異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉

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9.石工スキルの真価

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 石工スキルを使うことを念じながら岩場を撫でると、まるで粘土でも撫でているかのように形が変わっていく。
 これはよく考えたらチートスキルなのではないだろうか。
 例えば街の外壁だ。
 偏見かもしれないが、異世界の外壁といえば大体石材かレンガでできているだろう。
 このスキルを使えばそんな壁なんか自動ドアのごとく通り抜けることができてしまうのだ。
 こんなスキルを誰もが持っているわけがない。
 おそらく相当なレアスキルだろう。
 バランス重視でとったスキルだけど、案外当たりだったかもしれないな。
 ろくに使えもしないような武器スキルを選ばなくてよかった。
 俺は疲れた身体を叱咤して作業を続ける。
 とりあえず破かれたテントに変わる住処が必要だ。
 いきなり石造りの家とかを作るのは無理なので、かまくらのようなドーム状の住処を作ることにした。
 人一人が眠るだけの大きさのものであれば、それほど時間をかけずに作ることができるだろう。
 まずは泥団子のように石を纏め、平らな地面に置いていく。
 横になって眠ることができるくらいの直径のストーンサークルを作り、それを石工スキルで一体化させていく。
 こういう地味な作業は嫌いじゃないな。
 自分の作業によって段々出来上がっていくのが楽しい。
 やったことはないが、DIYとか向いていたのかもしれないな。
 表面は手で均したくらいではデコボコしていて、本当に土壁みたいだ。
 このように厚みにばらつきがあっては、強度的に問題がありそうだ。
 大きな建物を作るときは何か工夫が必要かもしれない。
 
「眠い……」

 単純な作業に高揚感は覚えるものの、体力は限界が近かった。
 俺は細かいところに目を瞑り、作業速度を速めた。
 いい加減になったとも言う。
 とにかく多くの石を運び、ペタペタと一体化させていった。
 デコボコレベルは上がったものの、目に見えて作業速度も上がった。
 どんどん出来上がっていく岩ドームにテンションが上がる。
 やがて岩壁の高さが座った俺の頭くらいまで来る。
 眠るだけならこのくらいの高さで十分だろう。
 高さをここで切り上げ、天井部の製作に入る。
 少しずつ壁を曲線にしていき、真ん中で繋げる。
 石は石工スキルで形を変えることができるだけで実際に柔らかくなっているわけではないので、曲線を作るのはそれほど難しくなかった。
 手を離した瞬間に固まる粘土のようなものだから当然だ。
 作業を始めてから数時間、ようやくドームが完成した。
 入口は身体をかがめてようやく入れるほど小さくして、石工スキルで蓋をすれば完全に入口が無くなるようにする。
 蓋を閉めると中には光どころか空気も入らないので、側面に何か所か小指で空気穴を開けた。
 セキュリティ万全の住居の完成だ。
 眠気が限界だった俺は、荷物を全て中に入れて倒れ込むように眠りについた。






 泥のように眠り、起きたときには13時間以上の時間が経過していた。
 朝日が登る時間を大体5時に合わせた時計によれば、時刻は早朝3時だ。
 昨日は徹夜で作業して昼過ぎくらいに眠ったからこのような時間になってしまった。
 まだ外は暗く、気温も低くて過ごしやすい。
 温いコーラで水分補給を済ませた俺は、入口の蓋を外して外に出た。
 人工の灯りが何もない無人島では、夜が本当に暗く感じるな。
 まだまだ夜明けまでは時間があるが、今日の作業を始めよう。
 その前にステータスの確認だな。
 いずれかのスキルが成長しているかもしれない。

名 前:オクモト
年 齢:28
魔力値:12
スキル:【火弾lv1】【石工lv1】【体毛操作lv1】【アイテムボックス(小)lv1】【通販(微)lv1】

 スキルのレベルはひとつも上がっていなかったが、魔力値が2上がっているのに気が付いた。
 しかし俺はモンスターなんかを討伐した覚えはない。
 イノシシとは少しだけ戦ったが、毛皮に焦げ跡を付けただけだ。
 あれでも経験値が得られたのだろうか。
 魔力値が上がる条件をJK神様に詳しく聞いてこなかったのが悔やまれる。
 考えられる可能性は3つだな。
 1つ目はイノシシと戦って少しだけ経験値を得て上がった。
 2つ目はMPを消費するスキルをたくさん使ったから上がった。
 3つ目は命の危険を感じたから俺に秘められた力が覚醒した。
 なんでもいいけど3つ目だけは嫌だな。
 覚醒しても魔力値が2しか上がらないとかしょぼすぎる。
 2つ目が一番可能性が高いかな。
 枯渇するまで魔力を使ったら最大値が増えるっていうのが異世界の常識だからな。
 よく考えたらこの世界の子供が俺よりも魔力値が高いというのもおかしいだろ。
 子供があんな化け物を倒して魔力値を上げられるはずがないからな。
 子供でも倒せるスライムみたいなモンスターがいるのかと思っていたが、MPを消費することでも魔力値を上げることができるのならば納得だ。
 この世界にはステータスがあるくせにスキルを使うためのSPのようなものはないから、すべてのスキルを使うのに魔力を使う。
 つまりスキルを一つでも持っている奴ならばMPを消費することができるということだ。
 そしてMPを消費し続ければ、いずれ魔力値が上がる。
 これから石壁を作って守りも固めることだし、どんどんMPを使って魔力値を上げていこう。






 ピンと張った糸で、石を切断していく。
 やはり、石工スキルを使えば手以外であっても石を簡単に加工することができるようだ。
 少しMP消費が激しいような気もするが、MPは体感で1時間くらい休むと全快するので休み休みやれば問題はない。
 これも最大値が少ない恩恵かもな。
 俺は石工スキルと釣り糸を使って、まずは石を同じ形に加工するための道具を作った。
 難しいことはない、ただ石で長方形の枠を作っただけだ。
 レンガの型枠のようなもので、ここにスキルで流動体にした石を押し込めば同じ形の石がいくつもできるというだけの話だ。
 こんな単純なことでも、造形物の出来上がりは段違いに良くなる。
 俺は石工スキルでどんどん長方形の石材を量産していった。
 わかっていたことだが、石壁を作るというのは生半可な苦労ではないな。
 俺が作っている石材は20センチ×40センチ×10センチというコンクリートブロックのような大きさだが、厚み20センチ高さ2メートルの壁を作るだけでも40センチあたりにこのブロックが20個必要になる。
 ということは4メートルあたり200個だ。
 家を囲むような壁を作ろうと思ったらいくつ必要になるのか、計算もしたくない。
 厚みや高さも少し心もとないので、そちらも強化しようと思ったら果てしない数の石材が必要になるだろう。
 あれからイノシシは見ていないが、いつかは来る。
 その強迫観念が俺を動かしていた。
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