工してくれる。
 そんなイメージだ。

「なるほど。やってみます」

 俺がイメージするのは貴族が使っているような丸みをおびた装飾過多の銀食器。
 皿と、ナイフとフォーク、スプーン。
 隅々までをイメージし、魔法にこれを作れと命じる。

「できました」

 俺の手元にはそれほど綺麗ではないが、一応形になった銀食器が一式。
 今の俺の実力ではこんなものだろう。



 
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