孤児だけどガチャのおかげでなんとか生きてます

兎屋亀吉

文字の大きさ
52 / 96

52.封印されしなにか

しおりを挟む
 四隅を守るようにそびえたつ巨木と、朽ち果てたしめ縄。
 その中心には同じようにしめ縄を巻かれた大岩。
 これはもしかしなくても、やばいものを封じ込めていたのではないだろうか。
 何かが割れるような音がするまで、大木や岩は視認することすら叶わない状況だった。
 そのことから考えるにあのしめ縄の巻かれた巨木が結界のような役割を果たしていて、それが壊れたから大岩が見えるようになったのだろう。
 そして大岩からは大量の黒いモヤが噴き出している。
 あきらかにやばいものはあの岩に封じられているのだ、もう1本のしめ縄によって。
 だが、それもまた内側から引きちぎられるようにして破壊されてしまった。
 やばすぎて私の膀胱がまた決壊しそうだ。
 こんなことならおしっこ休憩をとっておくんだった。
 そもそも人の立ち入らないこんな森の中にどうしてこんなやばいものが封じられているんだよ。
 ああ、人が来ないからか。

「くっ、やばいやばいっ」

 どうでもいいことを考えていられるような状況ではない。
 大岩からはまるでイソギンチャクの触手のごとく黒いモヤが放出されて私を捕まえようとしてくる。
 先ほどまでのように馬鹿みたいな大振りを繰り返していてはすぐに捕まってしまうだろう。
 私は槍をコンパクトな動きで操ってモヤを撃破していく。
 しかしモヤはどんどん増えていくばかりで、私の攻撃が追いつかなくなってきた。
 ついに槍を持つ手にモヤが絡みつく。

「このっ」

 私は悪あがきのように小周天の速度を上げ、気を体表付近で高速循環させる。
 まるで気を流した武器のように私の身体がぼんやり光り始めた。
 土壇場で私の気功術は更なる進化を遂げたようだ。
 外気功というのも案外この先にある技術なのかもしれない。
 私の周囲にあったモヤは全て消滅した。
 しかし大岩から噴き出るモヤは相変わらずだ。
 このモヤをどうにかするには、根本たる岩をなんとかしなければならないようだ。
 おそらくだが、岩を破壊しても仕方がないだろう。
 モヤは岩が出しているわけではなく、岩に封じ込められている何かが発しているのだ。
 岩を破壊すればそれが出てくるだけだ。
 まるでひろしの国の伝承にある殺生石のようだ。
 あれは確か玉藻前とかいう狐の妖が討伐されて姿を変えた物だったな。
 徳の高い坊さんに砕かれて各地に散り散りになったらしいが、砕かれる前は毒ガス発生装置みたいな危険なものだったはずだ。
 あれ、だったら砕いてもいいのか?
 よし、砕こう。
 私は槍をマジックバッグにしまい、ゲイルから貰った金棒を取り出す。
 小周天を使ってもなおずっしりと重たいこの鈍器ならば、大岩を砕くことも可能だろう。
 以前はこいつを思い切りフルスイングしようとして肉離れを起こしてしまった私だったが、あれから毎日素振りをするようになってフォームが改善されたせいか自由自在に振ることができるようになっている。
 こういう重たい得物は無理して力任せに振ろうとしてはいけない。
 ゲイルのように超人的な怪力があるならばブンと振るってピタリと止めるような無茶ができるかもしれないが、私の膂力は小周天を使ってもゲイルには遠く及ばないのだ。
 力の流れには逆らわないように振り、遠心力で敵を叩くようにしなければいつか筋肉どころか腱を傷めることになる。
 今回ぶっ叩くのは柔らかい生き物ではなく硬い岩だから、そう無理な力をかけなくても腱を傷めないか心配になる。
 まあ岩じゃなかったら金棒なんて取り回しの悪い武器は使ってなかっただろうが。
 こんなことで貴重な中級回復薬を使うなんて嫌だぞ。
 私は念入りに岩を叩いた後のことをシュミレートしてから走り出した。
 とにかく無理そうなら金棒からさっさと手を離してしまったほうがいい。
 いけそうな感触だったら全力でジャストミートだ。
 一瞬で判断が付かなかったら仕方がない、中級回復薬を使うことを覚悟して全力スイングだ。
 私はそんな大雑把なシュミレートのまま大岩に突っ込んだ。
 引きずるようにして右下に構えていた金棒を振り上げ、その勢いを利用してジャイアントスイングのように一回転。
 そこで生まれた遠心力を全て込めて大岩にぶつける。
 黒いモヤが溢れてくるのでもちろん身体にも金棒にも気を流している。
 黒モヤは密度の濃い気に触れると消滅するので気力が続くうちは無視できるのだ。
 かくして、ぼんやりと光る金棒は閃光のごとき速度で岩肌にジャストミートする。
 感触は硬い物を殴ったときのようなガツンという感じではなく、レンガや瓦のような土を焼き固めたものを殴ったときのようなゴリッとした感じ。
 これはいける。
 私は足を踏ん張り、腰を入れて金棒を振り抜いた。
 大岩は謎の光を発しながら真っ二つに割れた。
 なぜか金棒に流していた気が失われている。
 これはまさか、気が飛ばせた?
 これが外気功というやつなのか、私はついにそこに至ったのか。
 そんな喜びを噛みしめている時間はなかった。
 なぜなら割れた岩から黒いモヤが吹き上がって一つに纏まっていたのだから。
 この黒モヤ、あと何回変身を残してるんだよ。
 そんな私の疑問に対し、これが最後の変身だとばかりに黒モヤは巨大な狐の姿に変わっていく。
 尻尾が九本あるひろしの国でおなじみの妖狐のような姿だ。
 その黒い妖狐からは、むき出しの憎悪のようなものを感じた。
 これと戦うには金棒では少々鈍重だ。
 私は再び槍を取り出して構える。
 しかしその刹那の間に、妖狐の黒い尻尾が私の腰に絡みついた。
 今までは気の光に触れると黒モヤは消滅していたが、その尻尾は消えなかった。
 ぐっと物凄い力で引き寄せられる。
 
「やめっ」

『グルルルッ』

 顔を近づけられその裂けたような口から恐ろしい唸り声と共に吐き出される黒モヤが私の顔にかかると、意識が遠くなっていく。
 私の腰に絡んでいる1本以外の8本の尻尾がまるで食虫植物の葉っぱのように私を包み込んで閉じ込めていく。
 ああ、これは死んだな。
 どうせ死ぬならおしっこしてから死のう。
 私は尿意を我慢するのをやめた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。 ※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...