例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

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22.ハンドガン

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 消音の魔道具はオーダーメイドで三日ほどで作ってもらうことができた。
 代金は大銀貨3枚。
 大銀貨は大体銀貨10枚くらいの価値がある硬貨だ。
 つまり魔道具の価格は30万円くらいということだ。
 やはりオーダーメイドの魔道具は高いな。
 しかし金をかけただけあって俺の要望がかなり組み込まれ、なるべく小規模かつコンパクトな魔道具となっている。
 本体のサイズは100円玉くらいの大きさで、消音の効果範囲は半径40センチ。
 アンチマテリアルライフルの銃身は80センチ弱だから真ん中あたりに組み込めば十分に発砲音を消すことができる。
 固有スキルについても、最近になって3人目の分身が出せるようになった。
 自分の魔力値が50を超えたあたりで突然属性魔法スキルが芽生えたりスキルが成長したりしたことから、魔力値とスキルは密接に関わっているのかもしれない。
 スキルを使うにも魔力を消費するから、新たなスキルを手に入れたり既存のスキルを成長させるためには魔力値に余裕が必要だというのが俺の推論だ。
 実際魔力値が高い人は強いスキルをいっぱい持っている。
 きっと本人の努力もあるのだろうが、魔力値が高ければその努力が実力に結び付きやすいということなのだろう。
 魔力値を上げるということがスキルや魔法などすべてに繋がるのならば、ひたすら格上を狩って魔力値を上げるだけのこと。
 まだ魔力値100越えの魔獣にアンチマテリアルライフルを試してはいないが、魔力値80や90の魔獣には通用していた。
 今日までの狩りでは、すべて一撃で魔力を内包したその分厚い皮下脂肪と筋肉の鎧を打ち破り仕留めることに成功している。
 弾丸が貫通していることから、もう少し固い獲物であっても狩れるのではないかと思っている。
 ただ、魔力値100という数字にも何か壁的なものがあるのではないかとも思う。
 魔力値50を超えたら野生動物が劇的に強くなったのだ、100を越えたらまた別次元とかがあってもおかしくはない。
 肉食獣殺しの化け物鹿にアンチマテリアルライフルの弾が当たるイメージが全く思い浮かばないからなのかもしれないがな。
 トラウマを撃ち破るのはなかなか難しそうだ。





 虎発見。
 体長250センチと仮定して、距離800メートル弱。
 魔力値89か、いける。
 俺は観測手役の分身の覗きこむ望遠鏡に映る虎を見てそう判断した。
 俺が固有スキルによって生み出す分身はすべて本体を通して感覚を共有している。
 それゆえに声に出して情報を伝えることなく行動に移すことができる。
 俺は狙撃手役の分身に虎を照準させながらも、回収役の分身を虎の近くまで走らせる。
 すべての分身が一つの意思によって俺の手足のように動いているからこそこのようなことができる。
 この世界には通信の魔道具というものも存在しているが、いちいち通信で情報のやり取りをしてから動くのとは初動の早さに天と地ほどの差がある。
 このまま分身がどんどん増えて小隊規模や中隊規模になっていったら最強の軍隊ができるかもな。
 軍隊の理想は小魚の群れのように一つの意思の元に郡体となることだ。
 俺の分身は文字通り意思は一つ。
 理想の動きをする軍隊になることだろう。
 そのためにも、あの虎を仕留めてまた俺の魔力値の糧となってもらうとしよう。
 回収役の分身が配置に付き、すぐさま狙撃手役の分身が銃の引き金を引く。
 発砲の反動によって狙撃手役の分身はすぐに消えてしまった。
 消音の魔道具のおかげで発砲音はせず、音速を超えた弾丸が空気の壁を突き抜ける僅かな音だけが観測手役の耳に届く。
 観測手役の覗きこむ双眼鏡に、胴体を撃ち抜かれて悶絶する虎が映った。

「ちっ、仕留め切れなかったか」

 急所を外したか、何か死に難くなるようなスキルでも持っていたのかもしれない。
 幸運ってスキルが怪しいな。
 俺も欲しい。
 だが幸運なんて絶対後天的に手に入れることはできなさそうなスキルだ。
 諦めるか。
 俺は傍らに置かれたアンチマテリアルライフルを取り出し、手早く照準を合わせていく。
 分身と一緒にアンチマテリアルライフルも消えてしまうから次弾を放つには一から照準を合わせる必要がある。
 このへんが少し面倒だな。
 だが分身にアイテムボックスからオリジナルのアンチマテリアルライフルを取り出させて狙撃すると何かのアクシデントで分身がすべて消されたときに森に銃だけが取り残されることになる。
 そういった事態を避けるためにも銃は本体が装備した状態で固有スキルを使用し、コピーしたものを使う必要があった。
 やっぱりもう1体分身が欲しい。
 仕留め切れなかったときに素早く次弾を放つことのできる狙撃手Ⅱ役の分身が欲しいところ。
 分身は何人いても足りないと思ってしまっていかんね。
 俺は静かに引き金を引いた。
 これで観測手役の分身も消えた。
 生死の確認は回収役にさせるしかない。
 獲物から200メートルほど離れた場所にギリースーツを着て潜んでいた回収役の分身が双眼鏡を覗きこむ。
 2発の弾丸を胴体に食らった虎はピクリとも動かない。
 魔獣は生命力も高いから油断はできない。
 特にこいつは超ラッキーな奴だからな。
 また急所を外されている可能性がある。
 俺は回収役を獲物に近づかせる。
 手には町での護身用に最近作ったハンドガン。
 ハンドガンの反動ならば分身が消えないことは実験によって検証済みだ。
 弾は9×19ミリ通常弾。
 獣相手に使うならばホローポイント弾という非貫通性の凶悪な弾のほうがいいかと思ってそれも用意したのだが、どうやら魔獣に9ミリ程度の弾丸はそもそも体表を貫通することができないようだ。
 体内に弾が入り込めないのならばホローポイントも通常弾もそれほど関係はない。
 空気抵抗の関係で通常弾のほうがいいくらいだ。
 何度か検証を行なったのだが、9ミリの弾で体表を貫通することができるのは魔力値60代前半くらいまでだ。
 魔力値が高くて貫通できなくても、ダメージが入らないというわけではないようなので護身用としてはこんなものだろう。
 俺はハンドガンを両手で構え、虎にゆっくりと近づいた。
 あまり時間をかけるわけにもいかないから慎重かつ大胆にだ。
 消音の魔道具のおかげで発砲音はなんとかなったが、血の匂いでも魔獣は寄ってくる。
 俺はハンドガンを虎の頭に向かって発砲した。
 これにも30万円かけて消音の魔道具を組み込んでいるために発砲音はしない。

「グルァァァァッ!!」

「ちっ、まだ息があるのかよ」

 頭に弾丸を受けた虎は最後の力を振り絞ってこちらに牙をむく。
 俺は柔らかそうな口の中に向けてハンドガンを撃ちまくった。

「グルル……」

 ハンドガンの弾数は15発。
 足元に転がる薬きょうの数も15個。
 弾切れだ。
 虎はすでにぐったりしているが俺は油断せずに弾倉を替え、スライドを戻す。
 セミオートのハンドガンはこれだけで薬室に新しい弾が装填される。
 俺は慎重に虎の毛皮に触れ、アイテムボックスに収納した。
 入ったということは死んだということだ。

「はぁ、疲れた」

 俺はいつものように回収役の分身を消し、宿屋で起き上がる。
 まったく、狩りっていうのは分身であっても気を張りっぱなしで疲れる。
 だが分身だからといって死なないから平気だと気を緩めればそれが癖になり、本体で行動するときにもその甘えが出てしまう可能性もある。
 本体は格上の攻撃なんぞ一撃でも受ければ死んでしまうのだ。
 気をつけなければならない。


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