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28.人間爆弾
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強者は弱者に何をしてもいい。
結局それに尽きるのかもしれない。
ジルタが復讐を果たすことができないのも、俺が拳を握り締めたまま何もできなかったのも、すべては弱いからに他ならない。
魔力値12だった頃に比べたら少しは強くなれた気でいたが、これではチンピラに怯えていたあの頃と何も変わらないじゃないか。
深夜、眠ることができずに俺の足は自然とジルタが襲撃した宿に向かっていた。
宿には夜遅くだというのに煌々と篝火が焚かれ、あちこちに怪我を負った屈強な男たちがうろついている。
さすがに襲撃があった夜は警備を厳重にするか。
「何か、するつもりじゃないでしょうな」
不意に肩に手を置かれ、ビクリと震えた。
振り向けば先ほど俺がジルタに加勢するのを止めた騎士が悠然と佇んでいた。
ずっと見張っているのだろう。
「別に何もするつもりはありませんよ、こっちの俺はね」
「こっち?」
騎士がそう口にした瞬間、宿の一部が爆発した。
「何をした!?」
「別に何も。こっちの俺はね」
別の俺がちょっと大変なことをしでかしてしまったかもしれないがな。
正義の騎士だとか自分の口で言う寒い奴に加勢を止められた俺は、一度宿に戻ってもう一度ジルタに加勢しにやってきていた。
最近インスタントアバターが成長して俺は4体までの分身を出すことが可能だ。
そんな便利なスキルを駆使すれば見張っているであろう騎士を欺くことなどは容易い。
分身の1体を陽動としてふらふらと出歩かせておき、残った3体の分身でジルタの救出に向かう。
本体はいつでも分身を作りなおせるように隠れて分身3体の近くで待機だ。
あの化け物みたいな魔力値を持った正義の騎士とやらが陽動の分身に構っている間に、残った3体はプラスチック爆弾を身体に巻いて宿に特攻する。
テロリストがよく使う人間爆弾というやつだ。
旧日本軍もやっていた由緒正しい頭の狂った戦法の一つだが、俺にはユニークスキルがあるので無傷で実行することができる。
この戦法の前には強敵も弱兵も関係ない。
俺は片っ端から強そうな奴に突撃をかけ、一撃貰う直前に電子信管を作動させて自爆していった。
自爆するたびに次の分身を出し、宿に特攻させる。
これを繰り返せば弱い下っ端だろうが強い幹部だろうが俺の分身に近づくことはできなくなる。
フリーになった俺の分身3人組はゆっくりと、宿の奥へ向かっていく。
「「「ジルタ、頼むからまだ生きていてくれよ」」」
正義の騎士とかいう変なやつも変態貴族もみんな敵に回してここまでやったんだ。
これで肝心のジルタがすでに殺されてしまっていたらさすがに恨むぞ。
俺は捨て駒にされた下っ端傭兵たちをハンドガンでかく乱しながらジルタのいる場所を探した。
3階の一部にやたらと大勢集まっている場所があった。
いるならここだろう。
「お、おいてめぇっ、ここをどこだと思ってやがる!!この宿には傭兵ギルドがバックに付いてるんだぞ!!」
「そうだ!!それに今日ここに泊まっているのは貴族だぞ!!」
「うるせぇっ!!てめえら全員まとめて吹っ飛ばすぞ!!!」
久しぶりに大声を張り上げた気がする。
俺が電子信管の起爆スイッチを握り締めながら前に出ると傭兵たちは大きく後ろに下がった。
先ほどまでの光景がチラついたのか、かなりビビっているな。
都合がいい。
こいつらを纏めて吹き飛ばすだけの威力はさすがに俺の持っているプラスチック爆弾には無いからな。
至近距離で爆発すれば魔力値100越えの化け物でも重症を負うくらいの威力はあるが、これだけの人数が重なり合うように集っていれば後ろのほうの奴らには爆弾の破片や衝撃が届かない。
「く、狂ってやがる。てめえら死ぬのが怖くねえのか?」
俺は一応覆面で顔を隠しているので、どうやらこいつらは自爆しているのが全員本物の人間だと思っているようだ。
ここまで思惑通りにいくと少し楽しくなってくる。
自爆テロのような人間の狂気というのは時に大きな恐怖をもたらす。
こいつらもなんの躊躇もなく自爆する人間を前にして恐怖を抱いているのだろう。
傭兵のくせに情けない奴らだ。
俺からしてみたら好き好んで戦争に参加する傭兵のような職業のほうがよほど狂って見えるがな。
俺は適当に狂ったテロリストを演じながら、ジルタを探した。
人の気配を感じるのは傭兵たちが守る観音開きの扉の部屋と、それからその手前の倉庫のような小さな扉の部屋。
さすがに観音開きの部屋のほうは入るためにもう何発か自爆しなければならないだろう。
倉庫のほうから先に確認するとしよう。
俺はハンドガンで倉庫の鍵を壊し、開け放った。
「うぅ……」
するとそこにはボロ雑巾のようにされたジルタが横たわっていた。
まさかのこっちが正解か。
ジルタはボロボロだったが、息もしているしどこも欠損するような怪我をしていない。
獣人の頑丈さに感謝だ。
これならなんとか手持ちの回復アイテムで治療できるだろう。
俺は1体の分身にジルタを抱きかかえさせ、残りの2体で最後の特攻をかけた。
「く、来るぞぉ!」
「もうこんなことやってられるかよ!!俺は逃げるぜ!!」
「お、俺もだ!」
「てめぇらそんなことが許されると思ってやがるのか!!」
ちょうどいい具合に恐怖が蔓延し、傭兵たちは逃げ腰になって内輪揉めを始めている。
俺は躊躇なくそこへ特攻をかけた。
大きな爆発音と焼けただれた仲間たちの姿が更に傭兵たちの恐怖を煽る。
「うわぁぁぁっ、逃げろぉ!!」
「待てお前たち!!」
その夜、傭兵ギルドご用達の宿は謎のテロリストにより半壊の憂き目にあったのだった。
一方その頃正義の騎士と相対する俺の分身は、炎上する宿をゆっくりと眺めていた。
「あっちで何かあったみたいですね。行ったほうがいいんじゃないですか?」
「貴様!何をした!!」
すごい形相だ。
こっちが本性っぽいな。
正義とか言ってうすら寒い笑顔を浮かべた顔よりはこっちのほうがまだお友達になれそうだ。
「別に何もしてませんよ。ほら、俺はここにいて何もしていない。それはあなたが見ているじゃないですか」
「くっ、それは、そうだが……」
「じゃあ俺はこのへんで失礼します。宿に戻って寝るんで。あ、そういえば……」
「なんだ」
「これ、国王陛下に返しておいてもらえませんか?」
俺は国王の御名御璽が押された身分証をアイテムボックスから取り出し、正義の騎士に渡す。
さすがにここまでしてしまったらもうお世話にはなれない。
慰謝料の金貨などを返すつもりはないが、この国のサポートはもう生涯受けないつもりだ。
「なっ、あ、あなたは、まさか異世界からの……」
「ラズリーさんにもよろしくお伝えください」
俺はそれだけ伝えると、固まっている騎士を放って歩き出した。
ボロボロのジルタを抱えた分身と本体に合流して、早いところ街を出ないといけない。
明日から忙しくなりそうだ。
結局それに尽きるのかもしれない。
ジルタが復讐を果たすことができないのも、俺が拳を握り締めたまま何もできなかったのも、すべては弱いからに他ならない。
魔力値12だった頃に比べたら少しは強くなれた気でいたが、これではチンピラに怯えていたあの頃と何も変わらないじゃないか。
深夜、眠ることができずに俺の足は自然とジルタが襲撃した宿に向かっていた。
宿には夜遅くだというのに煌々と篝火が焚かれ、あちこちに怪我を負った屈強な男たちがうろついている。
さすがに襲撃があった夜は警備を厳重にするか。
「何か、するつもりじゃないでしょうな」
不意に肩に手を置かれ、ビクリと震えた。
振り向けば先ほど俺がジルタに加勢するのを止めた騎士が悠然と佇んでいた。
ずっと見張っているのだろう。
「別に何もするつもりはありませんよ、こっちの俺はね」
「こっち?」
騎士がそう口にした瞬間、宿の一部が爆発した。
「何をした!?」
「別に何も。こっちの俺はね」
別の俺がちょっと大変なことをしでかしてしまったかもしれないがな。
正義の騎士だとか自分の口で言う寒い奴に加勢を止められた俺は、一度宿に戻ってもう一度ジルタに加勢しにやってきていた。
最近インスタントアバターが成長して俺は4体までの分身を出すことが可能だ。
そんな便利なスキルを駆使すれば見張っているであろう騎士を欺くことなどは容易い。
分身の1体を陽動としてふらふらと出歩かせておき、残った3体の分身でジルタの救出に向かう。
本体はいつでも分身を作りなおせるように隠れて分身3体の近くで待機だ。
あの化け物みたいな魔力値を持った正義の騎士とやらが陽動の分身に構っている間に、残った3体はプラスチック爆弾を身体に巻いて宿に特攻する。
テロリストがよく使う人間爆弾というやつだ。
旧日本軍もやっていた由緒正しい頭の狂った戦法の一つだが、俺にはユニークスキルがあるので無傷で実行することができる。
この戦法の前には強敵も弱兵も関係ない。
俺は片っ端から強そうな奴に突撃をかけ、一撃貰う直前に電子信管を作動させて自爆していった。
自爆するたびに次の分身を出し、宿に特攻させる。
これを繰り返せば弱い下っ端だろうが強い幹部だろうが俺の分身に近づくことはできなくなる。
フリーになった俺の分身3人組はゆっくりと、宿の奥へ向かっていく。
「「「ジルタ、頼むからまだ生きていてくれよ」」」
正義の騎士とかいう変なやつも変態貴族もみんな敵に回してここまでやったんだ。
これで肝心のジルタがすでに殺されてしまっていたらさすがに恨むぞ。
俺は捨て駒にされた下っ端傭兵たちをハンドガンでかく乱しながらジルタのいる場所を探した。
3階の一部にやたらと大勢集まっている場所があった。
いるならここだろう。
「お、おいてめぇっ、ここをどこだと思ってやがる!!この宿には傭兵ギルドがバックに付いてるんだぞ!!」
「そうだ!!それに今日ここに泊まっているのは貴族だぞ!!」
「うるせぇっ!!てめえら全員まとめて吹っ飛ばすぞ!!!」
久しぶりに大声を張り上げた気がする。
俺が電子信管の起爆スイッチを握り締めながら前に出ると傭兵たちは大きく後ろに下がった。
先ほどまでの光景がチラついたのか、かなりビビっているな。
都合がいい。
こいつらを纏めて吹き飛ばすだけの威力はさすがに俺の持っているプラスチック爆弾には無いからな。
至近距離で爆発すれば魔力値100越えの化け物でも重症を負うくらいの威力はあるが、これだけの人数が重なり合うように集っていれば後ろのほうの奴らには爆弾の破片や衝撃が届かない。
「く、狂ってやがる。てめえら死ぬのが怖くねえのか?」
俺は一応覆面で顔を隠しているので、どうやらこいつらは自爆しているのが全員本物の人間だと思っているようだ。
ここまで思惑通りにいくと少し楽しくなってくる。
自爆テロのような人間の狂気というのは時に大きな恐怖をもたらす。
こいつらもなんの躊躇もなく自爆する人間を前にして恐怖を抱いているのだろう。
傭兵のくせに情けない奴らだ。
俺からしてみたら好き好んで戦争に参加する傭兵のような職業のほうがよほど狂って見えるがな。
俺は適当に狂ったテロリストを演じながら、ジルタを探した。
人の気配を感じるのは傭兵たちが守る観音開きの扉の部屋と、それからその手前の倉庫のような小さな扉の部屋。
さすがに観音開きの部屋のほうは入るためにもう何発か自爆しなければならないだろう。
倉庫のほうから先に確認するとしよう。
俺はハンドガンで倉庫の鍵を壊し、開け放った。
「うぅ……」
するとそこにはボロ雑巾のようにされたジルタが横たわっていた。
まさかのこっちが正解か。
ジルタはボロボロだったが、息もしているしどこも欠損するような怪我をしていない。
獣人の頑丈さに感謝だ。
これならなんとか手持ちの回復アイテムで治療できるだろう。
俺は1体の分身にジルタを抱きかかえさせ、残りの2体で最後の特攻をかけた。
「く、来るぞぉ!」
「もうこんなことやってられるかよ!!俺は逃げるぜ!!」
「お、俺もだ!」
「てめぇらそんなことが許されると思ってやがるのか!!」
ちょうどいい具合に恐怖が蔓延し、傭兵たちは逃げ腰になって内輪揉めを始めている。
俺は躊躇なくそこへ特攻をかけた。
大きな爆発音と焼けただれた仲間たちの姿が更に傭兵たちの恐怖を煽る。
「うわぁぁぁっ、逃げろぉ!!」
「待てお前たち!!」
その夜、傭兵ギルドご用達の宿は謎のテロリストにより半壊の憂き目にあったのだった。
一方その頃正義の騎士と相対する俺の分身は、炎上する宿をゆっくりと眺めていた。
「あっちで何かあったみたいですね。行ったほうがいいんじゃないですか?」
「貴様!何をした!!」
すごい形相だ。
こっちが本性っぽいな。
正義とか言ってうすら寒い笑顔を浮かべた顔よりはこっちのほうがまだお友達になれそうだ。
「別に何もしてませんよ。ほら、俺はここにいて何もしていない。それはあなたが見ているじゃないですか」
「くっ、それは、そうだが……」
「じゃあ俺はこのへんで失礼します。宿に戻って寝るんで。あ、そういえば……」
「なんだ」
「これ、国王陛下に返しておいてもらえませんか?」
俺は国王の御名御璽が押された身分証をアイテムボックスから取り出し、正義の騎士に渡す。
さすがにここまでしてしまったらもうお世話にはなれない。
慰謝料の金貨などを返すつもりはないが、この国のサポートはもう生涯受けないつもりだ。
「なっ、あ、あなたは、まさか異世界からの……」
「ラズリーさんにもよろしくお伝えください」
俺はそれだけ伝えると、固まっている騎士を放って歩き出した。
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