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2.プロローグ2
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カンダタさんは別に記憶を消さなくてもいいと言った。
いいのかな。
そんな融通利いちゃって大丈夫なのかな。
世界の秩序を守るための規則とかじゃないのかな。
「人間以外への転生者の記憶を消すのはカルマの浄化と、人間だった記憶があっては不憫だろうという2つの理由からだ。お前はどうせ人間には転生できないんだ。チンパンジーが前世の記憶を持っていたところで何も出来んだろ。まあその代わり、カルマは前世から引き継ぐがな」
なるほどな。
確かにチンパンジーに前世の記憶があったところでテレビで人気者になるくらいしか出来なさそうだ。
それに記憶を持ったままチンパンジーに転生というのもつらいよな。
なんとか抜け道みたいなものはないものか。
「なんとかなりませんか?そうだ、雪男とか宇宙人とか、そういうのはいないんですか?転生するのは人間に近いものですよね」
「そんなのいるわけないだろ。いたとしてもそれに転生する確立なんて雷に当たる確立より低いと思うぞ」
そっすか。
無理っすか。
「大丈夫だって、野生のチンパンジーの寿命なんて長くて15年くらいだし、そのくらい我慢すれば次の人生に向かえるだろう。誠心誠意善行を積めば次は人間になれるさ」
元気付けようとしてくれている。
やっぱりこの人良い人だな。
大罪人なんていうかっこいい肩書きの人だけど優しいな。
きっと優しいだけじゃ生きていけない時代だったんだろうな。
ごねて色々と迷惑をかけてしまった。
「ありがとうございました。往生際が悪くてすみません。後ろ、亡者が並んじゃってますよね。良く考えたら膨大な数の命が1日のうちに失われてますし」
「いや、私以外にも渡し守はたくさんいる。むしろ休憩ができてありがたいぐらいだ」
カンダタさんはそう言ってまた煙草をくわえ、火をつけた。
そうだよな。そんな数の亡者カンダタさん一人じゃさばききれないよな。
俺バカだな。
そんなことを考えていると、カンダタさんが執務机に乱雑に積まれた書類の中から、おもむろに1枚の羊皮紙を引っ張り出した。
「あー、そういえば、忘れてた」
なんか忘れていたみたいだ。
よくある、よくあるよ。
俺は生暖かい目でカンダタさんを見ていたのだが、困ったようにぼうっと羊皮紙を見ていたその鋭い瞳が急に俺に向けられた。
なんだろう。
生暖かい目で見たので怒ったのかな。
「お前、異世界に行かないか?」
異世界。
その言葉自体はウェブ小説などで頻繁に目にしたことがあるが、この状況で耳にするこの言葉はなんて甘美な響きなんだ。
まるで地獄に垂らされた1本の蜘蛛の糸のようじゃないか。
もしかしてチンパンジールート回避できるのか?
俺は生前、異世界でモンスターに転生する系の小説もよく好きで読んでいた。
この際チンパンジールートを回避できるならゴブリンルートでも構わない。
「行きます行きます!俺異世界行きます!」
「お、おう。そうか。行くか、異世界」
俺の食いつき方に軽く引きながらも、カンダタさんはなんとなくほっとした顔をしている。
「いや、私は助かるからいいんだけど、本当にいいのか?異世界は危ないぞ?危険な生き物もたくさんいるし、人間は戦争ばかりで文明は遅れている。そんな中でお前は人間には転生できないから生まれる環境はかなり苛酷なものになるだろう。どんな生き物に生まれるかは分からないが、大人になるまでに死ぬ確立もかなり高い」
カンダタさんが異世界に転生するデメリットを羅列してくれる。
俺が異世界に転生したほうがカンダタさんには都合がいいはずなのに。
だが、俺はカンダタさんの言葉を聞いて逆にどんどん異世界に惹かれていく。
「でも、人間に近い生き物の数は多いんですよね」
そう、俺の想像する異世界ならば、獣人や亜人などの、人間に近い生き物がたくさんいるはずだ。
チンパンジーよりもましな生き物に転生する可能性も高い。
「確かにそうだ。異世界には人間以外にも知性を持った生き物がたくさんいる。カルマによって転生先が決まる、この世界の人間を最上種としたシステムからは外れた世界だ。カルマが20を超えていても、人間よりも上位の存在に転生する可能性もある。だが、過酷な世界ということも事実だ。異世界で生き残れるかどうかは賭けだ。ハイリスクハイリターンのギャンブルというわけだ。もう少しよく考えてから決めたほうがいい」
「いえ、もう決めました。俺は異世界に転生します」
このままでは、人の記憶を持ったままチンパンジーに転生してつらい猿生を送るだけだ。
もし、異世界に転生したとして、最悪のケースはゴブリンなどの弱い人型モンスターに転生することだろう。
だが、望むところだ。
頑張って強くなってゴブリン無双してやる。
「本当にいいんだな?」
「はい。異世界行きたいです」
「……わかった。せいぜい異世界を楽しむといい」
カンダタさんはしょうがないやつだなというような顔を浮かべ、ため息をひとつ吐くと、首から提げていた鍵で執務机の引き出しを開け、金印を取り出す。
カンダタさんがその金印で、俺のカルマが書かれていると思われる紙に押印すると同時に、俺の意識は薄れていった。
薄れゆく意識の中で、頑張れよというカンダタさんの声が聞こえた気がした。
次の生の終わりにも、またカンダタさんに会いたいと思った。
いいのかな。
そんな融通利いちゃって大丈夫なのかな。
世界の秩序を守るための規則とかじゃないのかな。
「人間以外への転生者の記憶を消すのはカルマの浄化と、人間だった記憶があっては不憫だろうという2つの理由からだ。お前はどうせ人間には転生できないんだ。チンパンジーが前世の記憶を持っていたところで何も出来んだろ。まあその代わり、カルマは前世から引き継ぐがな」
なるほどな。
確かにチンパンジーに前世の記憶があったところでテレビで人気者になるくらいしか出来なさそうだ。
それに記憶を持ったままチンパンジーに転生というのもつらいよな。
なんとか抜け道みたいなものはないものか。
「なんとかなりませんか?そうだ、雪男とか宇宙人とか、そういうのはいないんですか?転生するのは人間に近いものですよね」
「そんなのいるわけないだろ。いたとしてもそれに転生する確立なんて雷に当たる確立より低いと思うぞ」
そっすか。
無理っすか。
「大丈夫だって、野生のチンパンジーの寿命なんて長くて15年くらいだし、そのくらい我慢すれば次の人生に向かえるだろう。誠心誠意善行を積めば次は人間になれるさ」
元気付けようとしてくれている。
やっぱりこの人良い人だな。
大罪人なんていうかっこいい肩書きの人だけど優しいな。
きっと優しいだけじゃ生きていけない時代だったんだろうな。
ごねて色々と迷惑をかけてしまった。
「ありがとうございました。往生際が悪くてすみません。後ろ、亡者が並んじゃってますよね。良く考えたら膨大な数の命が1日のうちに失われてますし」
「いや、私以外にも渡し守はたくさんいる。むしろ休憩ができてありがたいぐらいだ」
カンダタさんはそう言ってまた煙草をくわえ、火をつけた。
そうだよな。そんな数の亡者カンダタさん一人じゃさばききれないよな。
俺バカだな。
そんなことを考えていると、カンダタさんが執務机に乱雑に積まれた書類の中から、おもむろに1枚の羊皮紙を引っ張り出した。
「あー、そういえば、忘れてた」
なんか忘れていたみたいだ。
よくある、よくあるよ。
俺は生暖かい目でカンダタさんを見ていたのだが、困ったようにぼうっと羊皮紙を見ていたその鋭い瞳が急に俺に向けられた。
なんだろう。
生暖かい目で見たので怒ったのかな。
「お前、異世界に行かないか?」
異世界。
その言葉自体はウェブ小説などで頻繁に目にしたことがあるが、この状況で耳にするこの言葉はなんて甘美な響きなんだ。
まるで地獄に垂らされた1本の蜘蛛の糸のようじゃないか。
もしかしてチンパンジールート回避できるのか?
俺は生前、異世界でモンスターに転生する系の小説もよく好きで読んでいた。
この際チンパンジールートを回避できるならゴブリンルートでも構わない。
「行きます行きます!俺異世界行きます!」
「お、おう。そうか。行くか、異世界」
俺の食いつき方に軽く引きながらも、カンダタさんはなんとなくほっとした顔をしている。
「いや、私は助かるからいいんだけど、本当にいいのか?異世界は危ないぞ?危険な生き物もたくさんいるし、人間は戦争ばかりで文明は遅れている。そんな中でお前は人間には転生できないから生まれる環境はかなり苛酷なものになるだろう。どんな生き物に生まれるかは分からないが、大人になるまでに死ぬ確立もかなり高い」
カンダタさんが異世界に転生するデメリットを羅列してくれる。
俺が異世界に転生したほうがカンダタさんには都合がいいはずなのに。
だが、俺はカンダタさんの言葉を聞いて逆にどんどん異世界に惹かれていく。
「でも、人間に近い生き物の数は多いんですよね」
そう、俺の想像する異世界ならば、獣人や亜人などの、人間に近い生き物がたくさんいるはずだ。
チンパンジーよりもましな生き物に転生する可能性も高い。
「確かにそうだ。異世界には人間以外にも知性を持った生き物がたくさんいる。カルマによって転生先が決まる、この世界の人間を最上種としたシステムからは外れた世界だ。カルマが20を超えていても、人間よりも上位の存在に転生する可能性もある。だが、過酷な世界ということも事実だ。異世界で生き残れるかどうかは賭けだ。ハイリスクハイリターンのギャンブルというわけだ。もう少しよく考えてから決めたほうがいい」
「いえ、もう決めました。俺は異世界に転生します」
このままでは、人の記憶を持ったままチンパンジーに転生してつらい猿生を送るだけだ。
もし、異世界に転生したとして、最悪のケースはゴブリンなどの弱い人型モンスターに転生することだろう。
だが、望むところだ。
頑張って強くなってゴブリン無双してやる。
「本当にいいんだな?」
「はい。異世界行きたいです」
「……わかった。せいぜい異世界を楽しむといい」
カンダタさんはしょうがないやつだなというような顔を浮かべ、ため息をひとつ吐くと、首から提げていた鍵で執務机の引き出しを開け、金印を取り出す。
カンダタさんがその金印で、俺のカルマが書かれていると思われる紙に押印すると同時に、俺の意識は薄れていった。
薄れゆく意識の中で、頑張れよというカンダタさんの声が聞こえた気がした。
次の生の終わりにも、またカンダタさんに会いたいと思った。
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