異世界の無人島で暮らすことになりました

兎屋亀吉

文字の大きさ
15 / 17

15.常時クエスト

しおりを挟む
 死なばみな仏。
 罪を憎んで豚を憎まず。
 俺は倒れ伏す巨大イノシシ、ジャイアントボアの子供の亡骸に向かって静かに手を合わせた。
 
「こんな出会い方じゃなけりゃ、俺たち友達になれてたかもしれなかったのにな……」

 どんな出会い方をしても巨大なイノシシと人間が仲良くなれるとは思えなかったが、なんとなく言ってみただけだ。
 まあこいつを倒して魔力値も5上がったし、これから肉を頂くわけだからそれなりの敬意は払わなければならないだろう。
 俺はもう一度手を合わせて拝み倒し、牛刀を取り出す。
 JK神様に捧げる魔石を取り出し、肉を食べるにはこいつを解体しなければならない。
 狩猟関係の本によってイノシシの捌き方は予習済みだが、果たして役に立つのだろうか。
 本によればまず放血、つまり血抜きだ。
 心臓か頸動脈を切ることにより、体中の血を抜いて肉の臭みを減らす作業である。
 これは死後すぐに行わなければ血が固まってしまってうまくいかない。
 なんなら生きているうちにやれと本には書いてある。
 無理だっての。
 その他にも興奮状態でと殺すると肉の臭みが強くなるので落ち着いた状態で殺せとかも書いてある。
 無理だっての。
 平静状態の巨大イノシシを一撃必殺できるんだったらサラリーマンなんかやってねえよ。
 俺は狩猟関係の本の著者にぶつくさ文句を言いながらイノシシの胸のあたりに牛刀を突き入れる。
 想像通り毛皮は相当防御力が高いようでグングン牛刀を跳ね返す。
 しかし全く刃が立たないというわけでもないようで、少しずつ刀身は沈んでいった。
 そして2センチほど沈んだあたりで一気に突き刺さる。
 皮膚を貫通することさえできれば、どうやら中の肉は鉄より硬いとかそういうわけではなさそうだ。
 分厚い筋肉の鎧も死して力を失った後は弛緩して柔らかくなっている。
 俺はぐっと牛刀に力を込めてイノシシの胸を深く切り裂いた。
 牛刀の刃はどこぞの重要血管を傷つけたようで、すぐに堰を切ったように血が溢れ出てくる。
 服を身に付けていたら汚れてしまっていただろう。
 全裸でよかったぜまったく。
 夜は更け、全裸の男の狂気の解体ショーは続いた。
 

 
 



名 前:オクモト
年 齢:28
魔力値:28
スキル:【火弾lv2】【石工lv1】【体毛操作lv1】【アイテムボックス(小)lv1】【通販(微)lv2】
神 託:新着0件
女神クエスト:残り1件
【常時クエスト】①魔石を奉納しよう
S P:32

 血だらけの全裸の男が朝日を前に黄昏ている。
 俺だ。
 イノシシとの死闘を終え、解体を経て俺の中の何かが変化したようなそんな気分だった。
 まあ気のせいなんだがな。
 徹夜明けでハイになっているだけだ。
 先ほど巨大イノシシの解体が終わり、魔石、毛皮、肉、それ以外に分けることができた。
 内臓や骨の中の骨髄なんかも食べる人はいるというが、傷んでしまうまでには到底食べきれる気がしなかったので捨ててしまうことにした。
 食品ロスもったいないという気持ちもないわけではなかったが、自然界というのはそういうところだ。
 俺が食べなくても別のなにがしかの生物が食べる。
 この星の上にあって、食べ物が全くの無駄になるということなどはないのだ。
 つまり食品ロスなどというものは完全に人間視点の考え方であり、本当はこの世に存在しない。
 いかんな、この徹夜のテンションは。
 芸能人が妙な思想をSNSに垂れ流してしまう気持ちがよくわかる。
 この島にネットが繋がっていなくてよかったな。
 67人のフォロワーに妙な考えを垂れ流してしまっていたかもしれない。
 ちなみにいいねしてくれるのは平均して2人くらいである。
 全くのスルーのときも多い。
 サラリーマンのSNSなどはそんなものだ。
 俺は興奮した脳を鎮めるように、血まみれの身体を冷たい水で洗っていく。
 以前は身体を洗うには小川に行かなければならなかったが、小川は石壁の外なので少し不安だった。
 そこで石造りの水路で壁内に水を引き入れた。
 原始的な水道のようなものだ。
 これにより、安全な場所で身体を洗うことができるようになった。
 バシャバシャと体に水をかける度に水が真っ赤になって流れていく。
 いまさらながら、全裸で血を浴びたのはあまりよくなかったかもしれないな。
 動物の血液というのは細菌の塊だ。
 小さな傷や粘膜から危険なウィルスや菌が入り込む可能性もある。
 怖くなり俺は念入りに血を洗い流した。
 ゴシゴシ擦ると小さな傷ができて感染してしまうかもしれないから優しくだ。
 環境汚染への懸念から普段はあまり使っていなかった石鹸も使った。
 優しく泡立ててそっと撫でるように洗った。
 身体の汚れが落ちてくると少し気持ちが落ち着いてきた。
 先ほどまでの浮ついた気持ちもだ。
 同時に眠くなってきた。
 眠る前にスキルのレベルアップだけは済ませてしまうとしよう。
 俺は32ポイントまで増えたSPをタップした。
 初期クエストをすべてクリアしたご褒美なのか、それとも奉納したジャイアントボアの子供の魔石がとても良い物だったのか増えたポイントは30ポイントだったのだ。
 これならアイテムボックスのスキルレベルを上げた後に火弾のレベルをもう一つ上げることもできる。
 更には魔石の奉納が常時クエストというものに変化していた。
 常時というからには何度でもこのクエストに挑戦することができるということだろう。
 何度でも魔石を奉納してスキルポイントを頂くことができるのであればこんなにうれしいことはない。
 因縁のモンスターとも決着をつけたことだし、明日からは常時クエストをこなしてSPを稼いでいくことにしよう。
 俺はSPを使い、アイテムボックスと火弾をレベルアップさせた。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...