異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉

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10.ゴミ箱と増えるステータス

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 昼時になったので、焚火でお湯を沸かしてカップラーメンを食べる。
 トッピングの焼きカラス貝は微妙な不協和音だが、やはり温かい食事はいい。
 身体の内側から力が溢れてくるような気がする。
 もし煮炊きをしてイノシシをおびき寄せてしまっても、逃げ込める場所があるというのが俺の気を大きくしていた。
 食事を終え、カップラーメンのゴミを片付ける。
 通販スキルには商品を買う以外にも機能が一つだけある。
 それはゴミ箱だ。
 おそらく異世界で処理に困るプラスチックゴミを捨てることができるようにというJK神様のご好意だろう。
 異世界をマイクロプラスチックで溢れさせるわけにはいかないからな。
 俺はJK神様に感謝の祈りを伝え、カップラーメンのゴミをゴミ箱に廃棄した。
 満腹になり食後のコーヒーを楽しんでいると、風に乗った食べ物の匂いに釣られたのか招かれざる客が現れる。
 数日前俺のテントをめちゃくちゃにしてくれた張本人、イノシシである。

「プギィ……」

 飯寄越せよ、とでも言っているのだろうか。
 俺にはイノシシ語はわからない。
 右前足の付け根には、俺の火弾が付けた痛々しい火傷がある。
 間違いなく、あのときのイノシシだ。
 俺は迷いのない動きで岩ドームの中に滑り込み、入口を塞いだ。
 イノシシが来たときのシミュレーションは何度もしていたので慌てたりはしなかった。
 空気穴から外を覗き見ると、イノシシは俺が飲んでいたコーヒーに鼻先を突っ込んだりして食べ物を探している。
 しかしろくなものが無いのが分かると、俺が隠れた岩ドームの周りをうろうろし始めた。
 ここには食べ物がたくさんある。
 あの嗅覚の良さそうな大きな豚鼻はここにある食べ物の匂いを感じ取っているだろう。
 だが、入口は俺が塞いでしまったので中の物をとることはできない。
 イノシシはしばらくうろうろした後、どこかへ去っていった。

「はぁ、緊張した」

 テントをズタズタにされた恨みもあったので空気穴から火弾スキルで攻撃してやろうかとも思ったのだが、前回の恐怖が蘇ってきて何もできなかった。
 あいつとはいつか決着をつけてやろうと思っているが、それは今じゃない。
 倒した時に手に入るであろう大量の肉や毛皮の処理の仕方を今のうちに本で勉強しておかないとな。
 




 異世界に転移してから、今日で20日だ。
 すでに10メートル四方を囲う石壁が完成している。
 当初はすべての石材を作ってから組み立てるという方法で作っていたのだが、よく考えたら枠だけ作ってその間に石を詰めて表面を均すという石材作りと同じ方法を使えば手間を省けるということに気が付いた。
 それが分かってからは作業が加速した。
 レンガ積みとコンクリートどちらが早いかは一目瞭然だ。
 壁の大きさは当初の予定通り、厚み20センチで高さは2メートルだ。
 しかしこのままでは中に建物を建てたら確実に壁よりも高くなってしまう。
 今は壁の高さを地道に増築している途中だ。
 倍の4メートルくらいあれば建物の高さと同じくらいになることだろう。
 しかしそうなると厚みも増やしたくなってくる。
 DIYというのは本当にきりがないな。
 楽しいけど。
 この壁が一応の完成を見せてから、俺はそこまでイノシシを恐れなくなっていた。
 あの巨大なイノシシが20センチ程度の石壁を壊せないとは思えないが、それでも守られているという安心感のようなものがある。
 岩ドームの中に引きこもれば、壁とドームの二重の守りでより安全度は増す。
 もはや何も俺の生活を脅かすことはできないのではないかという全能感のようなものを感じてしまう。
 実際はそうでもないというのに。
 
名 前:オクモト
年 齢:28
魔力値:20
スキル:【火弾lv1】【石工lv1】【体毛操作lv1】【アイテムボックス(小)lv1】【通販(微)lv1】

 いつものようにステータスを確認するが、やはり今日もスキルレベルが一つも上がっていなかった。
 毎日MPを消費しているおかげか魔力値はずいぶんと上がったが、いまだにスキルのレベルが上がらない。
 体毛操作のようにあまり使っていないスキルもあるが、それ以外は概ね毎日何度も使用しているのにな。
 スキルレベルが上がればとんとん拍子にチートになると思っていたが、そう上手くはいかないらしい。
 神様にお願いされて異世界に転移するなどというファンタジー小説のような話なのにな。






「おお、生えてる」

 鏡に映るのは、フサフサと生い茂る豊穣の大地。
 一度はもうだめかと思った毛根から、太く真っ黒で健康的な毛が何本も生えてきていた。
 これが体毛操作の力か。
 当初俺はいつまで経っても生えてこない髪に業を煮やし、体毛操作を使えないスキルだと決めつけていた。
 しかしそうではなかったのだ。
 体毛操作はちゃんと仕事をしていた。
 俺が願ったとおり鬱陶しいあちこちの体毛は薄くなり、その養分がすべて頭に集中したのだ。
 もっと念じた瞬間毛がもっさもっさと生えてくるような能力を想像していたが、レベル1のスキルにそこまで求めるのは現実的ではなかった。
 きっとレベルを上げていけば発毛速度も上がっていくことだろう。
 今後に期待だ。
 まあ破壊された毛母細胞が復活してくれただけでもこのスキルを選んだ意味はあった。

「しかし、どうやったらスキルのレベルが上がるんだろうな」

 あれからすでに15日が経過し、俺がこの島に来てから今日で1カ月ちょっとになる。
 スキルレベルというものが生涯をかけても2か3くらいまでしか上がらないのならば1カ月やそこらでレベルアップしたりはしないのだろうが、そうではないならそろそろ一つくらい上がってもいいと思うんだけどな。
 俺は薄くなった髭をカミソリでささっと剃ると、歯ブラシを咥えてステータスを見る。

名 前:オクモト
年 齢:28
魔力値:22
スキル:【火弾lv1】【石工lv1】【体毛操作lv1】【アイテムボックス(小)lv1】【通販(微)lv1】
神 託:新着1件
女神クエスト:残り3件
S P:0

 なんか増えとる。
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