猫型ロボットはまずいって。

兎屋亀吉

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 国立AI技術研究センター、今日からここで働くことになる。
 緊張で手足がぷるぷる震えている。

「は、はじめましつぇ、乾健二です」

 噛んでしまった、恥ずかしい。
 初対面の挨拶とか苦手なんだよな。

「初めまして乾君。乾君は優秀な院生だったそうじゃないか。期待しているよ」

「い、いえ、それほどでも……」

 こういう目上の人に褒められたときってどう返せばいいのかな。
 緊張しすぎて喉がからからだ。
 この出された紅茶って飲んでもいいのかな。
 いや、飲まなきゃ淹れてくれた人に失礼だよね。
 よし、遠慮なくいただきます。
 あれ?なんだか眠く…。

「いやぁ乾君、謙遜なんてしなくてもいいんだよ。ん?ああやっと飲んだか……」

 もう、目を開けていられない。
 だめだ、今日から…ここで…働かなきゃ…いけない……のに…。
 





 パチリ、と目を開ける。
 今の今まで寝ていたはずなのに、すごく頭がすっきりしている。
 
「C―01起動成功。実験は成功です」

 女性の事務的な声が聞こえる。
 声がしたほうを向くと、白衣を着た女性が見えた。
 その女性に視点を合わせると、視界にピッという音を立てて情報が表示される。
 なんだこれ、AR(拡張現実)?すごい技術だ。
 
「やあ乾君、目が覚めたかね?」

 ピッという音がして、声の人物の情報が視界に映し出される。
 中嶋公男46歳、この研究センターの所長だ。
 ん?所長?そういえば俺は確か所長と自己紹介の途中で……寝たんだ。
 でも我慢できないほどの眠気なんておかしい。
 あの紅茶が怪しいな。

「そうだ。君の想像通りあの紅茶には睡眠薬が入っていたんだ」

「なんでそんなことを?」

「君に私の実験の被験者になってもらおうと思ってね。いやぁ苦労したよ、そこそこ優秀である日ふらっといなくなっても誰にも気づかれない人間を探すのはね」

 なんてこった。
 国立の研究機関にあっさり就職が決まって舞い上がっていた俺が馬鹿みたいだ。
 いや馬鹿だ。
 こんなことならいなくなって怪しんでくれる友人の一人でも作っておくんだった。

「こ、こんなことをして、バレたらまずいことになるんじゃないですか?」
 
「ここは国立の研究センターだ。この研究が私個人の研究だとでも?」

「じゃあ国が……?」

「この国にだって後ろ暗いことのひとつやふたつあるってことだよ」

「そんな……」

 最悪だ。
 こんな非合法の手段をとるくらいだ、ろくな実験ではないんだろう。
 きっと脊椎と電子機器を繋いだり、脳に電子チップを埋め込まれたりするんだろう。
 短い人生だった。
 俺の頭にはすでに物心ついてからの記憶が走馬灯のように駆け巡っている。
 ああ、勉強してた記憶しかない。
 辛い。
 
「もういいや、せいぜい技術発展の礎になろう。ブレイクスルー目指して頑張ってください」

「やはり君を選んだのは正解だったようだ。君のような人間はえてして自分の人生への執着が少ないことが多い」

「はいはい。それでどんな実験するんですか?痛いのはちゃんと麻酔使ってほしいんですけどね」

「くっくっく、実はね乾君、すでに実験は成功しているんだよ」

「なんだって!?」

 確かに先ほどから視界に妙なものが映ったり、なんだか頭がクリアだったり、身体が軽かったりしていたが、まさかもうすでに実験が行われていたとは。

「起きてすぐに気づくかと思ったんだがな。君は見かけによらず少し抜けているところがあるらしいな。いや、今は見た目通りか。落ち着いて自分の身体をよく見てみたまえ」

 俺は言われたとおりそろりそろりと自分の手を見つめてみる。
 そこにあったのは肉球に覆われ、モフモフの毛が生えた前足だった。
 先ほどの女性が鏡を持ってきてくれたので覗きこむ。
 なんだこりゃ。
 そこにあったのは街中でも良く見かけるあの生物、猫だった。
 白地に黒のまだら模様のモフモフとした毛が生えた愛らしい猫が、必死に鏡を覗き込んでいる。
 可愛い。
 しかしこれはどういうことだろうな。
 まさか、生体脳移植!?
 そんなことが可能なのか?
 人間から人間への脳移植が中国かどこかで行われたというニュースを見たことはあるが、それですら無茶だと思ったものだ。
 ましてや身体の構造や頭のサイズでさえ違う猫に人間の脳を移植して、移植する前のように思考することなんて可能なんだろうか。
 それに先ほどから表示されるAR表示。
 視界にあるものを指定し、知りたいと思ったことが視界に表示されるなんて猫の身体と人間の脳だけでは無理だろう。
 脳内にチップを埋め込んで外部のデータベースと交信しているのだろうか。
 うーん、わからん。
 そして鏡に映る考え込んでいる俺の姿可愛い。
 だって猫が顎に前足当ててうんうん悩んでるんだよ?可愛すぎるよね。

「考え込んでいるところ悪いが、きっと君の考えていることは全てとはいわないがほとんどが見当違いだろう」

「なぜです?」

 俺はなぜ俺が考えていることがわかるのか、そしてなぜそれが違うと言いきれるのかという2つの意味を込めて問うた。
 所長は少しもったいぶったように間を空けて答えた。

「それはな、私の研究はアプローチの方向性が従来の研究とは全く異なっているからだ」

 教授はひどいドヤ顔でそう答えた。

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