魔法使いを卒業するためにおっさんは異世界で仙人になります

兎屋亀吉

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4.勇者召喚の真実

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 「本当に強情な方ですね、あなたは。ではここらで私も真面目に切り札を切ります。あなたの命を助けて差し上げる、私がそう言ったらどうします?」

 クレイルは今までと同じ真面目な顔をして、今までとは違う真面目な雰囲気でそう言った。

 「どういうこと?このままあちらの世界に召喚されたら俺は死ぬと?」

 「確実ではありませんが、おそらく今回召喚された方々の半数ほどが死ぬと思いますよ」

 「なんで!?」

 「戦争に駆り出されるからですよ」

 俺は戦争という言葉に背中がヒヤッとした。

 その言葉には良いイメージなんて抱きようがない。

 残酷で冷酷でただひたすらにおぞましい。

 直接見たり、身近に感じたことはないが、40年も生きていれば世界のどこかで起きている戦争というもので、人間が同じ人間に対してどんなことをしているのか、どんなことをされているのか知っている。

 さっきまで同じ空間にいた人間はもうすでに誰もいない。

 クレイルの言葉が確かなら、彼ら、彼女らはみんな戦争の道具にされるのだという。

 こんなとき、助けたいともなんとも思わない自分が嫌になる。

 俺は人生で一番長く付き合ってきたかもしれない感情である自己嫌悪を振り払い、クレイルと話を続ける。

 「も、もしかしてこれってよくある勇者を利用して周辺諸国を侵略するっていう悪い勇者召喚?」

 「よくあるかどうかは立場的に明言しにくいですが、そのとおりです」

 「でも、あんたたちは世界の管理が仕事なんでしょ?いいの?そんなことに勇者召喚使って。なんか不正利用的なので召喚を無効にしたりできないの?」

 「よくはありませんね。勇者召喚は世界のエネルギーを使って行われる儀式です。そして世界のエネルギーはみんなのものであり、本来は世界全体の目的のために使われるものです。それを私利私欲のために使うことは本来許されることではありません。しかし、不正に使ったからといって勇者召喚を無効にしたりはできません。なぜなら勇者召喚自体はただの世界のシステムであり不正ではなく、これから勇者に何をさせるかによって不正かどうかが判断されるからです」

 「融通きかないんだね」

 「上が決めたことですから」

 なるほど。

 俺がなに言ってもだめそうだ。

 なんか異世界って勇者召喚ないと滅びそうだし、しょうがないか。

 生活保護は必要な制度だけど、不正受給が後を絶たない、みたいな状況なんだろう。

 「それで、俺の命を助けてくれるってどういうこと?ていうか俺の命が救えるなら他の人の命も救えるんでは?」

 俺はちょっと意地悪く聞いてみる。

 「えーと、それはちょっと大きな声では言えないのですが、私のにより召喚場所がずれてしまうとかそんな感じです」

 クレイルは俺に近づいて小声でそうささやいた。

 確かにそれは1人か2人しか助けられなさそうだ。

 全員の召喚場所間違えちゃうとそれはもうミスじゃなくて故意だって分かっちゃうからね。

 「それでも、あと1人か2人助けられたんじゃないの?」

 俺の口からそれほど強く思ってもいないようなきれいごとが出てきて、さらに自己嫌悪が強まる。

 「勘違いされては困ります。我々は神と呼ばれていますが、あなた方が信じているような慈悲など持ち合わせてはいませんよ。あなたの命を助けて差し上げると言っているのも、善意からではなく、単純に交渉のカードとしてです。我々もまた、世界のシステムの一部に過ぎないのです」

 「なるほど、わかった。こちらも無理を言ってごめん」

 「いえ、仕事ですから。それで、その、この条件でその本を置いていってもらえますか?」

 クレイルが急にだらしない雰囲気になってそうたずねてくる。

 うーん、どうしようか。

 このままだとろくでもない国に召喚されて胸糞悪い戦争に駆り出されることになる。

 さすがにエロ本と命を天秤にかけたらちょっとだけ命が傾く。

 「わかった。あんたの熱意には負けたよ。こいつエロ本はここに置いていく」

 クレイルはにぱっと一瞬だけバカっぽい笑顔になったが、さっと真面目な顔に戻る。

 こいつあの顔が本性なんじゃないだろうか。

 「は、はい。それでは、その異世界に渡ると大変なことになるけしからん本はこちらで預かります。召喚場所に関しては私のほうで良い感じのところにアレしておきますんで」

 俺は素直にエロ本をクレイルに渡す。

 クレイルの目はエロ本の表紙に釘付けだ。

 数秒見た後、やっとエロ本から目線をはずしたクレイルは指をパチンと1回鳴らす。

 すると、俺の体が光って、なんだか暖かいものが体に入り込んでくる。
 
 これが、祝福ギフトというものなんだろう。

 「祝福を贈与しました。頑張って修行して、立派な仙人になることを期待しています」

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