例えばサバゲーガチ勢が異世界召喚に巻き込まれたとして

兎屋亀吉

文字の大きさ
29 / 29

28.人間爆弾

しおりを挟む
 強者は弱者に何をしてもいい。
 結局それに尽きるのかもしれない。
 ジルタが復讐を果たすことができないのも、俺が拳を握り締めたまま何もできなかったのも、すべては弱いからに他ならない。
 魔力値12だった頃に比べたら少しは強くなれた気でいたが、これではチンピラに怯えていたあの頃と何も変わらないじゃないか。
 深夜、眠ることができずに俺の足は自然とジルタが襲撃した宿に向かっていた。
 宿には夜遅くだというのに煌々と篝火が焚かれ、あちこちに怪我を負った屈強な男たちがうろついている。
 さすがに襲撃があった夜は警備を厳重にするか。
 
「何か、するつもりじゃないでしょうな」

 不意に肩に手を置かれ、ビクリと震えた。
 振り向けば先ほど俺がジルタに加勢するのを止めた騎士が悠然と佇んでいた。
 ずっと見張っているのだろう。

「別に何もするつもりはありませんよ、こっちの俺はね」

「こっち?」

 騎士がそう口にした瞬間、宿の一部が爆発した。

「何をした!?」

「別に何も。こっちの俺はね」

 別の俺がちょっと大変なことをしでかしてしまったかもしれないがな。






 正義の騎士だとか自分の口で言う寒い奴に加勢を止められた俺は、一度宿に戻ってもう一度ジルタに加勢しにやってきていた。
 最近インスタントアバターが成長して俺は4体までの分身を出すことが可能だ。
 そんな便利なスキルを駆使すれば見張っているであろう騎士を欺くことなどは容易い。
 分身の1体を陽動としてふらふらと出歩かせておき、残った3体の分身でジルタの救出に向かう。
 本体はいつでも分身を作りなおせるように隠れて分身3体の近くで待機だ。
 あの化け物みたいな魔力値を持った正義の騎士とやらが陽動の分身に構っている間に、残った3体はプラスチック爆弾を身体に巻いて宿に特攻する。
 テロリストがよく使う人間爆弾というやつだ。
 旧日本軍もやっていた由緒正しい頭の狂った戦法の一つだが、俺にはユニークスキルがあるので無傷で実行することができる。
 この戦法の前には強敵も弱兵も関係ない。
 俺は片っ端から強そうな奴に突撃をかけ、一撃貰う直前に電子信管を作動させて自爆していった。
 自爆するたびに次の分身を出し、宿に特攻させる。
 これを繰り返せば弱い下っ端だろうが強い幹部だろうが俺の分身に近づくことはできなくなる。
 フリーになった俺の分身3人組はゆっくりと、宿の奥へ向かっていく。

「「「ジルタ、頼むからまだ生きていてくれよ」」」

 正義の騎士とかいう変なやつも変態貴族もみんな敵に回してここまでやったんだ。
 これで肝心のジルタがすでに殺されてしまっていたらさすがに恨むぞ。
 俺は捨て駒にされた下っ端傭兵たちをハンドガンでかく乱しながらジルタのいる場所を探した。
 3階の一部にやたらと大勢集まっている場所があった。
 いるならここだろう。

「お、おいてめぇっ、ここをどこだと思ってやがる!!この宿には傭兵ギルドがバックに付いてるんだぞ!!」

「そうだ!!それに今日ここに泊まっているのは貴族だぞ!!」

「うるせぇっ!!てめえら全員まとめて吹っ飛ばすぞ!!!」

 久しぶりに大声を張り上げた気がする。
 俺が電子信管の起爆スイッチを握り締めながら前に出ると傭兵たちは大きく後ろに下がった。
 先ほどまでの光景がチラついたのか、かなりビビっているな。
 都合がいい。
 こいつらを纏めて吹き飛ばすだけの威力はさすがに俺の持っているプラスチック爆弾には無いからな。
 至近距離で爆発すれば魔力値100越えの化け物でも重症を負うくらいの威力はあるが、これだけの人数が重なり合うように集っていれば後ろのほうの奴らには爆弾の破片や衝撃が届かない。
 
「く、狂ってやがる。てめえら死ぬのが怖くねえのか?」

 俺は一応覆面で顔を隠しているので、どうやらこいつらは自爆しているのが全員本物の人間だと思っているようだ。
 ここまで思惑通りにいくと少し楽しくなってくる。
 自爆テロのような人間の狂気というのは時に大きな恐怖をもたらす。
 こいつらもなんの躊躇もなく自爆する人間を前にして恐怖を抱いているのだろう。
 傭兵のくせに情けない奴らだ。
 俺からしてみたら好き好んで戦争に参加する傭兵のような職業のほうがよほど狂って見えるがな。
 俺は適当に狂ったテロリストを演じながら、ジルタを探した。
 人の気配を感じるのは傭兵たちが守る観音開きの扉の部屋と、それからその手前の倉庫のような小さな扉の部屋。
 さすがに観音開きの部屋のほうは入るためにもう何発か自爆しなければならないだろう。
 倉庫のほうから先に確認するとしよう。
 俺はハンドガンで倉庫の鍵を壊し、開け放った。

「うぅ……」

 するとそこにはボロ雑巾のようにされたジルタが横たわっていた。
 まさかのこっちが正解か。
 ジルタはボロボロだったが、息もしているしどこも欠損するような怪我をしていない。
 獣人の頑丈さに感謝だ。
 これならなんとか手持ちの回復アイテムで治療できるだろう。
 俺は1体の分身にジルタを抱きかかえさせ、残りの2体で最後の特攻をかけた。
 
「く、来るぞぉ!」

「もうこんなことやってられるかよ!!俺は逃げるぜ!!」

「お、俺もだ!」

「てめぇらそんなことが許されると思ってやがるのか!!」

 ちょうどいい具合に恐怖が蔓延し、傭兵たちは逃げ腰になって内輪揉めを始めている。
 俺は躊躇なくそこへ特攻をかけた。
 大きな爆発音と焼けただれた仲間たちの姿が更に傭兵たちの恐怖を煽る。

「うわぁぁぁっ、逃げろぉ!!」

「待てお前たち!!」

 その夜、傭兵ギルドご用達の宿は謎のテロリストにより半壊の憂き目にあったのだった。






 一方その頃正義の騎士と相対する俺の分身は、炎上する宿をゆっくりと眺めていた。

「あっちで何かあったみたいですね。行ったほうがいいんじゃないですか?」

「貴様!何をした!!」

 すごい形相だ。
 こっちが本性っぽいな。
 正義とか言ってうすら寒い笑顔を浮かべた顔よりはこっちのほうがまだお友達になれそうだ。

「別に何もしてませんよ。ほら、俺はここにいて何もしていない。それはあなたが見ているじゃないですか」

「くっ、それは、そうだが……」

「じゃあ俺はこのへんで失礼します。宿に戻って寝るんで。あ、そういえば……」

「なんだ」

「これ、国王陛下に返しておいてもらえませんか?」

 俺は国王の御名御璽が押された身分証をアイテムボックスから取り出し、正義の騎士に渡す。
 さすがにここまでしてしまったらもうお世話にはなれない。
 慰謝料の金貨などを返すつもりはないが、この国のサポートはもう生涯受けないつもりだ。
 
「なっ、あ、あなたは、まさか異世界からの……」

「ラズリーさんにもよろしくお伝えください」

 俺はそれだけ伝えると、固まっている騎士を放って歩き出した。
 ボロボロのジルタを抱えた分身と本体に合流して、早いところ街を出ないといけない。
 明日から忙しくなりそうだ。



 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

処理中です...