魔法使いを卒業するためにおっさんは異世界で仙人になります

兎屋亀吉

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5.いざ異世界

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 「祝福を贈与しました。頑張って修行して、立派な仙人になることを期待しています」

 そう言ってクレイルはもう一回パチンと指を鳴らすと、今度はクレイルの手に財布くらいしか入らなさそうな小さなポーチのようなものが出てきた。

 「これは勇者特典のアイテムバッグです。中に多少の食料や貨幣などが入っています。これは召喚された皆様に渡しているものですので遠慮はいりません」

 「いや、助かります」

 なにせ他の人はろくでもない国とはいえちゃんと国に召喚されるのに対して俺はどこに飛ばされるか分からないのだ。

 クレイルが選ぶのだからそんな過酷なところに飛ばされるとは考えたくないけれど、たぶん人目に付く場所ではないだろう。

 そう考えるとどこか辺境の山中とかそのあたりになる。

 食料や金銭は非常にありがたい。

 「その他勇者特典としては、祝福に組み込まれた異世界の言語が分かるようになる機能と、鑑定、それからこれが仙人特典です」

 またもやクレイルがパチンと指を鳴らすと今度は1冊の本と、金属で補強された下駄、それからお地蔵様が持っていそうな釈杖が出てきた。

 「これが仙人特典の3点セットです。内容は【仙人マニュアル】と仙人専用装備である【下駄】と【釈杖】です。他にも特典付きの祝福を贈与された方はいらっしゃいますのでこれも遠慮は要りません」

 「なにからなにまでありがとう」

 俺がそう言うとクレイルはなぜか首を傾げてこちらを見る。

 「あなたは、まるで新しい世界を楽しみにしているようだ。元の世界に帰りたいとは思わないのですか?」

 そんなことを聞いてくるクレイルに、俺も考え込んでしまう。

 たしかに、俺は少しわくわくしている。

 自分では今までの生活が結構気に入っているつもりだったのだけれど、本当はなにか変化を求めていたのかもしれない。

 「いや、どうだろうね。家族もいない俺には、どちらの世界にいてもそれほど違いはないのかもしれない」

 「そうですか。あなたが異世界で童貞を卒業できることを祈っています」

 真面目な質問に真面目に答えてやればこいつはぁ!

 こいつのこういうところイライラします。

 「余計なお世話だよ」

 「すみませんね。私はいつも一言余計だとよく上司に怒られます」

 「だろうね」

 上司いるんだ。

 上司大変そうだな。

 「それでは、そろそろ異世界に送りますね」

 「よろしく」

 クレイルが格好つけながら指をパチンと鳴らすと、眩い光が俺を包み、そのまま視界がブラックアウトした。






 ブラックアウトした視界が開けると、そこは予想通り人気のいない森の中だった。

 空気がおいしい。

 ていうかちょっと森深すぎじゃ?

 辺りを見回すと、どこを見ても木、木、木、森だ。

 どの木も俺が抱きついても手が回らなさそうなほどに太く大きい。

 白神山地なんて目じゃないと思えるような原生林だ。


 「これ人が生きていける森じゃないだろ」

 
 ついつい呟いてしまったが、これはさすがに森が深すぎる。

 人里に出るために何日いや、何ヶ月歩かないといけないんだ?

 それとも異世界ではこんな深い森の近くに人家があったりするんだろうか。

 まあ、ありそうな話ではあるが。

 エルフとか獣人とかね。

 人間でも開拓村とかね。

 いや、待てよ。

 なんか最終的にクレイルのことを絶対的に信じちゃってたけど、よく考えたらあいつエロ本が欲しくて俺と長々交渉してたヤツだぞ?

 なんかすごく仕事が適当そうだ。

 これは周囲に人里が無い可能性も考慮する必要がありそうだ。

 とりあえず腰のベルトに付けたアイテムバックの中身を確認しよう。
 
・金貨が2枚
・銀貨が10枚
・銅貨が40枚
・カ〇リーメイトが30ダース(全部ポテト味)
・ミネラルウォーター2リットルが30本

 これで全部だ。

 食料が結構たくさんあって助かったが、360箱もあってなんで全部ポテト味なんだ。

 というかカロ〇ーメイトのポテト味って販売終了になったはずだけどな。

 ポテト味好きだからいいけど。

 俺は一応賞味期限を確認するが、ありえないことにそこには10年後くらいの日付が書いてあった。
 
 いくら公務員っぽいといってもやっぱり神なんだな。

 こんなところで神感出してこなくてもいいのに。
 
 俺はカ〇リーメイトのポテト味をかじりながら、今日の寝床を探し始める。

 雨風がしのげるいい場所が見つければいいのだが。

 こんな深い森の中に横たわって寝るのは勘弁してほしい。
 
 蛇とか虫とかが出そうでとてもではないが眠れない。

 途中、歩きにくい便所サンダルをクレイルにもらった下駄に履きかえる。

 履き心地は便所サンダルと変わらなさそうだと思っていたが、履いてみたら足に吸い付いてくるような感触がして非常に歩きやすい。

 仮にも神にもらった下駄だ。

 普通の下駄ではないと思っていたが、履き心地まで快適とは思っていなかった。

 俺はハーフパンツに下駄という森に入るには不適格な格好にも関わらず、軽快に森を歩いていった。


 
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