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52.封印されしなにか
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四隅を守るようにそびえたつ巨木と、朽ち果てたしめ縄。
その中心には同じようにしめ縄を巻かれた大岩。
これはもしかしなくても、やばいものを封じ込めていたのではないだろうか。
何かが割れるような音がするまで、大木や岩は視認することすら叶わない状況だった。
そのことから考えるにあのしめ縄の巻かれた巨木が結界のような役割を果たしていて、それが壊れたから大岩が見えるようになったのだろう。
そして大岩からは大量の黒いモヤが噴き出している。
あきらかにやばいものはあの岩に封じられているのだ、もう1本のしめ縄によって。
だが、それもまた内側から引きちぎられるようにして破壊されてしまった。
やばすぎて私の膀胱がまた決壊しそうだ。
こんなことならおしっこ休憩をとっておくんだった。
そもそも人の立ち入らないこんな森の中にどうしてこんなやばいものが封じられているんだよ。
ああ、人が来ないからか。
「くっ、やばいやばいっ」
どうでもいいことを考えていられるような状況ではない。
大岩からはまるでイソギンチャクの触手のごとく黒いモヤが放出されて私を捕まえようとしてくる。
先ほどまでのように馬鹿みたいな大振りを繰り返していてはすぐに捕まってしまうだろう。
私は槍をコンパクトな動きで操ってモヤを撃破していく。
しかしモヤはどんどん増えていくばかりで、私の攻撃が追いつかなくなってきた。
ついに槍を持つ手にモヤが絡みつく。
「このっ」
私は悪あがきのように小周天の速度を上げ、気を体表付近で高速循環させる。
まるで気を流した武器のように私の身体がぼんやり光り始めた。
土壇場で私の気功術は更なる進化を遂げたようだ。
外気功というのも案外この先にある技術なのかもしれない。
私の周囲にあったモヤは全て消滅した。
しかし大岩から噴き出るモヤは相変わらずだ。
このモヤをどうにかするには、根本たる岩をなんとかしなければならないようだ。
おそらくだが、岩を破壊しても仕方がないだろう。
モヤは岩が出しているわけではなく、岩に封じ込められている何かが発しているのだ。
岩を破壊すればそれが出てくるだけだ。
まるでひろしの国の伝承にある殺生石のようだ。
あれは確か玉藻前とかいう狐の妖が討伐されて姿を変えた物だったな。
徳の高い坊さんに砕かれて各地に散り散りになったらしいが、砕かれる前は毒ガス発生装置みたいな危険なものだったはずだ。
あれ、だったら砕いてもいいのか?
よし、砕こう。
私は槍をマジックバッグにしまい、ゲイルから貰った金棒を取り出す。
小周天を使ってもなおずっしりと重たいこの鈍器ならば、大岩を砕くことも可能だろう。
以前はこいつを思い切りフルスイングしようとして肉離れを起こしてしまった私だったが、あれから毎日素振りをするようになってフォームが改善されたせいか自由自在に振ることができるようになっている。
こういう重たい得物は無理して力任せに振ろうとしてはいけない。
ゲイルのように超人的な怪力があるならばブンと振るってピタリと止めるような無茶ができるかもしれないが、私の膂力は小周天を使ってもゲイルには遠く及ばないのだ。
力の流れには逆らわないように振り、遠心力で敵を叩くようにしなければいつか筋肉どころか腱を傷めることになる。
今回ぶっ叩くのは柔らかい生き物ではなく硬い岩だから、そう無理な力をかけなくても腱を傷めないか心配になる。
まあ岩じゃなかったら金棒なんて取り回しの悪い武器は使ってなかっただろうが。
こんなことで貴重な中級回復薬を使うなんて嫌だぞ。
私は念入りに岩を叩いた後のことをシュミレートしてから走り出した。
とにかく無理そうなら金棒からさっさと手を離してしまったほうがいい。
いけそうな感触だったら全力でジャストミートだ。
一瞬で判断が付かなかったら仕方がない、中級回復薬を使うことを覚悟して全力スイングだ。
私はそんな大雑把なシュミレートのまま大岩に突っ込んだ。
引きずるようにして右下に構えていた金棒を振り上げ、その勢いを利用してジャイアントスイングのように一回転。
そこで生まれた遠心力を全て込めて大岩にぶつける。
黒いモヤが溢れてくるのでもちろん身体にも金棒にも気を流している。
黒モヤは密度の濃い気に触れると消滅するので気力が続くうちは無視できるのだ。
かくして、ぼんやりと光る金棒は閃光のごとき速度で岩肌にジャストミートする。
感触は硬い物を殴ったときのようなガツンという感じではなく、レンガや瓦のような土を焼き固めたものを殴ったときのようなゴリッとした感じ。
これはいける。
私は足を踏ん張り、腰を入れて金棒を振り抜いた。
大岩は謎の光を発しながら真っ二つに割れた。
なぜか金棒に流していた気が失われている。
これはまさか、気が飛ばせた?
これが外気功というやつなのか、私はついにそこに至ったのか。
そんな喜びを噛みしめている時間はなかった。
なぜなら割れた岩から黒いモヤが吹き上がって一つに纏まっていたのだから。
この黒モヤ、あと何回変身を残してるんだよ。
そんな私の疑問に対し、これが最後の変身だとばかりに黒モヤは巨大な狐の姿に変わっていく。
尻尾が九本あるひろしの国でおなじみの妖狐のような姿だ。
その黒い妖狐からは、むき出しの憎悪のようなものを感じた。
これと戦うには金棒では少々鈍重だ。
私は再び槍を取り出して構える。
しかしその刹那の間に、妖狐の黒い尻尾が私の腰に絡みついた。
今までは気の光に触れると黒モヤは消滅していたが、その尻尾は消えなかった。
ぐっと物凄い力で引き寄せられる。
「やめっ」
『グルルルッ』
顔を近づけられその裂けたような口から恐ろしい唸り声と共に吐き出される黒モヤが私の顔にかかると、意識が遠くなっていく。
私の腰に絡んでいる1本以外の8本の尻尾がまるで食虫植物の葉っぱのように私を包み込んで閉じ込めていく。
ああ、これは死んだな。
どうせ死ぬならおしっこしてから死のう。
私は尿意を我慢するのをやめた。
その中心には同じようにしめ縄を巻かれた大岩。
これはもしかしなくても、やばいものを封じ込めていたのではないだろうか。
何かが割れるような音がするまで、大木や岩は視認することすら叶わない状況だった。
そのことから考えるにあのしめ縄の巻かれた巨木が結界のような役割を果たしていて、それが壊れたから大岩が見えるようになったのだろう。
そして大岩からは大量の黒いモヤが噴き出している。
あきらかにやばいものはあの岩に封じられているのだ、もう1本のしめ縄によって。
だが、それもまた内側から引きちぎられるようにして破壊されてしまった。
やばすぎて私の膀胱がまた決壊しそうだ。
こんなことならおしっこ休憩をとっておくんだった。
そもそも人の立ち入らないこんな森の中にどうしてこんなやばいものが封じられているんだよ。
ああ、人が来ないからか。
「くっ、やばいやばいっ」
どうでもいいことを考えていられるような状況ではない。
大岩からはまるでイソギンチャクの触手のごとく黒いモヤが放出されて私を捕まえようとしてくる。
先ほどまでのように馬鹿みたいな大振りを繰り返していてはすぐに捕まってしまうだろう。
私は槍をコンパクトな動きで操ってモヤを撃破していく。
しかしモヤはどんどん増えていくばかりで、私の攻撃が追いつかなくなってきた。
ついに槍を持つ手にモヤが絡みつく。
「このっ」
私は悪あがきのように小周天の速度を上げ、気を体表付近で高速循環させる。
まるで気を流した武器のように私の身体がぼんやり光り始めた。
土壇場で私の気功術は更なる進化を遂げたようだ。
外気功というのも案外この先にある技術なのかもしれない。
私の周囲にあったモヤは全て消滅した。
しかし大岩から噴き出るモヤは相変わらずだ。
このモヤをどうにかするには、根本たる岩をなんとかしなければならないようだ。
おそらくだが、岩を破壊しても仕方がないだろう。
モヤは岩が出しているわけではなく、岩に封じ込められている何かが発しているのだ。
岩を破壊すればそれが出てくるだけだ。
まるでひろしの国の伝承にある殺生石のようだ。
あれは確か玉藻前とかいう狐の妖が討伐されて姿を変えた物だったな。
徳の高い坊さんに砕かれて各地に散り散りになったらしいが、砕かれる前は毒ガス発生装置みたいな危険なものだったはずだ。
あれ、だったら砕いてもいいのか?
よし、砕こう。
私は槍をマジックバッグにしまい、ゲイルから貰った金棒を取り出す。
小周天を使ってもなおずっしりと重たいこの鈍器ならば、大岩を砕くことも可能だろう。
以前はこいつを思い切りフルスイングしようとして肉離れを起こしてしまった私だったが、あれから毎日素振りをするようになってフォームが改善されたせいか自由自在に振ることができるようになっている。
こういう重たい得物は無理して力任せに振ろうとしてはいけない。
ゲイルのように超人的な怪力があるならばブンと振るってピタリと止めるような無茶ができるかもしれないが、私の膂力は小周天を使ってもゲイルには遠く及ばないのだ。
力の流れには逆らわないように振り、遠心力で敵を叩くようにしなければいつか筋肉どころか腱を傷めることになる。
今回ぶっ叩くのは柔らかい生き物ではなく硬い岩だから、そう無理な力をかけなくても腱を傷めないか心配になる。
まあ岩じゃなかったら金棒なんて取り回しの悪い武器は使ってなかっただろうが。
こんなことで貴重な中級回復薬を使うなんて嫌だぞ。
私は念入りに岩を叩いた後のことをシュミレートしてから走り出した。
とにかく無理そうなら金棒からさっさと手を離してしまったほうがいい。
いけそうな感触だったら全力でジャストミートだ。
一瞬で判断が付かなかったら仕方がない、中級回復薬を使うことを覚悟して全力スイングだ。
私はそんな大雑把なシュミレートのまま大岩に突っ込んだ。
引きずるようにして右下に構えていた金棒を振り上げ、その勢いを利用してジャイアントスイングのように一回転。
そこで生まれた遠心力を全て込めて大岩にぶつける。
黒いモヤが溢れてくるのでもちろん身体にも金棒にも気を流している。
黒モヤは密度の濃い気に触れると消滅するので気力が続くうちは無視できるのだ。
かくして、ぼんやりと光る金棒は閃光のごとき速度で岩肌にジャストミートする。
感触は硬い物を殴ったときのようなガツンという感じではなく、レンガや瓦のような土を焼き固めたものを殴ったときのようなゴリッとした感じ。
これはいける。
私は足を踏ん張り、腰を入れて金棒を振り抜いた。
大岩は謎の光を発しながら真っ二つに割れた。
なぜか金棒に流していた気が失われている。
これはまさか、気が飛ばせた?
これが外気功というやつなのか、私はついにそこに至ったのか。
そんな喜びを噛みしめている時間はなかった。
なぜなら割れた岩から黒いモヤが吹き上がって一つに纏まっていたのだから。
この黒モヤ、あと何回変身を残してるんだよ。
そんな私の疑問に対し、これが最後の変身だとばかりに黒モヤは巨大な狐の姿に変わっていく。
尻尾が九本あるひろしの国でおなじみの妖狐のような姿だ。
その黒い妖狐からは、むき出しの憎悪のようなものを感じた。
これと戦うには金棒では少々鈍重だ。
私は再び槍を取り出して構える。
しかしその刹那の間に、妖狐の黒い尻尾が私の腰に絡みついた。
今までは気の光に触れると黒モヤは消滅していたが、その尻尾は消えなかった。
ぐっと物凄い力で引き寄せられる。
「やめっ」
『グルルルッ』
顔を近づけられその裂けたような口から恐ろしい唸り声と共に吐き出される黒モヤが私の顔にかかると、意識が遠くなっていく。
私の腰に絡んでいる1本以外の8本の尻尾がまるで食虫植物の葉っぱのように私を包み込んで閉じ込めていく。
ああ、これは死んだな。
どうせ死ぬならおしっこしてから死のう。
私は尿意を我慢するのをやめた。
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